俺【死神】になりました ~喧嘩もしたことない俺の、選べる職業が【死神】だった!?~

伝説の孫の手

第43話 スピーチ

 ついに八日目の朝がやってきた。今日は避難民の皆様に説明をして理解を得るという一大仕事がある。

 顔を洗って、体は濡れたタオルで拭くことで汚れを落とした。今の現状水を無駄にはできないので、節約できるところは節約しなくてはいけないのだ。なんだかんだ言って屋敷にいたころは毎日風呂に入れていたので、こういうのは初めてだったが、それも仕方ないので我慢する。

 そうこうしているうちに、父さんの部下の人が呼びに来た。

「色人様、お迎えに上がりました。この後の予定ですが、朝食を個々にいる人たち全員で食べるにあたって、一旦全員にビルの外に出てもらい。そこで炊き出しを行います。その時炊き出しを配給する前に、皆を集めてスピーチしていただくことになります。」

 そう説明してくれた。「わかりました」と伝えて、その人についていきビルを下っていく。

 ビルを出ると、そこにはちょっとした広場と、その奥に道路があるのだが、その道路は通行止めされているので一台の車もない。

 ビルの目の前の広場にはスピーチするための台が作られており、その上に父さんたちがいた。

 父さんたちの方へと近づくと、こちらに気づいた。

「おお、来たか。今皆さんに外に出てもらっている。ある程度集まって静かになったところで、まず私から話すから、振られたら話してくれ。」

 そういって、父さんはほかの社員の方たちと打ち合わせを始めた。

 俺としては特にやることもなかったので、集まる人たちのことを観察していた。

 避難民の方は、家族連れの人、一人の人、カップル、お年寄り、本当に様々な方たちがいる。中には足を引きずっている人、包帯を巻いている人などもちらほら見えるが、大きいけがの人や、動くのも大変な人、病気の人などは病院の方に移されているのか、あまりいないようだ。
 
 そうこうしているうちに、ついに父さんが話し出した。

「皆さん、おはようございます。今ここの最高責任者をしております、黒神重工社長の黒神明人です。
 神と名乗るものがいきなり頭の中に話しかけてきて、町中に化け物たちが現れ人々を襲った悪夢の正月から、一週間がたちました。
 皆さんの中にはいろいろ情報を知っている人もいるかもしれませんが、まだ状況を把握していない方もいると思うので、皆さんに説明したいと思います。」

 父さんの話を皆真剣なまなざしで見ており、あたりはしんと静まり返っている。

「まず、皆さんにわかってほしいことは。国が助けに来るということはほとんどゼロに近いだろうということです。
 現状、警察、自衛隊など多くの者たちが救助活動を行っていますが、今の現状がすでに助けられた跡ということなのです。
 電気、水道といったライフラインが遮断された今、通話も簡単には行えず、現状国というものは機能しておりません。私たちもこの周りに人をやって情報収集を行ってきました。
 この一週間の調査の結果としましては、どこもここより悲惨な状況で、生き残るので精一杯ということです。
 ここは、警察、病院、そして私たち黒神グループの資産力によってかなり恵まれた環境にあるのです。」

 国が助けに来ない。その言葉によってうすうすは気づいていた人、全くその考えに及んでなかった人さまざまだとは思うのだが、あたりがざわざわしだした。それでもなお父さんは話を続ける。

「しかし皆さん、安心してください。皆さんのことは私たちが守ります。
 私たちはここら辺でも最大規模を誇っておりますし、これまで通り炊き出しや、警備で魔物たちの駆除を行い、皆さんの安全を守ることに全力を注ぎます。
 しかしいつまでもそのままというわけにはいきません。私たちの資金力には限界がありますし、今後他の避難民の方たちの受け入れも積極的に行います。
 そうしていくと、いつか抱えきれなくなってしまうのは目に見えています。
 なので皆さんに協力をしてもらいたい、今回はそういうお願いをするためにこのような機会を設けました。」

 そこまで言うと、今までざわついていた人々も、だんだんと静かになっていき、父さんの話の続きを聞こうとしている。

「現状、皆さんの生活を維持していくのに必要になっていくのが、ステータスボードです。中には使用している人も多いでしょう。
 その中でsp(ステータスボードポイント)と呼ばれるものを使用し、いくつかの物資や食料などを交換するということで、今の生活は成り立っています。
 このspとは今後貨幣の代わりのような物になるでしょう。そこで皆さんに仕事を与え、その対価としてspを支払いたいと思います。
 もちろん強制はしませんが、私たちに雇われることで、ほかの避難民の人や今後来るであろう避難民の人の手助けをしていただけませんでしょうか。
 もちろん炊き出しなどは行いますが、それ以上の贅沢などspがあれできることはいくつもあります。
 今はまだ暫定的なもので、細かいルールなどは今後詰めていく段階ですが、自分や家族のためにも、雇われてはいただけないでしょうか?」

 どのように頼むのかは聞いていなかったが、やはり父さんたちもspを使用して雇問方法をとるようだ。このような状態でここまで使いやすいシステムがあるのに、使用しない選択肢はないだろう。

