ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜
58話 久々のひととき
「あんたが渡した武器…ありゃチートだぜ。」
ロキは街道を歩きながら、そうつぶやいた。
横には再びフードを被った体の大きな老人が歩いている。
二人はすでにイノチたちとは別れている。
ゲンサイには、仲間になったのだから一緒に行動しろとロキから伝えており、それを聞いた彼は不服そうについて行った。
「そうかのぉ?こちらは数が少ないんじゃから、あれくらいハンデをもらっても良かろうよ。フォッフォッフォッ!」
「あんたがそれでいいなら、別に構わないけどさ。しかし、あんな嘘ついてよかったのか?」
「嘘…?わし、なんか嘘ついたかの?」
とぼける老人にロキは大きくため息をつく。
「神の使いだとかなんとか言ってただろ!あれだよ、あれ!」
「おおお、あれのことか!あれこそ、"言葉のあや"というやつよ!勉強になったであろうが!」
「…ったく、よく言うぜ。だけどさ、これからどうするんだ?」
老人はひげをさする。
「おそらくだが、ランク戦の開始と同時に各国のプレイヤーたちが、ここジパンに攻め入ってくるだろうな。この国にいるプレイヤーを殲滅、もしくは仲間に引き入れ、この国を自分たちの手中に収める。どの国のプレイヤーが勝つかはわからんが、そやつらが所属する国の軍隊が、その後にジパンに入り込んでくる…」
「そりゃそうだろ。いくらなんでも、ゲンサイとイノチ、あの二人だけで各国のプレイヤーたちを押さえ込むのは難しいぜ?」
「…」
老人は少し考え込むように口を閉ざした。
ロキはその顔をジッと見つめている。
しかし、次に出てきた言葉に、ロキはあっけに取られてしまった。
「まっ!なんとかなるじゃろ!ゲンサイはおそらく負けんし、イノチくんも強い仲間がおるからな!」
「…おいおい、そんなんでいいのかよ。」
「お主、勘違いしてはならんぞ?我らがここにきた意味をな。」
「まぁ、そうだけど…」
ロキもその言葉に少し考えるような仕草をしたが、すぐに態度を一変する。
「はぁ、やめたやめた!考えるのは俺の性に合わないからな!楽しければそれでいいや!」
「じゃろじゃろ!フォッフォッフォッ!」
笑い合う二人。
老人はふと空を見上げる。
そこには雲一つない青空が広がっていて、心地よい風が時折吹き抜けていき、彼のひげを揺らしている。
(あがいてくれよ…人間たちよ。)
◆
イノチたちがロキたちと別れ、数日が過ぎ、ようやく『イセ』の街に戻ってきた。
館の前に馬車が止まる。
馬車から降りるイノチたちを、メイが迎えて入れてくれる。
「皆さま、おかえりなさいませ!」
「ただいまぁ、メイさん!」
「お疲れでしょうから、お風呂をご準備しております。」
「さすがメイね!いくわよ!アレックス!」
「やったぁ♪ひさびさのお風呂だぁ♪」
メイの言葉に、エレナとアレックスは勇足で館へと戻っていく。
「あいつら、さっきまでの駄々コネはなんだったんだよ。」
「イノチさまはお風呂になさいますか?それともお食事に?」
ジト目でエレナたちを見送るイノチに、メイが気を回して問いかける。
「メイさん、ありがとう!実はね、今日から仲間が増えるんだ。先に風呂に入るから、部屋の準備をお願いしてもいい?」
「そうなのですね!かしこまりました。では、皆さま、まずはお風呂をおすませください。」
メイに従い、ゲンサイやトヌスたちはイノチの後に続いていく。
・
カポーンッ
ししおどしの音色が響く。
「お前…こんな拠点を手に入れてたのか。」
「まぁね。」
ゲンサイは広い湯船に足を広げ、両手ですくったお湯で顔を流す。
「イノチさん、スゲェっすね!」
「…すごい…」
その横で、ロドとボウも湯船に浸かりながら感心している。
「この世界に来た時、命を助けた人に譲ってもらったんだ。まぁ、その人には、それ以上にお世話になってるんだけどね。」
イノチもそう言うと、すくったお湯で顔を流した。
ゲンサイは湯船の縁に両腕を広げて、顔を上げると大きく息を吐く。
「まさかこの世界に来て、風呂に入れるとは思ってもみなかったぜ。」
「そう言えば、お前はこの世界は2回目なんだろ?」
「あぁ…」
「なんでまた。こっちの世界に来たんだよ…」
その問いにゲンサイは笑みをこぼした。
「なんで…か。お前、あっちの世界は楽しいか?」
「えっ…?あっちって…元の世界か?」
「あぁ、そうだ。今の俺には、あんな世界どうだっていい。確かに初めてこの世界に来た時は、死にたくなくて必死にクリアを目指した。だが、戻ってみると元の世界ほどくだらないもんはないと感じたよ。こっちの方が生きてるって実感できるってな。」
「……」
「まぁ、初めてのお前にゃ、こっちの方が絶望的な世界だろうがな。」
笑うゲンサイの言葉に、イノチは返す言葉が見つからない。
確かに元の世界が良かったかと問われれば、正直わからないというのが本心ではある。
「どっちがいいかなんて…俺にはわかんないよ。」
「ふん…だろうな。」
ゲンサイは同じ格好のまま、鼻を鳴らす。
イノチは天井を見上げた。
湯気の中に、照明がキラキラと輝いている。
自分がこの世界に来た理由が何なのか、考えてみたことはあるが、もちろん答えなんかでなかった。
あの自称"神の使い"たちは、この世界の安定のために自分たちを呼んだと言っていた。だけど、自分である必要があったのだろうか。
特技なんてない、際立った才能なんてない自分がここに来た理由がわからない。誰でも良かったといえばそれまでなんだろうけど。
「イノチさん!!かっ…頭を止めてください!!」
突然、ロドの声が浴場に響き渡り、イノチは驚いて前を向いた。見れば壁に張り付こうとするトヌスを、ロドやボウたちが数人で引っ張っているのが見える。
「お前ら、何やってんの?トヌスも…」
「ここに…!小さな穴があるって、頭が見つけて…!壁の向こうを覗こうとしてるんです!!」
「お前らぁ!はなせぇ!!エレナの姉御のぉぉぉ!裸体を…裸体を拝ませろぉぉぉ!!」
トヌスの形相は必死だ。
しかも、あれだけの人数に引っ張られているというのに、トヌスの力のほうが若干だがまさっているようで、徐々に壁へと近づいている。
そして…
「グググググ…おりゃぁ!!!」
「「「「わぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」
思い切り振り切ったトヌスに、ロドたちは振り払われ、みな湯船に流れ落ちていく。
「はっはぁ〜!!俺の勝ちだぁぁぁ!!」
そう叫びながら、勢いよく壁に張り付いて、小さな穴の先を覗こうとした瞬間、
サクッ
突然穴から飛び出てきた木の枝が、トヌスの目に突き刺さった。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
倒れ込み、転がり回るトヌス。
壁の反対側では、木の枝を持ったエレナが腕を組んでいる。
「ったく…アホが一人増えたわね。」
「トヌスのおじさん…何してるの?」
「アレックス、あなたは気にする必要ないですわ。」
「そうよ、教育に悪いんだから…」
楽しそうに笑うアレックスに対し、エレナとフレデリカは大きくため息をついたのであった。
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