猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第78話 ★夏休み。パパが帰ってきた。



「明日から夏休みだ。みんな、羽目を外しすぎないようにな。それじゃ、解散!」




「きりーつ、しせー。れーい。」


「「「「 さよーならー! 」」」」




 里澄の号令で礼をする。


 終業式が午前中に終わって、明日から夏休みだ。
 夏休みの宿題とかは、もらってからすぐに取り掛かったため、7月中に終わりそうだ。


 いつも8月は思いっきり暇になってしまう。


 でも、今年は違う。




「えへへ! スカイくん、かえろー?」


「………うざい」


「かえろー?」


「………うざい。」


「かえろーよー」


「………。」


 ため息を一つ。


 ティモが僕の腕を引っ張って椅子から立たせる。


 夏休み中、猫たちは僕の家に住むことになった。
 休みが続くなら、ずっとウチで修業するらしい。




「………。」


 もう一つため息
 ため息の理由はいっぱいある。




「おい澄海、おれっちと肝試しに行こうぜ」


「澄海くん………夏休み中、澄海くんの家に遊びに行っちゃ、ダメかな………?」




 クラスメイトみんなが、平医院に行くあの心霊番組を見ていて、さらには僕と猫たちに霊感があることを知ってしまった。


 クラス全体が、今まさにオカルトブームなんだ。


 霊媒詐欺師をしてるママのせいで、僕までクラスでもてはやされることになってしまった。
 夏休みは忙しくなりそうだ。




「………断る。」




 けど、一応全部断った。
 面倒だからね。




「そこをなんとか!」


 でもそこで食い下がるから、僕もこれ以上言えない。
 NO! と言える宇宙人なのに、NOといっても意味がないのだ。




 ま、そんなこんなで夏休みが始まったというわけ。






                  ☆






「なー澄海よー。」


「………なに。」


「お前さー、猫たちの中で誰がタイプなん?」


「……………?」




 おっちゃんと二人麻雀していたら、おっちゃんが僕にそんなことを聞いてきた
 タイプ? 好きな子ってことか?


「………んー。誰がタイプかと言われても………」


 タマは頭がいいしおっとりしているけど一途でいざというときに頼りになる。
 クロは運動神経がいいし臆病なところもあるけど、決断力がある。
 ティモは天真爛漫だけど言い方を変えればアホ。人を笑顔に変える力がある。


 うーん、難しい。


 あれ? なんでティモが候補に入っているんだ?


「………三人ともルックスはいいもんね。」
「やろ? 誰か好きな子とかおらんのん?」
「………いない、と思う。猫たちの中で一番接点があるのがクロってところかな。」
「クロちゃんか。そういや、修行の時は澄海がクロちゃんの面倒をみてくれてるもんね」
「………(こくり)」


 そうなのだ。
 修行をするとき、タマはママと。クロは僕と。ティモはおっちゃんとペアを組んで修行をしている。


 だから必然的に僕はクロと接する機会が多くなる。


 だからといって、クロを好きなのかと聞かれると首を捻るしかない。




「………というか、なんで聞いたの」
「いやなんとなく? 修学旅行みたいなノリで。」


「………はぁ。そもそも、猫たちは全員おっちゃんが大好きなんでしょ。聞いても意味ないじゃん。」
「せやな。ロン。5200」




 点棒をおっちゃんに手渡す。




 この場に僕たち以外の人はいない。
 猫たちは入浴中だ。


 入浴中。
 あの猫たちが。


 ティモが呪詛を呟きながらお風呂から逃げていたのを覚えている。
 暴れ出そうとするタマを力ずくで押さえつけて髪を洗ってあげたのを覚えている。
 青ざめて震えるクロの尻尾にシャンプーをつけて洗っていたのを覚えている。


 なんだかんだでけっこう猫たちとお風呂に入っているな、僕。


 あの猫たちが、自分たちだけでお風呂に入っているんだ。
 プールに行った日に、ちゃんと克服できたらしい。


 だから、最近は猫たちが自分で、自分の意思でお風呂に入ろうとしている。


 おっちゃんは「一番かかる手間が省けた」と両手を広げて喜んでいた。
 一度タマに殺されたもんね。




「………おっちゃん、夏休みの宿題終わったの。」
「宿題? なんそれ。食えんの?」
「………あっそ。」
「8月30日と31日にまとめてやれば間に合う量だからね。気にしてない。」
「………登校日に提出する分とかはないの。」
「それはすでに終わらせている。おっちゃんは面倒なことは徹底的に避けるからね」




 そこらへんは僕と同じだ。
 僕は面倒事は先に済ませて、後からゆっくりしたい。


 麻雀の山を崩して次のゲームに移った。


 実はする相手もいないのに全自動麻雀卓を買った。
 まずはおっちゃんと試験運転中。


 猫たちが風呂から上がっておっちゃんと僕が入ったら、今度は猫たちと麻雀をする予定だ。




 夏休みのなんてことない日だ。




―――ヒュゥゥゥゥ…………ドゴォォォォォォォォォン!!




