ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜
48話 腹黒い男
エレナが捕らえられたその夜、すぐにシャシイがイノチの元へとやってきた。
「何をやっているんですか!!まさか、王城へと侵入するなんて!!いくらなんでも、あり得ません!!」
宿屋のロビーで、憤然とした面持ちで、シャシイはイノチに第一声を放った。
「すみません…ご迷惑をおかけして。だけど、これには事情があるんです。」
「事情があったとしても、王城への侵入は看過できませんよ!いくら国にとって、あなたが『ダリア』の件でお世話になった方だとしても…私でもかばいきれません!」
「確かに…ちょっとやり過ぎたかなぁ…」
「やり過ぎどころではないですよ!まったく!!」
シャシイは大きくため息をついた。
「王は大変ご立腹です。あの罪人に新たな罪が発覚したタイミングで、王城への侵入者…王は二人とも処刑せよと憤っておられる…。私も説得を試みましたが、外交庁に所属する私ではなかなか…」
先日の『ダリア』の件で、シャシイは内務庁使者室長から外交庁国政部隊長へと昇進したらしい。
自分の功績でないので、断ろうとしたシャシイだったが、イノチにぜひ受けてほしいと説得され、シャシイはその内示を受けたのだ。
まぁ、イノチにしてみれば、国の高官に知り合いがいると何かと都合が良いという思惑あってのことであるが。
「マジかぁ…シャシイさんでもだめかぁ…」
「BOSS…どうするの?エレナさん…処刑されちゃうよ…」
涙目になるアレックスを見て、イノチは苦笑いを浮かべて頭を撫でた。
「心配だよなぁ…でも、絶対そんなことはさせないから安心して…シャシイさん、処刑はいつの予定?」
「明日の正午に…」
「ふ〜ん、意外と早いな。場所はどこですか?」
「王城前の広場で行われます。」
「公開処刑ってことか。」
「えぇ…」
シャシイは小さくうなずいた。
アレックスもいまだ不安げな様子で、イノチを見ている。
「公開処刑ってことは、街の人たちも集まるの?」
「明日、朝イチで御触れがでますので、多くの人が集まると思われます。」
「罪人は晒し者ってことね…まぁ、そっちの方が都合がいいか。ちなみに王さまは見に来るのかな?」
「えっ…えぇ…普通はご覧にはなりませんが、今回は侵入者の件もあり、直接見るとおっしゃっております。」
「王さまも来るのか…いいね。他には?誰がその場にくるの?」
「ほっ…他にですか?え〜と、王がご覧になるので、おそらくは各庁の責任者も来るのではないかと…」
「なら、"オオクラ"ってやつも来るかな?」
「オオクラ殿ですか?まぁ…来ると思われますが。しかしイノチさん、なぜ財務庁長官のことをご存知で…?王が来ると都合がいいとか、なぜそのようなことを…」
訝しげな表情を浮かべるシャシイに対し、イノチはニンマリと笑う。
「BOSS…?なんで笑ってるの?」
「そうですぞ。質問にもお答えください!」
「え〜と…そうだなぁ…アレックスはともかく、シャシイさんになら話してもいいかな。」
イノチは頭をかいて、そうつぶやく。
シャシイもアレックスも、顔を見合わせてイノチを見る。
「どこから説明しようかな…う〜んと、実はさ…」
イノチがそう口を開きかけたその時、宿屋の入口のドアが大きな音を立てて開かれた。
驚き、そちらに目を向けるイノチたち。
見れば、数刻前に別れたボウの姿があった。
「ボウ…?」
「イノ…チ…さん…ハァハァ…兄貴たち…つかまった…」
肩で大きく呼吸しながらも、必死に言葉を繋げるボウ。
「へっ…?ロドたちが捕まった?いったいなんで…」
イノチがそこまで言うと、再び宿屋の入口が開かれ、今度は体の大きな人相の悪い男が入ってくる。
