《完結》転生魔王「人類支配しろなんて言ってないよね?」魔族「申し訳ありませんでした!」
8.フィリズマの使者にダマされた?
アルノルトに魔王と認められて、オレはタメーリク砦に入ることを許された。
石造りの円卓が置かれていた部屋だった。作戦会議室だろう。
壁面には真っ赤な、垂れ幕がかかっている。ノルディック王国の旗印であるドラゴンの絵が描かれている。
テーブルは20人ほどが囲めるほどの大きさである。
この会議室にやってくる道中にて、オレが魔王であることを、アルノルトに話して聞かせた。
話していく過程で、ようやっとオレを魔王と認めてくれた。
「だって、フィリズマからの使者に、黒髪黒目の《獄魔刀》を持った人間に、気を付けろって、そう言われたんです」
オレがフィリズマのほうを見ると、フィリズマは笑いをかみ殺したような表情をしていた。
「あらあら。何を言ってるのでしょうか。私は、そんな使者なんて寄越していませんわ」
「ウソ! 使者来たもん!」
と、駄々をこねるかのように、アルノルトは机を叩いた。
「ウソは良くないですね。アルノルト。あなたは魔王さまにたいして攻撃を仕掛けたのです。しかも魔王さまに、本気の殺気を向けてまで」
「うっ……」
「あらあら、なんて無礼なことをしたのでしょうねぇ」
「魔王さまぁ」
と、アルノルトは涙目になって、オレのほうを見つめてきた。
紫色のやわらかそうな髪をした少女である。人間で言えば、おおよそ10歳程度の外見をしているから、つい甘やかしてしまいそうになる。が、その中身は600歳である。
オレが口を開く前に、フィリズマが言う。
「魔王さまに甘えるんじゃありません。あなたは魔王さまにたいして、この上なく失礼なことをしてしまったのです。これはもう死んで詫びるしかありませんね。安心しなさい。一瞬で殺してあげますから」
「違うもん。私はフィリズマが寄越した使者にダマされただけだもん。フィリズマが全部悪いんだもん」
「私は、そんな使者など寄越していないと言ってるでしょう。この期におよんでウソを吐くつもりですか」
「だって……」
まぁまぁ、とオレは口をはさむことにした。
「たしかにオレのこの外見では、誤解されても仕方がない。オレのことを魔王だと気づかずに攻撃を仕掛けたのは、フィリズマも同じだ」
オレがそう言うと、アルノルトの表情が一変した。
目に浮かべていた涙が引っ込んで、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。アルノルトの八重歯と言うには鋭すぎる歯がかいま見えた。
「あれ? なんだ。私だけじゃないんだ。フィリズマも魔王さまのこと、気づかなかったんだー。フィリズマも魔王さまに攻撃しちゃったの?」
今度はフィリズマの表情が歪んでいた。
「わ、私は、その……」
「あっ。わかった。フィリズマったら、自分だけ魔王さまに攻撃したのが厭で、私にも同じ間違いを起こさせようとしたのね。うわぁ。フィリズマってば相変わらず、悪質ねー」
「ち、違うわよ。私はそんな使者を寄越していないと、何度も……」
「いいって、いいって。そんなウソを吐かなくても、うんうん。フィリズマの気持ちもわかるよ。魔王さまだと気づかずに攻撃しちゃうなんて、それはもう万死に値するような行為だもんね」
「この糞ガキが、調子に乗りやがって」
と、今度はフィリズマが机を叩いていた。
「あーあ。フィリズマにダマされてなかったら、私は魔王さまだってすぐに気づけたのになー」
「はァ? 私に気づけなかったのに、てめェに気づけるはずねェだろうが。私は魔王さまの正妻なんだよ」
「何を言ってるのか、わかんないなー。魔王さまの正妻は私だし、もう800歳を過ぎてるババァは引っ込んでろよー。あれれ? この調子だともしかして魔王さまを殺したたのって、フィリズマだったりしてー」
「てめェ、殺すぞ」
と、フィリズマが魔法陣を展開していた。
「なに? 私とやり合おうっての? 私はいつでも相手になってあげるわよ」
と、アルノルトも魔法陣を展開していた。
セッカク隕石を防いだのに、このままだと砦を破壊してしまいかねない。
コホン。咳払いをはさむことにした。その音を受けて、ハッとしたように2人は席に尻を戻していた。
「ケンカするんじゃない」
「申し訳ありません」
「ごめんなさい」
と、ふたりは応じた。
「アルノルト」
「なぁに? 魔王さま」
と、アルノルトは小娘のように首をかしげて見せた。
ふんわりとした紫色の髪が揺れた。はたして狙った媚態なのか、天性の仕草なのか、オレには判別ができなかった。
「オレは生前、人間と平和条約を結んでいた。アルノルトはどうしてそれを反故にして、こうして戦争をしているんだ?」
「それはだって、アルノルトが、魔王さまを殺したのは勇者だって言ったから」
