勇者として神からもらった武器が傘だった俺は一人追い出された。えっ?なにこの傘軽く見積もって最高じゃん

ノベルバユーザー521142

異世界勇者召喚の儀式

 車の中で意識を失ったと思ったら俺は知らない石造りの部屋の中にいた。
 軽く、地面を叩いてみる。うん。なかなかいい石を使っている。

 最近流行の大理石風のシールとかではないようだ。
 俺は石畳の部屋の中に座っており、魔法陣だろうか?

 俺を中心に円がいくつも描かれ見慣れない文字が書かれている。
 最近の病院はこんな演出をしてくれる楽しい場所になったのか、なんて現実逃避をしたくなるが、目の前には偉そうなおっさんがいて嫌でも俺を現実へと引きもどす。

「無事に召喚ができたようだな」
「もちろんですオルガ大臣。今度こそ期待にこたえてみせます」

 オルガ大臣と呼ばれた男は高そうな装飾品を身につけ、立派な髭を生やしたおっさんで俺の方を品定めするような目つきで見てきていた。なんとも気分を害するような目つきで、少なくとも友達にはなれそうにないタイプだ。

 その横には黒いローブを着た、『ザッ魔法使い』って感じのおっさんがへこへこと頭を下げている。これは異世界転生ってやつだろうか。

「えっとここはどこ?」
「勇者様、女神様の導きにより、よくいらっしゃいました。我が国、ボルテガルドを代表して感謝を申し上げます」

 そこには金髪のロングヘア―がよく似合う女性が立っていた。髪はさらさらとしており、頭には天使の輪が見える。着ている服、優雅な佇まいからも、それなりの地位にある人なのだろう。すごく優しい笑顔で俺を見てくるが……美人すぎて直視できない。

 年齢としては15歳前後だろうか。顔が小さくアイドルになってもおかしくないほど可愛い。この世界にアイドルがいるのかは知らないが。

 女性に免疫がないわけではないがこんなきれいな人にまっすぐ見つめられてしまうとドキドキしてしてしまい、つい目をそらしてしまう。

「現状がよくわからないんだけど、説明してもらえますか?」
「はい。すべてへ100年前までさかのぼります」

 予想外に、いきなり100年前からだった。
 結構壮大な話のようだ。

 先にトイレ休憩行ってきた方がいいだろうか。
 そんな関係ないことを考えていたが、その女性は俺にすごく丁寧に説明してくれた。

 話が非常に長かったので詳しくは割愛するが、どうやら異世界に魔王が復活するという予言があったそうだ。しかも、それはそう遠くない未来に。

 他にも色々言っていたが、いきなり連れてこられて100年前のこの国の建国や魔法使いの冒険譚など、結論がなんなのかわからず途中で飽きてしまった。

 ただ、結論としてはこの国の王が、かつて魔王を倒したと言われる異世界の勇者を召喚し俺が選ばれたということだった。まさか、こんな急に異世界に転生されるなんて夢にも思わなかった。

 あの時の頭の痛みで俺は死んだのだろうか?

 でも、普通異世界ものではチート能力があるのが普通だが、俺は特に何ももらった覚えがない。変な部屋とかも通らずにここに召喚された。

「ところで勇者様、勇者様はどんな武器で魔王と戦う予定でしょうか? 勇者様の武器次第で今後の戦略が大きく変わってきてしまうもので」

 武器と言われても何も持ってはいない。あるはずはないが服のポケットの上から叩くが、財布と携帯、鍵それに手に持った傘くらいしかなかった。

 なにかすごいことを言わなければいけないような、そんな期待された視線に思わず目をそむける。なんだあの女の子可愛すぎだろ。見ただけで目線をさけてしまう可愛さって異常だ。

「てっ……手元には傘しかないかな」
「傘……ですか。それはどのような武器なのでしょうか?」

 どんな武器って聞かれても俺にも困る。
 それにもし傘を武器にするななんて女神様アホなの?

「ギャハハ……姫様、そいつはハズレだよ。ハズレ。傘は武器じゃなくて雨の日に使う道具」

 そこには俺のことを盛大に笑っている黒髪の男がいた。
 その男はいわゆるイケメンと呼ばれる部類で立派な鎧を身につけ腹を抱えて笑っている。

「残念だったな。傘男くん」
「誰が傘男だよ。俺の名前は楠木テルだ。そんな笑ってるけどお前はいったい何の武器だったんだよ」

「お前じゃない。俺の名前はナオキだ。見てわからないのか? 俺は正当なる剣の勇者だよ。お前みたいなネタ要員とは違うんだよ」

 誰がネタ要員だ。と怒鳴ってやりたいが実際に手に持っているのは傘しかないのでなにも言えない。いや、待てまだ傘が武器だとは決まったわけではない。

 もしかしたら財布とかスマホとか鍵とか何か武器になるかも知れない。
 ってどれも武器になってもリーチの差がある。

 鍵が武器になっても殴り付ける前に剣で切られて終わってしまう。

「本当に勇者は転生した時に始めから武器を持っているのか?」
「そうだよ。楠木君。僕は弓の勇者ノボル。よろしくね」

「ノボル。そんな傘男と仲良くする必要はない。もう傘男君は終わり。はいお疲れ様でした。もう帰っていいよ」
「ノボルくん他にも勇者っているのかい?」

「いいよ。ノボルって呼び捨てで。他にも過去に何人かいたようだけど、戦えない勇者はいても意味がないからね」
「俺のことはテルって呼んでくれ。殺されたとかってことか?」

 傘を握る手に力が入る。まわりを見渡すと部屋の中に兵士が数名いる。この人数相手に逃げきるなんてことはできそうもない。でも、もし異世界へ連れてこられて速攻でバットエンディングならなんとか逃げるしかない。

「いや、殺されるとかはないよ。そんな理不尽じゃない。みんな自由に生きているって話しだよ」

 ノボルは嬉しそうな笑みを浮かべている。なぜだろう。その笑みはまるで仮面のように作られたもののようですごく気持ち悪かった。

「傘の勇者よ。話の途中で悪いがその傘という武器を私に見せてもらえるだろうか?」
 大臣と呼ばれた男が俺の傘を渡すようにと手をだしてくる。

 別に普通の傘だ。ちょっと値段のはる24本の風に強いタイプという以外珍しいものでもない。

「どうぞ」

 俺は大臣に傘を渡すと、大臣は手に持って傘の材質などを確認している。この世界では傘は珍しいようだ。

「おいっ」

 大臣が声をかけ、近くにいた屈強な兵士に俺の傘を渡す。兵士は俺の方を見てニヤリと笑うと傘を膝にあてる。

「ほへっ?」

 そんなことしないよね? もしかして馬鹿なの?
 そう思った次の瞬間!

 『バキッ』という嫌な音と共に傘が真っ二つに折れてしまった。

 こいつら常識ないのか。
 どうやら異世界の住民というのはアタオカな奴らばかりらしい。

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