《完結》転生魔王「人類支配しろなんて言ってないよね?」魔族「申し訳ありませんでした!」
6.無礼を働いたのが私だけなんて
フィリズマとともにオレは、タメーリク砦へ向かうことになった。タメーリク砦は、王都より北東に街道を進んでゆけば到着する。
支度を整えて城門棟を抜けるさいに、勇者と鉢合わせた。勇者は数十人の騎士を連れてタメーリク砦に向かうようだった。
「ザコ貴族のエドガーくんじゃないか」
と、馬に乗ったまま、勇者が歩み寄ってきた。
オレはおのずと見上げるカッコウになる。逆立った赤毛に、目つきの悪い目。どことなく人をあおっているように見える。
こうして見上げると光の加減もあって、よりいっそう悪人面である。しかしまぁ、勇者は顔で選ぶわけでもないし、顔で人を判断するのもよろしくはない。
「どうも」
と、オレは薄く笑みを浮かべて会釈した。
「ザコ貴族のエドガーくんは、そこで大人しくしていれば良いんだよ。魔族の軍勢なんて、すぐに片付けて来てやるから」
「それが出来ることを祈っておきますよ」
タメーリク砦の指揮を執っているのは、アルノルトかユイブだ。あの2人もフィリズマに負けず劣らぬ魔力の持ち主だ。
人間ごときに負けるような存在ではない。
オレももともとは魔王であって、魔族が傷つく姿は見たくはない。まぁ、これが相手なら大丈夫だろうと、胸裏にて軽く見積もっていた。
「ずいぶんと余裕そうじゃねェーか。クソッタレめ。公爵の貴族だかなんだか知らんが、あんまり調子に乗ってンじゃねェーぞ。ネミ姫はオレさまのものなんだからな」
ネミ姫というのは、国王陛下のひとり娘だ。異様に色が白くて、艶やかな白銀の髪をしている。
傾国の美女と言われるほどの風貌である。
誰もがノドから手が出るほど欲しい美女なわけだが、オレとの縁談話が持ち上がっていた。オレもまぁ、人としては公爵貴族なわけで、べつに不自然なイキサツではない。しかし、それを不愉快に思う連中も多いようだ。
「ええ。ネミ姫との縁談は、まだ確定したわけではありませんから」
「だいたい、なんだよ。その魔族も連れて行くのかよ。そいつは危険だから、捕縛しておくべきじゃねェのかよ」
と、勇者は剣を抜いて、フィリズマのほうに向けた。
「交渉のさいには、同行してもらったほうが役立つかと思いまして。それに、平和条約を結びに来た相手を、捕縛というわけにもいきませんから」
「よく見ると、魔族のくせに良い女だな。どうせタメーリク砦に行くなら、オレといっしょに行かないか?」
「けっこうです」
と、フィリズマは一蹴していた。
「ッたく、どいつもこいつも気に入らねェな」
そう言うと、勇者はようやっと馬を走らせて行った。馬の筋肉で盛り上がった尻が揺れるのを、オレたちは見送った。
ぷはーっ――と、フィリズマは我慢していたものを吐きだすように言葉をつづけた。
「なんなのですか。あのクズ野郎は? 勇者があのような小者だったなんて知りませんでしたよ!」
「勇者とは実力で決められるものであって、人格は関係ないんだろう」
「あの程度の実力で、勇者になれるのですか。人間の世界というのは」
「まぁ、そうなんだろうさ」
「私が間違っておりました。あのようなザコに、魔王さまが殺されたなんて、そんなことあるはずないですのに」
「本人いわく実力を隠しているんだそうだが」
「どうせ、たいした実力もありません。あの様子ならタメーリク砦は陥落しますわね」
「だろうな」
「ところで、どのようにしてアルノルトと接触するつもりですか?」
「タメーリク砦を攻めているのはアルノルトなのか? ユイブかもしれんだろう」
「いいえ。位置的にはおそらくアルノルトかと思われます。あの辺りにいるはずですから」
「そうか。まぁ、ふつうに会って、ふつうに話してみるしかないだろうな。オレはこんな姿だが、フィリズマがいればオレが魔王だと信じるだろうし、《獄魔刀》もある。フィリズマにやったように、魔法を見せるという手もある」
「魔王であることを、すこし伏せておくのが賢明かと思われます」
「伏せておく?」
「はい。魔王さまはこの戦争を止めると同時に、自分を殺した犯人を見つけ出すおつもりなのでしょう?」
「むろん」
勇者ではないとわかった。
ならば、身内である可能性が大きい。
「なら、魔王さまだと伏せておいたほうが、アルノルトの真意を聞き出せるかもしれませんわよ」
「たしかに、それもそうだな」
「ええ。是非そうしてくださいませ!」
と、フィリズマは白い頬を紅潮させてそう言った。
「なにが理由があるのか?」
「魔王さまだと思わずに、無礼を働いたのが、私だけなんてそんな屈辱は耐えかねます。アルノルトとユイブにも同じ屈辱を味あわせてやらねば、気が済みません」
「いや、べつにオレは気にしていないが……」
「私が気にするのです」
と、ものすごい剣幕で即答した。
「そ、そうか。まぁ、細かいことは向こうに行って、考えてみよう」
城門棟から外に出る。外は丘陵が広がっている。街道が通っている。いちおう外交のために行くので、馬車を用意してもらっていた。乗りこんだ。
