猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第48話 裏不思議







 一応、クロちゃんの持っている鏡の中にいるミコトさんが結界を張って、誰も入ってこれないようにしてたんだけど、そのせいでゆーが襲われちゃったみたいだね


「まー、なんだ。俺ぁその結界のせいでここに入れなかったから、そこの嬢ちゃんのチカラを借りたんだよ、体ごとな。」


「テレポートしたんだー。なるほどねー。イスルギさんの言い分はわかったよー。とりあえずー、一発殴るねー」


 だからと言って、それを許すかと言われたら、許さないんだけどさー。


 いくら、私たちがこうして人の姿でいられるのがこの人のおかげだとしても、それとこれとは話が別なんだよ。


 この人は、おっちゃんと似た体質の『人間』。とんでもない量の妖気を出しているけど、それでも人間のカテゴリに属しているんだよねー。


 おっちゃんが、ゴーストを引き寄せて取り込んでしまう体質であるのと同じく、妖怪を引き寄せては取り込んでしまう人。それがイスルギさんなんだよ。


 まだ私たちは、妖怪というものを見たことがない。
 ゴーストとは別の、退治すべき対象なんだろうとは思っているけど。


 かくいう私たちだって、半分妖怪みたいなものなんだけどさー。


 ―――クロちゃんにイスルギさんを羽交い絞めにしてもらって、逃げられないようにしてからイスルギさんでもそこそこ痛いくらいの威力で腹を殴っておいたよー。
 そうでもしないとー、私たちじゃ、この人には勝てないからねー。


 殴った衝撃で、一瞬だけ宙に浮いたけど、すぐにケロッとするもんだから、絶対に反省してないだろうなー。


 それを間近で見て、口をあんぐりさせている人は、できるだけスルーの方向で。


「いってぇ………これで満足か? とりあえず話を戻すぞ。今日の俺の役目が、鬼門を開かせないように見張ることと、鬼門から出てきた妖怪とか、鬼門の存在に気付いてここにやってきた妖怪やゴーストを叩くことなんだ。その戦闘の後で、校舎がボロボロになるんだよ。それを修理するための、開校記念日。これが、一般人のほとんどが知らない、この『街』の8つめ以降の裏七不思議ってことかな。」


 まさか、裏があるとは思わなかった。それに、件の裏七不思議のひとつを、自分で作っているとは………何を考えているのか、まったくわからない。


 イスルギさんは、『話は終わったと』とばかりに、タバコを吹かす








「………裏の方は、割と厄介だ。」








 おっと………澄海くんが起きたみたいだ。傷はないから、割とすぐに立ち上がることができたのかな。あわててナナシ君なまえわすれたが肩を貸そうとしているけど、澄海くんは必要なさそうに手を振った


「………お前、なんでここにいるの。消えろって言っただろ。」


「うっ………」


 もー、不器用だなー。澄海くんは。ナナシ君が委縮しちゃってるよ。


「澄海くーん、そんな言い方はないんじゃないかなー。ズタボロだった澄海くんをずっと心配してくれていたんだよー?」


「………。そっか。それは、ありがとう。………僕の怪我は………あ、藁人形か。それについては、礼は言わないよ。」


 イスルギさんを一瞥する澄海くん。さすがに理解が早いね。ナナシ君とはえらい違いだ。
 澄海くんの視線に、イスルギさんは肩をすくめて返した


「………お前は、今日の所はもう帰れ。今日見たことは………あまり人に言われると困る。言いふらすなとは言わないけど、言わないでくれると、すごく助かる。」


 面倒くさそうに頭を掻く澄海くん。でも、それもあんまり効果ないよー。
 どーせ、あと2,3日でぜーんぶ、ばれちゃいそうだからねー。


「わ、わかった。体育館前にいるヤツや、校舎に残ってるやつも、一応回収しておく」


「………(こくり)」


 ナナシ君は理科準備室から出て行った。今、自分にできることが何なのかを理解しているのは、いいことだよー。








「それで、スカイくん。うらのほうは、やっかいって、どういうことなの?」


 ティモちゃんが澄海くんが目覚めた時のセリフを繰り返す


「………この街の、裏不思議は、実際に危険がはらむものだから、隠匿されてるものだ」


「わたしは、そんな話………初めて、聞いたよ。」


「………僕もママに聞いたくらいしかしらない。裏の方は隠匿されてるからか、裏不思議には名前がない。」


 んー。というと、電話ボックスの『開かずの扉』みたいなものは存在しないってこと?
 それがどうしたっていうのか、わかんないんだけど


「………だから、具体的に何が起こるのか、わからないんだ。それに、今日の2時までには、僕はここを離れる予定だった。城が落とされた日については、僕は知っていたから。」


 あ、そういうことか。私は歯噛みする。対策を立てられないのはキツイなー。
 イスルギさんは、私の頭をぽんぽんと軽く叩いてから、タバコの煙を吐くと


「そのうちの一つが、俺が今からすることだ。これは、妖怪を始末した後、何事もなくいつもの風景に戻るからあまり知られていないが、確かに裏不思議だ。………ついでだ。お前ら見学するか?」


 タバコの匂いは嫌いだけど、まー、社会勉強ってことで。私たちは首を縦に振った。




                    ☆




「ゆー。起きてー。」


「う、うぅ………褐色の人………藁、人形………」


 なんか、うなされてるみたい。


「ほら、ゆー!」


 私は、ゆーのおなかに乗って、肩をゆさゆさと揺らす。それに合わせて、たゆんたゆんと胸が揺れるのがうらやましー。


「う………ん? ほわぁ! わ、藁人形が! サラリーマンで、わわわ、わちきを超能力者って、褐色の人のが! き、危険です!!」


 どんな夢を見ていたんだろー。とにかく、混乱しているようだけど、目を覚ましたみたいだねー。


「ゆー。落ち着いてー、私の目を見て、しんこきゅー」


「た、タマ子殿………。は、はい………。すー………はー。」


 上半身を起こしたゆーから少しだけ距離を置く。


「落ち着いたー?」


「は、はい………たしかわちきは、気絶して………ここは………?」


「理科準備室だよー。ゆー、倒れる前になにをしていたか、覚えてるー?」


「もちろんです! わちきはリズム殿をご自宅までお送りした後、校門前で怪しい男と接触………あ! うわぁあああああああああ!!? ああああの男です! あのサラリーマンは危険です! タマ子! わちきの後ろに下がってください!」


 イスルギさんを見つけたゆーが、慌てて私の手を掴んで後ろへと引っ張る。


「大丈夫だよー、ゆー。あの人は敵じゃないから。善人でもないけど。」


 怖くてたまらないはずなのに、それでも私を守ろうとしてくれている。
 案外、おっちゃんと性格が似ているところがあるのかもしれない。


 イスルギさんは、『タバコ嫌い!』とティモちゃんが言ったことにより、現在はチョコを噛んでいる。
 見かけによらず、甘々党らしい。そのイスルギさんに、ビシッ! と指をさし






「でも、わちきを気絶させて、いやらしいことをしたに違いありません!」






 ちょっ―――






「あ? んなことするかよ。性欲処理なんて、いつだってできるっつの。」




 おまっ!?


 さらっと問題発言しないでよー! 私がティモちゃんの耳を塞ぐのが遅れてしまったら、変な知識を植え付けちゃうじゃない!


 幸い、クロちゃんと澄海くんは、意味を理解できていないようなので、キョトンと首を傾げていた




 よ、よかった………


 健全に生きてね、みんな。





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