《完結》転生魔王「人類支配しろなんて言ってないよね?」魔族「申し訳ありませんでした!」
3.自決いたします
この戦争を扇動している他2人、アルノルトとユイブが、どこにいるのか……。
フィリズマが机上に地図を広げてくれた。
「2人がどこにいるのか、正確にはわかりません」
「わからない?」
「おそらく2人とも前線に出ていると思われます。私は後方を担当しているので」
と、フィリズマの白くて細長い指が、いまいる鉱山の場所の人差し指を置いてみせた。
「ここは、前線からすこし離れていることになるのか」
アーロッタ大陸は、きれいな円形を描いた土地だ。まるで円形のクッキーみたいだ。魔族の勢力図は広がって、人間側の土地はクッキーを小さくかじった程度にしか存在していなかった。
地図で見れば手に収まるように見えても、もちろん現実は広大だ。
「このあたりは、すでに魔族領となっていますから。私はどちらかと言うと兵站や物資確保、植民地支配などの、後方支援を任されておりました」
「そうなのか。この戦争の総指揮を執っているのは誰なんだ? てっきり、フィリズマが指揮しているのかと思って、わざわざここまで来たんだが」
「誰が総指揮ということはありません。3人が3人とも、独自の判断で動いていましたから。それでどこにいるのかもハッキリとしないのです」
「メチャクチャだな」
と、オレは肩をすくめて見せた。
「だって、ずっと総指揮を執ってくださっていた魔王さまが、亡くなられてしまったから」
と、フィリズマはスねるように口先をとがらせた。
「そうか。アルノルトとユイブを見つけ出すところから、はじめなくちゃならないのか。セッカク奴隷にまぎれていたのに、あまり意味はなかったか。いや。フィリズマと接触できただけでも良かったか」
と、独りごちた。
「奴隷にまぎれていたですって!」
と、フィリズマは発狂するように言った。
「ああ。それがどうした?」
「魔王さまは、こちらで労働をしておられたのですか?」
「そんなに長い期間ではないがな。ゴブリンに何度か棒で叩かれたこともある」
「うぉぉ――ッ」
と、叫ぶとフィリズマは壁に頭を打ちつけていた。角が壁に刺さって、穴を開ける事態となっていた。
「おい、どうしたっ。落ちつけッ」
「酷い! 酷いではありませんか、魔王さま!」
「なに? なにが酷い?」
「こちらに来ていたのなら、もっと早くに私に教えてくだされば良かったものを。魔王さまが奴隷として使役されていたなんて……なんという無礼を働いてしまったのか……」
「それは悪いことをした」
しばし様子を見ておく必要があったのだ。
フィリズマが前世のオレを殺した相手ではないという確証もなかった。どういう意図で戦争を再開したのか動機を探る意味もあった。
言うタイミングも難しかった。魔王だと言っても、信じてもらえないだろうと思っていた。実際に、信じてもらうのにすこし手間取っている。
「やはり自決いたします」
「いや。それは困ると言ってるだろう。自決させるために、会いに来たわけではないのだ。それにこのタイミングでフィリズマが死んだら、また話がヤヤコシクなる」
壁に開いた穴から、隙間風が入り込んでいた。 べつに寒くはない。心地が良いぐらいだ。
「しかし、魔王さまにそこまでの無礼を働いた私めは、この先、どんな顔をして生きて行けば良いのですか。恥をさらして生きよ、とそうおっしゃられるのですか」
と、コタルディの袖に噛みついて、碧眼の目じりに涙を浮かべていた。
「オレはそんなに気にしちゃいないし、フィリズマも気にすることはない」
「そういうわけにはいきません!」
「フィリズマが生き恥と考えるなら、そうかもしれない。しかし死ねと命令することは出来ない」
愛しい重臣である。
たかが無礼を働いたごときで、殺すわけにもいかない。っていうか、素性を隠していたのはオレの責任だ。
「承知いたしました」
苦渋の決断をするかのように、フィリズマは下唇を噛みしめていた。
なんだか、申し訳ない気持ちになる。
「しかし、アルノルトに会う前に、ここに労働させられている人間たちを、解放してやる必要がある」
「ええ」
「この場で解放すればどうなる?」
「ここは魔族領です。おそらくほかの魔族に捕えられて、殺されるなり、また奴隷として使役されることになるかと思われます」
「人間領にまで送り返してやる必要があるわけだ」
と、地図に描かれている人間領を、オレは指差して見せた。
魔族の侵略によって、ずいぶんと小さくなってしまっている。だが、すべての人類が魔族の手によって陥落したわけではない。
「はい」
「オレはいちおう公爵貴族の嫡男という立場がある。ここにいる人間たちを連れ帰ろう」
「私はどうすれば?」
「フィリズマもオレと一緒に来るんだ。敵意がないことを人間側に伝える必要がある。そして平和条約を結び直す」
「承知いたしました」
「アルノルトとユイブの所在は、ホントウにわからないのか? 何か手がかりだけでも良いんだが」
「兵站物資は、ここから南方のヘコリック砦に届けるように言われていましたが、他には何も」
と、フィリズマは首をかしげた。
「ヘコリック砦か」
と、地図に視線を落とした。
ここから行くにはすこし離れている。やはり人間たちを送り返すほうを優先するべきだろう。
「使者を出しておきましょうか?」
「いちおう、頼む」
カイネルという男を、フィリズマは呼びだした。フィリズマの愛用している伝令官だということだ。
上半身は鳥で、下半身は人間になっている者だ。
