猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第67話 やっぱり、わたしにはできないよ。ごめんね、修さん





 修さんは気絶した。
 死ななくてよかたった………本当によかった。
 なんだかんだで修さんは体が弱い。


 死ぬ時は思いのほかすぐに死んでしまう。
 それは、修さんが藁人形を使っている呪いでもある。
 藁人形を使うと、ちょっとずつ運気が下がるんだ。
 つまり、修さんは死ぬたびに死にやすくなるということ。悪循環だ。


 霊媒体質である修さんは、体内にゴーストをため込む。体に悪いものを取り込むことは、運気が下がることも意味する。
 修さんを守るためにわたしたちがいるのに、わたしたちのために修さんが死ぬ場面がおおい気がする。気のせいではないだろうな






 わたしは修さんを日陰まで引っ張って休ませてから、プールサイドで体育座りをして水面とにらめっこをしている。


「はぁ~~」


 さっき修さんと水の掛け合いをしていて、少しの水が顔についた程度なら、あんまり怖くなかった。
 修さんはゆっくりと水に慣れるようにしていたんだ。


 だけどわたしは、結局まだ水に浸かることはできない。
 澄海くんたちの方を見てみると、澄海くんが『東大式テンパイ見破り』の本を読みながらタマちゃんたちが溺れないように監視していた


 ティモちゃんは澄海くんに指示されるまま、鼻をつまんで目をギュッと閉じて、目のちょっと上まで潜る練習をしている
 タマちゃんは髪をお団子にまとめてから、ゆっくりと肩まで浸かろうと頑張っている。
 ちょっと顔色が悪いから、すこし無理しているのがわかるけど、澄海くんは何も言わない。


 すごいなぁ、苦手をなくすために努力をするって。それに比べてわたしはどうだろう。
 修さんに頼ってばっかり。水に浸かれるようになった二人を妬んでばかり。
 これじゃ、成長もなにもないよね………


 でも、水はやっぱり怖いよ………


「うゅ~~~~~………」


『おねーちゃん、どーしたの?』


 水面に映る自分の顔とにらめっこをしていたら、水面に映るわたしの隣に、女の子の顔が映った。


「ふえ?」


 水面から目を離してわたしのとなりを見てみると―――


『えへ♪』




 6歳くらいの女の子が目に飛び込んできた


 この子は、ゴーストか。


 状態を観察する。死因はおそらく溺死。地縛霊かな。ここに縛られている理由はなんだろうか。
 考えてもわからない。わかることの方がすくない。だから、今は置いておく。
 こういう子供の無邪気なゴーストは人に害をなすことはあまりしない。
 だからだろうか、それともわたしは話し相手が欲しかったのか。


「じ、じつは―――」


 わたしは、自分が泳げないことをその女の子に話すことにした。




・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・




『ふ~ん。おねーちゃんにもできないことってあるんだね!』


「うん…‥…。わたしのお姉ちゃんも弟も。この前まで水にさわることも、できなかったのに………もう、わたしだけ、だよ。」


 ぱちゃぱちゃと水面を蹴るように足をばたつかせる女の子―――ハルナちゃん。
 でも、幽体だから水をすり抜けて波紋を作ることすらできない。


 見た目が6歳程度。私はまだ生後4ヶ月。


 人生経験が豊富なこの子から、学べることはあるんだろうか


『えへへ、あたちもおよげないの。だからしんじゃった』


「………」


 だよ、ね。


『およげないなら、およがなくてもいいの。』


「でも………わたしは、泳げるように………なりたいよ。」


 わたしがそういうと、ハルナちゃんは口をとがらせた


『でも、およげないんでしょ?』


 その通りなんだよ。だから、どうすればいいのかがわからないの。


「はぁ~~~~」


 水面を見つめてため息を吐く。水に映る自分の顔が、小さな波に揺れて歪む。
 今は修さんに頼ることはできない。だから、自分の力でなんとかしないとっ!


