《完結》転生魔王「人類支配しろなんて言ってないよね?」魔族「申し訳ありませんでした!」
11.ユイブ
魔族が陣を敷いているという、ナスタイク丘陵へと向かった。
丘陵にて、ゴブリンたちが横陣を敷いていた。けっこうな数が動員されている。ゴブリンたちの蠢くさまが遠くからでも見て取れた。
「ユイブには、どのように接触するのですか、魔王さま」
と、フィリズマが尋ねてきた。
「どうって。アルノルトのときと同じだ。使者として出向くしかないだろう。いちおう正式に外交官ということにしてもらったわけだしな」
「その……魔王であるという素性は、隠しておくのでしょうか? それとも早々に打ち明けてしまうのですか?」
と、申し訳なさそうな上目使いで尋ねてくる。
「出会うことが出来たなら、すぐに打ち明けるつもりだ。アルノルトのときのように、変な誤解をされたくはないしな」
「そうですか」
「そう言えば、フィリズマは、アルノルトに妙な使者を出していたようだが、ユイブには出していないだろうな?」
フィリズマは顔を青くしていた。
「そ、そんな使者など出しておりません。もちろん、アルノルトのときも、出してはおりません。あれはアルノルトが勝手に言っていることですわ」
違うもん、とアルノルトが言う。
「使者来たもん。黒髪に黒目の男が接触をはかってきたら、全力で抹殺しろ――って、フィリズマの使者だって言ってたもん」
アルノルトが言い返した。
「はぁ? この糞ガキが、まだそんなことを言うつもりですね。そうやって魔王さまの信用を、私から奪おうたって、そうはいきませんわよ」
「そっちこそ、私がウソ吐いてるふうにして、魔王さまからの寵愛を奪うつもりなのね」
顔を突き合わせて怒鳴り合っていた。
フィリズマのほうが背が高く、アルノルトは小柄だ。そのため、フィリズマがアルノルトを見おろすようなカッコウになる。
オレの予想では、使者はおそらくアルノルトが出したのだろうと思っている。実際、カイネルという鳥男を使いとして送っているところを、オレは見ている。
まぁ、オレはべつに気にしていないのだが、フィリズマはいたく気にしているようだ。
「その件は、もう良い。オレにはなんともないのだし、オレは2人とも信用している」
「魔王さま、信じてくださいませ。魔王さまを攻撃するような使者を、私は出しておりません」
と、フィリズマは碧眼に涙を浮かべて訴えてきた。
「私だって、ウソついてないもん。魔王さまなら信じてくれるよね」
と、アルノルトも、オレの脚に抱きついてくる。
「わかった。わかったから。そんなことよりも、すぐにユイブと接触をはかる。今回は誤解のないように、2人とも付き添ってくれ」
「わかりましたわ」
「わかりました」
と、ふたりはうなずいた。
アルノルトのときと同じく、魔法による白い光を空に打ちあげて、オレは使者として向かうことになった。
フィリズマとアルノルトの2人を従えている。そのためゴブリンたちもあからさまに動揺していたし、むろん、攻撃される事態にもならなかった。
天幕に通された。
白いテントである。
武具やら食糧やらが無造作に積まれていた。そのテントの中央に、ユイブが腰かけていた。
「よォ。てめェが、人間の寄越した使者ってわけか」
赤毛を長く伸ばした女性である。薄手のシャツと、腰巻だけの軽装だった。鉱石のような褐色肌を惜しげもなくさらしている。しかも人の背丈ほどもある大剣を背負っている。
「まぁ、そうだが先に言っておかなくちゃならないことがある」
「なんだ?」
「オレは、魔王だ」
そう言うと、ユイブは表情をなくした。
ムリもない。
理解が追い付かなかったのだろう。
そう思った瞬間だった。
頬に衝撃を与えられた。横転した。ユイブにビンタされたのだった。
「なんのつもりだ?」
と、オレは尋ねた。
もしや生前のオレを殺したのはユイブなのではないか――という疑惑まで首をもたげたほどだ。
「すでにフィリズマから寄越してもらった使者から聞いてるんだよ」
「フィリズマの使者だと?」
「自分は魔王だと吹聴して、フィリズマとアルノルトをたぶらかしてる人間がいるってな」
「そんな使者を送ったのか?」
オレは立ち上がって、同行していたフィリズマのほうを見た。フィリズマは顔を青くして、両手を激しく振っていた。
「違います。違います。私はそんな使者など送っていません。何を勝手なことを言っているのですか。ユイブ!」
「はぁ? てめェこそ頭がどうかしちまったんじゃねェのか。魔王さまは20年前に、殺されてンだよ。これはどう見ても人間だろうが」
ユイブはそう言うと、オレの頭を小突いた。魔王であったときはユイブより背が高かったのだけれど、いまはユイブのほうが大きい。
「なんて失礼なことをするのですか。それは正真正銘の魔王さまですよ。腰に携えた《獄魔刀》が見えないのですか」
「は?」
ユイブが怪訝な表情で、オレを見つめてきた。
「これだ」
と、オレは《獄魔刀》を鞘から抜いて見せた。
