ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜

noah太郎

26話 特別な依頼

「アッ…アキンドさん!!」


振り向いたイノチは驚いて声を上げた。

そこには、いつもお世話になっているアキンドの姿があり、後ろにはエレナとメイもいる。

腕を組んでいるエレナが、ニヤニヤしていることが少し気になるが、イノチはアキンドに話しかけた。


「アキンドさん、どうしてここに?」

「イノチさまの後ろ姿が見えましてな。ご挨拶にと近づいて話を伺ってみれば、どうやらこちらの案内に不備があったようで…まことに申し訳ない。」


アキンドはそう言うと、登録担当の女性を一瞥する。タラクと呼ばれていた女性は、彼の視線を見て小さくなってしまった。

ふと、イノチはその行動に少し違和感を感じる。

いつものアキンドとは違う…力強さのような、鋭さのようなものを感じたからだ。

相変わらずエレナがニヤニヤしているのを煩わしく感じつつ、イノチはアキンドとの話を続けた。


「俺たちに依頼を斡旋してくれるって言うのは…」

「言葉の通りですよ。その4つの依頼はあなた方にお任せします。」

「まっ…マジですか…ありがとうございます!!」

「いえいえ、商人としての感が、あなたに任せろと言っているのですよ。」

「BOSS、ラッキーですわね!」


喜ぶイノチたちを見ながら、アキンドはにっこりと笑みを浮かべると、少し話しづらそうに口を開いた。


「…とはいえ、私から一つ、お願いがあるのですがよろしいかな?」

「…お願いですか?なんでしょう。」


フレデリカと喜びを分かち合っていたイノチは、その言葉を聞いてアキンドへと向き直る。


「依頼のランクはFなんですが、とある鉱石の採集をお願いできないかと…」

「鉱石…ですか…」

「はい…ここ『イセ』の街は鉱石で有名であることはご存知かと思います…毎日さまざまな鉱石が『アソカ・ルデラ山』で採掘され、この街に運び込まれるのですが、そんな中で一つだけ、なかなか手に入らない石があるのです。」

(ほほう…レアアイテムのにおいがプンプンだな…)

「その名を『ダリヤ』と言いまして、入手難易度は高くないのですが、見つけるのに苦労する鉱石でして…」

「そんな希少な鉱石なら、なんでランクFなんですか?もっと高くてもいい気がするんですけど…」

「用途が限られる…いや、一つしかないと言った方が正しいでしょうな。『ダリア』は他の石と違い、加工がまったくできません。アクセサリーなどにもできないため、ほとんど市場には流通しないのです。ただ…」

「…ただ?…それを必要とする訳があるんですね。」


言いにくそうに頭をかくアキンドに、イノチはその先を話すように促した。


「…非常に言いにくいのですが…私の娘が今度結婚するのです。娘を嫁に出す際は、相手側に『ダリヤ』を贈るのが我が一族の古くからのしきたりでして…」

「そんなんだ!おめでとうございます!」

「ありがとうございます。しかし…カルモウ家は大商人と謳われている我らは簡単に手に入ると、恥ずかしながら高をくくっておりました。結婚式を間近に控えておりながら、未だに手に入れられずにいるのです。」

「なるほど…それを俺たちに手に入れてきてほしいということですか…でも、なんで俺たちなんです?特にその石に詳しいわけでもないですよ?」

「それは、弟からあなた方を紹介されたのですよ。信用に足る、うってつけの人物がいると…」

「ん…弟さんですか?俺たち、アキンドさんの弟と会ったことありましたっけ…あれ?紹介された?…ん?」


後ろでエレナが爆笑している。
何か変なことでも言ったかなとイノチが不思議そうな顔をしていると、目の前のアキンドが驚くべき事実を口にした。


「騙したようで申し訳ないですな…自己紹介が遅れましたが、わたくし、商人ギルドのギルドマスター、アキルド…アキルド=カルモウと申します。」

「…え?アキルド…カルモウ?…あれ、てことは…」

「はい、私はアキンドの兄です。」

「えぇぇぇ!!」


イノチは何が何だか分からずに、キョトンとなる。目の前にいる男は、アキンドではなくアキルドだと言うのだ。

瓜二つなのに…

口ひげ…ハゲ頭…つぶらな瞳…
どれをとってもアキンドと一緒にしか見えないその男は、アキンドではなく、アキルドだと言う。


「あなたが兄のアキルドで、弟がアキンド…あれ?アキンドさんの兄で…弟がアキンド…ん?」


そんなイノチを見て、エレナが声を上げて大笑いを始めた。メイも苦笑いを浮かべて見ている。


「ねっ、BOSS!驚いたでしょ!?あのアキンドとまったく瓜二つなのよ!私も初めて会った時は、魔法で幻術でも見せられたのかってビビったわよ!!」

「だからお前、最初っからニヤニヤしてたんだな…変だなって思ってはいたんだよなぁ…」

「エレナさんがどうしてもと言うので…たいへん失礼をいたしました。」


アキルドはそう言って深々と頭を下げた。そして、顔を上げると受付の女性に指示を出す。


「リン…ここではなんだから、奥の応接室に皆さまをご案内するように。あとさっきの依頼もギルマス権限で、彼らが受けられるように手配しておいてくれ。」

「はっ…はい!かしこまりました!」


リンと呼ばれた女性は少し焦り気味で頷いた。アキルドはイノチに向き直り、優しい笑顔を向ける。


「詳しい話は奥の方で…報酬の話など細かいことを決めましょう。」





目の前には『鉱山道入口』の看板。

その先を見れば、大きく口を開いてイノチたちを待ち受けている洞窟の入口が、静かに佇んでいる。


「はぁ…また洞窟かよ…ダンジョンの記憶が蘇るよ…はぁ…」

「そう気を落とさないで、BOSS!今回はフレデリカもいるんだし!」

「そうですわ!BOSSは後ろでゆっくりしていてくださって良いですわ!」


開いた右手を口の横へ、左手を腰に置いて、「ホーッホッホッ!」と高笑いしているフレデリカ。

エレナはエレナで、『グレンダガー』をガキンッガキンッと鳴らしながら、目をギラつかせている。

二人の様子を見て、再びため息を吐くと、イノチは気を取り直して、頬を挟むように両手でパンッと叩いた。

商人ギルドのギルマスであるアキルドから受けた依頼。
『ダリア』という鉱石の採集だが、報酬はFランクながら破格と言っても過言ではない。

先のギルド総館での話し合いで、アキルドから提示された内容は次の通りであった。

まず、『ダリア』一個につき、50,000ゴールド支払う。道中で見つけた鉱石も、持ち帰れば相場で買い取る。また、モンスターから得た素材も同様に買い取る。

最後に、もともと受けようと思っていた4件の依頼も、アキルドの依頼の終了後に納品してくれて構わないという内容だ。


「弟のアキンドさんの顔に泥を塗るわけにもいかないしな!」

「今回の依頼…全部こなせば一気にウハウハできるわね!!」

「BOSS…わたくし、高級な肉が食べたいですわ!!」

「うまくいったら、アキンドさんに良い店、紹介してもらおうぜ!!」

「「YES、Sir!!」」


イノチの言葉に、エレナとフレデリカはかかとを合わせ、声をそろえて敬礼をする。

はじめてのギルドクエスト。

これが波乱の幕開けとなることを、イノチたちはまだ知る由もないのであった。

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