俺【死神】になりました ~喧嘩もしたことない俺の、選べる職業が【死神】だった!?~

伝説の孫の手

第26話 第二地区

 広場の奥に出現した扉を開けて、奥に進んでいく。

 扉の奥は階段があるとか、地面が変わっているなどの違いはなく、ただ同じような道が続いていた。

「別に何か変わったような感じはしませんけどね…」

 そうつぶやいたのは内海さんだ、一ノ瀬さんもマッピングをしながら進んでいるが、どこか拍子抜けみたいな顔をしている。

「そうだね、ダンジョンって名前だから階段とかがあったりするのかなって思ったけど、それもないしね」

 そんなたわいもない会話をしながら進んでいく。そして扉の奥の一本道を進んでいると奥から魔物らしき声が聞こえてきた。

「みんな声がするから気を付けて、扉の向こうに来て初めての敵だ。おそらく強くなっていると思うよ」

 そういうと、みんなもそう思っていたのか、警戒しながら奥を見つめる。

 そうすると奥から歩いてくる魔物の輪郭がうっすらと見えてきた。声の感じやシルエットからおそらくゴブリン系統だろう。

 そろそろ上位種が出てきてもおかしくないので、それも選択肢に入れながら見ていると、ついに魔物の全貌が明らかになった。

「なっ!」

 思わず声が出てしまった。前方から現れたのは全部で三匹。それもゴブリンソードマン二体、ホブゴブリン一体の構成だ。

「おいおい、いきなりハードル上がりすぎじゃないですかね…」

 そういって冷や汗をかいているのはケビンだ、内海さんと一ノ瀬さんに至っては恐怖で体が震えている。

 ダンジョンの通路は今までと変わらないので、一本道だ。そして幅もそこまでなく、障害物もないので逃げるのは難しい。

 一対一なら勝算のある俺やケビンはまだしも、内海さん、一ノ瀬さんはまだ上位種と戦うのは厳しい。二人係でも勝てるかどうかといったところだ。しかしこちらが目視できたということは、あちらからも見られているということで、目が合った瞬間に雄たけびを上げて戦闘状態だ。

「【魔物鑑定】、【魔物鑑定】」

 急いでゴブリンソードマンとホブゴブリンのステータスを確認した。
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 名前:なし
 種族:ホブゴブリン
 レベル:8
 【ステータス】
 M  P:7
 攻撃力:38
 耐久力:35
 速 度:23
 知 力:3
 【所持スキル】
 棍術 
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 名前:なし
 種族:ゴブリンソードマン
 レベル:8
 【ステータス】
 M  P:7
 攻撃力:40
 耐久力:30
 速 度:28
 知 力:3
 【所持スキル】
 剣術 
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 やはり想像通り、ゴブリンソードマンは攻撃と速度が少し高く、ホブゴブリンはバランス型だ。

「みんな、聞いてくれ、ホブゴブリンはバランス型、ソードマンは攻撃力と速度が少し高い。どれもステータスだけで言えば格上だ、三体で連携を取られるとまずい。
 俺とケビンがそれぞれソードマンをなるべく早く倒して合流するから、それまでの間内海さんと一ノ瀬さんでホブゴブリンを抑えといてくれ!」

 そういうと一目散に俺はゴブリンソードマンに突っ込んでいく。

「わかりました」
「了解です」
「了解!」

 そういって三人も続いて動き出した。

 この中でいちばん速度の高い俺が最初に倒さないと、内海さんたちも厳しくなるだろう。そう思い少し強引にゴブリンソードマンの急所を狙っていく。
 
 「ギャア」

 そういって間合いに入った瞬間ゴブリンソードマンは袈裟に切りかかってきた、しかしその動きは読んでいる。しっかりも剣の軌道を見ながら、体を傾けることで回避し、そのまま剣を持っている腕を切り上げた。

 腕を切られたゴブリンソードマンは、さすがに剣を離すことはしなかったが、無事なわけはなく態勢が崩れた。

 その一瞬のスキを見逃さずゴブリンソードマンの目に向かって短剣を差し込む、

「(決まった)」

 しかし、そううまくはいかなかった。ゴブリンソードマンはとっさの反応で短剣に頭突きをしたのだ。

 とっさの行動だったようだが、刃物というものは側面からの攻撃に対して強くない。頭突きによって眼球をくりぬいてそのまま脳を破壊する予定の突きが、方向をずらされ頭蓋骨の上をすべるにとどまった。

 そのまま今度は逆に伸びきってしまった腕のところを攻撃されてしまう。そのままタックルを放ってくるゴブリンソードマンに吹き飛ばされると万事休すだ。なので後ろに飛びながら衝撃を吸収し、タックルしてくるゴブリンソードマンの頭を抱え込む。

