猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第71話 コレはもしや私の邪気眼が覚醒する予兆! ktkr!



 時間はほんの少しさかのぼる




 猛暑日、6月下旬なため、鹿児島は気温が30度を超えた。
 本日の最高気温は35度である。
 そんななか、ファミレスで駄弁っていた青年たちがいた。




「こういうのはどうだ? 俺たち、今を駆ける『キラメキ団』!!」




 坊主頭に『#』型に刈りこみを入れた青年が、両手の中指と薬指だけを折り曲げてビシッとポーズを決めながらそう声を上げる。
 周りの人々は何事かと声の方を見るが、見るからに『ヤンキー』面をしている3人組をみて、すぐに目を逸らした




「なんそれきもい」




 ツンツンと短い髪を逆立て、耳に大量のピアスを付けた青年がジュースのストローから口を離し、坊主頭に冷めた瞳を向ける




(キラメキ団………わりとかっこいい)




 自身も冷めた目をしながら、実はそれを内心でかっこいいと評していた目つきの悪い青年は、この3人組のリーダー。
 顔にあるそばかすが、誰かに似た印象を感じる


 彼の名は真田煌輝さなだきらめき


 澄海のクラスメイトである真田時輝ときめきの兄である






「ああ? じゃーどんなのがいーんだよ。リューヤ」




 坊主がリューヤと呼んだピアスだらけの人物―――鳴海竜也なるみりゅうや
 彼は面倒くさそうにため息を吐いて


「ダイチのネーミングセンスはクズだ。そもそも名前を付ける意味が分からん。」
「いや、そもそも、なんでオレの名前の団なんだよ。」


 キラメキもリューヤに連なって坊主―――迫田大地さこだだいちに物申すが、実は『キラメキ団』という名前を気に入っている




「いーだろなんだって。俺たちはなんだかんだでキラメキについてくる集団だし、『キラメキ団』でいんじゃね? おおう! そんなに睨むなよキラメキ!」


(………あ? 睨んでいたか? 今日はコンタクトを入れ忘れたから少し目を細めてみただけなんだが………)


「ま、名前なんてどうでもいいんだよ。そういやキラメキ、この間のテレビでホラー特集やってたろ」




 リューヤが話を適当に打ち切って話題を変えた。
 それは、最近話題のローカルアイドル。『九州娘くすこ』が出演したホラー番組のことである
 霊媒師の上段礼子とその一番弟子。礼子の息子とその友達、さらに九州娘のメンバーで廃病院である平医院の探索を行うというちぐはぐなものだった


 なぜかネコミミをつけていたかわいい子たちがいたが、画面は薄暗く、九州娘をメインに映していたため、視聴者の記憶には薄い。


「ああ、俺の弟がわざわざ録画までして見ていたな。なんか最近、急にオカルトに興味を持ち出したみたいだ。」
「その番組、見たか?」
「見た。」




 坊主がさらに新しい呼び名を考えている間、ピアスとそばかすの青年が獰猛な笑みを浮かべる




「あのロリ霊媒師の一番弟子として、修のヤツが居たな。」


 キラメキがそう呟きながら、掴んでいたドリンクをテーブルに置く。


 実は修については、礼子がスタッフに箝口令かんこうれいを引いたため、カメラからほとんど除外されていた。
 天井の崩落にピンポイントで巻き込まれるなど、カメラに映してはならないからだ。
 それでも、画面の端にはちゃっかりと映り、一番弟子の宣言もばっちりと放送されていたのだ。


「それに、ドラムと馴れ馴れしくしていたな。調子乗ってやがる。今度見かけたらシメるか」


 リューヤもドリンクをテーブルに置き、少しだけ前かがみになる。
 耳に着けていたピアスがチャラっと音を立てた
 リューヤは「そういや、」といやらしい笑みを向けて続けた


「ドラムって、キラメキが小学生の時に告白して振られたんだっけ?」
「うっせ! 思い出させるな!」
「ダハハハハ!!」
「笑うなよリューヤ!」
「え? なんかキラメキが面白い事いったのか? ギャハハハハハ!」
「ダイチ! てめぇ話聞いてないくせに何笑ってんだ!!」
「ダハハハハハ!」「ギャハハハハハハ!」