 なんてことない日だったはずなのに、いきなり隕石が墜落したかのような衝撃が響いた。


「うわあああああ!? なんぞや!? 何が起きた!? ああ! 山が崩れた!」




 おっちゃんが振動でうろたえる。
 当然、今の衝撃で麻雀の山が崩れた。




 この音は………




「ぃいやったああああ!! おい澄海! ダディちゃんが帰ってきたぞうきんぎょーざー!!」


 雑巾? 金魚? 餃子?


 珍しくカタカナじゃなかったな。ママの一人しりとり。




「………ママ、うるさ―――わぶ!」
「これが黙ってなんかいられるかい! ダディちゃんが帰ってきたんだぞー! やったー!」


 うれしいのはわかったから、僕に頸動脈締めチョークスリーパーを掛けないでよ


 ママと僕では筋力で差がある。
 もちろん、僕の方が圧倒的に筋力が上だ。


 だから簡単に抜け出してママを前方にブン投げた。


「おっとー! 運動部舐めんなよ!」




 巫女服だってのによく動く。
 ママは華麗に着地した。


「ダディちゃん?」


 おっちゃんはテンションの高いママのセリフに首を捻る




「(こくり)………パパの事。」


「ああ、澄海のお父さんか。そういや会ったことなかったな」


「いや、授業参観で一度鉢合わせているぞ。ダディちゃんは修ちゃんの事をメガネの子として記憶していたはずだ」


 ああ、そういえば、パパが予知夢でおっちゃんが二度死ぬ夢を見たんだっけ。


「接点無いと思っていたけど、僕の顔って覚えられているんですか?」


「もちろん! なんせアタシのダディちゃんだぞ!」


 もはや意味不明だ。




『ただーい』


「キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 普段からぶっ壊れ気味のママのテンションだけど、パパが帰ってきたらもう完全に崩壊してしまう


 ママはパパにゾッコンなのだ。


 ママは巫女服のままおっちゃんを飛び越え、パタパタと足袋で足音を響かせながら廊下を走り去った




「………。」


「なぁ、澄海。」


「………なに。」


「礼子さんって、あんなキャラだったっけ。」


「………前からテンションだけは以上に高かったよ。」






 パパが帰ってきたらいつもこうだ。
 仕方のない事だろう。






「おっちゃ~ん、今なんか凄い音したけどー、どーしたのー? おっちゃんのおなら?」


 音にびっくりしたのか、タマが僕たちのいる部屋までやって来た
 せめて服ぐらい着て来い。
 バスタオルを頭にかけただけで廊下がびちょびちょじゃないか


 猫たちはこの家で羞恥心が無くなっているのか、体を隠すことすらしない。
 勝手知ったるってやつなのか? 馴染みすぎだろう。


「おならちゃうわ! おっちゃんのおならはそんな地震を起こすような代物ちゃう! せめて誰にもばれないようにスカすっての!」


「え………? 今の、修さんの………おなら、なの?」


「せやからちゃうって言うてはりますやん! クロちゃんまでそんなこと言っちゃうの!?」


「にいちゃん、すごいね! ぼくたちはさっきので転んじゃったけど、にいちゃんならおならでとべるよね!」


「ティモ坊、夢がありすぎるけど、おならから離れようか。ていうかほら、みんな濡れちゃってるじゃん! ほらちゃんと拭いて!」


 おっちゃんは水にぬれたタマとクロをバスタオルでグシグシと拭く。
 僕もティモの頭だけを適当に拭いてやる。






「うなー! スカイくん、そ、しょこはぁ~~にゃひゃああぁ」
「………うっさい。動くな。」






 なんで僕は、最近、猫の世話ばかりしているんだろう。


 ため息を一つ。








「澄海………何をやっているのだ」








「………?」




 後ろで声がしたから振り返ると、背中にママを貼り付けたパパが、なにやら微妙な表情をして、そこに立っていた。








 あわわ



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