 それによってゴブリンソードマンと一緒に後ろに飛ぶ形になったところを、左手でソードマンの頭を抱え、右手で奴の首を空中で思いっきり切り裂いた。

 ゴブリンソードマンともみくちゃになりながらも奴の命はもうない。何とか態勢を立て直し起き上がった。

 今の動きは目をつくまではよかったと思う。しかしそこで気が緩んでしまったのだ。しっかりと腰を入れた鋭い一突きを、奴の反応できない速さで放つことができればよかったところを、生ぬるい突きをしてしまったせいでピンチに陥った。

 結果的には返り血をもろに浴びているところを除けば、最後の行動も悪くはなかったし、そのおかげで地面で軽くすった程度の傷しかないので、この反省は次に生かすことにしよう。

 こちらの戦闘が終わったことで、あとのみんながどうなっているか見てみる。

 ケビンは見るからに、大丈夫そうだ。速度はソードマンのほうが早いが、しっかりと回避や受け流すことができている。そして圧倒的な攻撃力から放たれるパンチの数々。いまもゴブリンソードマンの持っている件を横からはじくことによって、奴は得物を失った。こうなったら問題はないだろう。剣を失ったゴブリンソードマンにケビンがやられる要素がない。

 次に内海さんと一ノ瀬さんの戦いに目をやると。二人ともステータスでは劣っているが、連携することでしっかりと戦えている。

 一ノ瀬さんがホブゴブリンの周りを動き回り、スキをついて内海さんが槍で突く。堅実な戦い方で善戦している。

 「【強撃】」

 そういってホブゴブリンの左の脇腹に強烈な蹴りを一ノ瀬さんがお見舞いした。さすがにスキルのアビリティを食らうのはきついのか、ホブゴブリンは脇腹を抱えてうずくまる態勢に入った。そこで近くにいる一ノ瀬さんめがけて、乱雑に棍棒を振り回したホブゴブリンだったが、攻撃を与えた後すぐさま回避の体制に入っていた一ノ瀬さんに難なく躱される。

 そんなホブゴブリンめがけて、今度は内海さんの攻撃が決まる。

「【インパクト】」

 振りかざされていた棍棒を狙って放たれた一閃はしっかりとその役割を果たし、棍棒は吹っ飛ばされる。

 ここまでくれば二人だけでもなんとかなりそうだ。

 そう思って参戦するのではなく、何かあった時のために見守っていたが、気づいたらケビンも隣で二人のことを見ていた。

「今回はこのまま二人に任せよう。道中使ってきていないし、まだスキルも使えるだろう。」

「そうですね、ここで俺たちが入ると倒せますが、経験値的にもそのまま勝った方がいいでしょう」

 そういって、二人の意見が合ったのでこのまま観察することとする。

 ホブゴブリンの武器を奪った二人はすぐさま攻撃に移る。

「【肉体強化】」

 【肉体強化】のアビリティを使った一ノ瀬さんが、ホブゴブリンの攻撃を受け止めながら、隙を見て内海さんが槍を突き刺していく。

 一時的に防御力が増強されたステータスを生かして。うまくホブゴブリンの攻撃力を逃がしながら、奴の体制を崩していく。その間も内海さんは、一ノ瀬さんに当たらないように側面に移動しながら、ホブゴブリンの腕や足をチクチクと刺していく。

 そんな中で内海さんが、ホブゴブリンの横顔めがけて突きを放った時に戦いは動いた。

 たまらず右腕で顔を守ったホブゴブリンだったが、その隙にホブゴブリンの右腕を利用して、一瞬の死角に入り込んだ一ノ瀬さんが、ホブゴブリンの足を思いっきり蹴り飛ばし、足払いに成功する。

 思いっきり顔面から地面に突っ込んだホブゴブリンのスキを逃すことなく、一ノ瀬さんはホブゴブリンに寝技を仕掛ける、そして固められて身動きができないところを、内海さんがしっかりととどめを刺した。

「何とかなったね。でもいきなり上位種三体はちょっと想定外。上位種複数体を同時に相手するのは初めてだったけど。この調子でしっかりと戦えば、何とかなりそうだ。」

「そうですね、でもこれ以上の数が来られるとしたら、気を引き締めないといけませんで。」

 確かにケビンの言うことも、もっともだ。

 階段になっていなかったので階層ではないのだが、一つ目の扉の奥(最初の場所を第一地区とするならば第二地区か)の第二地区はゴブリンの上位種を第一地区のゴブリンのように、倒すことができないと奥へは進めないということなのかもしれない。

 この第二地区は、第一地区よりもさらに厳しい探索が待ち構えているのだろう。


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