「よしっ!」


『??? おねーちゃん?』


「ハルナちゃん。わたし………がんばって、みるね。」


『どーするの?』


「と、飛び込んでみる! もしかしたら、そのおかげで、泳げるように、なる………かも」


『あ、あぶないよ! むりしちゃだめ!』


 わたしにしがみついて引き留めようとするけど、幽体だからわたしに触れることができない。もどかしそうに地団太を踏んだ


 ごめんね、ハルナちゃん。わたしはやっぱり、みんなの足手まといにはなりたくないし、修さんに迷惑も賭けたくない。
 みんなができることをわたしだけできないのもつらい。


 いつも誰かの陰に隠れてみんなの後を追うだけ。
 自分ではなにも決められないし、進まない。
 このままじゃだめだ。いつまでも修さんを頼りにしてしまう


 わたしたちは、修さんを守るために側にいるのに、これじゃそばに居させてもらえない!


 よーし………


 震える膝を両手で抑え込んで頭の中で何も考えない。
 泳げるようになる未来のビジョンを脳内に描く。よし。


『おねーちゃん! だめー!』


 わたしはすこし助走をつけてからプールに向かって跳んだ


 2mほど進み、あと少しで着水する。




「 クロ! 」




 修さんは目が覚めたのか、わたしの姿をみて大声を上げた。
 よかった、気が付いて。見ててね修さん。わたし、がんばるから!


 足が水に触れた


 それだけで恐怖がせりあがってくる
 吐き気も込み上げてきた
 やっぱり怖い。こわい、けど………まだ、大丈夫




 おしりまで水に浸かった




『おねーちゃん!』




 プールサイドからハルナちゃんが叫ぶ。
 自分も飛び込もうとしているようだけど、溺れた影響か、足がすくんで水のなかまで入ってこれないみたい。


 こわい、こわいこわい


 いや、だめだ。助けを求めちゃダメなんだ。頼ってはいけない。
 弱音を吐いてはいけない! まだなにも始まってもいない!




 足が底につき、肩まで水に浸かった




「あっ………」




 もう………だめ。こわい。怖い怖い怖い怖い怖い


 水が全身をまとって離れてくれない
 それはそうだ。もう水の中なんだもん。わたしは、なんてことをしているんだろう


 なんでわざわざ、飛び込んだりしているんだろう、もうわからない
 こわいこわいこわいこわいこわいこわい!






 頭まで水に浸かった




 耳の中にまで水が入ってきた。気持ち悪い
 水面で誰かが叫んだ。もうなにもわからない。こわい。
 とにかく怖い。水が化け物に見える。一刻も早くここから出たいのに、身動きがうまく取れない。
 もうやだ、やだよぉ


「――――!! ――――――!!! 」


 水の中で声にならない大声を上げ、パニックを起こしてしまった
 息を吸うにも水の中では呼吸ができない


 顔を水面にあげればいいだけなのに、それができない
 体がうまく動かない


 息を吸おうとして気管に水が入ってしまい、残り少ない空気を咳き込んで吐き出してしまう


 目の前がだんだん暗くなる


 ああ、やっぱりわたしにはできないよ。ごめんね、修さん




「クロっ!」




 なにかがおなかにあたった感触があった


 わたしはそれに必死でしがみついた


 死にたくない!






―――――ザパァアッ!!






 その音で、誰かがわたしを水面に出してくれたのだと気付いた。




「ゲホッ! ケホケホッ! エホッ!」


 水を吐きだしてから、咳き込んだ。何度も何度も咳き込んだ。
 その誰かにしがみついたまま大声で泣いた


 わたしがしがみついていた人は、わたしの背中をポンポンと優しくなでて、無言でわたしを落ち着かせようとしてくれている


 少し移動して、プールから出る時に、その人の顔を確認すると




「ぐすっ………ありがと、澄海くん………」


「………ちっ」




 チラリとわたしを一瞥した澄海くんは、眉間にしわを寄せて舌打ちをした後、プールサイドにわたしを座らせてくれた


 正直、立っていられなかった






「クロ―――!!」






 修さんがもうダッシュでこちらに走ってくるのがわかった
 あの顔は………あぁ、怒ってる、よね



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