EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~

青空顎門

116 敵を騙すには

「おとー様っ!!」

 重力に逆らうような軌道で突っ込んでくる球体。
 それを前にしてフィアのジェネレーターが唸りを上げ、シールドの輝きが増す。
 合わせて発せられた焦燥に塗れた声を受け、マグは先程ドリィにしたようにフィアに対して超越現象PBPを使用した。
 限界を超えた回転速度にフィアの機体は軋むような音を発しているが、マグの力で強制的に万全の状態へと戻されているが故に安定している。
 そこから生み出されている光は、内と外とを完全に切り離そうとしているかの如く実体と見紛う程の力強さを持っていた。
 しかし――。

『無駄だよ』

 光の膜にメタの本体が衝突した瞬間。
 掘削音のような激しい音が連続して場に響き渡った。
 かと思えば、徐々に球体が輝きをかき分けるようにシールド内に侵入してくる。
 内部に入り込んだ部分の表面は淡い光で覆われており、超越現象PBPによる防御が維持されていることが視覚的にも分かる。
 無防備にも見えるが、そこに攻撃をしたとても容易く防がれてしまうだろう。

『これで終わりだ』
「いいえ。まだよ!」

 勝利を宣言しようとするメタに、ドリィはそう叫ぶと全射出口を再展開した。
 彼女は視線で全力照射の合図を送ってくる。
 即座にマグがドリィに対しても復元の力を発動させると、無数のレーザービームライトが間髪容れずに放たれた。
 それらは丁度フィアのシールドと球体の接触面を狙うような軌跡を空間に作る。
 防護壁と防護壁が干渉し合っている部分に更に攻撃を加えることによって、何とかメタの防御を突破しようという考えだろう。
 そして実際に。

『おっと、少し傷がついてしまったね』

 球体のカバーパーツは光線によって僅かに抉り取られていた。
 僅かでも削ることができるのであれば、排斥の判断軸アクシス・消去の断片フラグメントによる攻撃は特性上対象を貫くことが可能だ。
 ただし、あくまでも時間をかければ、の話だが。

『まあ、すぐに塞がってしまうけど』

 故に、メタは何の危機感もなく続けた。
 保守の判断軸アクシス・障壁の断片フラグメント
 保守の判断軸アクシス・隔壁の断片フラグメント
 保守の判断軸アクシス・不壊の断片フラグメント
 フィアのシールドとドリィのレーザーの合わせ技は、間違いなく三つの断片フラグメントによる防御を僅かながら上回った。
 しかし、メタにはそれらに加えて再生の判断軸アクシス・廻天の断片フラグメントがある。
 破壊速度よりも再生速度の方が上回っており、すぐさま元通りになってしまう。

「だったら――」
『また【アクセラレーター】頼りかい? 芸がないことだね。万策尽きたかな?』
「そういうことは、防いでから言うことね!」

 超加速した世界の中ならば、再生速度を超えることができる。
 そう判断したのだろう。しかし……。

「嘘……」

 次の瞬間、愕然としたようにドリィが呟くと光線が途切れてしまった。

『私の電子頭脳なら【アクセラレーター】の超加速に対処できるだけの処理速度ぐらい出すことができる。そうでもなければ、その先史兵装PTアーマメントを見過ごしはしないよ』

 やがて球体は修復された状態でシールドを完全に通り抜け、それから種明かしをするようにメタが告げる。
 先程の一瞬。マグには知覚できなかったが、ドリィが【アクセラレーター】を利用して球体の防御を突破しようとしていたのだろう。
 だが、メタに変化はない。
 彼女が語った通り、超加速は通用しなかったようだ。

『さて。今度こそ理解してくれたかな。君達の抵抗は無意味だということを』

 フィアのシールドの内側で球体が諭すように告げる。
 AIの特性として人間の命を脅かすような真似はしない。
 キリやコスモスを見るに、他のAIを破壊する意思もなさそうだ。
 降伏勧告染みた言葉は、その証明となるだろう。

「くっ……」

 悔しげにメタの球体を睨みつけるドリィ。
 ディスプレイを赤くするアテラを含め、全員同じ感情を共有しているようだ。
 しかし、手詰まりの様相で、マグを庇うように立つこと以上何もできずにいる。

『うん』

 その様子を見て、決着はついたとばかりに頷くような挙動を球体にさせるメタ。
 重力を無視した動きは反重力的な力によるものか。
 一ヶ所に集中してしまった能力の脅威を改めて感じ、マグは奥歯を噛み締めた。

『後は……他の管理者の断片フラグメントを引きはがしてしまうのもいいかもしれないね。時空間転移システムの暴走が空間に対してハッキリと作用し始めた以上、コアユニットの場所は人手がなくとも見つけられるだろうし』

 もはやマグ達に反抗する術はなく、意思も折れたと確信したのだろう。
 メタは無防備に浮かびながら今後の方針を独り言のように呟く。

『ともかく、まずはククラ。君の力を貰おうか』

 それから彼女は、そう言いながらゆっくりと近づいてきた。

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