ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜
42話 新たなる火種
「まずいな…もうすぐ陽が落ちる。」
『イセ』へ向かう街道をひとつの荷馬車が駆けていく。
辺りは暗闇が支配し始めており、空はすでに群青に染まっている。
「最近はモンスターも活発になってきてるって噂だからな…早く森を抜けないと。」
御者台に座る男は、小さくそうこぼした。
イノチたちが最初に降り立った森。
そこは『クニヌシの森』と呼ばれ、多くのモンスターが生息する深い深い森で、『アソカ・ルデラ山』の麓まで広く伸びている。
その両端には『イセ』の街と『イズモ』の街があり、人々は街を行き交うために大昔に街道を作った。
街道沿いには等間隔で封呪が施されていて、基本的にモンスターは街道には寄り付かない。
しかしながら、夜はその封呪の力も弱まってしまい、街道までモンスターが出てくることがある。
そのため、力に覚えのある者でもない限り、夜の森へは近づかない。
ましてや、引く荷馬車や男の服装から見て、彼は商人だろう。商人が護衛もつけずに夜の街道を通るなど、頭に銃を突きつけ、ロシアンルーレットを行うに等しい行為なのだ。
男は手に汗を握り、必死に馬を走らせる。
幸いにも何事もなく『イセ』の街が彼の視界に映る。
「ここまで来れば安心だろう…」
男はほっと胸を撫でおろす。
頑張ってくれた馬を労うように背中をなでてやると、ブルルッと鼻を鳴らして喜んでいるようだった。
しかし…
突如、撫でていた馬の背中に大きな槍が突き刺さる。馬は叫び声を上げることもなく絶命し、大きな体が地面に倒れ込んだ。
「なっ…なんだ…ぐわぁぁぁ!!」
倒れ込んだ馬に荷馬車が引っかかり、男ごと前方に跳ね上がる。そして、そのまま半回転して、上下がひっくり返った状態で停車した。
「…痛てぇ、なんだ…何が…っ!?」
辛うじて下敷きにならずに済んだ男は、頭を下げてさすりながら顔を上げ、状況を確認しようとしたその時だった。
彼の視線の先。
木の枝の上に、人が立っていることに気づいたのだ。
黒いフードを被り鼻から上は見えないため、顔はわからないが、体格からしておそらく男だろう。
「なんだ…あいつは?」
男の疑問は解けることはない。
木の上の男は手をあげると、何かを合図するように、その手を振り下ろした。
ザザザッと周りの草木の揺れる音が聞こえ、数人の野盗たちが姿を現す。
その手には剣や斧、槍などを持っている。
「やっ…野盗?なんでこんなところに…!!助け…助けて!!」
男は必死に逃げようとしたが、倒れた荷馬車に足が挟まり、立ち上がることができない。
その間にも、ジリジリと迫る野盗たち。
「助けてぇ!お願いします!積荷は持って行って構いませんからぁ!命乞いをだけはぁぁぁ!」
涙を流して命乞いをする男を見て、野盗の一人が木の上に視線を向ける。
すると、木の上にいたフードの男は素早く降り立ち、商人の男の前にゆっくりとやって来た。
「お前…『イズモ』から来たんだろ?…こんな男を知らないか?」
フードの男はしゃがみ込み、人相書きのような物を取り出すと、商人の男へ見せる。
「…え?!知っ…知らない!!そんなやつ、見たことない!!」
「そうか…」
残念そうに人相書きをしまうと、男は立ち上がった。そして、振り返り歩き出すと同時に小さく重い声でつぶやいた。
「やれ…。」
「うわっ…!うわぁぁぁ!!助けて…助け…えぇぇあぁぁぁぁぁ!!!」
野盗たちに命を刈り取られていく商人の声が、森にこだましていく。
その様子を振り返ることなくゆっくり歩いていくフードの男は、静かに言葉をこぼした。
「絶対に見つけてやる…待ってろよ…クククククク。」
フードの中から、紅い双眸が小さく力強く光っていた。
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