支度を整えて城門棟を抜けるさいに、勇者と鉢合わせた。勇者は数十人の騎士を連れてタメーリク砦に向かうようだった。
「ザコ貴族のエドガーくんじゃないか」
と、馬に乗ったまま、勇者が歩み寄ってきた。
オレはおのずと見上げるカッコウになる。逆立った赤毛に、目つきの悪い目。どことなく人をあおっているように見える。
こうして見上げると光の加減もあって、よりいっそう悪人面である。しかしまぁ、勇者は顔で選ぶわけでもないし、顔で人を判断するのもよろしくはない。
「どうも」
と、オレは薄く笑みを浮かべて会釈した。
「ザコ貴族のエドガーくんは、そこで大人しくしていれば良いんだよ。魔族の軍勢なんて、すぐに片付けて来てやるから」
「それが出来ることを祈っておきますよ」
タメーリク砦の指揮を執っているのは、アルノルトかユイブだ。あの2人もフィリズマに負けず劣らぬ魔力の持ち主だ。
人間ごときに負けるような存在ではない。
オレももともとは魔王であって、魔族が傷つく姿は見たくはない。まぁ、これが相手なら大丈夫だろうと、胸裏にて軽く見積もっていた。
「ずいぶんと余裕そうじゃねェーか。クソッタレめ。公爵の貴族だかなんだか知らんが、あんまり調子に乗ってンじゃねェーぞ。ネミ姫はオレさまのものなんだからな」
ネミ姫というのは、国王陛下のひとり娘だ。異様に色が白くて、艶やかな白銀の髪をしている。
傾国の美女と言われるほどの風貌である。
誰もがノドから手が出るほど欲しい美女なわけだが、オレとの縁談話が持ち上がっていた。オレもまぁ、人としては公爵貴族なわけで、べつに不自然なイキサツではない。しかし、それを不愉快に思う連中も多いようだ。
「ええ。ネミ姫との縁談は、まだ確定したわけではありませんから」
「だいたい、なんだよ。その魔族も連れて行くのかよ。そいつは危険だから、捕縛しておくべきじゃねェのかよ」
と、勇者は剣を抜いて、フィリズマのほうに向けた。
「交渉のさいには、同行してもらったほうが役立つかと思いまして。それに、平和条約を結びに来た相手を、捕縛というわけにもいきませんから」
「よく見ると、魔族のくせに良い女だな。どうせタメーリク砦に行くなら、オレといっしょに行かないか?」
「けっこうです」
と、フィリズマは一蹴していた。
「ッたく、どいつもこいつも気に入らねェな」
そう言うと、勇者はようやっと馬を走らせて行った。馬の筋肉で盛り上がった尻が揺れるのを、オレたちは見送った。
ぷはーっ――と、フィリズマは我慢していたものを吐きだすように言葉をつづけた。
「なんなのですか。あのクズ野郎は? 勇者があのような小者だったなんて知りませんでしたよ!」
「勇者とは実力で決められるものであって、人格は関係ないんだろう」
「あの程度の実力で、勇者になれるのですか。人間の世界というのは」
「まぁ、そうなんだろうさ」
「私が間違っておりました。あのようなザコに、魔王さまが殺されたなんて、そんなことあるはずないですのに」
「本人いわく実力を隠しているんだそうだが」
「どうせ、たいした実力もありません。あの様子ならタメーリク砦は陥落しますわね」
「だろうな」
「ところで、どのようにしてアルノルトと接触するつもりですか?」
「タメーリク砦を攻めているのはアルノルトなのか? ユイブかもしれんだろう」
「いいえ。位置的にはおそらくアルノルトかと思われます。あの辺りにいるはずですから」
「そうか。まぁ、ふつうに会って、ふつうに話してみるしかないだろうな。オレはこんな姿だが、フィリズマがいればオレが魔王だと信じるだろうし、《獄魔刀》もある。フィリズマにやったように、魔法を見せるという手もある」
「魔王であることを、すこし伏せておくのが賢明かと思われます」
「伏せておく?」
「はい。魔王さまはこの戦争を止めると同時に、自分を殺した犯人を見つけ出すおつもりなのでしょう?」
「むろん」
勇者ではないとわかった。
ならば、身内である可能性が大きい。
「なら、魔王さまだと伏せておいたほうが、アルノルトの真意を聞き出せるかもしれませんわよ」
「たしかに、それもそうだな」
「ええ。是非そうしてくださいませ!」
と、フィリズマは白い頬を紅潮させてそう言った。
「なにが理由があるのか?」
「魔王さまだと思わずに、無礼を働いたのが、私だけなんてそんな屈辱は耐えかねます。アルノルトとユイブにも同じ屈辱を味あわせてやらねば、気が済みません」
「いや、べつにオレは気にしていないが……」
「私が気にするのです」
と、ものすごい剣幕で即答した。
「そ、そうか。まぁ、細かいことは向こうに行って、考えてみよう」
城門棟から外に出る。外は丘陵が広がっている。街道が通っている。いちおう外交のために行くので、馬車を用意してもらっていた。乗りこんだ。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
26950
-
-
440
-
-
267
-
-
1
-
-
124
-
-
2
-
-
841
-
-
310
-
-
439
コメント