 今までただ与えられるだけだった避難民の方たちが、これによって与える側にまわれる。それに贅沢だけでなくとも何かあった時のためにもspを稼ぐということは必要だろう。これだけの人数を雇うことにのできる資金力のある家だからこそ行える方法だ。

「急なことで戸惑うこともあると思いますし、何もすべての皆さんに働いてほしいというわけではないのですが、今後生活環境を整えていくにあたって皆さんの力を貸してほしいというものです。
 例えば弁護士の方など居たらここでのルール作りを手伝ってほしい、大工の人がいたら建築技術をといったように専門技術を持っている人はその技術を。
 別に持っていない人でも人手はどこも不足していますので問題ありません。もちろんいい仕事をしていただければ、それだけいい給料を支払います。
 もし興味を持っていただいたらこちらまでお声かけください。」

 そういって父さんはスピーチ台の横に設置されたテーブルを指さした。そこには社員の皆さんがいて、わかりやすいように手を上げた。

「そしてもう一つ、重要なお願いがあります。このお願いに関しては息子がご説明いたします。色人。」

 父さんはそういって、手短に俺に話を振ってきた。先ほどから横に立っている俺は誰なんだという視線を感じていたが、何千人もの人々の視線が一気に集まることに若干の恐怖を覚えながらも、意を決して話し出した。

「今ご紹介にあずかりました、黒神明人の息子の黒神色人です。
 私から皆さんにお願いしたいことは、ステータスボードで戦闘職に職業を選択した人に対する、警備そして戦闘への参加のお願いです。
 もちろんこれも強制ではありませんし、しっかりとお給料もお支払いしますが、警備も人手不足なのです。そこで希望者を募ろうを思っています。
 もちろん参加する人の安全はできる限り保証しますが、絶対ではありません。中には亡くなってしまう方もいると思います。」

 そういうと、今度は先ほどよりも大きなざわめきが沸き起こった、しかしここで話を止めるわけにはいかない。

「しかし、この人員は皆さんを守るうえで絶対に必要なのです。
 今もこの地区の周りには魔物たちがはびこっており、いつ襲われるかわかりません。
 その時に一人でも多く戦力がいることの重要性を皆さんならわかっていらっしゃると思います。それに自衛の手段としてもあるといいのではなく、なくては困るのです。
 またもう一つ重要なことがあります。それは魔物を倒すことです。これは自分たちの身を守る以外にも、とても重要な役割があります。それはspの確保です。
 現状食料などを確保するにはspを使用しなくてはいけないのですが、ただ消費するだけではいつか枯渇します。
 しかし魔物を倒すことによって、ボーナスポイントというものが倒した人に支給されて、また倒した魔物もspに換金できます。
 これを行い皆さんの食料などに充てる必要があるのです。」

 そこまで一息で話し、間髪入れずに続ける。

「皆さんの中では本当に戦えるのか疑問に思っている人もいると思います。
 そのために今私が話しているのです。私はほんの一週間前までは喧嘩もしたことがないただの高校生でした。
 しかし世界が変わってしまい、生き残るために仲間と協力して何体も魔物を倒してきました。
 もちろん命の危険もありましたが、訓練を行い職業のレベルを上げるとステータスと呼ばれるものが強化され、強くなっていきます。
 これらの訓練を行いながら、仲間と一緒に戦うことで比較的安全に戦うことができます。わかりやすいように軽く実演してみましょう。」

 そういって俺はここに集まっている人々に向けて、わかりやすいように強化されたステータスを証明する。

 一番わかりやすいのは俺の中でも最も高い速度だろう。俺は派手なスキルなどは持っていないのでこれを見せることにする。

 そういうと俺は全速力で集まってもらっている人の周りを走った。もともとの速度の10倍近くになっている俺の全速力で、残像が残り、通った後には風が吹いた。

 そういって一周して戻ってくる。ステージに上がりみんなを見ると、とても驚いた表情をしている。つかみはいいみたいだ。

「このように、ステータスが強化されると、こんなようなことも出来るようになります。
 何度も言いますが私はつい先日まで普通の高校生でした。
 また私の仲間には小田さんという女性もいました。その人も戦闘経験なんてなかったところ、今では魔物の攻撃をしっかりと止めてくれる頼もしい仲間です。
 戦闘という命の危険がともなう行為なので、あくまでお願いで、強制ではありません。
 来てくれた人にはしっかりを訓練を施しできるだけ安全に戦えるようにすることを約束いたします。
 もし興味がある人は同じようにこちらにお話しください。」

 そういって話をおえた。父さんの方を見ると、大丈夫だといった表情でうなずいてくれたので、一安心だ。

 いきなりいろんなことを話された避難民の人たちは皆同様していたが、それどもある程度落ち着いてきた。そこで父さんが。

「いきなり話して、皆さん動揺しているでしょう。期限は設けません、もし考えてくださる人がいましたら、ぜひお声がけください。今回のお願いは以上になります。この後はどうぞお食事をお楽しみください。」

 そういって話を打ち切った。その発言を合図にゆっくりとだが喧噪が取り戻され、皆朝食を食べだした。

 少し緊張したが、取り敢えずは成功したといっていいだろう。俺もご飯にするとしよう。

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