《完結》転生魔王「人類支配しろなんて言ってないよね?」魔族「申し訳ありませんでした!」

執筆用bot E-021番 

6.無礼を働いたのが私だけなんて

 フィリズマとともにオレは、タメーリク砦へ向かうことになった。タメーリク砦は、王都より北東に街道を進んでゆけば到着する。


 支度を整えて城門棟を抜けるさいに、勇者と鉢合わせた。勇者は数十人の騎士を連れてタメーリク砦に向かうようだった。


「ザコ貴族のエドガーくんじゃないか」
 と、馬に乗ったまま、勇者が歩み寄ってきた。


 オレはおのずと見上げるカッコウになる。逆立った赤毛に、目つきの悪い目。どことなく人をあおっているように見える。


 こうして見上げると光の加減もあって、よりいっそう悪人面である。しかしまぁ、勇者は顔で選ぶわけでもないし、顔で人を判断するのもよろしくはない。


「どうも」
 と、オレは薄く笑みを浮かべて会釈した。


「ザコ貴族のエドガーくんは、そこで大人しくしていれば良いんだよ。魔族の軍勢なんて、すぐに片付けて来てやるから」


「それが出来ることを祈っておきますよ」


 タメーリク砦の指揮を執っているのは、アルノルトかユイブだ。あの2人もフィリズマに負けず劣らぬ魔力の持ち主だ。
 人間ごときに負けるような存在ではない。


 オレももともとは魔王であって、魔族が傷つく姿は見たくはない。まぁ、これが相手なら大丈夫だろうと、胸裏にて軽く見積もっていた。


「ずいぶんと余裕そうじゃねェーか。クソッタレめ。公爵の貴族だかなんだか知らんが、あんまり調子に乗ってンじゃねェーぞ。ネミ姫はオレさまのものなんだからな」


 ネミ姫というのは、国王陛下のひとり娘だ。異様に色が白くて、艶やかな白銀の髪をしている。
傾国の美女と言われるほどの風貌である。
 

 誰もがノドから手が出るほど欲しい美女なわけだが、オレとの縁談話が持ち上がっていた。オレもまぁ、人としては公爵貴族なわけで、べつに不自然なイキサツではない。しかし、それを不愉快に思う連中も多いようだ。


「ええ。ネミ姫との縁談は、まだ確定したわけではありませんから」


「だいたい、なんだよ。その魔族も連れて行くのかよ。そいつは危険だから、捕縛しておくべきじゃねェのかよ」
 と、勇者は剣を抜いて、フィリズマのほうに向けた。


「交渉のさいには、同行してもらったほうが役立つかと思いまして。それに、平和条約を結びに来た相手を、捕縛というわけにもいきませんから」


「よく見ると、魔族のくせに良い女だな。どうせタメーリク砦に行くなら、オレといっしょに行かないか?」


「けっこうです」
 と、フィリズマは一蹴していた。


「ッたく、どいつもこいつも気に入らねェな」


 そう言うと、勇者はようやっと馬を走らせて行った。馬の筋肉で盛り上がった尻が揺れるのを、オレたちは見送った。


 ぷはーっ――と、フィリズマは我慢していたものを吐きだすように言葉をつづけた。


「なんなのですか。あのクズ野郎は? 勇者があのような小者だったなんて知りませんでしたよ!」


「勇者とは実力で決められるものであって、人格は関係ないんだろう」


「あの程度の実力で、勇者になれるのですか。人間の世界というのは」


「まぁ、そうなんだろうさ」


「私が間違っておりました。あのようなザコに、魔王さまが殺されたなんて、そんなことあるはずないですのに」


「本人いわく実力を隠しているんだそうだが」


「どうせ、たいした実力もありません。あの様子ならタメーリク砦は陥落しますわね」


「だろうな」


「ところで、どのようにしてアルノルトと接触するつもりですか?」


「タメーリク砦を攻めているのはアルノルトなのか? ユイブかもしれんだろう」


「いいえ。位置的にはおそらくアルノルトかと思われます。あの辺りにいるはずですから」


「そうか。まぁ、ふつうに会って、ふつうに話してみるしかないだろうな。オレはこんな姿だが、フィリズマがいればオレが魔王だと信じるだろうし、《獄魔刀》もある。フィリズマにやったように、魔法を見せるという手もある」


「魔王であることを、すこし伏せておくのが賢明かと思われます」


「伏せておく?」


「はい。魔王さまはこの戦争を止めると同時に、自分を殺した犯人を見つけ出すおつもりなのでしょう?」


「むろん」


 勇者ではないとわかった。
 ならば、身内である可能性が大きい。


「なら、魔王さまだと伏せておいたほうが、アルノルトの真意を聞き出せるかもしれませんわよ」


「たしかに、それもそうだな」


「ええ。是非そうしてくださいませ!」
 と、フィリズマは白い頬を紅潮させてそう言った。


「なにが理由があるのか?」


「魔王さまだと思わずに、無礼を働いたのが、私だけなんてそんな屈辱は耐えかねます。アルノルトとユイブにも同じ屈辱を味あわせてやらねば、気が済みません」


「いや、べつにオレは気にしていないが……」


「私が気にするのです」
 と、ものすごい剣幕で即答した。


「そ、そうか。まぁ、細かいことは向こうに行って、考えてみよう」


 城門棟から外に出る。外は丘陵が広がっている。街道が通っている。いちおう外交のために行くので、馬車を用意してもらっていた。乗りこんだ。

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