猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第19話 ★………こっくりさんの知識は中途半端にしかないんだけど。

 翌日。火曜日の朝。


 あくびをかみ殺しながら通学路を歩いていると




「すかーいくーん!」


 高い声が聞こえてきた


「………。」


 ため息を一つ。


 声からしてティモだろう。
 昨日ほとんど寝れなかったはずなのに元気だな。
 昼寝してたから大丈夫だろうけど。


 僕はゆっくり振り返りながら


「‥‥‥なに―――うわっ!」


 僕が振り返った瞬間にティモがタックルをかましてきやがった。
 いきなりすぎて殴りそうになったが、一応こらえた。


「えへへー。おはよー!」


「‥‥‥。」


 僕は無言でティモを引き剥がす


「ティモちゃん‥‥‥、急にだきつくのは、めいわく‥‥‥だよ。」


「押し倒しちゃえばいいんじゃないかなー」


 さらにティモの後ろからクロとタマの声。


「‥‥‥無責任なことを言うなよ、タマ。ちゃんとティモをしつけなよ」


「アホなんだもーん。私じゃ手に余るよー。だって一回寝ればなにもかも忘れちゃうんだよー?」


「‥‥‥きのうの夕飯とかも。ティモちゃん、わすれているかも………ね。」


「‥‥‥。」


 最近、ため息ばかりつくなぁ。


 僕は自分のスピードで再び歩き始める。


「あ、待ってよー」


 なのに勝手にコイツらはついてくる。
 なんなんだよ、全く。




 校門をくぐると、いつもの風景。


「‥‥‥いつみてもー、ここはスゴいよねー。」


「‥‥‥(こくん)」


 タマの呟きに、僕は首を縦に振る。
ここは昔、城があった場所。
300人を越えるゴーストが、この場所に縛られている


 しかも、可哀想なことに縛られるはずの城が存在しない。


 だから浮遊霊のように同じ場所を何百年もさまよっている。
 存在したはずの城を探して。


「それにしても‥‥‥今日は、ざわついてる‥‥‥ね。」


「‥‥‥。」


 ここらを歩いている着物を着たゴーストは、心なしかそわそわしているように感じる。
 活気づいているのもいる。


 こういう場合は、生徒の誰かが七不思議的なものに巻き込まれてしまったか、妙なまじないをしていることが殆どだ。


 前者にいたっては先生から固く禁止されているため、ほとんど巻き込まれることは無いはずだけど‥‥‥


「ぼくたちの教室の方に向かってない?」


 ティモの声に、辺りのゴーストの気配を確認してみると、ちらほらと4年生の教室に向かっているのがわかった




「‥‥‥。」


 ため息を一つ。




 行ってみるしかないよな。自分の教室だし。




 ―――ということで教室前


 ゴーストがうようよいて邪魔だったが、結局、道具がなかったら触れられないため、いつものようにゴーストの胴体なども文字通りスルーしながら歩き、教室に入る


「‥‥‥。」


 ため息は、出なかった。
 湧き出てきたのは殺意。


 あいつ‥‥‥昨日の今日で、どれだけ僕の手を煩わせれば気が済むんだ。


奥歯をかみしめて表情に現れないように注意しながら時輝の机を見る。


「ときめきくん、なにしてるのー?」


 ティモが目をキラキラさせて時輝に駆け寄ると


「おう、おまえか。おまえ、幽霊って信じるか?」


「? なんで?」


 突拍子もない質問に首を傾げる。


「実は俺、昨日幽霊見たんだぜ、すげぇだろ!」


「???」


 なにがスゴいのか判らない、といった具合にさらに首を捻り、疑問符を頭に浮かべる。


 僕に言わせれば、その自業自得の何を自慢しているのかまるでわからない。死にかけてたんだぞ、お前。


「ほーう、それはすごいねー。どんなのだったのー?」


 タマが表情を崩さず、問い返すと、気分をよくしたのか、自慢げにポケットの物を見せびらかした


「髪の長い女の幽霊だったぜ。墓からコレ盗ってきた」


「‥‥‥指輪、だね‥‥‥。これ‥‥‥どうしたの‥‥‥?」


 クロは時輝ではなく、その背後のゴーストに向けて呟く


 見せびらかす指輪に僕は見覚えがあった
 結局、墓に戻さなかったのか。
 時輝はもう、憑かれている。例の女のゴーストに。
 今朝ゴーストがざわざわしていたのは、新しいゴーストが来たからだったのか。


『この子が私の墓から盗んだの。腹立つから取り憑いたわ。悪いわね、坊や。許してくれる? 殺していい?』


「‥‥‥。(こくり)」


だって時輝そいつのせいじゃん。こっちは注意してやったってのに………。


「それよりもほら! 見ろよコレ!」


クロの質問を遮り、机の上の紙を見せつける


「‥‥‥これなーにー?」


「よくぞ聞いてくれた。こっくりさんだ。」


「‥‥‥?」




 三猫はこっくりさんを知らないらしい。三者三様に首を捻る


「とにかく、この十円玉に指を置いてみろよ。」


 ティモとタマ、クロ。近くで興味津々に見ていた里澄が十円玉に指を置く。周りを野次馬が囲む


「おい、やめろ!」


 これはここでは危険な遊びだ。僕はカバンを自分の机に投げながら、僕は普段ならありえない声量で怒鳴る


 それを面白そうに見た時輝は口を歪め


「澄海、おまえには絶対にやらせないからな!」


 やりたくて言ってるんじゃない。やめさせたいんだよクズが。


 僕の言葉を聞いたクロは僕を見た


 それが危険なことだと悟ったクロは反射的に指を離す


 その瞬間、場の空気が一変した。


「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら「はい」へお進みください」


 時輝が、コックリさんを始めたんだ。


 クロが手を離したのはギリギリセーフだろうか。


 クロの手が離れたのを見た時輝が、それでも続けたのをみると、コックリさんの知識も殆どないと思われる


 10円玉に話しかけると、一人のゴーストがその10円玉に移った。
 こういう儀式により、ゴーストは実態を持つことができる。
 人の形ではないが、器があればなんでもいい。消しゴムでも歯ブラシでも。人の力、生命力を借りて、ゴーストも現実に干渉できるようになる。


 平和夫のように、現実に干渉できるようなゴーストは、相当な恨み、後悔、修行、集中力が必要となる。メスの具現化、浮遊、念力などはもっと気の遠くなるほどの修行と集中力が必要となる。


 ゴーストも苦労してるね。


 ただのゴーストでも思いが強ければ物に触ってポルターガイストを起こすくらいはできるらしい。


 ‥‥‥べつにコレはどうでもいいか。


こっくりさんは人の生命エネルギー的なものを10円玉を伝って人からもらい、それのおかげで10円玉こっくりさんが現実に干渉できるようになるとか。


ちなみに、質問するたびに寿命が少し減るってママに聞いた。


 10円玉が自動的に動き始め、五十音の上の『はい』『いいえ』と書かれた部分の『はい』に向かった


 普通は低級な動物霊を十円玉に移すはずなのだが、ここは人間のゴーストの方が多い。
 ゴーストは自分を主張するために、この教室へ向かっていたのか。
 迂闊だった。始められる前に全力で紙を破くべきだったか。




「これ、誰が動かしているのかしら?」


 里澄が、どうせ誰かが動かしているとタカをくくってにやけているが、動かしているのは10円玉に乗り移った男のゴースト。


 ここまで来ると、僕が邪魔をするともっと大変なことになる。
 しばらく成り行きに任せるか


 僕は自分の身さえ守れればそれでいいし。











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