 彼らキラメキ団は、ファミレスの客席で、大声で騒ぎ続けた


 周りの客は不愉快そうにしつつも、注意することができないでいる。
 それは、彼らが街でも有名な不良であったからだ。
 だから、客たちは目を向けられれば視線を逸らし、露骨に遠回りをして自分の席に着く。
 標的にされてはマズイのだ。彼らは不良。目を合わせれば金と血を毟られる。












「それにしても、今日は暑いよな」


 リューヤが頬杖をつき、言い放った。話題をころころと変える男である。
 ファミレスの中は空調が効いているとはいえ、外気は30度。客が出入りするたびに不快な風が肌を撫でる


「そうだな。どこか泳ぎにでも行くか?」


「泳ぎか………阿久根大島か?」


「いや、あそこは海開きが7月だから泳ぐのはできない。それにあそこは、3月からセミが鳴いているほど熱い。」


「そうか………だったら他だな。」


 そう言ってリューヤが立ち上がり、ドリンクバーからジュースを持ってくる。


 その間にキラメキは冷静に今後の予定を練った。
 わざわざ暑い日に暑いところに行ってどうするというのだ。
 それだったら市営プールにでも行った方がマシだ。と考えた


 リューヤが戻ってきたので、予定を告げた。


「よし、じゃあ今からプールにでも行ってナンパでも行くか」
「お? いいねぇ。いい女が釣れるといいな。」
「釣れなかったら、その後はゲーセンだな。」
「あ? なにナンパ? いいじゃんいいじゃん。どこ行くの?」
「ダイチ、話くらいは聞いとけよ………」




 こうして、彼らは市営プールへと向かった






 結局、そのせいで彼らは後悔するとは知らずに。














                  ☆








 少し時間は進み




   ☆ タマSIDE ☆










 私は深呼吸をしながらプールに座って肩まで浸かる練習をしていた。
 これならおっちゃんと一緒に浴槽にはいることもできるかもねー。
 おっちゃんよろこんでくれるかなー。
 きっと喜ぶよねー。




 ちらりと前方を窺う


 さっきまでおっちゃんがいじいじしていたけど、ちょっと活を入れてあげたらほら、もうクロちゃんと仲直りしてる。
 うん、おっちゃんの扱いはチョロイねー。


「ふぅ………澄海くーん、ちょっと休憩しようよー。」


「………(コクリ)」


 わたしがそう言ってプールの縁に座ると澄海くんは「東大式テンパイ見破り」の本から一瞬だけ目を離して頷いた。


 麻雀の本に目を通してても私たちに気を配っているのがわかる。
 さっきクロちゃんが溺れた時も、クロちゃんがプールサイドから跳ぼうとする瞬間にはすでに反応していたもん。
 憎々しげにしながらもちゃんとクロちゃんを助けてくれるから本当に澄海くんは頼りになるなぁ。
 ツンデレだし、美形だし、頼れる澄海くんにはTPタマポイントを20TPあげちゃおう。 ちなみに使い道はないよー。


 尻尾を自分の前に持ってくる。水にぬれると、私の尻尾も細くなっちゃうなー
 まー、しょーがないかー。
 尻尾を強く握って絞ると、水分を含んだ尻尾が水を吐き出す


 それを適当に整える。水にぬれたらどこかでダマになっちゃうから、ちゃんと手入れができないの。
 尻尾もちゃんとドライヤーで乾かしたいんだけどね。


 ちらりとおっちゃんの方を窺うと―――


(―――あれ?)


 私の左目になんか変なものが見えた気がして思わず二度見した。


「澄海くん、おっちゃんになんか変なものが憑いてない?」


「………? いや、何も視えないけど。」


 あれれ? おかしいなー。なんか私の左目がおっちゃんの全体からヘビのような禍々しい黒いうねうねが動くのをを見たような気がするんだけど………


 はっ! コレはもしや私の第三の目が覚醒する予兆! ktkr!


 そんな冗談はさておき、右目を押さえ得て、私の黄色い左目だけでおっちゃんを見てみる
 最初は幻覚か残像かと思ったけど、そういうわけじゃなかった。
 あの時はたしかに、おっちゃんの全体から黒いヘビがうごめいていたんだ。


 左目だけで目に力を込めて注視してみる。………見えない。
 じゃあ左目に霊力を込めてみる。


 お? なんか見えてきたー!


