猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです。外伝
猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです。外伝
俺の名前は岡田修。高校三年生の17歳。
俺の事は。『おっちゃん』と呼んでもらえるとうれしい。
ひょんなことから、猫耳と尻尾の生えた子供たち保護してしまった、いたって普通の高校生だ。
実は俺には霊感がある。幽霊をぼんやりと視認できる程度でしかないが、それでも確かに霊感はある。
そして、俺は、幽霊を引き寄せて体内に取り込んでしまうという、厄介な体質を持ち合わせていた。
さらには、武器である藁人形を使った呪いによって、俺が死んでも生き返ることができるチート仕様。まさに俺は無敵!
だけど、今回の話には、そんなこんなのホラー要素は全く関係ない。
そんないたって普通の高校生の、いたって普通の、自宅での話。
☆
「ただいま。」
俺が玄関からアパート、大山荘の101号室に入ってくると、『三人の子猫』が俺のところに走り寄ってきた。
「にいちゃん、おかえりなさい!」
まっさきに俺の胸に飛び込んできたのは、ティモ。元々は、茶色とオレンジの虎猫だ。
今は髪の毛と尻尾に、その名残がある。オレンジ色と茶色の虎模様の髪だ。
どういう風に染めたら、そういう風になるんだろうな。
オス猫で、まだ生後一か月だが、人間の姿になると、8歳くらいの幼い少年だ。
とある事情によって、子猫の姿から人間に化けている。必死に言葉を教えたかいがあった。頭はいいんだけど、やはり8歳児と同じく、好奇心が旺盛でその辺のものをよくぶちまけてしまう、天然のおっちょこちょいである。かわいいからゆるす。
黄色い瞳をしている。
まだひらがなは読めないから、それはおいおい教えていくことにしている。
「………おかえり、なさい。………修さん。」
この子は、クロ。元々は黒猫のメス。人間の姿になると、光を反射するほどきれいな黒髪だ。きれいだからいつも撫でまわして遊んでる。
臆病なので、いっつも誰か(おもに俺)の服の裾を引っ張りながら歩く子だ。かわいい。
瞳の色は青い。
「おっちゃーん。今日は早かったねー。部活は休みだったのー?」
そして、この子は問題児のタマ。元々は白猫のメス。ボリュームのある銀色の髪を持ち、どこかのお嬢様のような雰囲気を出しているが、ただの悪ガキだ。俺に気付かれないように、スリを繰り返しては何も盗らずに元に戻す。つまり、スリルを楽しむためだけの理由でスリをする困った子だ。しかも頭がいい。言葉もひらがなも、俺が何も言わなくても勝手に覚えた。
手のかからないけど、手のかかる子だ。
右目が水色で、左目が黄色のオッドアイだ。実は右耳が、ほんの少しだけ聞こえが悪いらしい。あまり気にならない程度だから、普段は気にしない。
「うん。なんか今日、体育館の工事があるみたい。だから、今日だけは早く帰ってこれた。」
タマの頭に手を乗せ、猫耳と頭を盛大にぐりぐりといじる。タマは気持ちよさそうに目を閉じた。かわいい。
「にいちゃん、このあいだね、スカイ君がぼくに、『おっちゃんが帰ってくるのが遅いなら、お前が料理を作ればいい』って言ってたの」
俺に抱き着いてくるティモ坊を抱き上げると、ティモ坊がそんなことを言った。
スカイくん、とはティモたちが通っている小学校のクラスメイトで、宇宙人のクォーター。上段澄海君だ。現在小学4年生。
澄海くんのお母さんが、霊媒詐欺師をしているらしく、俺はその上段礼子さん(23歳)の一番弟子として、幽霊退治にいそしんでいたりする。
はっきり言って、俺なんかわき役だ。
「え………でも、猫に料理とか無理だろ。それに、お前らまだ小さいし、見た目8歳児、実際0歳児のお前らに、火を任せて包丁なんか持たせたら大変なことになることは間違いないだろ。」
「そーだよー。だから私は止めたんだよー? だけどー、ティモちゃんがどーしてもおっちゃんのために料理をしたいんだってー。」
やばい、うるっときた。
