猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第53話 ………宇宙人は、おばあちゃんとパパと僕だけじゃない。

「タマ、わかったか?」


 状況を静観していたイスルギさんから問われる。それは『私の有用性』について


「うん。私が抜けたから綻びがあるねー。」






 澄海くんが処理しきれなかった妖怪やゴーストに、ティモちゃんが襲われている。


 澄海くんは完全に近距離専門だ。中、遠距離ではフォローしきれない場合が多い
 そこで狙われるのが、運動能力は高いけど、それは上の中のレベルのティモちゃん。
 クラスメート男子の中では、澄海くんの次に運動ができるけど、私の目測ではナナシ君や時輝くんと、どっこいかなー。
 ティモちゃんは『馬憑き』と呼ばれる動物霊に今まさに蹴られていた。
 馬憑きはその名の通り、隙あらば人に憑くので油断は許されない。


「あうっ!」


「………ッ!!  集中しろ! よく見れば避けられる!」


「うん! がんばるね!」


 幸い、うまくガードはできたみたいだ。数歩よろけたけど、ティモちゃんは体制を立て直してから、再び迫りくる馬憑きを飛び越え、交差するときに右手一本の倒立前転で御札を貼り付ける


 身のこなしや体の柔らかさは猫譲りだから、人間よりは運動能力は優れていて当然か
 魔除けの札を直接貼られて、痙攣しだす馬憑き。単体ではティモちゃんの方が強い。


「ティモが攻撃を受けた。タマならあれを無傷でやり過ごせただろう?」


「うん。私なら結界を抜ける前に首をへし折るねー。」


「澄海も対応に追われている。5匹相手しているのは十分すごいが、柔軟な対応をできるのはタマの方が上だ。あいつは澄海はクロと一緒に中心地で戦っていた方がいいだろう。」


「そーだねー。澄海くんはボスか雑魚の掃除をしているのが一番効率がいいよー。」


 私なら、近中遠距離のバランス型だから、澄海くんより多く相手できる。


 澄海くんにとっては、中途半端な強さの妖怪が押し寄せてくるから、一気に掃除ができないんだ。だからティモちゃんに加勢ができない




「仮にスカイがいなかったら、どういう戦術を取る?」


「そーだねー………今澄海くんがやってるポジションを私が代わって、ティモちゃんから離れすぎず近すぎずの距離を保ちつつ、結界から抜けてきた雑魚を叩くかなー。量が多いのであれば、一度すべての妖怪たちを引き受けてからティモちゃんの方に少しだけ妖怪を回しつつ、自分のをクロちゃんに押し付ける形になるかな。無理に私が倒すこともないからね。火力が高い方が安全だしさー。」


「正解だ。逆に、クロがいなかったら、どういう戦術を取る?」


「んーっと、憑依中は接近戦が主になるとはいえ、今のところクロちゃんの役目は遠距離砲台だからねー。ティモちゃんの結界を斜め………平行四辺形になるように張って受け流せるようにしてから澄海くんの火力で一掃するかなー。あとは雑魚の掃除だよー。」


 クロちゃんの方を見てみると、囲まれながらも余裕を見せるクロちゃんの姿。
 鏡を武器とし、鏡を盾とすることで囲まれていながら無傷だ。礼子さんが『武器か盾になるもの』として渡したものが鏡だ。
 だから盾にもなる。妖怪の攻撃も、鏡で受けて撥ね返し、隙の生まれた妖怪に、鏡を叩きつけて浄化する。ミコトさんの力なしでも、充分前衛としてやっていけるんだ。


 クロちゃんの体術には脱帽だ。


「んー、それもまた正解かな。最後にティモがいなかったら?」


「結界役をクロちゃんに変わってもらうねー。殲滅力が落ちるけど、私と澄海くんで残りをそうじするよー。クロちゃんの結界なら、妖怪が漏れ出ることはないからねー。」


「そうだ。お前は誰かが抜けてもカバーできる。それだけの技量をすでに持っている。だけど、お前が抜けただけでチームはバラバラになってしまう。だからこそ、俺はお前に最高点数を付けた。」


「そっか………私はちゃんと………役に立ってるんだ………。よかった」


「わかったなら加勢してこい。ここの掃除がすんだら、そろそろ鬼門は閉じるだろう。鬼門の気配に寄せられて街に入ってきた妖怪は俺が叩く。ちょうど空狐が入ってきたからな。」


 イスルギさんはここの掃除を私たちに任せて、廊下の窓から飛び降りた。




「さーて。いっちょ私も派手にサポートするかなー。澄海くん! 特攻していーよー!」


「………自信は持てたの。」


「もちろん! 気づいてたのー? 」


「………元気がなかったから。それだけだ。」


「気を遣わせてごめんねー。もー大丈夫!」


 澄海くんの観察力もすごいね。私が悩んでることもお見通しかー。


「………タマに抜けられると困る。ここは任せるよ」


「あはは、ツンデレだー」


「………うるさい。早く来い。」


 私は、軽い足取りで澄海くんが引きつけている妖怪を引き受けた。
 澄海くんが再び結界内部に特攻し、殲滅スピードが3倍に跳ね上がった。


 これが、本来の私たちの戦い方。自分を卑下する必要なんてない。対等に、みんなで戦って、そして勝つんだ。








                    ☆






「おわったー!」


 ティモが伸びをして教室の床に座り込む。
 僕もだいぶ疲れた。イスルギさんは毎年これを一人で処理していたのか。


「………。」


 ため息を一つ。 僕は椅子を引きながらそれに座り、力を抜く


 強さはたいしたことはなかった。だけど数が違いすぎる。
 ティモはタマが抜けた後に何度か攻撃を喰らっている。
 クロもしかりだ。僕もひとりでは処理しきれないものを、タマが効率よく分配してくれている
 なのにそれを自分の功績だとは認めない。謙遜ではなく、本当にそう思っていたんだから、タマはすごいと、僕は素直にそう思った。