キョロキョロと誰かを探すようにあたりを見回していたが、ボウの姿を見つけて、ゆっくりとこちらへ近づいてきた。
「あいつ…スネクの…傭兵…!」
「スネク…?なるほどな…そういうことか。」
「スネク商会…?なぜ彼らが…いったい全体、何が起きているんですか!イノチさん!」
「シャシイさん、落ち着いて。とりあえず、あいつを引っ捕まえるのが先ね。アレックス、行くぞ。」
「う…うん!」
イノチが立ち上がると、アレックスは大きな盾を前に構え、イノチの前に立つ。
それに気づいた傭兵は、小さなアレックスを見て鼻で笑うと、腰から曲剣を抜いて飛びかかってきた。
「アレックス!防御よろ!」
「あいあい!」
盾を構え、傭兵を迎え撃つアレックス。
振り下ろされた曲剣が盾に当たると、乾いた音が響き渡る。
剣が大きくはじかれ、傭兵は驚きの表情を浮かべた。
かなり強めに振り下ろしたはずなのに…
自分の剣がはじかれたのに対して、目の前の盾はいっさい微動だにしていないのだ。
むしろ、そのまま前に突進すらしてきている。
「さすがアレックス!」
盾で押し込まれ、身動きが取れなくなった傭兵に対して、イノチは『ハンドコントローラー』を発動する。
突然、盾の後ろから飛び出したイノチを見て、何が何だかわからず、宿屋中に彼の焦りの叫び声が響き渡った。
・
「なるほどな…ロドたちも捕まったのか。」
「へい、そうです。」
傭兵がイスに座って、イノチの質問に答えている。
それまでの一部始終を見ていたシャシイは、何が起きたのか理解できていない。
イノチが光る手で傭兵に攻撃?したかと思えば、彼は突然、剣を収めてイノチに謝り出したのだ。
イノチは肩をポンポンと叩いて、彼をイスに座らせると、ことの顛末を説明するように指示を出し、彼はこれまでにあったことをすべて話し始めた。
ヘスネビの指示で、ロドたちを捕らえたこと。
その際、逃げたボウを追うように指示され、ここまで追いかけてきたこと。
「ロドたちは今どこにいるんだ?」
「へい。ことが済むまで、スネク商会の管理する倉庫に閉じ込めてやす。」
「見張りは?」
「そんなに大きくねぇ倉庫なんで、三人です。」
イノチは大きくうなずいた。
そして、最後に一つ、傭兵へ問いかける。
「あんた、ヘスネビのこと、どう思ってんの?」
「あいつですか?ムカつく奴です。俺だけじゃなく、みんな嫌ってます。ガムルの親父がいた時がよかったって…」
「ふ〜ん、そんな奴になんで従ってんだ?」
「奴は…財務庁の長官の親戚なんでさ。だから、あまり逆らえないんです。」
「長官…って、オオクラか!じゃあ、今の会長も国とズブズブなのか?」
「…いえ、会長はしっかりした人です。初代の意思をしっかり継いでやすから。」
「でも、そんな奴をのさばらせているんだろ?」
「ヘスネビの奴は、会長の前ではいい顔ばっかりしやがるんでさ。会長も奴のことは信じてます。仕事はできる奴なので…」
「なるほどなぁ…じゃあさ、今回のことがバレたらどうなるかな?」
イノチの顔がニヤリと笑う。
アレックスがそれを見て、動揺の色が隠せない。
それだけイノチの顔が悪い顔をしているということだろう。
「あの罪人の仲間たちを捕まえることは、ヘスネビの独断ですから…バレたら会長は怒ると思います。会長も罪人の処刑に反対してますから。」
「そうなんだ。うひひ…」
「ボッ…BOSS…?…ひっ!」
アレックスが恐る恐る声をかけると、振り返るイノチ。
その顔を見て、アレックスは小さく声を漏らした。
「ククク…いろいろといい方向に転びそうだなぁ。そんじゃまぁ、みんなにこれからのことを話そうかな。」
アレックスとシャシイは、イノチの言葉に生唾を飲み込んだ。
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