「え? なに? つまりなんだよ。でも、こんな人間が魔王さまのはずねェだろうが」
「まぁ、そう思うのもムリはない」
転生して魔王になったのだという話をして聞かせた。だんだん理解できたようで、ユイブの表情に、動揺があらわれはじめた。
「も、申し訳ねェ」
と、事情を把握したユイブは頭を下げた。真っ赤な髪が垂れさがった。
「いや。気にすることはない。まさか魔王がこんな姿をしているとは、思わないだろうからな」
「いや、しかし、なんてこった……私ったら、魔王さまの頬を張り飛ばしちまった」
と、ユイブは信じられないものを見るかのように、自身の手のひらを見つめていた。それからオレの顔を見つめてくる。
「魔王さま。お顔が!」
と、フィリズマが手鏡を見せてくれた。オレの左頬に手形が出来ていた。
「さすがユイブだな。けっこうきいた」
「いや、私は、マッタク、そんなつもりは……」
「あらあら、ユイブったら、魔王さまの頬にビンタだなんて、なんて不敬を働いたのでしょうか」 と、フィリズマがなぜか嬉しそうに言う。
「そうだ。そうだ。ユイブったら、魔王さまの顔を叩くだなんて、信じらんないなー」
と、アルノルトも便乗していた。
「申し訳ねェ。こうなったらこの右手を切り落として、魔王さまに献上することにする」
ユイブはそう言うと、背負っていた大剣を構えようとしていた。
「おい、止せ。オレはべつに腕なんて欲しくない」
「しかし、魔王さま……」
「そんな情けない顔をするな、ユイブ。こんなものはすぐに治る」
と、魔法で頬を治癒した。
痛みも引く。
「しかし、私が納得いかねェ。この手で、魔王さまの顔を叩いてしまうなんて……」
「オレが許すと言っているのだ。それにユイブだけではない。フィリズマなんてオレの股間を蹴りあげてくるし、アルノルトなんて、オレを殺すつもりで魔法を放ってきたぞ」
「なに? そうなのか?」
ユイブは、フィリズマとアルノルトのほうに顔を向けた。
「いや、その私は……」
と、フィリズマの顔が真っ赤になっていた。
「違うもん。違うもん。フィリズマが寄越した使者のせいで、勘違いしただけだもん」
と、アルノルトは否定していた。
「そうだ。使者だ。フィリズマの使者がいなければ、私だって勘違いすることはなかったんだぜ」 と、ユイブは思い出したように言った。
「だから、そんな使者など送っていないと言っているでしょうが!」
「使者、来たもん!」
「そうだ。私のところにも来やがったぜ。てめェ、私のことをダマすつもりかよ」
と、3人は言い合っていた。
丘陵にて、ゴブリンたちが横陣を敷いていた。けっこうな数が動員されている。ゴブリンたちの蠢くさまが遠くからでも見て取れた。
「ユイブには、どのように接触するのですか、魔王さま」
と、フィリズマが尋ねてきた。
「どうって。アルノルトのときと同じだ。使者として出向くしかないだろう。いちおう正式に外交官ということにしてもらったわけだしな」
「その……魔王であるという素性は、隠しておくのでしょうか? それとも早々に打ち明けてしまうのですか?」
と、申し訳なさそうな上目使いで尋ねてくる。
「出会うことが出来たなら、すぐに打ち明けるつもりだ。アルノルトのときのように、変な誤解をされたくはないしな」
「そうですか」
「そう言えば、フィリズマは、アルノルトに妙な使者を出していたようだが、ユイブには出していないだろうな?」
フィリズマは顔を青くしていた。
「そ、そんな使者など出しておりません。もちろん、アルノルトのときも、出してはおりません。あれはアルノルトが勝手に言っていることですわ」
違うもん、とアルノルトが言う。
「使者来たもん。黒髪に黒目の男が接触をはかってきたら、全力で抹殺しろ――って、フィリズマの使者だって言ってたもん」
アルノルトが言い返した。
「はぁ? この糞ガキが、まだそんなことを言うつもりですね。そうやって魔王さまの信用を、私から奪おうたって、そうはいきませんわよ」
「そっちこそ、私がウソ吐いてるふうにして、魔王さまからの寵愛を奪うつもりなのね」
顔を突き合わせて怒鳴り合っていた。
フィリズマのほうが背が高く、アルノルトは小柄だ。そのため、フィリズマがアルノルトを見おろすようなカッコウになる。
オレの予想では、使者はおそらくアルノルトが出したのだろうと思っている。実際、カイネルという鳥男を使いとして送っているところを、オレは見ている。
まぁ、オレはべつに気にしていないのだが、フィリズマはいたく気にしているようだ。
「その件は、もう良い。オレにはなんともないのだし、オレは2人とも信用している」
「魔王さま、信じてくださいませ。魔王さまを攻撃するような使者を、私は出しておりません」
と、フィリズマは碧眼に涙を浮かべて訴えてきた。
「私だって、ウソついてないもん。魔王さまなら信じてくれるよね」
と、アルノルトも、オレの脚に抱きついてくる。
「わかった。わかったから。そんなことよりも、すぐにユイブと接触をはかる。今回は誤解のないように、2人とも付き添ってくれ」
