猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第52話 神通力





「わー! なんで旧校舎全体が妖怪缶詰状態なんだよー!」




 雑魚を通りすがり様に掃除しながら走破し、1分足らずで旧校舎二階にたどり着いた。
 だけどそこも、ヒドい状況だ。
 廊下を埋め尽くさんと湧いて出てくる妖怪たち。もう廊下がみっちり詰まってるよ。


 ざっと見ただけで、………ごめん、やっぱり数なんかわからないや。


 それについては、この私が………。存在自体がボケであるこの私が! あろうことかツッコミに回らざるを得ないくらい、いっぱいの妖怪がいるってことだよー!




『此れは………我もうんざりする量じゃの………。これほどの量のあやかしを相手にするのは久方ぶりじゃ。一匹一匹相手していれば夜が明けてしまう。』


 建物の中では落雷を落とせないから、ミコトさんも私たちと一緒に行動してもらっている。おかげで常時幽体離脱中の礼子さんが近くにいるような頼もしさがあるよー。


「ミコトさん………だいじょうぶ?」


『うむ? 我の心配なんぞ要らん。それよりも、クロの霊力の方が心配じゃ。礼子ほどの霊力を持っておるのが理想なのじゃが、それは無茶もいいとこじゃな。しかし、休んでばかりではおられぬぞ。気を引き締めよ。今回は、タマはおらぬのであろう?』


 Ω←こんな羽衣を揺らしてクロちゃんに激を飛ばすミコトさん。
 そーなの。イスルギさんは、今回は見ておけって。


 私がいなくても、みんなちゃんとやってくれるでしょうけど。




「タマ。お前が一番すごい。自信を持て。」


「どうしてそんなことを言うのー? 私は自分の不甲斐なさを嘆いていたところなのにさー。」


「すごい奴はすごい。俺ぁそう言う人間だ。」


「イスルギさんはー、この仕事を無傷で終わらせるんでしょー?」


「当たり前だ。俺を誰だと思ってやがる。俺が100点だとしたら、タマは2点だ。」


 ………やっぱりすごいなー。私たち4人がかりで妖怪退治をしていたのに、イスルギさんはこれをいつも一人でやっているなんて
 実力差か。私とイスルギさんには50倍もの差がある。誇張でもないんだろう。この人の化け物っぷりは知っているから。なんせ私たちを擬人化させた張本人なんだから。


「さ、鬼門が閉じるまであと10分。気を引き締めてかかれ」




 パンッ と手を叩いて、イスルギさんが戦闘開始を告げた




 私はイスルギさんの隣について、みんなの様子を観戦することにする




                  ☆


「クロ! 結界!」


「うん!」


「ティモも続け!」


 私と澄海くんでしていた戦術選択ゲームメイクを、澄海くんが一手に引き受けて二人に指示を飛ばす


 それにすぐに反応し、ミコトさんが瞬時に結界を張ってくれる。
 これはクロちゃんの霊力を媒介にしているけど、ティモちゃんが張るより、強度も早さも上だ。


 ミコトさんが結界で完全に足止めさせている間、ティモちゃんが焦らず慎重に結界を張る。


「―――できたよ!」


 廊下の平行線に対して、Vの字になるように結界を張り、妖怪が流れてくる場所を一点に絞り、穴をあけている。


 それを確認したクロちゃんはミコトさんの結界を解くと、妖怪がその穴をめざして押し寄せてくるど真ん中を、澄海くんが一直線に突き進む。イスルギさんに負けた鬱憤を晴らすために、がむしゃらに私の数珠を振り回して一人で圧倒する。
 ただ、数が圧倒的に多い。この学校の全校生徒ぶんくらいの人数が廊下でひしめき合ってるんだよ? ティモちゃんの結界じゃすぐ壊れてしまうのが落ちだろうねー。


 綻びから、小型の妖怪がすでに何匹か漏れてきてるから。


 それでも、クロちゃんは慌てないで対処しようとしている


「ミコトさん………その、使ってください………」


『む? よいのか? 体に負担がかかるぞ?』


「はい………かまいません」


『そうじゃの、タマが見学中であれば、しかたあるまい。承知した。』


 おー。クロちゃんはあれをやるのかー。


 私はちらりとイスルギさんの顔を確認してみた


「………?」


 予想外の行動にすこし疑問を持ってるみたいだけど、口出しはしないんだね。
 さすがにイスルギさんも知らないだろうなー。偶然できた技だもん
 たぶん、イスルギさんでもびっくりするよー。


 クロちゃんは、鏡を胸に抱えて目を瞑り、力を抜きながら小さい口を開く


「………憑依ポゼッション


『うむ。体を借りるぞ、クロ。』




 これは、クロちゃんにも幽体離脱ができたらいーなー、と思って目を瞑って力を抜いてもらってたんだけどー、いたずら心が湧いちゃってさー、クロちゃんに向かってミコトさんをブン投げてみたらあら不思議!
 クロちゃんにミコトさんが憑依しちゃったー! きゃーなんだってー!




