《完結》転生魔王「人類支配しろなんて言ってないよね?」魔族「申し訳ありませんでした!」

執筆用bot E-021番 

4.平和条約の結び直し

 奴隷として働かされていた人間の数は、おおよそ300人だった。
 すべて王都へ連れ帰った。


 ノルディック王国。王都。城壁に囲まれたその土地は、巨大な丘陵のなかにあった。まるで緑の海に浮かぶ孤島のようなたたずまいである。監視塔からすでにこちらの行列は見えていたのだろう。


「何者だ?」
 と、王国騎士が馬に乗った部隊が近寄ってきた。


 王国騎士は戦時には甲冑を装備する。が、普段は布の鎧クロス・アーマー程度しか着ていない。


 王国騎士である証として、腰にはドラゴンの絵が彫り込まれた柄の、ロングソードを携えている。
 ドラゴンが立ち上がっているようなその紋章こそ、このノルディック王国の旗印なのだ。


「ロドリゲス公爵家の嫡子。エドガー・ロドリゲスです」


「ロドリゲス家の?」


「これがその証です」


 ロドリゲス家の紋章は、花弁の模様だ。ロケットに刻まれている。見せると騎士はあわてたように馬から降りた。


「そうとは知らずに、これは失礼しました。公爵子息さまでしたか。それで、これはいったいどういう……」
 と、騎士は、オレの後ろに並んでいる人たちを、訝しげに見ていた。


「これは魔族に使役されていた者たちです」


「ま、魔族に使役されていた者たちですか。それをどうやって王都まで連れ帰ったのです? まさか公爵子息さまが魔族を倒して?」


「いえ。違いますよ。交渉のすえにこうなりました。こちらが魔族長のひとりであるフィリズマです。人間たちとふたたび和平条約を結び直したいという件で、やって来た――そうです」


 オレはあくまで、人間として立ち振る舞うつもりだ。中身が実は、前世の魔王だなんて知られた厄介なことになる。


「げっ。魔族長の……承知しました。すこしここでお待ちください。上の者の指示をあおいで来ますので」
 と、見張りの騎士を残して、男は引き返していった。


 すぐに騎士たちの護衛付きで出てきたのは、執政官だった。
 この王都には軍事執政官と内政執政官の2人がいる。


 出てきたのは内政をまかされているロウ・カッチーナという初老の男だった。
 そこまで年老いてはいないのだが、腰が曲がっているために老けて見える。
 灰色の薄くなった髪に、灰色の目。老木、といった印象を受ける。


「やあやあ。これはこれは、ロドリゲス公爵子息」


「エドガーでけっこうですよ。ロウ執政」


「ならばエドガー。さきほど伝令を受けたのだが、ここにいる者たちは魔族に使役されていた者と?」


「はい」


「で、そちらが、魔族長のひとりであるフィリズマ?」
 と、ロウは、フィリズマの顔を凝視していた。


「この長大な角がなによりの証だと。もっと詳しく知りたければ、働かされていた者たちの証言を聞いていただければよろしいかと」


「いや。エドガーがウソを吐いているとは思わんよ。しかし、いったいどうやってこの者たちを助け出したのだ?」
 と、ロウは黒とも白ともつかない、灰色の髪をかきむしるようにした。


「助け出したわけではありません。フィリズマを説得したのです。彼女は人々を襲ったことを深く反省して、ふたたび平和条約を結び直したいということです」


「平和条約を……」
 ロウは瞠目していた。


 この手に乗らないはずがない。人類は魔族におされ気味なのだ。すでに領地のほとんども、奪われてしまっている。


「そうだな。フィリズマ」
 と、フィリズマを振り向いだ。


 ここに来て意見を翻されては、たまったもんではない。フィリズマは「もちろんです」と頭を下げた。


「承知した。いや、まさかこのタイミングで平和条約を結び直せるとは、ひとまず国王陛下に伝えなくてはなりません。しばしお待ちください」
 と、ロウ執政官は王都に戻って行った。

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