ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜
49話 ガチャと三途川
「エレナ!お願い!!この通りだ!頼むよ!」
「ダメよ!」
このやりとりは何度目だろうか。
馬車の荷台では、イノチが体を震わせながら土下座し、それに対してエレナはそっぽを向いている。
「いい加減、許可してあげればよいのですわ…」
「いーや!ダメよ!!」
「頑固ですわね…」
頑なに拒むエレナを見て、フレデリカはため息をついた。
既にお分かりかも知れないが、イノチはある発作を発症している。
フレデリカを仲間にしてからのここ数日は、まったくガチャを引けていないからだ。
《ガチャは時を選ばず》
これまで、この精神を胸にイノチはガチャに挑んできた。
どんな時でも、常にガチャを回し続けてきたガチャ廃人の彼にとって、一日でもガチャをしないということは、言葉のとおり死活問題なのである。
確かに、非常に刺激的な数日間だった。
ガチャをすることを忘れるほどに…しかし、それを思い出した今、イノチの体には禁断症状が現れていたのだ。
「マジで…頼む…うぅ…胸が痛い…」
「そんな演技には騙されないわ!!いい加減諦めなさい!」
「そっ…そんな…殺生な…ガクッ」
土下座の状態で顔を上げ、エレナに手を伸ばしていたイノチだったが、ついに息絶えたように顔を伏せた。
「死んだふりしてもダメよ!」
「……」
「早く顔を上げなさいってば!」
「……」
「…BOSS?」
「どれどれ…?あら…鼓動が止まってますわ!!」
「っ!?うそでしょ!!」
イノチの背中に耳を当て、その鼓動を確認したフレデリカの言葉に、エレナは驚愕した。
急いで蘇生を行うと、イノチはなんとか息を吹き返す。
「ゴホッゴホッゴホッ…あれ…俺はいったい…?」
「マジであり得ないわ!!ガチャができないから死にかけるって…!どんだけなわけ!!」
「え…俺、今死にかけてたの…?たっ…確かにガチャの川の上で、空っぽのカプセルに乗ったばあちゃんが手招きしてた…あれって夢じゃ…」
「三途の川の渡し舟までガチャ尽くめって…ヤバいわね。」
「末期ですわ…」
キョトンとしているイノチに対して、エレナとフレデリカは、安堵と呆れが混じったため息をついた。
「もう、わかったわよ…館に戻ったら引いていいから!一回だけ…一回だけだからね!!」
「…えっ?!いいのか!マジで!?やったぜぇ!!」
ガチャを引く許しを得た事で、子供のようにはしゃぐイノチ。さっきまで騒いでいたのが嘘のようである。
そんな騒ぎに気づいたのか、ウォタが顔を出す。
「うるさいのぉ…なんの騒ぎだ…」
「BOSSがガチャを引けて嬉しいんですって…」
「ガチャ…?なんだそれは?」
「BOSSにしか使えない魔法よ。」
「ほう…それは何やら興味をそそるな。どれ、我に見せてみよ!」
「おう!いいぜ!!ガチャガ…」
ゴツンッ!
魔法を唱えようとした瞬間、頭にゲンコツを食らってイノチは悶絶する。
「ぐぎぎ…痛ってぇなぁ!!何すんだよ!!」
「帰ってからって言ったでしょ…!」
「いいじゃんか!ガチャウィンドウを見せるくらい!!」
「だめよ!そんなこと言って、そのまま勢いで回すくせに!!」
「ヴッ…」
痛いところをズバリ当てられて、イノチは言い返せない。
「見透かされとるのぉ…」
「まさに、駄々っ子を怒る母親って感じですわ。」
「誰が母親よ!!」
「誰が駄々っ子だ!!」
フレデリカの言葉に、声を合わせて否定するイノチとエレナ。
その反応に、フレデリカは目をつむって肩をすくめた。
「もう!本当にあきれるわね!たかが数日ガチャが引けないだけで!!」
「俺にとっては一大事なんだ!!こっちだって、気を遣って引く前に確認してんじゃないか!」
「あたしはBOSSのことを心配して言ってるの!!」
「いつ回そうが俺の勝手だろ!!余計なお世話だ!!」
「なんですってぇ!!」
「なんだよぉ!!」
ガルルルッとうなりながら睨み合う二人を止めようと、フレデリカがため息をついて声をかける。
「二人とも…そろそろ『イセ』の街が見えてきましたわ。そろそろケンカはやめ…」
ドォォォォン!!
