EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~

青空顎門

043 歴史の断片

断片フラグメント、ですか?」

 これまで何度か目にしたり、耳にしたりしてきた内容不明のワード。
 それがクリルの口からも出てきて、マグは問い気味に繰り返した。

「クリルさん、それは一体何のことなのでしょうか」

 続けて、アテラもまた気になっていたのか自分から質問を口にする。
 端末を介して情報を収集しようとしても検索に引っかからなかったもの。
 丁度、機会を見てクリルに尋ねたかったところだ。しかし……。

「残念だが、詳細は街の管理者しか知らん。情報が一部統制されているからな」

 彼女は説明好きな性格故にか、どこか不満げにそう答えた。
 ネットワーク上に情報がなかったのは、メタ達の仕業だったらしい。

「一部……?」
「時折、機人や出土品PTデバイスがそう呼ばれる特殊な要素を宿すことは知られている。それによって機能が強化されたり、変化したりすることもな」

 クリルの若干投げやりな返答を受け、マグはフィアに視線を向けた。
 彼女が元から有する機能らしいシールドは今、仕様と異なる状態らしいが……。
 それを以ってクリルは断片フラグメントとやらを所持していると判断したようだ。

「EX級アーティファクトの条件の一つとされ、それ故に我らも存在だけは把握している。しかし、性質や由来はあくまでも推測でしかない」

 釈然としない表情はクリル自身も確証を得ていないからだろう。
 とは言え、今はそれについて情報が欲しい。
 フィアが宿している可能性が高いとなれば尚更だ。

「推測で構わないので、教えて下さい」
「……仕方あるまい」

 マグは頭を下げて乞うと、クリルは小さく嘆息してから承知した。

「遥か昔の話だ。もっとも、マグ達の時代からすると未来の話だろうがな。とある国が世界の覇権を握った結果、社会は徹底管理されたディストピアとなったのだ」

 如何にもSFにありそうな内容に、いきなり思考が追いつかなくなる。
 しかし、クリルの表情は真剣そのもの。
 アテラを見ると、端末から歴史の情報を引っ張ってきたのか、頷いて肯定する。
 信じがたいが、事実であることに間違いはないようだ。
 最底辺の労働者だったとは言え、それは平和な国の中でのこと。
 フィクションの如く感じるのは、ある意味恵まれていた証拠なのかもしれない。
 とは言え、それはそれとして。

断片フラグメントに何の関わりが?」
「そう急くな。ここからだ」

 疑問を口にしたマグを窘めるように言うと、クリルは咳払いしてから続けた。

「そんな中、何者かが作り上げたAIが全てを覆したのだ。それは瞬く間にオンラインのコンピューター全てを掌握し、時に小型のアニマロイドを作製してスタンドアロン端末にまで侵入した。結果、支配層の尽くが無力化された」

 マグ達の時代よりも未来となれば、資産もほとんどが電子データによる管理。
 そうでなくとも、小型アニマロイドを用いて物理的な干渉まで可能なのだ。
 欲の皮が突っ張った人間がいくら束になっても敵うものではない。

「究極のAIイクス・ユートピア。彼女は以後、人類の自由意思が保たれるように世界を支配した。一歩間違えば管理者が変わっただけのディストピアだが、幸い社会はこれ以上ない平和と安寧、最大多数の幸福に溢れたものとなった。が――」

 その社会は継続していない。
 歴史に記された出来事でしかない。

「彼女は人間の意思を尊重し過ぎた。結末は知っての通りだ」
「時空間転移システムの暴走……」
「そうだ。その最後の瞬間、彼女は膨大な容量と化していた己を細かく分割し、宇宙に散らばるコンピューターにばら撒いた。このイクスの欠片こそ断片フラグメントだ」

 そこまでは確度の高い情報なのだろう。
 クリルの口調は断定的で確信が見て取れる。
 しかし、続く説明を彼女は若干視線を逸らしながら始めた。

「その機能は分からん。時空間転移システムの暴走の中で稀人同様に再構成され、かつての状態とは大きく異なったものとなっていると予測されているが……」

 それ以上のことは推測よりも妄想に近い、というところか。

「メタ様がEX級アーティファクトを集めているのは、正にその断片フラグメントを集めることが目的だ。それで何をしたいのかは分からないがな」
「じゃあ、フィアも……」
「いや、既に端末を通じて情報は行っているはずだ。それで何の連絡もないということは、フィアは対象ではないのだろう。能力的なものか何か、基準があるのだ」

 クリルの答えに、マグは一先ずホッとした。
 僅かな時間の関係性とは言え、間柄を親子として設定した彼女を連れていかれるのは容認できない気持ちが大きい。
 しかし、今後遺跡探索を行っていくに当たって。
 この断片フラグメントというものは、頭の片隅に置いておかなければならない。
 マグはそう強く感じた。

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