EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~
121 東の未踏破領域
「旦那様、到着しました」
向学の街・学園都市メイアを出て数十秒後。
装甲車全体に適用した先史兵装【アクセラレーター】の超加速によって、マグ達は東にある未踏破領域の境界に辿り着いていた。
眼前には、時に極限環境となる危険地帯を隔離する巨大な壁が立ち並んでいる。
「……この先はどんな環境なんだ?」
「データによると、この先の区画は強酸の雨が降り続いているようですね」
「きょ、強酸の雨?」
またぞろ特異な状況に、思わず驚きの声が口から漏れる。
「金星みたいな?」
地球の姉妹惑星とも言われるかの星は、その呼称とは裏腹に過酷過ぎる環境だ。
高温、高気圧。その上、大気圏には濃硫酸の雲があり、硫酸の雨が降る。
もっとも気温が四百度を超えている地表には、それ以下の沸点に過ぎない硫酸が届くようなことはないのだが……。
いずれにしても、この広大な宇宙には地球で生活しているだけでは想像だにできない環境が、当たり前のように存在している具体例と言えよう。
たとえば、雨で言うならガラスやダイヤモンドが降る星もあると聞く。
……定義上液体に足を突っ込んでいるガラスはともかく、ダイヤモンドの方は雨と言うよりは雹と言った方が近いような気もするが。
まあ、比喩表現として矢の雨と言ったりもするし、そこは余計な思考だろう。
「……そういう特殊環境を再現する装置でも暴走してるのか?」
少し考えて推測を問い気味に呟く。
以前攻略した、共生の街・自然都市ティフィカ近くの迷宮遺跡のような装置が異常をきたしているのかもしれない。そう考えて
「どうも違うみたいデス。通常の環境コントロールシステムの暴走のようデスね」
「と言うと?」
「諸々の廃棄物を分解して循環させるシステムが異常をきたして、塩酸や硫酸、硝酸、フッ酸といった強酸のみが抽出されて雨の形で放出されているのデス」
「それはまた……」
実際の腐食性の程は分からないが、金も溶かしてしまう王水プラスアルファぐらいに認識しておいた方がよさそうだ。
専用の装備を揃えてこないと踏み入れることすら難しいだろう。
「ちなみに別の区画だと強アルカリの雨が降ってるみたい」
オネットの説明にククラが補足を加える。
強アルカリ性の水溶液と言えば、暴力団が遺体を溶かして証拠隠滅するのに使うといった話も囁かれている危険な液体だ。
生物にとっては、浴びたら強酸よりも恐ろしいことになる場合もある。
「それは確かに未踏破領域になってもおかしくない場所だな……」
今の今まで放置されていたのも理解できる。
ただ足を踏み入れるのみならず、探索するとなれば余程超越現象の相性がいい冒険者でもなければ不可能な話だ。
街総出で耐食性に優れた装備を用意したりすれば奥まで調査することも可能かもしれないが、費用対効果を考えると予算も出しにくいだろう。
確実に成果を得られるか、あるいは、今回のように明確な目的地、目的物が存在するとかでもない限りは。
もっとも、現状時間の猶予もないので準備を整える余裕などないのだが……。
「フィアとおかー様がいれば大丈夫です!」
フィアが幼い外見に似つかわしくない胸部ユニットを強調するように張って言うように、マグ達であれば諸々の懸念は解消される。
「では、行きましょうか」
それこそ普通の雨降りの道を行くような気軽さでアテラが告げたのを合図に、巨大な門をくぐって未踏破領域へと入っていく装甲車。
その車体は全体をフィアのシールドによって覆われ、更にその内側をアテラが同じように作り出したシールドで保護されていた。
ククラと彼女が眠っていた迷宮遺跡によって改良されたアテラの体。
そこには彼女の超越現象に対応できるように様々なギミックが追加され、その中にはフィアを模したシールド発生装置も含まれている。
更にメタから回収した保守の判断軸・隔壁の断片と障壁の断片という二つの力が加わり、アテラはフィア以上の防御力を得るに至っていた。
そのおかげで、降り注ぐ酸の雨は半透明の淡く輝く傘に弾かれるようにマグ達が乗る装甲車を避けて流れ落ちていく。
周りを呑気に観察できるだけの安全性は確保されている状態だ。
「これは……」
「随分と荒れ果てていますね」
「およそ普通の生物が生きていられる環境ではないデスからね」
「いや、それより――」
動物の姿も植物の影もないのは当然として、地面がおよそ地面とは思えないような色の水溜まりで覆われていた。
「金属が溶けてるのか?」
油の虹色のような不自然な鮮やかさとは異なる、かき氷のシロップのような色。
これはイオン化した金属のもののように思える。
「都市鉱山的な廃棄物が地表に集まってる。それが酸の雨で溶け出したみたい」
ククラの解説を聞く限り、マグの推測は正しいようだった。
色と色が混ざり合っておらず、様々な金属イオンの色が単色で見て取れるのは環境コントロールシステムの不具合によって偏りが生じているためだろう。
そんな異質で不可思議な光景に、内心少しだけ感嘆の気持ちを抱いてしまう。
しかし、この場には観光目的で来ている訳ではない。
「ともかく、調査を始めましょう」
だから、促すように告げたアテラに各々頷き、マグ達は時空間転移システムのコアユニットが最奥に置かれているであろう迷宮遺跡の捜索を始めたのだった。
