勇者として神からもらった武器が傘だった俺は一人追い出された。えっ?なにこの傘軽く見積もって最高じゃん

ノベルバユーザー521142

城からの追放。そこで出会ったのは……

 黙って兵士の後ろをついて行くと城と街を繋ぐ橋のところまで案内される。
 城のまわりには堀があり、城への入口は制限されているようだ。

 入口には兵士が立っており案内に来た少年兵士に敬礼をしている。
 若いようだが階級は上なのだろうか。

「ここからはもう好きにしていいぞ。どこへでも行けとのことだ。ただ下手なことは考えない方がいい。お前を殺すくらいこの城の兵士であれば誰もでもできるからな」
「いやなんの説明もなしかよ!」

 少年兵はそのまま振り返りもせずに城の中へ戻っていった。
 せめて路銀とか何かくれたりしてもいいじゃないか。
 こんな状態でどこへ行こう。

 折れた傘を杖がわりにして、行くあてなんてもちろんないが広い通りを選んで歩く。
 狭い道に入って襲われたらナイフや剣相手に太刀打ちする自信なんてない。

 田舎からでて初めて都会を歩いた時のことを思い出す。
 あの時は渋谷の地下からでることができず1時間さ迷い歩いた覚えがある。

 駅員さんに声をかけるのが恥ずかしくて自力で解決しようとしたがどうしようもできなかった。今の状況はそれ以上に悪い。

 さて、どうしたものか適当に歩いてきたが大きな公園のような場所があったので近くにあったベンチに座り少し休憩をする。

 まずはこの国のお金を稼がなければいけない。
 寝る場所も確保しなければいけないし、食料も必要だ。

 異世界のチート能力はまったく身に覚えがないのでまずは自分でできることからやっていくしかない。

「はぁ。これからどうするか……」
 思わず口から愚痴がこぼれる。

「テル様、本当にごめんなさい」
「ん?」

 声の方を見るとそこには一人の女性が目深にフードをくかぶり俺に頭を下げていた。
 この世界で俺の名前を知っているのは……。

「もしかして、タニ……」
「しーその名前はここではださないで頂けると助かります」

 まわりを警戒しているのかキョロキョロをあたりを見回す。

「ごめん。どうしてここが?」
「オルガ大臣のやりそうなことはだいたい予想ができたので後をつけさせて頂きました。大臣は明日には自分からでて行ったとでも私に言うつもりだったのでしょうが、私だってバカではありません。テル様こちらを」

 タニア姫が持っていたのは短刀と、マント、それに大きな麻袋だった。

「本当は魔物と戦う時は長剣の方が良かったかも知れませんが、使い慣れていない場合、怪我の素になりますのでこちらの短剣を準備しました。こちらは短くてもかなり切れ味のいい業物ですので取り扱いには気をつけてください。妖精と友達になれる剣らしいので売らないでくださいね。そしてこちらは簡易のマントです。夜はかなり冷え込みますのでこれには断熱、断冷の魔法がかかっていますので役に立つと思います。それとこちらは旅に必要な最低限の道具です」

「ありがとう。でも、大丈夫なの? 俺のことを助けたことで何か不利益をこうむるんじゃないの?」
「大丈夫ですよ。今さら、かわりはしません。それよりもテル様、勝手に召喚しておいてこんなことしかできずに申し訳ありません」

「いや、何もないよりは全然いいですよ。こちらこ助かりました。ちょっと質問なんですが今後俺はどうするのがいいと思いますか?」

 大臣に着の身着のまま追い出されるより、基本装備を支給してもらえるだけでもすごくありがたかった。
 本当なら怒らなければいけないところなのかも知れないが、タニア姫はずっと俺に気を使ってくれていたり、わざわざ追って城の外まできてくれただけでもありがたい。

 それに……可愛すぎて俺にはこんな子に文句を言える勇気はない。だっていまだに直視できないんだから。

「本当にごめんなさい。まずは冒険者ギルドへ行き冒険者登録をおこなった方がいいと思います。冒険者登録は誰でもできますが、冒険者ギルドから発行される証明書は身分証のような役割をします。犯罪歴などの照会がギルドではされるので持っていることで国や街への出入りがしやすくなります。冒険者様はこういった異世界の話を小さい頃から聞いて育つと聞いています。これからこの世界で何かしたいなどはありますか?」

「何をしたいって言っても情報が少なすぎるからなー。しいて言えば最初は安全なところで生活したいかな。そのあとどうするかを決めるよ」

 今の俺が短剣を装備したくらいで急に何か変わるとは思えない。
 できれば安全なところで引きこもってしまいたい気分になっている。
 もちろん、余裕ができれば旅とか産業革命とか、異世界の記憶でチート生活みたいなのもしてみたい。

「安全なところですか。そうなると、この辺りではロミスタの村がよろしいかと思います。あそこの村は港町で海鮮が美味しく、村のまわりにでる魔物はこの辺りとは違いかなり弱い魔物しかでない地域ですので。そのかわり……強い魔物はいないので冒険者としてお金を稼ぐのは大変ですが命が一番大事ですからね」

「そうだね。本当に命は大事。わかった。ロミスタね。その村にはどうやって行けばいいの?」

「村への行き方は、私はいつも自家用の馬車なのでわかりませんが、冒険者ギルドで教えてもらえると思います。それと、これ少ないですが路銀に使ってください」

 タニア姫がくれたのはこの国のお金だった。ペトというのがこの国の通過単位でありコインの大きさで1ペトコインから10万ペトコインまであるらしい。
 話の感じだとこっちの物価の方が日本よりは少し安いイメージがあった。

 全部で50万ペトを俺に渡してくれ、これだけあればおよそ2〜3ヶ月は生活できるだろうということだった。

 その後、冒険者ギルドまでの道を教わり本当はもっと一緒にいたかったが、俺と一緒にいることが誰かにばれてしまったらタニア姫にとって良くないことになりそうだったのでギルドの近くでわかれた。

 タニア姫は最後に俺の手を握り泣きながら謝ってくれた。

「本当にごめんなさい。この国の勝手に巻き込んでしまったのにこんなことしかできなくて。今は魔王だけではなくてこの国の内部も不安定な時期で私も下手に動くことができないんです。せめて、テル様が安全に村へ行けることを祈っています」

「何から何までありがとうございます。助けてもらえなければきっと路頭に迷って死んでいた可能性もあります。こっちに呼ばれたことは恨んでいますが、タ……あなたの立場上の判断も理解できます。それにこんなに良くしてもらったらあなたのことは恨めませんよ。むしろ色々準備ありがとうございます。いつか……いつになるかはわかりませんがこの恩は返しますので」

「恩だなんて気にしないでください。せっかくなのでこの世界を楽しんでください。魔王の方はこちらでなんとかしますので。どうか道中お気を付けて」

「あなたも。お元気で! またいつか会いましょう」

 タニア姫は悲しそうな笑顔を俺に向け、そのまま何も言わずに手を振ってくれた。
 この時俺は知らなかったがタニア姫のあの悲しそうな顔はこの後におこる悲劇をある程度予想していたのだろう。

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