ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜
17話 GO TO ダンジョン
「こっ…これって…」
イノチは驚きながらそれをじっと見据えていた。
地面から盛り上がったそれは、まるで巨大な怪物の口を想像させる。
石のようなものでできた外観には、土や草、苔のようなものが付着していて、不気味さをより強めている。
入口の中は暗くて先は見えず、生温かい風が吹いてくるようにも感じられた。
「これって…ダンジョンってやつかな…」
「…おそらくそうでしょうね。」
それをジッと見つめて動かないエレナを見て、イノチもなんとなく"ヤバいもの"だということが察知できたのか、生唾を飲み込む。
「…BOSS、どうする?」
「どうするって言ったって…どうしよう…」
エレナの唐突な問いかけに、イノチも判断をつけようがない。
イノチは考えを巡らした。
ダンジョンであれば、レアなアイテムが眠っている可能性がある。
だが、午後はずっとレベル上げをしていたので、二人とも疲労があることは否めない。
モンスターからドロップしたポーションがあるから、回復については多少無理がきくのだが…
そもそも中のモンスターの強さも、ダンジョンの構造さえもわからないのだ。
迷路みたいになっていたら…
モンスターが嘘みたいに強かったら…
考え出したらキリはなかった。
イノチにはそんな賭けみたいなことをする気はなくなり、「やめよう」と言おうとした次の瞬間、エレナが発した言葉に耳を疑った。
「BOSS…少しだけ…少しだけ中を覗いてみましょうよ。」
「なっ…!?本気で言ってんのか?」
「何事も…チャレンジって必要でしょ?」
「だめだめ!情報を集めてから挑戦しよう!今、この状態で入るべきじゃないって!」
イノチは必死にエレナの提案を拒んだ。しかし、エレナがそれに納得しない。
「次に来たとき、これがここにある保証なんてないじゃない。少し見るだけだから…」
「強制的にクリアするまで出られなくなる可能性だってあるだろ?ちゃんと調べてから望むのが一番だって!」
「でも、この世界でのダンジョンの発生頻度はかなり低いかもしれないわ。超レアなアイテムを手に入れる絶好のチャンスかもしれない…それを逃して、あとで後悔する可能性もある。もしかしたら『希少石』なんかも見つかるかもしれないわよ。」
「そっ…そうかもしれないけど…」
確かにそれは否めない。
こういったダンジョンには、レアなアイテムが存在するのはセオリーだからだ。
エレナの言葉は確かに一理あるが、イノチにはエレナがどうしてそこまでダンジョンに固執するのかがわからなかった。
二人の中で答えが出ずに言い合いを続けていると、携帯に何か通知が届く音がした。
「ちょっと待って、なんか通知がきたから確認する。」
「ふんっ…。」
イノチはそっぽを向くエレナから、取り出した携帯に視線を移すと、ホーム画面のポップアップに『ダンジョン出現中!』という表示が出ていることに気づいた。
「ダンジョン…?」
すぐさまそれをタッチすると詳細が表示される。
『現在、ダンジョンイベントを開催中。期間中、超初級から神級までのダンジョンがランダムで出現します。クリアすればレアなお宝もゲットできるチャンス!⇒詳細はこちら《開催期間は4/10〜4/15》』
「イベント…開催中だって?」
イノチは詳細ボタンをタッチする。
『マップに、現在、出現しているダンジョンが表示されます。各ダンジョンの詳細はタッチすることで確認できます。』
それを読んだイノチはすぐさまアイテムボックスからマップを取り出すと、自分のいる位置と目の前のダンジョンの位置を確認する。
「超初級…ダンジョン…」
マップ上の矢印のすぐ上、まさに自分たちの位置のすぐそばに『超初級ダンジョン(NEW)』と表記されている。
