EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~
007 異能
遅れて耳に届いた激しい駆動音は三体目の狼型アニマロイドのものだろう。
まるで最初の二体は単なる小手調べだったかのような速度に、著しく向上した身体能力を以ってしても振り向く猶予は男にはなかった。
訪れるであろう苦痛を想像し、咄嗟に目を瞑ることしかできない。
直後、己の体に衝撃が加わり、金属が噛み合って歪むような音が聞こえてくる。
折角命を繋いだにもかかわらず、またアテラと別離しなければならないのか。
このような訳の分からない状況の中で。
余りに理不尽さに男は悔しさを滲ませる。
…………だが、予想していた痛みは訪れない。
耳に届いた音の様子も何やらおかしい。
そう考えて男は目を開いた。すると――。
「旦那様は……」
視界には、男を抱き締めるようにしてアップになったアテラの顔があった。
眼前のディスプレイには、彼女が己の左前腕を機械の獣の顎門に噛みつかせて抑え込む様が反射によって映し出されている。
「旦那様は、私が守りますっ!!」
直後、アテラは男を庇うように体を入れ替えながら前に進み出て叫んだ。
対する狼型アニマロイドは、首を振って彼女の腕を食い千切ろうとするが……。
太さとしては少女に近い一見華奢な前腕が破壊されるより早く。
アテラは僅かたりとも臆することなく、右の手刀と膝蹴りを同時に放った。
彼女の攻撃は相手の首元を挟み込むような軌道を描き、左前腕に噛みついた頭部だけを残して敵の胴体が地に落ちる。
更に手を緩めずそれを踏み潰し、新たに現れた機械仕かけの狼は完全に沈黙した。
「……一先ず襲撃はやんだようです」
周囲を確認するように見回しながらアテラが言う。
警戒は重要ではある。だが、男にとってそんなことは二の次だった。
鋼鉄の牙によって見るも無残な状態になったアテラの左前腕を目にしては。
表面装甲を砕かれて露出した内部の機構が酷く歪んでいて痛々しい。
「旦那様、お怪我はありませんか?」
そんな状態にありながらアテラは主たる男を気遣う。
「俺のことはいい。それよりもアテラは……」
「……申し訳ありません。これでは旦那様を守るのに差支えが」
尚も主人を第一に考える彼女に、男は表情を苦しみに歪めた。
「すまない。俺を庇って」
破損した部位に両手で触れ、頭を下げる。
「いいえ。それが私の存在意義ですから」
対して首を横に振り、プログラムの範疇を超えた温かな親愛を示すアテラ。
最愛の存在の健気な姿。
それを目にした男は、どうにか破損した部位が元に戻らないものかと願った。
所詮、現実味のない状況故の現実逃避の如き行動に過ぎない。
そのはずだった。しかし――。
「これは…………旦那様が?」
彼女の傷ついた腕は、時が巻き戻ったかの如く新品同然の状態に戻っていた。
理屈は全く分からない。
だが、何らかのエネルギーが己を通り抜けていった感覚が男にはあった。
故に自身がなしたことだとは認識したが……。
「今は……とにかく前に進もう」
この場に留まって考え込んでいても理解が及ぶはずもない。
男とアテラは、周囲を警戒しながら再び道なりに歩き出す以外なかった。
まるで最初の二体は単なる小手調べだったかのような速度に、著しく向上した身体能力を以ってしても振り向く猶予は男にはなかった。
訪れるであろう苦痛を想像し、咄嗟に目を瞑ることしかできない。
直後、己の体に衝撃が加わり、金属が噛み合って歪むような音が聞こえてくる。
折角命を繋いだにもかかわらず、またアテラと別離しなければならないのか。
このような訳の分からない状況の中で。
余りに理不尽さに男は悔しさを滲ませる。
…………だが、予想していた痛みは訪れない。
耳に届いた音の様子も何やらおかしい。
そう考えて男は目を開いた。すると――。
「旦那様は……」
視界には、男を抱き締めるようにしてアップになったアテラの顔があった。
眼前のディスプレイには、彼女が己の左前腕を機械の獣の顎門に噛みつかせて抑え込む様が反射によって映し出されている。
「旦那様は、私が守りますっ!!」
直後、アテラは男を庇うように体を入れ替えながら前に進み出て叫んだ。
対する狼型アニマロイドは、首を振って彼女の腕を食い千切ろうとするが……。
太さとしては少女に近い一見華奢な前腕が破壊されるより早く。
アテラは僅かたりとも臆することなく、右の手刀と膝蹴りを同時に放った。
彼女の攻撃は相手の首元を挟み込むような軌道を描き、左前腕に噛みついた頭部だけを残して敵の胴体が地に落ちる。
更に手を緩めずそれを踏み潰し、新たに現れた機械仕かけの狼は完全に沈黙した。
「……一先ず襲撃はやんだようです」
周囲を確認するように見回しながらアテラが言う。
警戒は重要ではある。だが、男にとってそんなことは二の次だった。
鋼鉄の牙によって見るも無残な状態になったアテラの左前腕を目にしては。
表面装甲を砕かれて露出した内部の機構が酷く歪んでいて痛々しい。
「旦那様、お怪我はありませんか?」
そんな状態にありながらアテラは主たる男を気遣う。
「俺のことはいい。それよりもアテラは……」
「……申し訳ありません。これでは旦那様を守るのに差支えが」
尚も主人を第一に考える彼女に、男は表情を苦しみに歪めた。
「すまない。俺を庇って」
破損した部位に両手で触れ、頭を下げる。
「いいえ。それが私の存在意義ですから」
対して首を横に振り、プログラムの範疇を超えた温かな親愛を示すアテラ。
最愛の存在の健気な姿。
それを目にした男は、どうにか破損した部位が元に戻らないものかと願った。
所詮、現実味のない状況故の現実逃避の如き行動に過ぎない。
そのはずだった。しかし――。
「これは…………旦那様が?」
彼女の傷ついた腕は、時が巻き戻ったかの如く新品同然の状態に戻っていた。
理屈は全く分からない。
だが、何らかのエネルギーが己を通り抜けていった感覚が男にはあった。
故に自身がなしたことだとは認識したが……。
「今は……とにかく前に進もう」
この場に留まって考え込んでいても理解が及ぶはずもない。
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