ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜
18話 戦闘狂(バトルジャンキー)
ダンジョンの入口をくぐると、目の前には地下に続く階段が伺えた。
壁面には青い松明が等間隔に並んでおり、階段の床を照らしているが、その長さはどれほどなのかわからない。
一目みるだけで不気味さが伝わってくるのだが、エレナはそんなことはお構いなしに階段を降り始めた。
「まずは1階層を踏破しましょう。」
「まっ…待てよ、エレナ!」
意気揚々と階段を降りていくエレナの後ろを、イノチは恐る恐る続いていくのであった。
・
・
・
「ここが1階層ね…」
「…けっこう長かったな。」
5分ほど降りると、階段が終わる。
どうやらフロアに着いたようだ。
前に目を向けると、別れ道はなくまっすぐと通路が続いていて、階段と同様に左右の壁には、青い松明が等間隔に掲げられている。
その先は暗闇が支配しており、状況は確認できない。ただ、青白い灯りがポツポツと床を照らしているだけだ。
「一本道なら、話は早いわね。」
エレナは相変わらずの歩調で進み始めた。それにイノチも続いていく。
階段もそうだったが、床は荒く削られた石でできており、ゴツゴツして歩きにくい。
そんな通路を、イノチは剣と盾を両手に歩きながら、エレナに話しかける。
「モッ…モンスターは、今のところいないみたいだな…」
「そうでもないわ…この先に気配がするもの。」
「げぇっ…マジですか…何がいるのかわかる?」
「たぶんだけど…ゴブリンぽいわね。でもまぁ、レベルも低いはずだから大丈夫でしょ。」
「ゴブリンか…」
エレナはそう話しながらも、どんどん進んでいく。
イノチはゴブリンと聞いてホッとしたのか、少しだけ足取りが軽くなり、エレナについていくのであった。
それから少し進むと、両側にあった壁がなくなった。
青い松明が壁に沿ってついており、広い空間に出たのだと認識できる。
広さは学校の体育館程度だろうか。
ただ、広間の中央までは青い光は届かず、暗闇が巣食っている。
「けっこう広いな。」
「…いるわ。」
「ゴッ…ゴブリンか?」
エレナはその中央の暗闇をジッと見つめていた。
その眼は獲物を見つけたというようにギラついていて、イノチも剣と盾を持つ手に力が入る。
しばらく見つめていると、少しずつ目が慣れ始めて、イノチの目は空間の中央あたりにうごめく何かを捉えた。
小さい背丈。
頭にはツノが生えていて赤い双眸がいくつも群がっているように見える。
それらはこちらには気づいておらず、何かに群がっているようだった。
「なにか…別のモンスターに群がっているようね…」
「えっ…それって…?」
「食べてるんじゃない?」
「うへぇ…!」
エレナの言葉にイノチは後退りをした。
そのとき、かかとに石が当たって、カツンッと音をたててしまったのだ。
「ちょっと…!BOSS!」
「やっ…やべ!」
そう思った時にはすでに遅く、複数の赤い双眸が、こちらを見ているのが目に入る。
それらはギャアギャアと言葉ではない何かを発すると、イノチたちの方に向かって一斉に襲いかかってきたのである。
「チッ…!奇襲を仕掛けるつもりだったけど、やるしかないか…BOSS!私の後ろに下がってなさい!」
エレナはダガーを両手に構える。
そして、踏み込んだ足に力を込めると、一気に前へと駆け出した。
その速さはまさに疾風の如く、群れの一番先頭を走っていたゴブリンを、一瞬で真っ二つに切り裂いた。
光の粒となり消えていくゴブリンを尻目に、エレナは次々と襲いかかってくるゴブリンたちを一蹴していく。
「やっぱ強いなぁ…エレナは…俺の出る幕はなさそうだな。」
構えていた剣と盾をだらんと下げ、エレナの獅子奮迅に戦う様子を、イノチは遠目に見てそう呟いた。
