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noah太郎

46話 いざ野盗討伐へいかん


「はぁ…嫌だなぁ。めっちゃ嫌だなぁ…」


二頭の馬に引かれ、街道を進む馬車の荷台にイノチたちの姿があった。その横にはもちろん、エレナとフレデリカもいる。

馬車は『イズモ』へ続く街道を進んでいる。


「BOSS…いい加減、腹をくくりなさいよ。」

「そうは言ってもさぁ…さっき依頼を受けたばかりですぐに行けとか、心の準備ができてないよ…はぁ…」

「安心してですわ!野盗なんて、わたくしたちが一瞬で消し去って差し上げますから!」

「いや、それじゃクエスト失敗じゃん…今回は討伐っていっても、リーダー級を捕まえないといけないんだって。わかってるよね、フレデリカ…」

「ええ!もちろんですわ!」


後ろで大笑いしているフレデリカを見て、イノチは大きくため息をついた。

ギルド総館から自分たちの館へ戻った後、すぐにジパン国軍『イセ』駐屯の兵士がやって来た。

何やら急いでいた彼は、伝言を伝えにきたらしく、内容を聞いたイノチは顔を引きつらせた。


「えぇっ…森の近くで野盗を見たという情報があるから、すぐに行けってこと?!」

「はい…ご足労おかけいたしますが、どうかよろしくお願いします。」

「マジかよ。まだ準備もできてないのに…」

「必要最低限の物資は、こちらで準備しておりますゆえ、街から出る際は城門の衛兵室へお立ち寄りください。」


兵士は頭を下げると、すぐに去っていったのだった。

小さく揺れる荷台の上で、イノチはあいかわらずため息をついている。


「やっぱりこの依頼、受けるんじゃなかったな…」

「でも、あそこでアキンドにああ言われたら、断りにくいわよね。」

「うぅ…確かに。リュカオーンのことはアキンドさんおかげで、うまく誤魔化せたから良かったけど…」

「まぁ、いいじゃない。今回はモンスターが相手じゃないんだし、フレデリカの言うとおり、あたしたちがさっさと片付けるわよ。」

「そうですわ、そうですわ!オーッホッホッホ!!」


やたらとテンションの高いフレデリカ。いつになく上機嫌なのには理由があるのだが、それを見たイノチはもっと大きくため息をつく。



そもそもの目的であった『ダリア』の納品。その報酬は目が飛び出るほどの金額となった。

イノチたちが手に入れた『ダリア』は全部で570個にも及んだが、その内の一個をアキルドへ渡し、約束どおり50,000ゴールド受け取ったまではいい。

残りの569個の『ダリア』は、シャシイが提示した条件のもと、ジパン国へ譲渡したのだが…

現在の『ダリア』一個の相場は40,000ゴールド。アキルドの報酬が少し高かったのは、彼の計らいである。

しかし、単純に考えて40,000ゴールドを569個分…

40,000×569個…


2,300万ゴールドに近い金額になるぞ!!

イノチはシャシイの前で腰を抜かしかけた。

もちろん、シャシイたちもそんな大金は持っていないため、その場では前金だけもらい、残りは後日送られることとなったのだが…

その前金だけでも十分な大金だった。

館への帰路の途中、ジャラジャラとなる皮袋を見て、フレデリカはイノチの肩を叩く。


「ん…どうした?フレデリカ。」

「BOSS…約束ですわ。」

「え?なんか約束したっけ…?」

「肉…」


フレデリカは、恥じらうようにモジモジしながら、唇に人差し指を加えて懇願する。
その妖艶な様子に赤くなるイノチ。


「え…フレデリカ?急に…どうしたの?」

「もう…BOSSったらイヤですわぁ。約束したじゃない…高級なお肉を食べさせてくれるって…」


その言い方がなんとも艶かしく、色っぽ過ぎる。


「ふっ…普通に言えよ、普通に!!ったく、帰ったらアキンドさんに美味しい店を聞くから、それまで待っててよ!」

「やったですわ!!」

「なんだ?肉を食うのか?!我も食べるぞ!!」


飛び上がり喜ぶフレデリカの話に気づいて、今度はウォタが首飾りから顔を出す。それを見たイノチは、額に手を当てて天を仰ぐのだった。





「帰ったらアキンドさんに美味しい店聞くのはいいんだけどさ…」

「…?何か問題があるの?」

「考えてもみろよ…フレデリカとウォタだぞ?たらふく食わせたら、どんだけ懐に被害がでるかわかったもんじゃない…」

「確かにそうね…」


ため息をつくイノチの横で、エレナは顎に手を置いて考える。そして、思いついたように顔を上げた。


「まっ!どうにかなるんじゃない?」


エレナの言葉にイノチは、驚いた。
が、すぐに納得して外の風景に目を向けた。


(エレナに相談しても意味ないか…そういや、エレナもけっこう食べるよな…)


青空の下に、イノチの何度目かのため息が広がった。





「だんなぁ…そろそろ指定区域ですぜ。」


御者の男がイノチたちに声をかける。

指定区域というのは依頼で指定された範囲のことだ。今回の場合は野盗の出没が多く見られる区域のこと。

イノチは生唾をごくりと飲み込む。

イノチたちは野盗たちを誘き出すため、森に入る前に商人を装った格好に着替えていた。

すでに街道の周りは木々で覆われ薄暗く、物静かな中、時折、獣の声などが響いていて不気味さを醸し出している。

イノチたちが最初に降り立った森。

シャシイやアキルドの話からすると、ここは『クニヌシの森』と言って、モンスターが多く生息し、本来は人が立ち入る場所ではないらしい。

しかし、『イズモ』の街と交流するために、大昔にこの街道が作られた。

当時はモンスターが多く出没したため、商人たちは護衛を雇って通行していたらしいが、封呪が施されて以来、基本的にモンスターの心配はいらなくなったというのだが…


イノチが心配そうに辺りをキョロキョロしていると、エレナが声をかけてくる。


「BOSS、心配し過ぎよ。どしっと構えてなさい。」

「そんなこと言ったってさ…こういうのあんまり慣れてないから、やっぱ不安なんだよ。しかも今回は自分たちが囮なだよね…」

「野盗といえば奇襲がセオリーですわ。しかしそれは、こちらが何も策なしにいれば有効というもの。わたくしたちは迎え撃つための準備がありますわ。」

「そうだぞ、安心せい。我の加護もついておるから、多少の傷ならすぐ治るしな。」


ウォタがイノチの懐からひょこっと顔を出して言う。


「まっ…まぁ、みんなのことは信用してるよ。」


イノチがそう苦笑いしたその時である。


遠くの方で、馬の高いいななきが聞こえたきたのだ。近くにいた鳥たちが一斉に森から飛び立つ。


「なっ…なんだ?…馬の鳴き声!?」

「だっ…だんな!この先で何かあったようです!!煙が!!」

「とりあえず向かってちょうだい!」

「へっ…へい!!」


エレナの指示に、御者の男が鞭を打つと、ゆっくりと歩いていた馬たちは荷馬車を引いて走り出す。


「いっ…いきなり当たりかな!」

「わからないわ…でも、血の臭いがする!」


エレナは鼻をクンクンさせ、街道の先を睨みつけるように見つめている。フレデリカもウォタも、皆同じ方向を見据えているようだ。

先の空に一本の煙が立ち上っている。

イノチたちはそれを目指して、馬車を走らせるのであった。

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