《完結》転生魔王「人類支配しろなんて言ってないよね?」魔族「申し訳ありませんでした!」

執筆用bot E-021番 

11.ユイブ

 魔族が陣を敷いているという、ナスタイク丘陵へと向かった。


 丘陵にて、ゴブリンたちが横陣を敷いていた。けっこうな数が動員されている。ゴブリンたちの蠢くさまが遠くからでも見て取れた。


「ユイブには、どのように接触するのですか、魔王さま」
 と、フィリズマが尋ねてきた。


「どうって。アルノルトのときと同じだ。使者として出向くしかないだろう。いちおう正式に外交官ということにしてもらったわけだしな」


「その……魔王であるという素性は、隠しておくのでしょうか? それとも早々に打ち明けてしまうのですか?」
 と、申し訳なさそうな上目使いで尋ねてくる。


「出会うことが出来たなら、すぐに打ち明けるつもりだ。アルノルトのときのように、変な誤解をされたくはないしな」


「そうですか」


「そう言えば、フィリズマは、アルノルトに妙な使者を出していたようだが、ユイブには出していないだろうな?」


 フィリズマは顔を青くしていた。


「そ、そんな使者など出しておりません。もちろん、アルノルトのときも、出してはおりません。あれはアルノルトが勝手に言っていることですわ」


 違うもん、とアルノルトが言う。


「使者来たもん。黒髪に黒目の男が接触をはかってきたら、全力で抹殺しろ――って、フィリズマの使者だって言ってたもん」


 アルノルトが言い返した。


「はぁ? この糞ガキが、まだそんなことを言うつもりですね。そうやって魔王さまの信用を、私から奪おうたって、そうはいきませんわよ」


「そっちこそ、私がウソ吐いてるふうにして、魔王さまからの寵愛を奪うつもりなのね」


 顔を突き合わせて怒鳴り合っていた。


 フィリズマのほうが背が高く、アルノルトは小柄だ。そのため、フィリズマがアルノルトを見おろすようなカッコウになる。


 オレの予想では、使者はおそらくアルノルトが出したのだろうと思っている。実際、カイネルという鳥男を使いとして送っているところを、オレは見ている。


 まぁ、オレはべつに気にしていないのだが、フィリズマはいたく気にしているようだ。


「その件は、もう良い。オレにはなんともないのだし、オレは2人とも信用している」


「魔王さま、信じてくださいませ。魔王さまを攻撃するような使者を、私は出しておりません」
 と、フィリズマは碧眼に涙を浮かべて訴えてきた。


「私だって、ウソついてないもん。魔王さまなら信じてくれるよね」
 と、アルノルトも、オレの脚に抱きついてくる。


「わかった。わかったから。そんなことよりも、すぐにユイブと接触をはかる。今回は誤解のないように、2人とも付き添ってくれ」


「わかりましたわ」
「わかりました」
 と、ふたりはうなずいた。


 アルノルトのときと同じく、魔法による白い光を空に打ちあげて、オレは使者として向かうことになった。


 フィリズマとアルノルトの2人を従えている。そのためゴブリンたちもあからさまに動揺していたし、むろん、攻撃される事態にもならなかった。


 天幕に通された。
 白いテントである。


 武具やら食糧やらが無造作に積まれていた。そのテントの中央に、ユイブが腰かけていた。


「よォ。てめェが、人間の寄越した使者ってわけか」


 赤毛を長く伸ばした女性である。薄手のシャツと、腰巻だけの軽装だった。鉱石のような褐色肌を惜しげもなくさらしている。しかも人の背丈ほどもある大剣を背負っている。


「まぁ、そうだが先に言っておかなくちゃならないことがある」


「なんだ?」


「オレは、魔王だ」


 そう言うと、ユイブは表情をなくした。
 ムリもない。
 理解が追い付かなかったのだろう。
 そう思った瞬間だった。
 頬に衝撃を与えられた。横転した。ユイブにビンタされたのだった。