残り1匹…
エレナが最後の1匹に一撃を入れようとしたその時である。
「グオォォォォォォォォォ!!」
大きな咆哮が響き渡る。
どこから現れたのかわからないが、ゴブリンよりも一際大きいモンスターが突如として現れ、手に持っている棍棒を地面へと叩きつけた。
その衝撃波は、まるで地中を何かが這っているかのように地面を砕きながら、とてつもない勢いでエレナに襲いかかる。
「…っ!?」
エレナは、ゴブリンに向けたダガーを止めて、自分に迫りくる衝撃波を見る。
「エレナっ!!」
イノチが声を上げる。
しかし、その心配も無用というように、エレナは地面をトンッと蹴り上げて、ひらりと宙を舞ってかわしたのである。
「なんなのよもう…!仕留め損ねたじゃない!」
着地と同時に悪態をつくエレナに、イノチが近寄ってきた。
「エレナ、大丈夫!?ったく…なんなんだあいつは…」
「ホブゴブリンね…あれは。」
「ホブゴブリンって…ゴブリンの上位種のか?」
「ええ、そうよ…」
エレナは立ち上がり、服をはたきながらホブゴブリンをジッと見据えて、イノチの問いに答える。
唸り声をあげながら、こちらを品定めするように見ているホブゴブリンに、イノチも顔を向けた。
小さくひ弱そうなゴブリンと比べれば、筋肉質な腕や、丸太のような太ももは筋骨隆々で、まるで同種とは思えないほどだ。
口元には、下顎から長く生えている牙が見えており、それがより凶暴さを強調している。
「だけど、所詮はゴブリンよ!あたしの相手じゃないわ!」
「…自信満々で何よりだ…俺は隠れとこうかな。」
「それで問題ないわ!ただし…」
エレナは再びダガーを構えると、一言だけイノチに告げる。
「さっき逃したゴブリン…見失ったのよ。BOSS…気は抜かないでね!」
「おっ…おう!」
そう言って駆け出すエレナに、イノチは相槌を打つ。そして、剣と盾を構え直して、あたりをキョロキョロと見回し始めた。
「はぁぁぁぁぁっ!」
両手にダガーを構えたまま、ホブゴブリンに向かって、エレナは疾風の如く、一直線に突っ込んでいく。
対するホブゴブリンは、棍棒を構えて雄叫びを上げると、突進してくるエレナに向かって、それを振り下ろした。
地面を砕く鈍い音が響き渡り、舞い上がる土煙りとともに、砕けた石のかけらがあたりに飛び散っていく。
周囲には、その衝撃で地割れが発生していく。
ホブゴブリンは醜悪な笑みを浮かべていて、どうやら手応えを感じているようだ。
しかし、土煙りが少しずつ晴れていき、叩きつけた棍棒の姿が現れると、そこにエレナの姿はどこにもなかった。
ホブゴブリンは動揺して、あたりをキョロキョロと見回す。しかし、エレナはどこにもいない。
左手の人差し指でボリボリと頭をかいて、不思議そうにしているホブゴブリン。
だが、イノチはその真上、天井にギラリと光る眼があることに気づいていた。
(あっ…あの眼…前にどこかで…)
獲物を狙う鷹のように鋭く、獅子のように威圧的で、蛇のように狡猾さを携えたギラついた眼。
(そうだ!ビッグベアを倒す時にも見た眼だ!)
イノチはそれに気づいた時、エレナがどうしてダンジョンに頑なに入りたがっていたのか、理由がわかってしまった。
(エッ…エレナって…もしかしてバトルジャンキー?)
イノチがそう思った瞬間、エレナは天井を蹴り、ホブゴブリンに一直線に飛びかかる。
そして、ホブゴブリンはエレナに気付くことなく、真っ二つに裂かれて、光の粒となり消えていった。
その光景に、イノチは少しだけ背中に冷たいものが流れていたことに気づく。
目の前には、こちらに背中を向けて立ち尽くすエレナの姿が見える。
そして、その横顔には笑みが浮かんでいるように見えたのだった。
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