「わかりましたわ」
「わかりました」
と、ふたりはうなずいた。
アルノルトのときと同じく、魔法による白い光を空に打ちあげて、オレは使者として向かうことになった。
フィリズマとアルノルトの2人を従えている。そのためゴブリンたちもあからさまに動揺していたし、むろん、攻撃される事態にもならなかった。
天幕に通された。
白いテントである。
武具やら食糧やらが無造作に積まれていた。そのテントの中央に、ユイブが腰かけていた。
「よォ。てめェが、人間の寄越した使者ってわけか」
赤毛を長く伸ばした女性である。薄手のシャツと、腰巻だけの軽装だった。鉱石のような褐色肌を惜しげもなくさらしている。しかも人の背丈ほどもある大剣を背負っている。
「まぁ、そうだが先に言っておかなくちゃならないことがある」
「なんだ?」
「オレは、魔王だ」
そう言うと、ユイブは表情をなくした。
ムリもない。
理解が追い付かなかったのだろう。
そう思った瞬間だった。
頬に衝撃を与えられた。横転した。ユイブにビンタされたのだった。
「なんのつもりだ?」
と、オレは尋ねた。
もしや生前のオレを殺したのはユイブなのではないか――という疑惑まで首をもたげたほどだ。
「すでにフィリズマから寄越してもらった使者から聞いてるんだよ」
「フィリズマの使者だと?」
「自分は魔王だと吹聴して、フィリズマとアルノルトをたぶらかしてる人間がいるってな」
「そんな使者を送ったのか?」
オレは立ち上がって、同行していたフィリズマのほうを見た。フィリズマは顔を青くして、両手を激しく振っていた。
「違います。違います。私はそんな使者など送っていません。何を勝手なことを言っているのですか。ユイブ!」
「はぁ? てめェこそ頭がどうかしちまったんじゃねェのか。魔王さまは20年前に、殺されてンだよ。これはどう見ても人間だろうが」
ユイブはそう言うと、オレの頭を小突いた。魔王であったときはユイブより背が高かったのだけれど、いまはユイブのほうが大きい。
「なんて失礼なことをするのですか。それは正真正銘の魔王さまですよ。腰に携えた《獄魔刀》が見えないのですか」
「は?」
ユイブが怪訝な表情で、オレを見つめてきた。
「これだ」
と、オレは《獄魔刀》を鞘から抜いて見せた。
「え? なに? つまりなんだよ。でも、こんな人間が魔王さまのはずねェだろうが」
「まぁ、そう思うのもムリはない」
転生して魔王になったのだという話をして聞かせた。だんだん理解できたようで、ユイブの表情に、動揺があらわれはじめた。
「も、申し訳ねェ」
と、事情を把握したユイブは頭を下げた。真っ赤な髪が垂れさがった。
「いや。気にすることはない。まさか魔王がこんな姿をしているとは、思わないだろうからな」
「いや、しかし、なんてこった……私ったら、魔王さまの頬を張り飛ばしちまった」
と、ユイブは信じられないものを見るかのように、自身の手のひらを見つめていた。それからオレの顔を見つめてくる。
「魔王さま。お顔が!」
と、フィリズマが手鏡を見せてくれた。オレの左頬に手形が出来ていた。
「さすがユイブだな。けっこうきいた」
「いや、私は、マッタク、そんなつもりは……」
「あらあら、ユイブったら、魔王さまの頬にビンタだなんて、なんて不敬を働いたのでしょうか」 と、フィリズマがなぜか嬉しそうに言う。
「そうだ。そうだ。ユイブったら、魔王さまの顔を叩くだなんて、信じらんないなー」
と、アルノルトも便乗していた。
「申し訳ねェ。こうなったらこの右手を切り落として、魔王さまに献上することにする」
ユイブはそう言うと、背負っていた大剣を構えようとしていた。
「おい、止せ。オレはべつに腕なんて欲しくない」
「しかし、魔王さま……」
「そんな情けない顔をするな、ユイブ。こんなものはすぐに治る」
と、魔法で頬を治癒した。
痛みも引く。
「しかし、私が納得いかねェ。この手で、魔王さまの顔を叩いてしまうなんて……」
「オレが許すと言っているのだ。それにユイブだけではない。フィリズマなんてオレの股間を蹴りあげてくるし、アルノルトなんて、オレを殺すつもりで魔法を放ってきたぞ」
「なに? そうなのか?」
ユイブは、フィリズマとアルノルトのほうに顔を向けた。
「いや、その私は……」
と、フィリズマの顔が真っ赤になっていた。
「違うもん。違うもん。フィリズマが寄越した使者のせいで、勘違いしただけだもん」
と、アルノルトは否定していた。
「そうだ。使者だ。フィリズマの使者がいなければ、私だって勘違いすることはなかったんだぜ」 と、ユイブは思い出したように言った。
「だから、そんな使者など送っていないと言っているでしょうが!」
「使者、来たもん!」
「そうだ。私のところにも来やがったぜ。てめェ、私のことをダマすつもりかよ」
と、3人は言い合っていた。
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