「なんやおまえらかわいいのう。さすがにお前たちに任せるのはアレだから、一応おっちゃんが後ろについて、フォローできるようにしとくから。一緒に晩御飯を作るか。」
「やったぁ! にいちゃんだいすき!」
「おっちゃんもティモ坊が大好きだ!」
もちろん、俺は全員が大好きです。これがハーレムでしょうか。わかりません。
俺が猫たちを溺愛しているように、猫たちも俺の事が大好きでいてくれる。この幸せは誰にもやらん。俺だけのものだ。
「といっても、おっちゃんかて料理ができるわけでもないからなぁ。猫のお前らにヘタなもん食べさせられないし………いつもコンビニ弁当だし………」
「おっちゃーん、私たちねー。人になっている間はー。人間の食べ物を食べても大丈夫なんだってー。イスルギさんが教えてくれたよー。」
イスルギ、とは。俺が住んでいるアパートの大家さん。大山石動さんのことだ。猫たちを擬人化させた張本人。謎すぎる。
「あ、そうなの? だったらこれからはあまり食事に気を遣わなくて済むね。」
「ただー、食べた後にすぐ猫になるとー、消化不良を起こすんだって~。」
む、それはそれで課題が増えたな。しばらく消化できるまでは猫化は避けた方がいいんだろう。
「わかった。だったら玉ねぎが大丈夫となると、一気に料理のバリエーションが増えるね。おっちゃんは栄養計算はできても、料理はあまり作らないから、おっちゃんの腕にはあまり期待はしないように。」
「修さんなら………大丈夫、だよ。」
うーん。クロが俺を信頼してくれているからこそのセリフなんだろうが、プレッシャーがかかるな。まぁなんとかなるか。
「みんなで作れる簡単なものからやってみるか。玉ねぎがオッケーとなると、カレーやんな。」
「かれー?」
ティモ坊が首を捻る。
「そ。カレー。そのくらいなら、おっちゃんも作れるし、教えることもできるからさ。」
「じゃー、まずはお買いものだねー。おっちゃん、何を買ってきたらいいのー?」
「まてまて。タマに行かせたら犯罪になりそうや。みんなで行くぞ。」
☆
「結局、こうなるのか。」
俺は呆れたため息をついた。子供と買物に行こうものなら、こうなることはわかっていた。しかたないだろう。
「おっちゃーん。これも入れていーい?」
「にいちゃんにいちゃん! あっちにおもちゃがあったよ!」
まぁ、わかってたけどね。好奇心旺盛な子猫と人間の8歳児を足したような子だ。興奮するのもしかたないことだ。
「ダーメ。今回はお夕飯を買いに来たの。無駄な買い物すると、お前ら三人を養っていけるだけの財力がないおっちゃんには破産の道しか存在しないからね。」
「うー、にいちゃんのケチー!」
「ケチらないと、明日の生活が苦しくなるんや、我慢せい。」
「うぅ………。」
「泣かない泣かない。300円までなら許してあげるから。」
「本当!?」
「うん。本当。せやからほら、一緒にお菓子のコーナーに行こうか。」
「やったぁ!」
おもちゃなんて買ったら一瞬で飽きるに決まっている。そんなお金と家のスペースを引き換えにおもちゃを買うより、お菓子を買ってお金だけ減る方がいい。
ま、俺も鬼になりきれないから、こうやって300円まで許しちゃうんだけどさ。
「ほら、クロも。遠慮なんかしないでいいから、ティモ坊やタマと一緒にお菓子を選んできなさい。」
俺の服の裾を掴んで、離れないようにしていたクロにも言ってあげた。
「でも………おかね………」
うん、学生のバイト程度では生活できるわけがない。クロは心配してくれている。やさしくてかわいいね。
「いいの。今日はみんなが俺のために何かをしてくれようとしたんでしょ? だったら今日くらいお祝いしても罰はあたらないよ。」
俺がそういうと、クロは顔をぱぁっと明るくした。この子の笑顔、プライスレス。
明日からお弁当を空っぽの状態で持って行って、別のクラスの人から少しずつ分けてもらおう。貧乏青春弁当だ。
☆
さて、必要なものは買ったし、さっそく調理を開始するか。
「ティモ坊、包丁の持ち方はこう。左手は丸めて。」
「うー、きりにくいよー。」
「しょうがない。そうしないと、間違って指を切り落としちゃうからね。」
「ひゃあ! りょうりっていのちがけなんだね!」
「うわぁ! ティモ坊! 包丁をこっちに向けないで!」
