両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~
夢の欠片Ⅲ
何も持たぬ旅人は
全てを持つ臆病者に勇気を与えた
広く、真っ白な部屋に子供たちが列をつくっていた。
毎月、定期的に行われる能力測定の時間だった。
居並ぶドールは面でもはりつけたように無表情で前だけを見つめていた。
量産器のように個というものが完全に抑制されている。
少年もまたその中のひとつだった。
しかし少年が他のものと違うところがひとつあった。
突出した能力値の高さだ。
とりわけ戦闘技能において少年は他の追随を許さぬほどの数値を記録していた。
同じようにつくられ、同じように学び、同じように使われる。
本来は同じ数値を示すはずのドールだったが、何故かそれぞれの個体によって数値がばらけることがあった。
優秀なものと出来の悪い粗悪品。
原因に興味はなかった。
重要なのは自分が優秀なほうに分類されること、それだけだった。
ここではその振り分けが行われていた。
ベルトコンベアで運ばれる部品のように、
能力に応じてドールが振り分けられていく。
どこまでも機械的な空間に、けたたましいブザー音が鳴り響いた。
ディスプレイに赤く表示された[DEFECTED]という文字が点滅を繰り返していた。
ダストだ。
基準値を下回ったものは「ダスト」と呼ばれており、再調整という名目でどこかに連れて行かれる。
大人がドールにつけた測定器をはずし、手を引いて別室につれていく。
そのドールが二度と戻ってくることはないことを全員が知っていた。
しかし、誰もそれに目を向けることも気を割くこともしない。
そこにいるものたちにとって、それはひどく日常的な光景だった。
「待って!」
突如、日常を切り裂く声が上がった。
「待ってください!」
少年は前を向いたまま、意識だけを隣の少女にやった。
少女が列をかき分けて人の波から抜け出し、ダストを庇うように前に立った。
「この子を処分するのはやめてください」
「処分?我々は再調整を行うだけだ」
「なら、私がその子を教育します。次の測定で基準値を下回っていたら、そのときは好きにして下さい」
少女の手に力が入った。
毅然に言う少女を、大人たちは温度を感じない爬虫類のような目で見ていた。
少女は目をそらさずに真っ直ぐに見返している。
「どうやらきみも調整が必要なようだ」
手元の端末に何かを打ち込む大人を、
隣に立つもうひとりの大人の声が止めた。
「…待て。その子は」
そう言って、顔を寄せて小声で囁き合い、
耳につけている通信機器でどこかに連絡をとったあと、少女に向き直った。
「次はないぞ」
大人たちが冷めた声音で短くに言う。
少女はただ頷きだけを返し、子供の手を引きながら元の位置まで戻った。
あのような騒ぎがあったにもかかわらず、周囲のドールは微動だにしなかった。
庇われたものですら、まるで他人事のように興味を示す様子がなかった。
何事もなかったかのように測定が再開される。
少女を注視する少年に気づき、少女がにやりと自慢げに笑った。
「見てた?」
少女が胸を反らす。
「無意味だな。どうせ次の測定で処分される」
「そんなことないよ。…私の前では誰も処分なんかさせない」
強い意思をもった声は少年の内に入り込み、さざなみが立つように何かを少しだけ揺らした。
自分の中に生じた不和に気づかないふりをして少女から目をそらした。
その日から、ダストが出ると少女が声を上げて割り込むのが日常になった。
全てを持つ臆病者に勇気を与えた
広く、真っ白な部屋に子供たちが列をつくっていた。
毎月、定期的に行われる能力測定の時間だった。
居並ぶドールは面でもはりつけたように無表情で前だけを見つめていた。
量産器のように個というものが完全に抑制されている。
少年もまたその中のひとつだった。
しかし少年が他のものと違うところがひとつあった。
突出した能力値の高さだ。
とりわけ戦闘技能において少年は他の追随を許さぬほどの数値を記録していた。
同じようにつくられ、同じように学び、同じように使われる。
本来は同じ数値を示すはずのドールだったが、何故かそれぞれの個体によって数値がばらけることがあった。
優秀なものと出来の悪い粗悪品。
原因に興味はなかった。
重要なのは自分が優秀なほうに分類されること、それだけだった。
ここではその振り分けが行われていた。
ベルトコンベアで運ばれる部品のように、
能力に応じてドールが振り分けられていく。
どこまでも機械的な空間に、けたたましいブザー音が鳴り響いた。
ディスプレイに赤く表示された[DEFECTED]という文字が点滅を繰り返していた。
ダストだ。
基準値を下回ったものは「ダスト」と呼ばれており、再調整という名目でどこかに連れて行かれる。
大人がドールにつけた測定器をはずし、手を引いて別室につれていく。
そのドールが二度と戻ってくることはないことを全員が知っていた。
しかし、誰もそれに目を向けることも気を割くこともしない。
そこにいるものたちにとって、それはひどく日常的な光景だった。
「待って!」
突如、日常を切り裂く声が上がった。
「待ってください!」
少年は前を向いたまま、意識だけを隣の少女にやった。
少女が列をかき分けて人の波から抜け出し、ダストを庇うように前に立った。
「この子を処分するのはやめてください」
「処分?我々は再調整を行うだけだ」
「なら、私がその子を教育します。次の測定で基準値を下回っていたら、そのときは好きにして下さい」
少女の手に力が入った。
毅然に言う少女を、大人たちは温度を感じない爬虫類のような目で見ていた。
少女は目をそらさずに真っ直ぐに見返している。
「どうやらきみも調整が必要なようだ」
手元の端末に何かを打ち込む大人を、
隣に立つもうひとりの大人の声が止めた。
「…待て。その子は」
そう言って、顔を寄せて小声で囁き合い、
耳につけている通信機器でどこかに連絡をとったあと、少女に向き直った。
「次はないぞ」
大人たちが冷めた声音で短くに言う。
少女はただ頷きだけを返し、子供の手を引きながら元の位置まで戻った。
あのような騒ぎがあったにもかかわらず、周囲のドールは微動だにしなかった。
庇われたものですら、まるで他人事のように興味を示す様子がなかった。
何事もなかったかのように測定が再開される。
少女を注視する少年に気づき、少女がにやりと自慢げに笑った。
「見てた?」
少女が胸を反らす。
「無意味だな。どうせ次の測定で処分される」
「そんなことないよ。…私の前では誰も処分なんかさせない」
強い意思をもった声は少年の内に入り込み、さざなみが立つように何かを少しだけ揺らした。
自分の中に生じた不和に気づかないふりをして少女から目をそらした。
その日から、ダストが出ると少女が声を上げて割り込むのが日常になった。
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