 これは私の邪気眼が開眼する日も近いね! テンションがすこしあがったよー!


 ゆっくりと何かが見えるようになってくる。
 そこに見えたのは―――


「す、澄海くん! やっぱりおっちゃんが変だよー! なんて言ったらいいのかわからないけど、なんか変なのがおっちゃんに憑いてるよー!」




 よくわからなかった。でも、確かに黒いヘビみたいなものがおっちゃんに憑いていた。
 気持ち悪い、なにあれー。でも、体には悪そうだねー。


「………その年で中二病か」


 パタリと本を閉じた澄海くんが、コツンと私の頭を本で小突いた


「ちがうの………信じてもらえないかもしれないけどー………確かに見えるんだよー。
 なんだろ………生霊とも似ているけどなんか違うし、でも人の意思を感じる………。」


 澄海くんはしつこいのは嫌いだ。
 私はあまり嘘は吐かないから、2度言えばそれがマジバナだということは伝わる。


「………そっか。よくわからないけど、おっちゃんに何かが憑いて見えるんだったら、呪いじゃないの。」
「呪い? なんでー?」
「………いや、まぁ適当に言っただけだけど。おっちゃんに呪いをかけている最中の奴がいるのかも、って思っただけ。僕にはタマが見えてるものが見えないからわからないし、適当な推測しかできない。」


 んー、呪いみたいなものかー………。たしかに、禍々しい気を放っているねー。
 あ、おっちゃんが立ち上がってどこかに行っちゃうみたい!


「………ま、おっちゃんは呪いに耐性がありそうだし、あまり気にする必要もなさそうだけど。」


 ん? そうだよ! じゃあ呪いじゃないよ! 
 そもそもおっちゃんは他人からの呪いは受け付けるはずがない。
 おっちゃんに対する呪いなどはすべて藁人形が肩代わりするから。


 イスルギさんにもらった藁人形は万能だ。
 見事に使いこなせているおっちゃんは、自分自身に掛けたの呪い以外はすべて藁人形がおっちゃんの代わりに受け持つんだ。
 だからいまおっちゃんに見えるヘビみたいなのは呪いじゃない。


 じゃあ今私が見てるこの光景はなに?
 やっぱりわからない。


 黒いヘビが入口の方へ向かおうと触手を伸ばして蠢く


 おっちゃんは気づいていない。
 しかしおっちゃんは触手が伸ばす方向へと向かっているようだ。


「………嫌な予感しかしないなー。ごめん澄海くん。ちょっと一緒についてきてー。
 おっちゃんを尾行しよう。ついでにジュースでも奢ってもらおうよー。」


「………(こくり)」


 ごめんね、見えていないのに半信半疑でついてきてもらって


 心の中で澄海くんに謝罪していると、前方からティモちゃんが慌てて走ってきた




「あ、おねえちゃん! さっき、にいちゃんに変なものが見えたんだけど………」




 ずいぶんと焦っているみたいだ。ティモちゃんが私を『タマちゃん』じゃなくて『おねえちゃん』と言うときは大抵焦っている。


「ティモちゃんも見えたのー?」
「うん………ぼくはなんか、ヘビみたいなのが見えたよ!」


「生霊みたいな気配だったけど、どこか違うような気がするんだよねー。
 ………うーん、どことなく、ちょっと呪いと似た雰囲気を感じるよー。」


 澄海くんは私とティモちゃんの証言を聞いて、自分には見えない何かを分析した
 しかし、やっぱり見えないものは分析のしようがないみたいだ。


 クロちゃんはおっちゃんの変化に気付いていないみたいだ。
 いや、おっちゃん自体に変わったことはなにもない。
 ただ、嫌な気配がまとわりついていた。


 それを見ることができるのは黄色い瞳か。




「あ、もしかしたら!」




 ティモちゃんが声を上げた。
 私にはわからなかったけど、呪術を勉強しているティモちゃんはおっちゃんにまとわりつくものの正体をいち早く把握することができたみたいだ。


「どうしたの?」








「ぼくのよそうだけど、因縁か怨念だとおもう。」








 はぁ~~~~、しょーがないなー。
 ちゃっちゃと祓ってジュースでもおごってもらおう。









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