子供に料理を教えるのも大変だ。
「タマは玉ねぎの皮を剥いて。クロはジャガイモの皮を洗いながらピーラーで、こういう風に剥いていってね。」
クロに実演しながら、手本をみせる。クロにピーラーとジャガイモを手渡す。
「おっちゃーん、玉ねぎって、どこまでが皮なのー?」
「あれ、目を離したすきに玉ねぎがどんどん小さくなっていく………」
まだ十分使える大きさだからいいか。
「えっと、乾いた茶色の部分だけでよかったかな。間違って捨ててしまった分も回収して、そこは洗っておっちゃんが切っといてあげる。ティモ坊の方に玉ねぎを置いて。」
「はーい。」
「ティモ坊、根っこの部分を切り落として」
「う、うん。」
緊張した様子で包丁を握るティモ。危なっかしい手つきだけど、根っこを切り落とす
「根っこを切り落としたから、ほら、固定しやすくなった。それを上から半分に切る」
「………えい!」
ちょっと斜めになったけど、十分だろう。
「そして、玉ねぎの根っこの芯があるから、それを、………ちょっと包丁かして。」
ティモから包丁を受け取って、玉ねぎに切り込みを入れて、芯をえぐり出した。
「切り込みを入れて、押し上げると芯が取れるから、やってみて。」
「うん………」
半分に切ったもう一つの玉ねぎの芯を取り出す。
「よし、えらいぞ。」
「あの………修さん………これ。」
クロがジャガイモの皮を剥き終わったみたいだ。ここじゃ邪魔になるな。
「クロ、そっちの畳の部屋のまな板においてくれるか? タマはクロが置いたジャガイモを、半分に切った後、一口大に切ってもらっていい? クロは、次はニンジンの皮を剥いてちょうだい。」
続けざまに指示を出すのも大変だ。
家のスペースがないから、食事スペースをすこし浸食しているけど、大所帯で料理するのであればしかたがない。タマには食事スペースでちゃぶ台とは別の、ちょっと物置と化しているテーブルでジャガイモを切ってもらう
まな板と包丁が落っこちたら大惨事だな。タマなら心配いらないか。
「ティモ坊、次はそれをまな板に倒して半分に切る。」
「こう?」
「いや、そっち向きじゃなくて、横に。こう。そしたら、少しづつでいいから、切ってみて。あ、ほら手がまた戻ってる。指切っちゃうよ。」
「切りにくいよう………」
「うん、それでだんだん短くなってきたら、玉ねぎの向きを変えたり倒したりしながら、切ってみようか。」
えっと、次はタマの方っと。
「これでいいのー?」
「なんと! 完璧や………非の打ちどころがないやん」
ジャガイモを半分に切って、固定しやすくなったところでまた半分に。そこからまとめて一口大に切り分けている。この子はやっぱり一番の天才で問題児だな。
「クロ。ニンジンの皮を剥き終わったら次はクロが包丁握ってみるか?」
「こ、こわいよ………」
「大丈夫。おっちゃんがついてるから。」
最初に固定しやすいように、俺が半分にニンジンを切ってから、クロも問題なくニンジンを切って見せた。
やっぱり、みんな覚えるのが早いな。
「にいちゃーん………」
ティモ坊から、悲しげな声が聞こえてきた
「あら、しみる?」
「うん………めがいたい………しぱしぱする………。」
しぱしぱってなんだろう。子供の表現にはついていけない。だけど、まぁしみるのだろう。俺も玉ねぎを切ったら涙くらいでる。
ティモ坊は、すこし太いけど、きちんと玉ねぎを切っていた
えらいのでめちゃくちゃ頭をなでて褒めておいた。
ニンジンやジャガイモなどをゆでている間に、玉ねぎとお肉を炒める。こればっかりはまだ猫たちには任せられないので、俺がやった。
肉と玉ねぎがいい色になったら、ジャガイモをゆでている鍋にダイブさせ、ジャガイモが柔らかくなるまで煮続ける。
うーん、これじゃ普通のカレーだな。なんか隠し味に和風だしとか入れてみるか。
コンソメは………さすがに合わないだろう。入れる家もあるかもしれないが、今は試すときではないし、和風だしをぶっこんでおいた。
ジャガイモが柔らかくなったら、ルーを入れて完成か。
「洗い物なんかは後でいっか。みんな、食べる準備を始めよう!」
☆
「「「「いただきます」」」」
