ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜

noah太郎

14話 掃除の達人?


「さぁさぁ着きました。こちらでごさいます。」


アキンドに案内され、イノチたちは街外れまで来ていた。

アキンドの指す方を見ると高い柵と門、それに広い庭と大きな館が、静かに佇んでいるのが見える。

白い壁には多くの蔦が這い、黒い屋根もところどころ傷んでいて、窓にはヒビが入っているものもある。


「もともと宿屋として使おうと思って購入したんですが、立地に難がありましてね…倉庫にでもしようかと悩んだまま忘れてしまって…最近になって思い出したんですよ。」

「だからか…道理で大きいわけですね…しかし…」


恥ずかしげに笑うアキンドだが、イノチは驚きを隠せない。

それもそのはずだ。
二人だけで拠点にするにはかなりの広さがある、まさに"豪邸"なのだから。

しかし、それに反してエレナの反応はかなり違った。


「こっ…こんな豪邸に1日500ゴールドで…しかもお風呂付き…きっとかなり広いお風呂だわ!!」

「ここのお風呂はいいですよ!広さだけでいえば、昨日泊まっていただいた宿と同じくらいですからね!」

「ほんとに?!やったわぁぁぁ!」


アキンドと楽しげに話すエレナを、イノチはジト目で見ていたが、気を取り直してアキンドに声をかける。


「アキンドさん…本当にいいんですか?こんな豪邸を1日500ゴールドだなんて…商売のことを考えたら、もう少し良い値で運営できるんじゃ…」

「いえいえ…おそらくこんな僻地では客がつきませんから。お二人に使っていただいた方が館も喜びます。まぁ、少しばかり商人としての謀も含まれてますがね。」

「でもですね…」


イノチが再び意を唱えようとするが、アキンドはパチリとウインクで合図する。それを見たイノチは直感的に察したのだ。


(そうか、この人はどこまでも良い人なんだな…無料じゃないのは、俺らが気を遣うとわかっているからなんだ。)


そう考えてから、イノチはアキンドの提案を改めて了承した。


「わかりました。お言葉に甘えます!ただし、館の掃除は自分たちでしますので!」

「えっ!?」


エレナがこっちを見て驚愕の表情を浮かべているが、イノチは構わず話を続ける。


「掃除道具だけお借りしてもいいですか?」

「それは構いませんが…大丈夫ですか?使用人を数名お貸しすることはできますよ。」


アキンドの言葉に、エレナが全力で頭を縦に振っているが、イノチは丁重にお断りする。


「大丈夫です!ここまでお膳立てしてもらったんだから、掃除くらい自分たちでします!」

「わかりました。では、道具は今から持って来させます。もし何かあれば使用人を一人残していくので、そちらに申し付けください。」

「ありがとうございます!」


話を終え、アキンドたちは帰っていった。館の前にはイノチと、四つん這いになって肩を落とすエレナと、アキンドの残していった使用人の三人だけとなった。


「きみ…名前は?」

「メイと申します。」


イノチが名前を聞くと、使用人は深々と頭を下げて名乗った。

きれいな艶のある黒い髪は、肩までの長さに整えられ、前髪もきれいに揃えられている。ピンク色をベースとした茶衣着と少し紅めの巻きスカートを着こなし、耳の上に控えめな花飾りを身につけている。

