猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第73話 安心しておっちゃん! あいつら、ぶっ殺してくる!



 ヤンキーたちに囲まれたおっちゃんは、壁際で足を震わせていた。
 霊能力の事をホラと否定され、小学生時代にイジメをしてきた主犯格らしき人たちに脅され………それでも、おっちゃんは藁人形を使っての脱出などは行わない。


 否。


 行えない。


 そういうオカルトは、一般人。特に顔見知りに知られてはいけないんだよねー。
 あーもう、おっちゃんだってその気になれば霊能力でこの人たちをどうにかすることもできるかもしれないのにー!


 ………いや、おっちゃんの能力は至近距離からの呪いと憑依だ。
 しかも霊力も高くない。ケンカ慣れしている相手には意味がないかもしれない
 んー! じれったいなー!






「あ、修。そういやオレら、このあとゲーセン行くんだわ。だから小遣いくれよ」






 キラメキがおっちゃんのパーカーを掴みあげた。
 おっちゃんは財布を死守しようとポケットを押さえる




「アホか。だれがやるかよ………」




 おっちゃんは囲まれて掴みかかられてなお、財布を渡そうとはしない。
 財布を渡してしまった方が場を収めるためにはいい手段だったのかもしれない。
 でも、私は知っている。
 ウチは貧乏だ。


 そのお金は、全部修さんが夜にバイトで稼いだお金だ。
 寝る間を惜しんで手に入れたお金だ。
 おいそれと渡していいわけがないんだ。


 簡単に人のお金をせびろうとするキラメキに。
 おっちゃんが汗水流して手に入れたお金を。
 渡していい、わけがない。




 私の中で、あの三人組の死亡が確定した。




 今にも駆け出してあの三人組の首を引っこ抜いてやりたい。
 でも、駆け出そうとする私の腕を掴む澄海くんが、それをさせない。


 自分で握り締めた手のひらに爪が食い込み、血が出る。


 澄海くんは、私より断然大人だ。感情的にならない。




「あーあ。アホって言ったな。宣戦布告いただきましたー。はいドーン!」
「がっ!?」




「おっちゃ――むぐぅ!?」
(しっ! 声を出すな。)


 キラメキがおっちゃんの頬を殴った!
 あいつ、殺す! 殺す殺す!


 澄海くん! なんで邪魔するんだよ! 




「ダハハハ! あーらら、キラメキなーぐっちまったなぁ、じゃ俺も! おら!!」
「うぐぅ!! げほっ!」




 今度はピアスがおっちゃんのわき腹を蹴りつける。
 足腰から力が抜けて、おっちゃんは側頭部から地面に倒れた


「あ? なになにリンチ? いーねいーね、楽しい? なあ楽しい? おい聞いてるぞ、『オヤナシ』 殴られて楽しいかー? ギャハハハハ!!」
「ゲッ! ゴホ! うっ!」




 坊主も転がるおっちゃんを蹴りつける。
 蹴りつける坊主は唯一、おっちゃんに対する悪意はない。


 その瞳に映るのは好奇心。憎悪や悪意がなく、単純にただキラメキとピアスがやっているから同じことをしている


 悪意がない分、悪質だった。




 澄海くんも、私の腕を掴む手に力を込めた。
 おそらく、私が無意識に向こうへ行こうとする力を強めたんだろう


(なんで止めるの! 澄海くん!)
(今行ってどうなる! おっちゃんのプライドは! 僕たちが助けに行ったらたぶん助かると思う。でもその後のおっちゃんは僕たちに助けられてどう思う!)
(だったらおっちゃんにしばらく殴られろっていうの!? 軽蔑するよ!)
(冷静になれ! おそらくあいつらは金を取ったらすぐにいなくなる。その後に、僕たちであの3人を襲撃すればいい。おっちゃんが殴られているのは僕にとっても不愉快なんだ。気持ちは同じだ)
(同じじゃないよー! 澄海くんにおっちゃんの何がわかるっていうんだよー!)




 単純に腕力で私は澄海くんに敵わない
 地面に転がって蹴られるおっちゃんを眺めることしかできないなんて………
 悔しい。不甲斐ない! くそっ!
 アイツ等の喉笛をかみ砕いてやりたい!
 同じ痛みを味合せてやらないと気が済まない!