「ふむ………成功かの。我も慣れたものじゃな」


 クロちゃんの声でミコトさんの口調。
 ちゃんとクロちゃんの中に入り込んだみたいだ。よかった


 ちなみに、クロちゃんが憑依を『ポゼッション』と読んだのは、私がそう言うように言っておいたから。技名を言うとかっこいいんだよー! それにぃ、難しい漢字に英語のルビを振っておけばー、それだけでなんか凄そうだよねー!


 ってこの前おっちゃんに言ったら、『タマは腐女子の中二病か!』ってツッコまれてしまった。


 おっちゃん。せめてBL系の薄い本は貸し付けられたとしても、カバンの中から出さないでね。私以外の二人が読んじゃうからさー。 さすがにテーブルの上はまずいよー。
 そもそもなんだよ、『獣耳商事』って。おっちゃんは猫耳萌えなの!? とにかく、ティモちゃんの貞操は私が守らないと!




「ふむ。では行くとするかの。ティモに澄海よ。此方は任せたぞ。」


「………(こくり)」


「がんばるよ!」


「うむ。その意気じゃ。………では、『神足通じんそくつう』」






 ―――クロちゃんの身体が浮く。






 コレは神通力の一種。『神足通じんそくつう』という力で、主に『どこにでも移動できるよ!』っていう神業なの。
 最初に使っていた『天眼通てんげんつう』っていうのが、『なんでもみえるよ!』という神業。


 『神足通』は私が練習中の幽体の浮遊に似ているけど、まったく違う。これは神通力だから、修行すれば人間にもできるかもしれないけど、何十年かかるかわからない。
 だから、ミコトさん専用の技なんだよ。いまはクロちゃんに憑依してるけどね。
 一応、補足説明をすると、ミコトさんは普段から『神足通』で中に浮いて、物体をすり抜けているんだよ。だから、ゴーストとは違うの。『神足通』を解けば、ものに当たる。ただし、実体はないから人が触れることはできないの。


 ついでに、ゴーストでもないから、念のこもった塩も意味をなさないんだよー。
 一応、御札は効果あるみたいだけど。






「ほう………憑依か。クロちゃんも面白いことをするな。」


 イスルギさんも関心している。ふふっ、まだまだこのままじゃ終わらないよー。




「いってらっしゃーい」




 私は手を振ってクロちゃんミコトさんを見送る。
 クロちゃんは宙に浮いたが、そのあとは、フッと姿を消した。


「消えた?」


 イスルギさんですらよくわからない現象みたい。でも単純。


 『神速通』は『どこにでも行けるよ!』という神通力。
 消えたとなればそれは移動したということ。


 すなわちテレポート。


 残念無念、ゆー。あなたの存在意義アイデンティティは消滅したんだよー。




「クハハハ! おもしろい! 神様を使役する猫なんて聞いたことねぇ!」


「でしょー?」


「―――だが、減点だな。」


「えー!? なんでー?」


「だってさ、それは完全にあの神様の力だ。そこにクロちゃんの力は、どこにもない」


「それを言っちゃうかー」


 憑依の利点は『クロちゃんの身体をミコトさんが自由に操作できる』ということ。


 ただ、クロちゃんの霊力を媒介にしていたのと違って、生身の体があると、ミコトさん本来の力を発揮させやすいというだけだ


 それに、憑依には体力精神力霊力をごっそり持って行かれるため、個人の接近戦で短期決戦をするのが一番望ましい。


 メリットとデメリットが割に合わないんだよねー。




 じゃーなんで憑依するのか。それは、クロちゃんが未熟だからに他ならない。
 その気になれば、ミコトさんのことだ。移った状態で意識をクロちゃんに戻すことは容易だろうけどー。クロちゃんの霊力はそれほど強くない。修行が足りないんだよ。




「クロちゃんは―――あ、いた。」


 イスルギさんはテレポートしたクロちゃんの位置を補足。感覚器官がするどいなぁ


 今クロちゃんは妖怪集団の後方に待機している


「交代じゃ。後はクロ。お主がやるのじゃ。………はい、わかりました」


 クロちゃんとミコトさんの意識が入れ替わる。


「………じゃあ僕もここは任せるよ。」


 妖怪集団の中心でちぎっては投げていた澄海くんは、役目をクロちゃんにバトンタッチ。ミコトさんの恩恵も授かっている今のクロちゃんなら、肉弾戦でも遅れを取ることはないねー。
 澄海くんのおかげで半数は数が減っている。すごいな。100匹は倒したんじゃないかなー


 だけど、ティモちゃんの結界がもう持たないみたいだから、澄海くんはすぐにフォローに戻るみたい


「ご、ごめんねスカイくん!」


「………いい。集中しろ」


 これから、澄海くんは綻びから出てきた妖怪をプチプチ潰す作業に入った






                    ☆



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