背丈はイノチの胸あたり、おおよそ140センチと小さめである。


「メイさんか…よろしく!俺はイノチであっちはエレナね。」

「イノチ様にエレナ様ですね…かしこまりました。」


メイと名乗る使用人は、再び丁寧に頭を下げた。


「あんまりかしこまらなくてもいいからね!それじゃ道具が届くまでの間に、見回って掃除の計画を立てようか!」

「はい、仰せのままに。」

「ゔゔ〜勘弁してよねぇ〜」


イノチの後にメイが続いて行く。
エレナも目に涙を浮かべながら、しぶしぶと二人について行くのであった。





イノチは後悔していた。

館の掃除がこんなにも大変だとは…

掃除を開始してすでに三時間が経過した。しかし、イノチが終わったのは玄関広間だけ。

エレナは風呂風呂うるさかったので、脱衣所と浴槽広間を任せたが、彼女に関しては脱衣所でギブアップ状態だ。

一度休憩しようと、玄関広間に三人は集まっていた。


「やっ…やべぇ…館の掃除…舐めてたわ…」

「だから言ったのよ…やってもらった方がいいって…」

「どうぞ…お茶です。」


メイが持ってきてくれたお茶を受け取って、イノチとエレナはゆっくりとすすってホッと一息。


「「はぁぁぁぁぁ…」」


そんな二人の様子を、メイはお盆を胸に当ててジッと見ている。


「どうすんのよ…このままじゃ寝室すらほこりだらけじゃない!」

「こりゃあ…今日は庭で野宿かなぁ。」

「ぜぇっっっったいに嫌よ!」

「でも、深夜までやったとしてもこのままじゃ風呂までしか終わらないぜ?風呂をとるか…寝床をとるかってとこだな。お金もそんなにないから風呂代にすら届かないし…」

「ぐぬぬぬぬぬ…」


イノチの提案にエレナは必死に頭を回しているようだ。そのうち、湯気が上がってきた。


「あのう…」


そんな二人にメイが声をかけた。


「…ん?メイさん、どうしたの?」

「わっ…私もお手伝いして良いですか?」


手を上げて、お盆で顔を半分隠しながら少し恥ずかしげにメイが提案する。


「気持ちは嬉しいんだけどなぁ…おそらく一人増えたところで、結果はそんなに変わらないんじゃないかなぁ…玄関なんて後回しにすればよかったよ…」

「とりあえず…お風呂と寝室二つ…きれいにすればよろしいのですよね?」

「そうよ…でも今からじゃ無理だし、そもそもあなたに手伝わせられないわ。BOSSの命令だし…」

「旦那さまには、イノチ様の了承があれば手伝って良いと言われてますので…いかがでしょう?」


イノチとエレナは顔を見合わせると、笑顔で答える。


「じゃあ、お願いしようかな…よろしくメイさん!」

「かしこまりました。では、お二人は少しそこでお休みください。」


メイは一礼すると、素早い動きでどこかへ行ってしまった。イノチは声をかけようとしたが、その動きがあまりに機敏すぎて間に合わなかった。

その様子を見て、イノチとエレナは顔を見合わせるのであった。



一時間後…



「終わりました。」

「「へっ?!」」


メイがいつまで経っても戻ってこないので、館の中を探し始めたイノチとエレナは、メイを見つけて驚愕した。

脱衣所にいた彼女は雑巾を絞り終え、パンッとはたいているところであった。

その後ろを見れば、脱衣所がキラキラと光り輝いている。

エレナは驚きながら、その奥に足を踏み入れる。さっきまでほこりだらけだった浴槽広間は見る影もなく、タイルと壁はキラキラと光沢を放っている。

中央に設置された獅子のモニュメントの口から温かそうなお湯が溢れ出し、広々とした湯舟からは湯気が立っているのである。


「メッ…メイさん…?これはいったい…」

「お風呂の掃除はこれで終わりでございます。」


イノチの質問に、にっこりと笑顔を向けるメイであるが驚くのはまだ早かった。

イノチたちは寝室がある区画に案内される。そこでメイが部屋のドアを一つ開けると、まるで高級ホテルの一室のようなきれいな部屋が姿を現したのだ。


「うっ…うそでしょ…メイさん。」

「こっ…こんな短時間で…お風呂と寝室を…しかもひとりで…って。」


イノチもエレナも目が点になり、開いた口が塞がらなかった。


「あっ…あの…私、余計なことをしてしまったでしょうか…」

「「そっ…そんなことない!そんなことないです!!」」


二人の様子に不安そうにたずねるメイに、イノチとエレナは声を揃えて言う。


「メイさん、すごいね!ほんとにありがとうございます!」


イノチがお礼を言うと、メイは恥ずかしそうに顔を隠して、小さな声で「どういたしまして」とつぶやくのであった。

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