「なんのつもりだ?」
 と、オレは尋ねた。


 もしや生前のオレを殺したのはユイブなのではないか――という疑惑まで首をもたげたほどだ。


「すでにフィリズマから寄越してもらった使者から聞いてるんだよ」


「フィリズマの使者だと?」


「自分は魔王だと吹聴して、フィリズマとアルノルトをたぶらかしてる人間がいるってな」


「そんな使者を送ったのか?」


 オレは立ち上がって、同行していたフィリズマのほうを見た。フィリズマは顔を青くして、両手を激しく振っていた。


「違います。違います。私はそんな使者など送っていません。何を勝手なことを言っているのですか。ユイブ!」


「はぁ? てめェこそ頭がどうかしちまったんじゃねェのか。魔王さまは20年前に、殺されてンだよ。これはどう見ても人間だろうが」


 ユイブはそう言うと、オレの頭を小突いた。魔王であったときはユイブより背が高かったのだけれど、いまはユイブのほうが大きい。


「なんて失礼なことをするのですか。それは正真正銘の魔王さまですよ。腰に携えた《獄魔刀》が見えないのですか」


「は?」
 ユイブが怪訝な表情で、オレを見つめてきた。


「これだ」
 と、オレは《獄魔刀》を鞘から抜いて見せた。


「え? なに? つまりなんだよ。でも、こんな人間が魔王さまのはずねェだろうが」


「まぁ、そう思うのもムリはない」


 転生して魔王になったのだという話をして聞かせた。だんだん理解できたようで、ユイブの表情に、動揺があらわれはじめた。


「も、申し訳ねェ」
 と、事情を把握したユイブは頭を下げた。真っ赤な髪が垂れさがった。


「いや。気にすることはない。まさか魔王がこんな姿をしているとは、思わないだろうからな」


「いや、しかし、なんてこった……私ったら、魔王さまの頬を張り飛ばしちまった」
 と、ユイブは信じられないものを見るかのように、自身の手のひらを見つめていた。それからオレの顔を見つめてくる。


「魔王さま。お顔が!」
 と、フィリズマが手鏡を見せてくれた。オレの左頬に手形が出来ていた。


「さすがユイブだな。けっこうきいた」


「いや、私は、マッタク、そんなつもりは……」


「あらあら、ユイブったら、魔王さまの頬にビンタだなんて、なんて不敬を働いたのでしょうか」 と、フィリズマがなぜか嬉しそうに言う。


「そうだ。そうだ。ユイブったら、魔王さまの顔を叩くだなんて、信じらんないなー」
 と、アルノルトも便乗していた。


「申し訳ねェ。こうなったらこの右手を切り落として、魔王さまに献上することにする」


 ユイブはそう言うと、背負っていた大剣を構えようとしていた。


「おい、止せ。オレはべつに腕なんて欲しくない」


「しかし、魔王さま……」


「そんな情けない顔をするな、ユイブ。こんなものはすぐに治る」
 と、魔法で頬を治癒した。


 痛みも引く。


「しかし、私が納得いかねェ。この手で、魔王さまの顔を叩いてしまうなんて……」


「オレが許すと言っているのだ。それにユイブだけではない。フィリズマなんてオレの股間を蹴りあげてくるし、アルノルトなんて、オレを殺すつもりで魔法を放ってきたぞ」


「なに? そうなのか?」


 ユイブは、フィリズマとアルノルトのほうに顔を向けた。


「いや、その私は……」
 と、フィリズマの顔が真っ赤になっていた。


「違うもん。違うもん。フィリズマが寄越した使者のせいで、勘違いしただけだもん」
 と、アルノルトは否定していた。


「そうだ。使者だ。フィリズマの使者がいなければ、私だって勘違いすることはなかったんだぜ」 と、ユイブは思い出したように言った。


「だから、そんな使者など送っていないと言っているでしょうが!」


「使者、来たもん!」


「そうだ。私のところにも来やがったぜ。てめェ、私のことをダマすつもりかよ」
 と、3人は言い合っていた。

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