「あ? なんだこの包帯。左腕、お前怪我してたんだ。」


 ピアスが転がるおっちゃんの左腕を持ち上げた
 あの左腕って、たしかクロちゃんが………


「ダハハハハ! じゃー包帯解いてやるよ―――っとなんだこれ? うっわ、気持ち悪っ! オマエ、リストカットなんてやってんだ。うわ―キモイキモイ。そこまでやっといてオマエ、なんで死んでないの? もう死んじゃえよ」




 傷口が露出した左腕を、ピアスは地面に放って、踏みつけやがった




「あ、があああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」




 おっちゃんが絶叫を上げ、傷口が開いて赤黒い液体が流れ始める。




「ダハハハハハハハハハハハハハハ! 痛いのがいいからリストカットなんてやってんだろ? お礼でも言ったらどうなんだ? アーッハハハハハハハ!!」




 ピアスはそれでも踏むのをやめない。
 嫌がらせをすることに興奮しているようだった。
 社会のゴミクズが………私のお兄ちゃんに、なんてことをしてくれるんだ
 澄海くんも離してくれないし、もどかしい!






「おいリューヤ。そのくらいにしとけ。財布はもう盗った。」


「おー、さっすが。キラメキは手が早い。して、いくら入ってたんだ?」


「待て待て、今から数える………2万と4千円。ハハハッ!
 修のくせに意外と金持ってるじゃねーか。小銭は置いといてやるよ。感謝しろよ。」


 地面に横たわるおっちゃんの頭を一度踏みつけてから離れるキラメキ


 そのおっちゃんの目の前に、札だけを抜かれた財布を放った
 ヂャリッという音を立てて地に落ちる




「くそっ………クズが………」
「あー? 聞こえねぇなー」
「くそっ、くそっ!」
「ギャハハハハ!! どうするこいつ。ここに放置してていい?」


「あー、そこに捨てときゃいつかはどっかいくだろ。放置しとけ。
 そういや財布を取り出すときに、こんなもんまで出てきた」




 キラメキが取り出したのは、おっちゃんの藁人形。
 興味本位で扱っていいものじゃない




 だけど、キラメキから発せられる黒い怨念が、藁人形に触手を伸ばす。
 その光景は異質だ。
 どれだけ憎悪を持っているのだろうか。


「気持ち悪いよなぁ。なぁなぁ。コレで、この藁人形でいつもオレを呪ってるのか?
 おい教えてくれよ。効果はあったのか? ホラ吹きの『オヤナシ』さんよぉ!」


 そう言って、おっちゃんの藁人形の首を引きちぎった




「かっ………あ………」




 その瞬間、おっちゃんが気絶した。


 それを三人組は気づいていない


(澄海くん! 今のっ!)
(………うん。見た。おっちゃんと藁人形がリンクした)




 あのキラメキ、霊力ではなく怨念で呪いを行使した。
 自覚しての事ではないが、そうそうできることではないはずだ。
 藁人形には、おっちゃんが自分自身に呪いをかけるために、常に自分の髪の毛を入れている。
 だから、誰が呪っても、対象はおっちゃんになる。
 できないわけではないんだ。




 ただ、完全にリンクしているわけではないのか、おっちゃんの首がもげるようなことはなく、ただ失神したようだ。


 おっちゃんの藁人形は、霊力を込めないでそのまま引きちぎったところで、なんのアクションも起こさない。
 本当は、そこに霊力という触媒がないといけないんだ。


 ただ、おそらくだけど。
 おっちゃんよりも不器用に藁人形を行使したから、使用者であるキラメキの運気がかなり低下しているはずだ。




「はん、興ざめだな。行くぞお前ら。」
「ざまーねぇな。あーあかわいそ」
「ギャハハハ、もうひと泳ぎしてからゲーセンだな!」


 キラメキたちは泡を吹いて白目をむくおっちゃんを一瞥し、その場を去った。


 そいつらの姿が見えなくなったのを確認して、私達はおっちゃんに駆け寄る




「おっちゃん、おっちゃん!! しっかりして!」


 口元の泡を拭い取ってからおっちゃんの頬を叩く
 ついでに呼吸も確認してみる。
 ………よかった。息はしてるよー。


 でもボロボロだ。
 それに左腕の出血が結構ヒドイ。
 急いで布を当てて包帯を巻きなおす。


 私のパーカーには応急セットが少しだけ入れてある。
 それは、おっちゃんの包帯が万が一切れた時のために。


 それが今回は功を制したみたいだ。
 備えあれば憂いなしだねー。


 それにしても、あいつら………。
 私の大好きなおっちゃんをここまでして………殺すだけじゃ済まさないぞ。


「くそ………」


「あ、おっちゃん! 気が付いたの!?」


「あ………」


 私と目があった瞬間、驚愕の表情をして、すぐに顔を伏せた。


「………すまない。」




 痛々しく謝るおっちゃんを見て、わたしの頭の中で何かが『ブチッ!』と音を立てた


 あー、なるほど。これがそうなのか。


 これが噂の、堪忍袋の緒が切れた音か。




 んふふ………








「安心しておっちゃん! あいつら、ぶっ殺してくる!!」







「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く