ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜

noah太郎

51話 うちに来ない?


「たっ…助けていただいて、ありがとうございました!」


少女はイノチたちに向かって頭を下げた。

その後ろにはボコボコに顔が腫れ上がった男二人と、今だに白目を向いたオールバックの男が木に縛り付けられている。


「いやぁ〜無事でよかったよ!…て、あれ?肩、怪我してるじゃん!」

「あっ…はい、さっきの爆発で木片が飛んできて…それで切ったんだと思います。」

「けっこうひどいね。よかったら…えっと…これ使って!」


可愛らしい少女が相手ということもあり、テンションの上がっているイノチはポーションを差し出した。

すると、それを見た少女は何かに気づき少し驚いた様子を見せる。


「あっ…ありがとうございます。でも、大丈夫です。私も持ってますので…」

「えっ…?持ってる…てことは、君もしかして…」


驚くイノチに向かって、少女はクスッと笑った。


「私の名前…プレイヤーネームは『ミコト』って言います。あなたと一緒で、このゲームのプレイヤーです。」

「そっ…そうなんだね…」

「…どうしたんですか?」


彼女がプレイヤーだと聞いて、イノチは驚きを隠せなかった。この子はどこまで真実を知っているのだろう。

イノチの態度を見て不思議そうにするミコトを、イノチは見つめることしかできないでいる。


「お二人さん?お楽しみのところ、ちょっといいかしら。ミコト…あなたに質問なんだけど、なんでこいつらに追われていたの?」


そんなイノチに気づいてか、エレナが横から口を挟んだ。話を変えようと、ミコトに質問を投げかけたのだ。


「あぁ、それが…よくわからないんです。私は今日初めて、このゲームにログインしたんです。チュートリアルを終えて、この森に転送させられたんですけど、とりあえずマップを見ながら街を目指していたら、突然、この人たちに囲まれてしまって…」