「も、申し訳ありません」
と、アルノルトは顔を伏せていた。
「人間が約束を破るなら、私だって守る必要ないやーって思って。魔王さまをやられたんだから、全部ぶっ壊しちゃっても良いかなって」
「それで戦争をはじめたわけか」
「うん」
と、アルノルトはうなずいた。
「オレがこうしてアルノルトに会いに来たのは、平和条約をふたたび結びためだ。さっきも言ったと思うが、フィリズマはすでに人間との平和条約に積極的になっている」
そうだな。とフィリズマに尋ねた。
「むろんです。魔王さまの決定に異論はありません」
「そういうわけだ」
「わかりました。魔王さまが、そうおっしゃるのでしたら、私にも異論はないわよ。人間たちと仲直りすれば良いのよね。でも、ついさっき勇者を名乗る連中が、攻めてきたところだけど」
「軽く追い払えただろう?」
「うん。問題なかったわ。それからフルバスっていう、人間のお偉いさん? を捕まえてあるけど」
「捕虜は、解放してくれ」
「魔王さまの決定に異論はないのだけれど、ひとつお尋ねしたいわ」
「なんだ?」
「どうして人間と手を結ぶんじゃうの? このまま押しつぶしちゃえば良いんじゃない? 生前だって魔王さまなら、充分人間をブチ殺すことが出来たじゃない」
「オレにはべつに野心はない。世界を征服してやろうという気概もなければ、人間を支配してやろうという欲求もない」
「達観しているんだね」
「達観というか、虚無的なんだ。なるようになれば良いと思う。ただ、あまり犠牲を出したくはない。セッカク一度は結ばれた平和条約だ。そう易々と破ってしまえるようなものにしたくはない」
人間を奴隷のように従えるのだって、気がすすまない。人間は人間、魔族は魔族で自国をまとめるのが良策だとオレは思う。
戦略としては下策でも、苦労はすくないと思う。
「なぁに? アルノルトは、魔王さまを攻撃したあげく、魔王さまの方針に文句があるって言うのですか」
と、フィリズマが言った。
「誰もそんなこと言ってないじゃない。魔王さまがそうしたいって言うのなら、反対しないもん。ただ、理由を聞いておきたかっただけ」
「よしよし。納得してくれるなら、それで良い」 と、オレはなにげなくアルノルトの頭をナでた。
アルノルトは嬉しそうに、その頭をオレの手のひらに押し付けてきた。
フィリズマがコタルディの袖を噛んでいたが、見ないフリをしておくことにした。
石造りの円卓が置かれていた部屋だった。作戦会議室だろう。
壁面には真っ赤な、垂れ幕がかかっている。ノルディック王国の旗印であるドラゴンの絵が描かれている。
テーブルは20人ほどが囲めるほどの大きさである。
この会議室にやってくる道中にて、オレが魔王であることを、アルノルトに話して聞かせた。
話していく過程で、ようやっとオレを魔王と認めてくれた。
「だって、フィリズマからの使者に、黒髪黒目の《獄魔刀》を持った人間に、気を付けろって、そう言われたんです」
オレがフィリズマのほうを見ると、フィリズマは笑いをかみ殺したような表情をしていた。
「あらあら。何を言ってるのでしょうか。私は、そんな使者なんて寄越していませんわ」
「ウソ! 使者来たもん!」
と、駄々をこねるかのように、アルノルトは机を叩いた。
「ウソは良くないですね。アルノルト。あなたは魔王さまにたいして攻撃を仕掛けたのです。しかも魔王さまに、本気の殺気を向けてまで」
「うっ……」
「あらあら、なんて無礼なことをしたのでしょうねぇ」
「魔王さまぁ」
と、アルノルトは涙目になって、オレのほうを見つめてきた。
紫色のやわらかそうな髪をした少女である。人間で言えば、おおよそ10歳程度の外見をしているから、つい甘やかしてしまいそうになる。が、その中身は600歳である。
オレが口を開く前に、フィリズマが言う。
「魔王さまに甘えるんじゃありません。あなたは魔王さまにたいして、この上なく失礼なことをしてしまったのです。これはもう死んで詫びるしかありませんね。安心しなさい。一瞬で殺してあげますから」
「違うもん。私はフィリズマが寄越した使者にダマされただけだもん。フィリズマが全部悪いんだもん」
「私は、そんな使者など寄越していないと言ってるでしょう。この期におよんでウソを吐くつもりですか」
「だって……」
まぁまぁ、とオレは口をはさむことにした。
「たしかにオレのこの外見では、誤解されても仕方がない。オレのことを魔王だと気づかずに攻撃を仕掛けたのは、フィリズマも同じだ」
オレがそう言うと、アルノルトの表情が一変した。
目に浮かべていた涙が引っ込んで、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。アルノルトの八重歯と言うには鋭すぎる歯がかいま見えた。