突然、森の方で大きな爆発音が響き渡り、木々が倒れていく音が聞こえてくる。
「なっ…なんだ!?何が起きたんだ!」
「こっちの方角で爆発音がしましたわ。」
「今のは魔法だな…誰かが広範囲の爆裂魔法を使ったようだ。」
フレデリカとウォタが、その方角を見つめる中、エレナはクンクンと鼻を動かしている。
「血の臭い…それと誰か…追われてるわね…女の子かしら…」
「すっ…すごいな…最近精度が上がってないか?」
「なんとなくそう感じる程度だけどね…とりあえずどうするの?BOSS…」
エレナもフレデリカもウォタも、みんなイノチを向いて指示を待っている。
「そんなの…決まってるだろ!!助けに行くぞ!!」
「「「YES Sir!!!」」」
そう大きく叫ぶと、御者の男に馬車を任せ、四人は森の中へと駆け出したのだった。
◆
「ハァハァ…ハァハァ…」
森の中をひとりの少女が駆けている。
ナチュラルボブの髪を揺らし、肩には傷を負っている。
服装は、赤を基調としたチャイナ服のようなトップスと、胸当てをバンド状のもので吊り下げた、膝上ほどの紺色のサロペットスカートの組み合わせが可愛らしい。
彼女は走りながら、時折、後ろを振り返っている。何かに…誰かに追われているようだった。
(このままじゃ…捕まっちゃう!)
息を呑み、木々の間をすり抜け、必死に走っていく。
「いたぞ!あそこだ!!」
「お前ら!そっちへ回り込め!!」
後ろの方から、男たちの声が聞こえてくる。
距離はそう遠くない…徐々に追いつかれている感覚に恐怖が込み上げてくる。
足が震えていて、うまく力が入らない。
何度も転びそうになりながら、少女は木を避け、茂みをかわして駆けていたが、樹の根が盛り上がっていたことに気づかなかった。
「きゃあっ!!」
つまづいて、正面から地面に倒れ込む。
しかし、手足の痛みも忘れて、必死で立ち上がろうとする少女に、後ろから声が掛けられた。
「ヒヒヒッ…やぁっと追いついた!」
オールバックに片目に傷のある男が、舌なめずりをして見ている。
少女は尻餅をついたまま後退りするが、手に何が触れる。
視線を落とすと、そこには靴があった。
見上げれば、すでに回り込んでいた別の男が二人、自分を見下ろして笑っている。
「…!?」
驚いて別の方向へ体を移すと、背中に木が当たる。
追い詰められた…
逃げ場はない…
「手間かけさせやがって…あの人に俺らが怒られちまうじゃねぇか!」
「きゃっ!」
オールバックの男はそう言うと、怒りに任せ、手に持っていた剣で木を斬りつけた。
少女の頭の上の木の幹が砕け散る。
木屑が飛び散り、少女は小さく声を上げ、身をよじらせた。
ふと、男の視界にスカートの間から見えた少女の白い太ももが映る。
男は舌なめずりをすると、しゃがみ込み、
舐め回すかのように少女を見た。
恐怖で怯えている少女は声も出せず、目をつむり震えている。
「へへへ…ちょっとくらい…いいよな…」
そう言って、男が少女の体に触れようと手を伸ばしたその時であった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!落ちるぅぅぅぅぅぅ!!!」
突然、大きな声が響いて、真上から一人の青年が落ちてきた。
そして、オールバックの男の上に不時着したのだった。
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