《完結》転生魔王「人類支配しろなんて言ってないよね?」魔族「申し訳ありませんでした!」
4.平和条約の結び直し
奴隷として働かされていた人間の数は、おおよそ300人だった。
すべて王都へ連れ帰った。
ノルディック王国。王都。城壁に囲まれたその土地は、巨大な丘陵のなかにあった。まるで緑の海に浮かぶ孤島のようなたたずまいである。監視塔からすでにこちらの行列は見えていたのだろう。
「何者だ?」
と、王国騎士が馬に乗った部隊が近寄ってきた。
王国騎士は戦時には甲冑を装備する。が、普段は布の鎧程度しか着ていない。
王国騎士である証として、腰にはドラゴンの絵が彫り込まれた柄の、ロングソードを携えている。
ドラゴンが立ち上がっているようなその紋章こそ、このノルディック王国の旗印なのだ。
「ロドリゲス公爵家の嫡子。エドガー・ロドリゲスです」
「ロドリゲス家の?」
「これがその証です」
ロドリゲス家の紋章は、花弁の模様だ。ロケットに刻まれている。見せると騎士はあわてたように馬から降りた。
「そうとは知らずに、これは失礼しました。公爵子息さまでしたか。それで、これはいったいどういう……」
と、騎士は、オレの後ろに並んでいる人たちを、訝しげに見ていた。
「これは魔族に使役されていた者たちです」
「ま、魔族に使役されていた者たちですか。それをどうやって王都まで連れ帰ったのです? まさか公爵子息さまが魔族を倒して?」
「いえ。違いますよ。交渉のすえにこうなりました。こちらが魔族長のひとりであるフィリズマです。人間たちとふたたび和平条約を結び直したいという件で、やって来た――そうです」
オレはあくまで、人間として立ち振る舞うつもりだ。中身が実は、前世の魔王だなんて知られた厄介なことになる。
「げっ。魔族長の……承知しました。すこしここでお待ちください。上の者の指示をあおいで来ますので」
と、見張りの騎士を残して、男は引き返していった。
すぐに騎士たちの護衛付きで出てきたのは、執政官だった。
この王都には軍事執政官と内政執政官の2人がいる。
出てきたのは内政をまかされているロウ・カッチーナという初老の男だった。
そこまで年老いてはいないのだが、腰が曲がっているために老けて見える。
灰色の薄くなった髪に、灰色の目。老木、といった印象を受ける。
「やあやあ。これはこれは、ロドリゲス公爵子息」
「エドガーでけっこうですよ。ロウ執政」
「ならばエドガー。さきほど伝令を受けたのだが、ここにいる者たちは魔族に使役されていた者と?」
「はい」
「で、そちらが、魔族長のひとりであるフィリズマ?」
と、ロウは、フィリズマの顔を凝視していた。
「この長大な角がなによりの証だと。もっと詳しく知りたければ、働かされていた者たちの証言を聞いていただければよろしいかと」
「いや。エドガーがウソを吐いているとは思わんよ。しかし、いったいどうやってこの者たちを助け出したのだ?」
と、ロウは黒とも白ともつかない、灰色の髪をかきむしるようにした。
「助け出したわけではありません。フィリズマを説得したのです。彼女は人々を襲ったことを深く反省して、ふたたび平和条約を結び直したいということです」
「平和条約を……」
ロウは瞠目していた。
この手に乗らないはずがない。人類は魔族におされ気味なのだ。すでに領地のほとんども、奪われてしまっている。
「そうだな。フィリズマ」
と、フィリズマを振り向いだ。
ここに来て意見を翻されては、たまったもんではない。フィリズマは「もちろんです」と頭を下げた。
「承知した。いや、まさかこのタイミングで平和条約を結び直せるとは、ひとまず国王陛下に伝えなくてはなりません。しばしお待ちください」
と、ロウ執政官は王都に戻って行った。
すべて王都へ連れ帰った。
ノルディック王国。王都。城壁に囲まれたその土地は、巨大な丘陵のなかにあった。まるで緑の海に浮かぶ孤島のようなたたずまいである。監視塔からすでにこちらの行列は見えていたのだろう。
「何者だ?」
と、王国騎士が馬に乗った部隊が近寄ってきた。
王国騎士は戦時には甲冑を装備する。が、普段は布の鎧程度しか着ていない。
王国騎士である証として、腰にはドラゴンの絵が彫り込まれた柄の、ロングソードを携えている。
ドラゴンが立ち上がっているようなその紋章こそ、このノルディック王国の旗印なのだ。
「ロドリゲス公爵家の嫡子。エドガー・ロドリゲスです」
「ロドリゲス家の?」
「これがその証です」
ロドリゲス家の紋章は、花弁の模様だ。ロケットに刻まれている。見せると騎士はあわてたように馬から降りた。
「そうとは知らずに、これは失礼しました。公爵子息さまでしたか。それで、これはいったいどういう……」
と、騎士は、オレの後ろに並んでいる人たちを、訝しげに見ていた。
「これは魔族に使役されていた者たちです」
「ま、魔族に使役されていた者たちですか。それをどうやって王都まで連れ帰ったのです? まさか公爵子息さまが魔族を倒して?」
「いえ。違いますよ。交渉のすえにこうなりました。こちらが魔族長のひとりであるフィリズマです。人間たちとふたたび和平条約を結び直したいという件で、やって来た――そうです」
オレはあくまで、人間として立ち振る舞うつもりだ。中身が実は、前世の魔王だなんて知られた厄介なことになる。
「げっ。魔族長の……承知しました。すこしここでお待ちください。上の者の指示をあおいで来ますので」
と、見張りの騎士を残して、男は引き返していった。
すぐに騎士たちの護衛付きで出てきたのは、執政官だった。
この王都には軍事執政官と内政執政官の2人がいる。
出てきたのは内政をまかされているロウ・カッチーナという初老の男だった。
そこまで年老いてはいないのだが、腰が曲がっているために老けて見える。
灰色の薄くなった髪に、灰色の目。老木、といった印象を受ける。
「やあやあ。これはこれは、ロドリゲス公爵子息」
「エドガーでけっこうですよ。ロウ執政」
「ならばエドガー。さきほど伝令を受けたのだが、ここにいる者たちは魔族に使役されていた者と?」
「はい」
「で、そちらが、魔族長のひとりであるフィリズマ?」
と、ロウは、フィリズマの顔を凝視していた。
「この長大な角がなによりの証だと。もっと詳しく知りたければ、働かされていた者たちの証言を聞いていただければよろしいかと」
「いや。エドガーがウソを吐いているとは思わんよ。しかし、いったいどうやってこの者たちを助け出したのだ?」
と、ロウは黒とも白ともつかない、灰色の髪をかきむしるようにした。
「助け出したわけではありません。フィリズマを説得したのです。彼女は人々を襲ったことを深く反省して、ふたたび平和条約を結び直したいということです」
「平和条約を……」
ロウは瞠目していた。
この手に乗らないはずがない。人類は魔族におされ気味なのだ。すでに領地のほとんども、奪われてしまっている。
「そうだな。フィリズマ」
と、フィリズマを振り向いだ。
ここに来て意見を翻されては、たまったもんではない。フィリズマは「もちろんです」と頭を下げた。
「承知した。いや、まさかこのタイミングで平和条約を結び直せるとは、ひとまず国王陛下に伝えなくてはなりません。しばしお待ちください」
と、ロウ執政官は王都に戻って行った。
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