向学の街・学園都市メイアを出て数十秒後。
装甲車全体に適用した先史兵装【アクセラレーター】の超加速によって、マグ達は東にある未踏破領域の境界に辿り着いていた。
眼前には、時に極限環境となる危険地帯を隔離する巨大な壁が立ち並んでいる。
「……この先はどんな環境なんだ?」
「データによると、この先の区画は強酸の雨が降り続いているようですね」
「きょ、強酸の雨?」
またぞろ特異な状況に、思わず驚きの声が口から漏れる。
「金星みたいな?」
地球の姉妹惑星とも言われるかの星は、その呼称とは裏腹に過酷過ぎる環境だ。
高温、高気圧。その上、大気圏には濃硫酸の雲があり、硫酸の雨が降る。
もっとも気温が四百度を超えている地表には、それ以下の沸点に過ぎない硫酸が届くようなことはないのだが……。
いずれにしても、この広大な宇宙には地球で生活しているだけでは想像だにできない環境が、当たり前のように存在している具体例と言えよう。
たとえば、雨で言うならガラスやダイヤモンドが降る星もあると聞く。
……定義上液体に足を突っ込んでいるガラスはともかく、ダイヤモンドの方は雨と言うよりは雹と言った方が近いような気もするが。
まあ、比喩表現として矢の雨と言ったりもするし、そこは余計な思考だろう。
「……そういう特殊環境を再現する装置でも暴走してるのか?」
少し考えて推測を問い気味に呟く。
以前攻略した、共生の街・自然都市ティフィカ近くの迷宮遺跡のような装置が異常をきたしているのかもしれない。そう考えて
「どうも違うみたいデス。通常の環境コントロールシステムの暴走のようデスね」
「と言うと?」
「諸々の廃棄物を分解して循環させるシステムが異常をきたして、塩酸や硫酸、硝酸、フッ酸といった強酸のみが抽出されて雨の形で放出されているのデス」
「それはまた……」
実際の腐食性の程は分からないが、金も溶かしてしまう王水プラスアルファぐらいに認識しておいた方がよさそうだ。
専用の装備を揃えてこないと踏み入れることすら難しいだろう。
「ちなみに別の区画だと強アルカリの雨が降ってるみたい」
オネットの説明にククラが補足を加える。
強アルカリ性の水溶液と言えば、暴力団が遺体を溶かして証拠隠滅するのに使うといった話も囁かれている危険な液体だ。
生物にとっては、浴びたら強酸よりも恐ろしいことになる場合もある。
「それは確かに未踏破領域になってもおかしくない場所だな……」
今の今まで放置されていたのも理解できる。
ただ足を踏み入れるのみならず、探索するとなれば余程超越現象の相性がいい冒険者でもなければ不可能な話だ。
街総出で耐食性に優れた装備を用意したりすれば奥まで調査することも可能かもしれないが、費用対効果を考えると予算も出しにくいだろう。
確実に成果を得られるか、あるいは、今回のように明確な目的地、目的物が存在するとかでもない限りは。
もっとも、現状時間の猶予もないので準備を整える余裕などないのだが……。
「フィアとおかー様がいれば大丈夫です!」
フィアが幼い外見に似つかわしくない胸部ユニットを強調するように張って言うように、マグ達であれば諸々の懸念は解消される。
「では、行きましょうか」
それこそ普通の雨降りの道を行くような気軽さでアテラが告げたのを合図に、巨大な門をくぐって未踏破領域へと入っていく装甲車。
その車体は全体をフィアのシールドによって覆われ、更にその内側をアテラが同じように作り出したシールドで保護されていた。
ククラと彼女が眠っていた迷宮遺跡によって改良されたアテラの体。
そこには彼女の超越現象に対応できるように様々なギミックが追加され、その中にはフィアを模したシールド発生装置も含まれている。
更にメタから回収した保守の判断軸・隔壁の断片と障壁の断片という二つの力が加わり、アテラはフィア以上の防御力を得るに至っていた。
そのおかげで、降り注ぐ酸の雨は半透明の淡く輝く傘に弾かれるようにマグ達が乗る装甲車を避けて流れ落ちていく。
周りを呑気に観察できるだけの安全性は確保されている状態だ。
「これは……」
「随分と荒れ果てていますね」
「およそ普通の生物が生きていられる環境ではないデスからね」
「いや、それより――」
動物の姿も植物の影もないのは当然として、地面がおよそ地面とは思えないような色の水溜まりで覆われていた。
「金属が溶けてるのか?」
油の虹色のような不自然な鮮やかさとは異なる、かき氷のシロップのような色。
これはイオン化した金属のもののように思える。
「都市鉱山的な廃棄物が地表に集まってる。それが酸の雨で溶け出したみたい」
ククラの解説を聞く限り、マグの推測は正しいようだった。
色と色が混ざり合っておらず、様々な金属イオンの色が単色で見て取れるのは環境コントロールシステムの不具合によって偏りが生じているためだろう。
そんな異質で不可思議な光景に、内心少しだけ感嘆の気持ちを抱いてしまう。
しかし、この場には観光目的で来ている訳ではない。
「ともかく、調査を始めましょう」
だから、促すように告げたアテラに各々頷き、マグ達は時空間転移システムのコアユニットが最奥に置かれているであろう迷宮遺跡の捜索を始めたのだった。
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