 そして、新たに問題点も見つかった。これは全員がわかっていることだ


 それは、ティモの火力。




 ティモは壁役として結界を張ってもらっているけど、それはクロの力の劣化版でしかない。
 真にティモの力が発揮されるのは、遠距離の長期戦もしくは呪術による近遠距離戦だ。
 呪術にいたってはまだ練習中。それも群衆に追われれば効果はない。呪いは個に対して効果があるものだから。
 それに、霊力が弱い。おっちゃんほどではないが、それは足手まといになりかねない。




「おー。片付いたか。外も大体終わったぞ。掃除すっか」




 イスルギさんが入ってきて、予定を告げる。
 結構校舎もボロボロにしてしまった。半壊とまでは言わないけど、これは人に見せられないだろう。
 近隣住民の方は音に反応して起きたりしないんだろうか。そう思って聞いてみると


「ん? 俺が防音の結界張ってるから誰も気づきやしねぇよ」


 らしい。なるほど、なんでもありか


「じゃー、どうやってこのボロボロの校舎を直すのー? 3ヶ月はかかるんじゃないかなー」


「それはだな………これを修復できる、ちょっとした知り合いがいるんだよ。そいつに直してもらう。ただの人間には修復できないからな。」


 特殊な能力を持った人ってこと? それは超能力者ってことかな。僕みたいな?
 首を捻る僕たちだけど、それを意に介さず、イスルギさんはチラリと僕を見て、笑った。
 なに? なんで僕を見たの。そう言おうとしたら


「乱れた机の整頓でもしとけ」


 と来たもんだ。しばらくしたら来るってことか?
 ここまでボロボロだと、『あいつ』を呼んだら一番効率がいいんだろうけど、いかんせん。僕はあまりそいつを好きではない。
 ふと古い知り合いを頭に思い浮かべては首を振って思考を追い出す。


 そんなこんなで10分たった。時刻は午前2時45分だ。






「お? 来たぞ。」


 その言葉に各々の作業を止めてイスルギさんを見上げる




―――ギさぁああああああああああん! 




 なんか奇妙な叫び声が聞こえてきた。


「え? なになに?」
「どーしたのー?」
「なにか、くる………ね。声?」
「………(こくり)」


「めんどくせぇ、お前ら、伏せてろ。」




 言葉に従って、4人で固まってしゃがみこむ。


 何が起こっているのだろうか。もう鬼門は閉じた。妖怪退治は終わったはずなんだ。なのになにかが接近してきている。
 そして、僕はものすごく嫌な予感がしていた。
 声が聞こえる。ものすごく、知っている声が。嫌な予感が―――




―――バリィイン!!




 というガラスの破砕音を響かせて、二階の教室へと闖入してきたのは、20代前半くらいの白髪のお姉さん。


「イスルギさぁあああああああああああん!! 会いたかったよおおおおおおおおおお!!!」


 そして、せっかく並べなおして机を盛大に吹っ飛ばしながら着地し、さらに机を吹き飛ばしながら両手を広げてイスルギさんに突進するお姉さん。




 それに対してイスルギさんは―――


「―――うわキモッ!」


「ぷぎゃああああ!?」


―――ゴッギャアアアアン!!


 と一言だけ呟いてぶん殴って吹き飛ばした




 潰れたカエルのように黒板に張り付いたお姉さん。その一瞬のやり取りでわかる。
 イスルギさんの知り合いだと。
 そして、僕もそのテンションに身に覚えがある。僕の知り合いでもあった。


「………。」


 ため息を一つ。


 常人離れした動き。白髪、イスルギさんに殴られても耐えられる耐久力。






 あの人は………宇宙人だ。






 僕は頭痛を堪えて立ち上がる。あー、やっぱりこいつを呼ぶことになっているのか
 イスルギさんとはどういう知り合いなのかはわからないけど、一応僕の知り合いだ。


「あー………スカイは知っているだろうが、紹介しよう。そこのカスがソラ。上段空うえんだんそら。俺の奴隷だ。」


「奴隷結構! 抱きしめて!」


「死ね」


「ふぎゃ!!」


 黒板から顔を引きはがし、再びイスルギさんに突っ込むが、顔面を蹴られて今度は天井に張り付く。あれは顔面陥没したな。メキョォ! って音したもん
しばらくしたら落ちてきたけど、陥没したはずの顔面には傷痕すら残っていない。


「えっとー。どういう関係なんですかー? それに、上段って………」


 タマが表情を引きつらせて、本日二人目の闖入者にむけて、問う。
 それは僕も気になっていたところだ。この学校にコイツがいることもだけど、イスルギさんと、どういう関係なのか。


「どういう関係か?」


 そう呟く空は、パパと似たような髪質で、前髪が少々ツンツンしたショートヘアを揺らしながら首を捻る


 タマの問いに対して、イスルギさんと空は顔を見合わせ―――




「セフレ?」
「セフレだね!」
「ちょっと何言ってんの―――!!」


 よくわからないことを言っていた。
 なぜかタマが絶叫しながらティモの首筋を叩いて一瞬で気絶させ、クロの耳を塞いでいた。
 意味が分からなかったんだけど。セフレってなに? センセーショナルなフレンド?


 にしては僕の耳に二人の話を聞いたことはないけど。


 世間一般の関心を引く友達って、いみわかんねぇ


「「冗談だ(よ!)」」


 肩をすくめた二人に、ホッと息をついたタマ。僕とクロは首を捻るしかなかった。




                     ☆



コメント

コメントを書く

「その他」の人気作品

書籍化作品