「超初級?なら、ぜひチャレンジするべきよね?」
横からマップを覗き込んで、エレナがそう問いかけてきたが、イノチはそれには答えず、ダンジョンのアイコンをタッチした。
『超初級ダンジョン』
階層:地下5階
出現するモンスター:バグズ(Lv.6)、ゴブリン(Lv.2)、ホブゴブリン(Lv.3)、コックローチ(Lv.3)、デビルラット(Lv.4)
入手可能アイテム:蛮勇のベスト(R)、強化薬(キャラ・武器)
備考:期間中は何度でも出入り可能
エレナとイノチはその内容をそれぞれ確認する。
「モンスターのレベル自体、私たちより高くないわね。階層数も5階ならそんなに広くないわね。何度でも出入り自由みたいだし。」
「しかしなぁ…気が乗らん。」
「ったく!男でしょ!?グタグタ言ってないでスパッと決めたらどうなのよ…ん?」
相変わらず慎重で入ることを拒むイノチに、エレナはイラ立ちつつ、携帯にとある項目を見つけた。
そして、悪巧みを思いついたようにニンマリと笑みをこぼしして、イノチに声をかける。
「…BOSS?…これこれ、見てよ。」
「なっ…なんだよ急に…何笑ってんだ?」
イノチはエレナの様子を訝しげに感じつつ、指し示された携帯画面を確認する。
「…っ!?」
突然動きが止まったイノチを見て、エレナは笑みを深くする。
「どう、BOSS?…やる気、でたかしら?」
エレナの問いかけに振り向いたイノチの目には…
ハートマークが浮かんでいた。
そして、手に持つ携帯の画面には『ダンジョンでは黄金石が一定確率でドロップします。』と書かれていたのだった。
◆
「"天運のイノチ"ってプレイヤー知ってる?」
「知ってる知ってる!最近現れたプレイヤーでしょ!SR武器をチュートリアルガチャでゲットしたってうわさの!」
「それだけじゃないらしいよ…なんでも最近では、『希少石』もゲットしたんだって!」
「まっ…まじでぇ!?ヤバいね、そのプレイヤー!」
アリエルのような天使の格好の者たちが自らの羽でフワフワと飛びながら、至るところでうわさ話に花を咲かせている。
彼らはプレイヤーを案内する『ナビゲーター』だ。彼ら以外にもプレイヤーの動向を監視する『オブザーバー』など、この『アクセルオンライン』を運営している従業員たちは多岐に渡り存在する。
そんな運営内では、UR確定アイテム『希少石』をゲットしたイノチのことが、もっぱらうわさになっていた。
そこに彼らから"上官"と呼ばれる女性が歩いてくる。静かにゆっくりと歩く姿にはいっさいの無駄がない。
そんな彼女は、表情はいっさい変えずに、周りのうわさ話に耳を傾けている。
(順調にいっているようで何よりだけど…"天運の"だなんて…少し目立ち過ぎじゃないかしら…)
歩きながら右手を頬に当て、少し考えるような仕草をとったが、「まぁ大丈夫か」といったように笑顔を浮かべて歩いていく。
その先にある部屋に向けて。
◆
「さてと…ポーションなんかのアイテムも確認したし、準備はできたな。エレナは?」
イノチは、レベル上げで入手していた回復系のアイテムをすぐ使えるように整え、実体化して腰回りにセットをすると、エレナに確認をとる。
「だひじょ〜ぶよ!こっひも準備万端!」
強化薬の小瓶を三本くわえて、グレンダカーを装備しながら、イノチの問いかけに答えた。
(相変わらず女らしくない…)
「…ん?なにかしら?」
「いっ…いや!なんでもないよ!」
ジロリとこちらを向くエレナを見て、心の中を読まれたように焦るイノチは、必死に誤魔化した。
訝しげにイノチを見ていたが、エレナは気を取り直すと再び口を開く。
「さぁて!冒険を始めましょ!Lets move it!」
グレンダガーの片刃をダンジョンに向けて、声高らかに叫ぶのであった。
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