異世界で魔王の配下になった件

シオヤマ琴@『最強最速』10月2日発売

魔王軍幹部クルル

「きゃあぁぁぁー!」
床に転がった勇者の頭部を見て酔いから醒めた女二人の内の一人が声を上げた。
魔術師然としたその女は腰を抜かしたかのように床に崩れ落ちる。


もう一人の戦士のような恰好をした女が俺を見ながら立ち上がると、
「貴様、何をした!? あたしたちは勇者だぞ!」
震える手で剣を抜いた。


剣の切っ先を俺に向ける女戦士。
「どういうつもりだ、貴様!」


俺は意に介さずミケのもとへと歩くとしゃがみこんだ。
「大丈夫かミケ?」
「……ニャ~。だ、大丈夫ですニャ~」
「少しだけ待っててくれ」


立ち上がり女戦士を睨みつける。


「こいつは俺の友達なんだ」
「猫が友達だと……気味の悪い奴め、殺してやる!」
女戦士が剣を振るってくる。
素人の俺から見ても華麗な剣捌きだ。
だが今の俺にはかすりもしない。


「くっ……」
俺に何度も斬りかかる女戦士。
それを素早い動きで避け続ける。


「くそっ!」
女剣士が渾身の力を込めて剣を横になぎ払った。
俺は後ろに飛び退いてかわす。


「……はぁ、はぁ、貴様、何者なんだ……」
「俺はクルル……魔王軍の幹部だ」
「魔王軍だと!? 貴様、人間じゃないのか……!」
「人間だ」
「だったらあたしたちの仲間だろうがっ! なんでこんなこと――うっ!?」
俺は一瞬で女戦士の懐に潜り込むとがら空きの腹に一撃を入れた。


倒れ込む女戦士を尻目に俺は女魔法使いに歩み寄る。
「……っ」
恐怖で言葉が出ないのか女魔術師はただ俺を見上げていた。


俺は女魔術師を見下ろす。
「手加減はした。そこの女が目覚めたらこの町を出ろ。そして二度と勇者の真似事はするな、次会ったら命はないぞ」
「……っ!」
女魔術師はがたがたと歯を鳴らしながら必死に何度もうなずいた。


振り返った俺は倒れていたミケをそっと抱きかかえると静まり返る酒場をあとにした。

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