フィリズマの命令を受けると、「御意」と、空へと羽ばたいた。
フィリズマが机上に地図を広げてくれた。
「2人がどこにいるのか、正確にはわかりません」
「わからない?」
「おそらく2人とも前線に出ていると思われます。私は後方を担当しているので」
と、フィリズマの白くて細長い指が、いまいる鉱山の場所の人差し指を置いてみせた。
「ここは、前線からすこし離れていることになるのか」
アーロッタ大陸は、きれいな円形を描いた土地だ。まるで円形のクッキーみたいだ。魔族の勢力図は広がって、人間側の土地はクッキーを小さくかじった程度にしか存在していなかった。
地図で見れば手に収まるように見えても、もちろん現実は広大だ。
「このあたりは、すでに魔族領となっていますから。私はどちらかと言うと兵站や物資確保、植民地支配などの、後方支援を任されておりました」
「そうなのか。この戦争の総指揮を執っているのは誰なんだ? てっきり、フィリズマが指揮しているのかと思って、わざわざここまで来たんだが」
「誰が総指揮ということはありません。3人が3人とも、独自の判断で動いていましたから。それでどこにいるのかもハッキリとしないのです」
「メチャクチャだな」
と、オレは肩をすくめて見せた。
「だって、ずっと総指揮を執ってくださっていた魔王さまが、亡くなられてしまったから」
と、フィリズマはスねるように口先をとがらせた。
「そうか。アルノルトとユイブを見つけ出すところから、はじめなくちゃならないのか。セッカク奴隷にまぎれていたのに、あまり意味はなかったか。いや。フィリズマと接触できただけでも良かったか」
と、独りごちた。
「奴隷にまぎれていたですって!」
と、フィリズマは発狂するように言った。
「ああ。それがどうした?」
「魔王さまは、こちらで労働をしておられたのですか?」
「そんなに長い期間ではないがな。ゴブリンに何度か棒で叩かれたこともある」
「うぉぉ――ッ」
と、叫ぶとフィリズマは壁に頭を打ちつけていた。角が壁に刺さって、穴を開ける事態となっていた。
「おい、どうしたっ。落ちつけッ」
「酷い! 酷いではありませんか、魔王さま!」
「なに? なにが酷い?」
「こちらに来ていたのなら、もっと早くに私に教えてくだされば良かったものを。魔王さまが奴隷として使役されていたなんて……なんという無礼を働いてしまったのか……」
「それは悪いことをした」
しばし様子を見ておく必要があったのだ。
フィリズマが前世のオレを殺した相手ではないという確証もなかった。どういう意図で戦争を再開したのか動機を探る意味もあった。
言うタイミングも難しかった。魔王だと言っても、信じてもらえないだろうと思っていた。実際に、信じてもらうのにすこし手間取っている。
「やはり自決いたします」
「いや。それは困ると言ってるだろう。自決させるために、会いに来たわけではないのだ。それにこのタイミングでフィリズマが死んだら、また話がヤヤコシクなる」
壁に開いた穴から、隙間風が入り込んでいた。 べつに寒くはない。心地が良いぐらいだ。
「しかし、魔王さまにそこまでの無礼を働いた私めは、この先、どんな顔をして生きて行けば良いのですか。恥をさらして生きよ、とそうおっしゃられるのですか」
と、コタルディの袖に噛みついて、碧眼の目じりに涙を浮かべていた。
「オレはそんなに気にしちゃいないし、フィリズマも気にすることはない」
「そういうわけにはいきません!」
「フィリズマが生き恥と考えるなら、そうかもしれない。しかし死ねと命令することは出来ない」
愛しい重臣である。
たかが無礼を働いたごときで、殺すわけにもいかない。っていうか、素性を隠していたのはオレの責任だ。
「承知いたしました」
苦渋の決断をするかのように、フィリズマは下唇を噛みしめていた。
なんだか、申し訳ない気持ちになる。
「しかし、アルノルトに会う前に、ここに労働させられている人間たちを、解放してやる必要がある」
「ええ」
「この場で解放すればどうなる?」
「ここは魔族領です。おそらくほかの魔族に捕えられて、殺されるなり、また奴隷として使役されることになるかと思われます」
「人間領にまで送り返してやる必要があるわけだ」
と、地図に描かれている人間領を、オレは指差して見せた。
魔族の侵略によって、ずいぶんと小さくなってしまっている。だが、すべての人類が魔族の手によって陥落したわけではない。
「はい」
「オレはいちおう公爵貴族の嫡男という立場がある。ここにいる人間たちを連れ帰ろう」
「私はどうすれば?」
「フィリズマもオレと一緒に来るんだ。敵意がないことを人間側に伝える必要がある。そして平和条約を結び直す」
「承知いたしました」
「アルノルトとユイブの所在は、ホントウにわからないのか? 何か手がかりだけでも良いんだが」
「兵站物資は、ここから南方のヘコリック砦に届けるように言われていましたが、他には何も」
と、フィリズマは首をかしげた。
「ヘコリック砦か」
と、地図に視線を落とした。
ここから行くにはすこし離れている。やはり人間たちを送り返すほうを優先するべきだろう。
「使者を出しておきましょうか?」
「いちおう、頼む」
カイネルという男を、フィリズマは呼びだした。フィリズマの愛用している伝令官だということだ。
上半身は鳥で、下半身は人間になっている者だ。
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