猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第46話 殺さなければ殺されるなら、僕は迷わず殺す









 朦朧とする意識の中で、なんとか折れた左腕を力いっぱい引っ張って、『ゴギュッ!』という音とともに、無理やり折れた骨のつなぎ目だけは合わせる。筋肉が折れた骨の先に傷つけられるが、コレをしとかないとすぐに大変なことになる。めっちゃ痛かった。というか進行形で痛い。さすがに涙が出た。
 扉を開いてから20秒ちょっとでこれか。やってらんねぇ………


「お前は頑張ったよ。それにしても………よく人を殺すことに躊躇しないで突っ込んでこれたなお前。」


 この人は、僕を殺そうとはしていないらしい。素直に称賛している言葉が降ってきた
 でも、これは完全に僕の負けだ。手も足もでなかった。不意打ちで一発肩に食らわせたくらいか


「げほっ! ………そんな不自然な妖気を出している奴を、人間とは言わない。」


「クハッ! ちげぇねえ! お? まだやる? 元気だなお前。」


 ゆっくりと立ち上がり、ふらふらと優の方に歩み寄る。
 目の前に来ても、優は攻撃しようとすらしない。


 力が入らないから、倒れこむように優に抱き着いた。腕を回して、自分の両手を握る


「おー。お前はもう休め………ん?」


「………心筋梗塞で死ねよ」


「ぐっ!?」


 最大の大きさで結界を発動。僕の結界は時間を止めることができる、特殊な結界だ。


 この結界は、僕の皮膚と皮膚が触れている間の部分にしか作用しない、2次元の結界。
 これも、使い方次第で、凶器に変わる。




 心臓の位置を結界で時間を止めたらどうなるか。胸から下には、脳からの指示は届かない。それに、心臓の動きが制限され、肺の動きも制限される。血が全身に回らなければ、死ぬしかないだろう


―――ふわっ




「………?」


 急に、抱き着いていた優の感触が抜けた。どういうことだ? 時間を止めていたら動けないはずなのに………


「この娘、一応お前の知り合いじゃねぇのかよ。大事にしろよ」


 すこし離れた場所に、胸を押さえる優が立っていた。


 僕が結界で時間を止めていたのは―――藁人形だった




 僕は脱力して床に倒れこむ。倒れた拍子に、また左腕の骨がズレたかもしれない。




「最後のは見事だった。普通なら死んでたわ。」


「………生きてんじゃん。化け物め。」


「否定はしない。おっし。戻ってこい、俺の身体」


 優は地面に落ちた藁人形を握ると、藁人形がぐったりと横たわる20代後半くらいのサラリーマンのような男に変わった。いや、位置が入れ替わったのか。
 おそらく、その男の中に、今、優の幽体が入っているんだ。


 これって、おっちゃんの藁人形と、まったく同じ力だ


 そういや、おっちゃんはその藁人形を『大家さんにもらった』って言ってた。


 つまり、この人こそ、猫たちに妖力を与えて人猫にし、藁人形をおっちゃんに渡した張本人ってことか。大山石動って、たしかに聞いたことある名前だと思ったよ


 おっちゃんと同じ力だってことは、そこのサラリーマンこそが本来の姿。サラリーマンからは生気を感じるから、おそらく、その中には優が入っている


 今度は、別の藁人形を取り出し、大山石動に押し付けると、そいつから、人の気配が消える。―――優の幽体が藁人形に移ったんだ。
 次に今度は優から妖気が消えて、藁人形からすさまじい妖気が漂う。これは、優の幽体と、大山石動の幽体が入れ替わり、大山石動が藁人形に入ったということ。
 最後に、藁人形から漂う気配が、本来の持ち主へと戻った。


 入れ替えは、一度藁人形を通さないといけない。どこかに『自分』が入っていないと、入れ替えができない、条件はたしか、そんな感じだ。


「あー、この子を無駄に傷つけちまったな。本当に容赦なかったな、お前。スカイだったか。」


 赤い縁の色つきメガネをかけた、高そうな服を着ているサラリーマン。のような男性が立ち上がり、ぐったりと横たわる優を見下ろす


「………殺さなければ殺されるなら、僕は迷わず殺すよ。」


 結局、僕が負けて、地べたに這いつくばってるわけだけど。


「うん。その判断は間違っちゃいねぇ――っと。これでよし。」


 石動さんは、優の傷を藁人形に移し、藁人形の肩口から、じわじわと血が流れ始める。


「今度はお前だ。」


 僕の傷も治すのか、便利な藁人形だな、と思っていると
 ヤツは五寸釘とハンマーを持って、藁人形ごと、僕を打ち抜いて、傷を僕に移す。


 おそらくだけど、ダメージを受けていた時、『藁人形→人』の場合は五寸釘が必要なんじゃないかな。今までのパターンから推測するとさ。


「―――うぐぅいっ!??」


 肩から血が吹き出す。貫通してるんだ、くっそ痛い! 冷静に考えている場合じゃなかった!!  僕は下唇を噛んでなんとか耐える。あと、心臓がすこし締め付けられるような感覚がある。僕が抱きついたときのだろうか


「これが、スカイがこの子に与えたダメージだ。痛いだろ。」


「………ふー………ふー………(こくり)」


 震えながら、弱々しく頷く。


「今回は特殊なケースだったけどさ、あまり自分がされて痛いことを、他人にすんじゃねぇぞ。今回は構わないけどさ。」


「………わかってる」


 そんなのは当然だ。こんなイレギュラーでもなければ、絶対にあんなことはしない。
 殺すのだって、できればしたくはないし。
 というか、あんただって僕をぐちゃぐちゃにしてくれたじゃん。自分はいいのかよ。


 でも、負けた僕に治療は必要ない。慈悲までかけられるつもりはない。このくらいなら、まだなんとか数日で完治できる………はずだ


「わかってるならよし」


 大山石動がそれで締めた。その瞬間―――






―――バキッ!






「スカイくん! みんなをつれてきたよわああああああああああああああああ!」


「うわ! 澄海くーん! 大丈夫―!?」


「ち、血まみれ、だよ! は、はやくてあて、しないと!」




 今度は、猫たちが入ってきたみたいだ。バキッてなんだよ。あ、ドアが破壊されてるし。




「っふ………おせえよ」


 僕が言ってから1分くらいだろうか。相当なスピードで走ってきたんだろうな。
 あとはお前たちに任せるよ。僕は少し眠る。僕なら骨折も、3日寝れば治るだろうし。
 おそらく、この大山石動は、敵ではないと思う。
 大家さんだったら、猫たちの知り合いだろうし。




 ………ものすごい妖気を出してるけど。




「―――い、澄海! しっか――ろ」


 視界がぼやけてくる。猫たち以外の声まで聞こえる。こいつ誰だっけ、これは幻聴だろうか


 一抹の不安を抱えながら、僕は意識を手放した






                    ☆





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