「あれ? なんだ。私だけじゃないんだ。フィリズマも魔王さまのこと、気づかなかったんだー。フィリズマも魔王さまに攻撃しちゃったの?」
今度はフィリズマの表情が歪んでいた。
「わ、私は、その……」
「あっ。わかった。フィリズマったら、自分だけ魔王さまに攻撃したのが厭で、私にも同じ間違いを起こさせようとしたのね。うわぁ。フィリズマってば相変わらず、悪質ねー」
「ち、違うわよ。私はそんな使者を寄越していないと、何度も……」
「いいって、いいって。そんなウソを吐かなくても、うんうん。フィリズマの気持ちもわかるよ。魔王さまだと気づかずに攻撃しちゃうなんて、それはもう万死に値するような行為だもんね」
「この糞ガキが、調子に乗りやがって」
と、今度はフィリズマが机を叩いていた。
「あーあ。フィリズマにダマされてなかったら、私は魔王さまだってすぐに気づけたのになー」
「はァ? 私に気づけなかったのに、てめェに気づけるはずねェだろうが。私は魔王さまの正妻なんだよ」
「何を言ってるのか、わかんないなー。魔王さまの正妻は私だし、もう800歳を過ぎてるババァは引っ込んでろよー。あれれ? この調子だともしかして魔王さまを殺したたのって、フィリズマだったりしてー」
「てめェ、殺すぞ」
と、フィリズマが魔法陣を展開していた。
「なに? 私とやり合おうっての? 私はいつでも相手になってあげるわよ」
と、アルノルトも魔法陣を展開していた。
セッカク隕石を防いだのに、このままだと砦を破壊してしまいかねない。
コホン。咳払いをはさむことにした。その音を受けて、ハッとしたように2人は席に尻を戻していた。
「ケンカするんじゃない」
「申し訳ありません」
「ごめんなさい」
と、ふたりは応じた。
「アルノルト」
「なぁに? 魔王さま」
と、アルノルトは小娘のように首をかしげて見せた。
ふんわりとした紫色の髪が揺れた。はたして狙った媚態なのか、天性の仕草なのか、オレには判別ができなかった。
「オレは生前、人間と平和条約を結んでいた。アルノルトはどうしてそれを反故にして、こうして戦争をしているんだ?」
「それはだって、アルノルトが、魔王さまを殺したのは勇者だって言ったから」
「も、申し訳ありません」
と、アルノルトは顔を伏せていた。
「人間が約束を破るなら、私だって守る必要ないやーって思って。魔王さまをやられたんだから、全部ぶっ壊しちゃっても良いかなって」
「それで戦争をはじめたわけか」
「うん」
と、アルノルトはうなずいた。
「オレがこうしてアルノルトに会いに来たのは、平和条約をふたたび結びためだ。さっきも言ったと思うが、フィリズマはすでに人間との平和条約に積極的になっている」
そうだな。とフィリズマに尋ねた。
「むろんです。魔王さまの決定に異論はありません」
「そういうわけだ」
「わかりました。魔王さまが、そうおっしゃるのでしたら、私にも異論はないわよ。人間たちと仲直りすれば良いのよね。でも、ついさっき勇者を名乗る連中が、攻めてきたところだけど」
「軽く追い払えただろう?」
「うん。問題なかったわ。それからフルバスっていう、人間のお偉いさん? を捕まえてあるけど」
「捕虜は、解放してくれ」
「魔王さまの決定に異論はないのだけれど、ひとつお尋ねしたいわ」
「なんだ?」
「どうして人間と手を結ぶんじゃうの? このまま押しつぶしちゃえば良いんじゃない? 生前だって魔王さまなら、充分人間をブチ殺すことが出来たじゃない」
「オレにはべつに野心はない。世界を征服してやろうという気概もなければ、人間を支配してやろうという欲求もない」
「達観しているんだね」
「達観というか、虚無的なんだ。なるようになれば良いと思う。ただ、あまり犠牲を出したくはない。セッカク一度は結ばれた平和条約だ。そう易々と破ってしまえるようなものにしたくはない」
人間を奴隷のように従えるのだって、気がすすまない。人間は人間、魔族は魔族で自国をまとめるのが良策だとオレは思う。
戦略としては下策でも、苦労はすくないと思う。
「なぁに? アルノルトは、魔王さまを攻撃したあげく、魔王さまの方針に文句があるって言うのですか」
と、フィリズマが言った。
「誰もそんなこと言ってないじゃない。魔王さまがそうしたいって言うのなら、反対しないもん。ただ、理由を聞いておきたかっただけ」
「よしよし。納得してくれるなら、それで良い」 と、オレはなにげなくアルノルトの頭をナでた。
アルノルトは嬉しそうに、その頭をオレの手のひらに押し付けてきた。
フィリズマがコタルディの袖を噛んでいたが、見ないフリをしておくことにした。
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