手を合わせて、みんなでいただく。少々熱くて猫舌には厳しいかもしれないが、必死に息を吹きかける姿に、食べる前に口元が綻んでしまった。
「んーっ! おいしー!」
「………おいしい」
「本当だねー。これは猫のままだったら食べられないよー。おっちゃーん、今日は本当にありがとー。」
いつもはコンビニ弁当や猫缶だもんね。このアパートで料理を作ったことなんてほとんどないし。
「いやいや、礼を言うのは俺の方だよ。おっちゃんかて、こんなおいしいカレーを食べたのは初めてや。みんな、自分で料理を作ってみて、どやった?」
「うーん、たいへんだよ。でも、ぼくはにいちゃんにほめてもらいたいから、がんばってりょうりをおぼえる!」
味の方を聞いたつもりだったけど、ティモがそういうから、訂正はしない。
このカレーは正真正銘、みんなが俺のために作ってくれた最初のカレーなんだ。おいしくないわけがない。
「自分で作ったからかなー。味以上においしいと感じるよー。おっちゃーん、おいしー?」
そんなことを自分で分析する天才も、俺のためにカレーを作ってくれた。
「もちろん。これをおいしくないなんて言うやつはバカや。死んだ方がええ。そげんことを言うやつがおったら、おっちゃんがぶっ殺したる。」
「えへへー。ありがとー。おっちゃーん。はい、あーん。」
タマが恥ずかしさをごまかすように、自分の皿のカレーをスプーンですくって、俺の目の前に持ってくる。
みんなが俺の事を大好きだという気持ちのこもったカレー。やばい、泣きそうだ。
「あむ………………うまい。ありがとう」
タマの頭をなでまわす。かわいい。
「クロも、ありがとう。わざわざおっちゃんのためにしてくれて。」
「そ、そんな………修さんにせわになってるのは、わたしたち、だから………。修さんのやくに………たちたいだけ、だよ。」
ああもうかわいい。俺はクロを抱きしめる。
「ありがとう。おっちゃんは幸せもんや。友達いないけど、お前たちがいるだけで、こんなに幸せな気持ちになれるんだから。」
一応、食事中だからすぐに離れる。クロが名残惜しそうに俺の服の裾を掴んだ。かわいい。
あとでティモも抱きしめよう。
「ずるいー! ぼくもー!」
とおもったら、ティモ坊が思いっきり飛び込んできた。
「おおっと! そんなに勢いよく飛び込んだら――――」
――――ゴン!
―――その拍子に、せっかく作ったカレー(俺の分のみ)が、ちゃぶ台からひっくり返り、俺の脚にふりそそぐ
「やばっ!」
クロとタマは、自分たちの分とティモの分は手に持って非難させていやがった。クロは一応俺の皿も非難させようとしたんだろうけど、間に合わなかったみたいだ
「うにゃ! あづ! あっつぁあああああああああああああ!!!!!」
必死こいてティモ坊には当たらないように身をよじったけど、これはやばいって!
「わぁああああ! にいちゃんごめぇえええええん!」
「お、おっちゃーん! クロちゃん、早く拭くものを持って来てー!」
「う、うん………! わかった………!」
熱い熱い熱い! やばい焼け死ぬ! 足が! ほわあああああああああああああああああああ!
―――ゴンッ!
あ、れ? 熱さから逃れるために、悶えていたら、頭になにかが当たった。
これは………テーブルの脚だ。上にあるのは………後で洗おうとしていたまな板と、包丁だ………
つまり――――
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
スローモーションのように、ゆっくりと目の前に包丁が迫ってくる。その刹那。
走馬灯のように考えが巡る。割と残念な俺の過去。さようなら、現世。
俺の頭に浮かんだのは、今度から片付けは気が付いたときに最後までしっかりしよう、という後悔と
ティモ坊に、すぐに抱き着く癖をなおすように説教すること。
死ぬ前に、童貞くらいは卒業しておきたかった……………。
そこまで考えた俺は、意識を手放した。
これが、割と残念な5回目の死亡事故である。
藁人形を生贄にして生き返ったけどね。
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