EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~

青空顎門

085 その迷宮遺跡の正体

「気温が迷宮遺跡に入る前より随分上がっていますね」
「段々と湿度も下がっていってるみたいです」

 アテラに続き、不思議そうに首を傾げながら指摘するフィア。
 日差しが強くなったように感じたのも勘違いではないようだ。

「何か体感、砂漠っぽくなってきたわね」
「さもありなんデス」

 当然と言うような口振りのオネット。
 既に彼女はおおよその状況を把握しているようだ。
 マグ自身も何となく理解しつつあり、それを確認しようと口を開く。

「もしかして、この迷宮遺跡が――」
「お前ら、一体何をしたっ!?」

 しかし、それを遮るように男の咎めるような声が森に響いた。
 仕事は済んだと去っていった案内人のウィードだ。
 異変を感じて戻ってきたのか、彼は物凄い剣幕で迫ってくる。

「…………俺達は、依頼通りに迷宮遺跡を停止させてきただけだ」
「そんな訳があるかっ!! 迷宮遺跡の力でこの地に何かしたんだろう!!」

 マグは正直に答えたにもかかわらず、それを否定した挙句決めつけるウィード。
 彼は一層近づいてくると、マグに掴みかかろうとした。
 しかし、その手はアテラによって逆に掴み取られる。

「旦那様に危害を加えようというのであれば、容赦しません」
「黙れっ! 機械の分際で俺に触れるなっ!!」

 対してウィードは穢らわしいとばかりに振り解いて距離を取る。
 機人たるアテラの力に並の人間が抗えるはずもないので、容赦しないと言いながら彼女は相当加減していたのだろう。
 余りに酷い対応に、そんな配慮をする必要はないと心に怒りが湧く。
 だが、マグも薄々結末に感づきつつあり、憐憫の感情がそれを上回ってもいた。
 だから、それ以上の問答は避ける。

「とにかく、俺達は仕事を果たした。タリアさんに報告したら、帰らせて貰う」
「ふざけるなっ! 依頼主は俺だぞ!」
「違うわ。大元が貴方だったとしても、アタシ達の依頼主は彼女よ」

 不愉快そうに睨みながら、ドリィがピシャリと言い放つ。
 対してウィードは、いっそ憎しみに近いような表情と共に睨みつけてくるが……。

「行こう」

 マグ達は無視して森の出口に向かった。
 彼もそれ以上突っかかってくる気はないらしい。
 黙して語らず、そこから別々に共生の街・自然都市ティフィカへと戻る。
 今度は追従せず装甲車でスピードを出し、マグ達は先んじて拝殿に至った。

「依頼の通り、復旧できる形で停止させました」

 そして待ち構えていたタリアに簡潔に報告する。
 対して彼女は噛み締めるように俯いてから、顔を上げて言葉を発した。

「……そうか。すまぬ。感謝する」
「ただ、復旧には俺の超越現象PBPかそれに類する力が必要です」
「承知した。ウィードとその考えに同調する者達が素直に受け入れるかが問題じゃが……場合によっては相応の時間が必要になるかもしれん。その場合――」
「後日、という形になると?」

 確認するようにアテラが問いかけると、タリアは申し訳なさそうに頷いた。

「そうなる可能性もある。勿論、今回の件はこれで完了じゃ。復旧は妾のわがままに過ぎん。別口の依頼として手続する。時を置かずに済んでも同様じゃ」
「目に見えた影響はどの程度で起こると考えていますか?」
「……あの迷宮遺跡の正体、理解しているようじゃな」
「見ていれば大まかには分かるかと」
「その察しのよさがあ奴らにもあれば……いや、望むべくもないか。そうした視野の広さがあれば、ああも拗らせることはなかったじゃろうしな」
「それで、質問の答えは?」
「そうさな。普通なら、一晩もあれば骨身に染みるとは思うが……」

 アテラとタリアがそうこう話をしていると、拝殿の扉が勢いよく開けられた。
 視線をそちらに向けると、ウィードが肩を怒らせながら入ってくる。

「タリアッ!! こいつらに一体何をさせたっ!?」
「特別なことはしておらん。お主の望み通り、迷宮遺跡を停止させただけじゃ」
「なら、何故急激に気温や湿度が変化した! この数十年、こんな異常は発生しなかったはずだ! こいつらが何かしたとしか考えられないだろうが!」
「……そこで何故紐づけて考えることができぬ。目の前に答えはあるじゃろうに」

 もどかしげに下を向いて嘆くタリアに只ならぬ雰囲気を感じたのか、一瞬気圧されたように一歩後退りするウィード。
 しかし、彼は再び強く出ようとするかのように、眉間にしわを寄せてタリアを睨みつけながら口を大きく開いた。

「何を言って――」
「迷宮遺跡の停止と共に、常に安定していた天候が変化した。ならば、砂漠の只中にあって人間に都合のよいこの環境、迷宮遺跡の仕業と考えるのが当然じゃろう」

 対して、タリアはウィードの言葉を淡々とした口調で遮ると、かの迷宮遺跡の真実を彼に告げたのだった。

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