「襲われたってこと?」

「えぇっと…最初は黒いフードを被った男の人がいて、人を探してるって。今日が初めてだから知りませんって言ったら、今度は『お前、プレイヤーだな?』って聞かれて…」

「それで囲まれたのね。」

「はい。」

「しかし、よくそんな状況で逃げられたですわね。」

「そっ…それは…」


フレデリカにそう問われ、ミコトは少し戸惑った表情を浮かべている。何か話しにくいことでもあるのだろう。

少しの間、一同に沈黙が訪れる。
しかし、それを破るようにどこからともなく声が聞こえてきた。


「ミコト…彼らには隠さなくても大丈夫だよ。」

「ゼンちゃん…いいの!?」

「あぁ…それに見知った気配もするからな。」

「そうなんだねぇ!それならよかった!」


ミコトは一人でほっと胸を撫で下ろし、笑顔で誰かと話しているのだ。

それを見たイノチたちは、少し怪訝な表情を浮かべる。


「あっ…あの…ミコトさん?誰と話してるの?」

「え…?あぁっ!ごめんなさい!!つい話に夢中になっちゃって!!」


ミコトは顔を真っ赤にして、テンパった様子であれやこれやと体を動かし始めた。

その行動に唖然とするイノチたち。
するとそれを見兼ねたように、今度は声の主がその姿を現したのだ。


「すまないね、ミコトはテンパるとこうなるらしいのだ。彼女を救ってくれたこと、感謝する。私の名前はゼンだ。以後お見知りおきを。」

「ちっ…小さな赤いドラゴン…?」

「あぁ、この姿は本来とは違うがね。君の…そこにいる彼と一緒だ。」

「…彼っていうと、もしかして…」


イノチが自分の首飾りに目を落とすと、今度は青い小さなドラゴンが姿を現した。


「やはり、ゼンであったか…あの魔力と魔法はそうだと思ったのだ。」

「久しいな、ウォタよ。」

「あぁ、500年振りか…しかしお主、なぜこんなところに…」

「簡単な話さ…彼女に召喚されたのだ。」

「ほほう!召喚とな?お主の主人はよほどの使い手と見た!」

「そっ…そんな…わわわっ…わたしはただ教えられた通りにガチャ魔法を使っただけで…とととっ特別なことなんて!!」


急にウォタに褒められて、再びあたふたするミコト。そんな彼女を見て、苦笑しながらイノチはゼンへ問いかけた。


「なるほどな…さっきの爆発はゼンさんがやったのか。でもさ、それだけ強いんならこいつらなんて簡単に倒せたんじゃない?」

「まぁ確かにそうだが…この森はモンスターの生息域だからな。あまり目立った行動をすれば、それに刺激された奴らがどんどん集まる。ミコトを余計に危険な目に合わせたくなかったのだ。それに…」

「それに…?」


ゼンは少しだけ、何かを考えるように目を閉じると再び口を開いた。


「先ほど、ミコトが言った黒いフードの男…やつはおそらく、ミコトやお主と同じプレイヤーだろうな。ミコトにそう聞いてきたことからも推測できる。」

「確かにそうね…でも、それがなにか…」

「お主ならいきなり襲ってくる奴に、自分の手の内を明かしたいか?」

「…っ!?俺…に言ってる?!」


ゼンはエレナでもフレデリカでもなく、イノチに向かって問いかけてきたのだ。その瞳は真っ直ぐにイノチを見据えている。

イノチはその瞳から、ゼンが本当にミコトを守ろうとしている強い意思のようなものを感じとった。

すぐに真面目な顔に戻り、ゼンの質問に答える。


「俺だったら絶対明かさないね…自分のアドバンテージを相手に明かすなんて、殺してくださいって言ってるようなもんだ。」

「そうだろう…お主らが駆けつける少し前まで、フードの男のものらしき視線をずっと感じていた。おそらくは監視されていたのだろうな。こやつらに追い詰められたと同時にその気配はなくなったがな…」

「監視…プレイヤー狩り…まさかな。」


イノチは辺りを見回す。
タケルに聞いた話が本当であれば、このジパンにもPK(プレイヤーキル)を行う奴らがいるってことだ。

もしかしたら黒いフードのやつは…


「BOSS、安心なさい!今この周辺には私たち以外の気配はないわ!」

「ですわね!わたくしの索敵にも半径1キロ圏内にはモンスター以外、反応なしですわ!」


イノチの不安を吹き飛ばすほどに、エレナとフレデリカが自信満々に鼻を高くしている。イノチには、それがなんだかおかしかった。


「ありがとう!二人とも!とりあえず、こんな物騒なとこは早くおさらばしよう!ミコトさんは『イセ』を目指すんだよね?」

「はい。とりあえずは街へ行っていろいろ考えようかと思ってます。」

「そっか!それなら、今日はうちに来ない?泊めてあげるよ!」

「え…!?」
「あら…」
「ふーん…」
「ほう!」


イノチの発言にミコトは驚いて顔を赤くし、エレナたちは「やるじゃん、BOSS」と言った表情を浮かべている。


「ん…?みんな、どうしたの?」

「いえ、BOSSもなかなか隅に置けないなぁと思いましたのですわ!」

「はぁ…?!どういうこ…ハッ!」


意味がわからず、フレデリカに聞き返そうとして、イノチはどこからか殺気に似た視線を感じる。

焦って振り返ると…

ゼンがこちらを睨んでいて、その後ろでミコトが顔を真っ赤にして、言葉を失っていたのだ。


「よもや、そのようなふしだらなことをぬかすとは…初めて会った女子に自分の家に来いとは…小僧、それがいったいどういうことかわかっておるのだろうな?」

「ちょっ…ちょっと待て…ゼンさん、俺は別にそういう意味で言って…」

「では、どういう意味か説明してもらおうか!」


その横でミコトの頭からボンッと煙を吐き出される。


「イノチさん…エッチですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

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