猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第9話 パパの予知夢は現実となる。ちょっとそういう能力はうらやましい。





 一度家に帰り、弁当を温めてから再び家を出て、平医院にやってきた


「ん、なんだ君は。子供がこんな時間にこんなところをうろうろしていたら危ないよ。早く家に帰りなさい」


「‥‥‥。」


 弁当を届けに来たらコレだよ。あの野郎、ちゃんと話くらい通しとけよな‥‥‥


「‥‥‥僕は上段うえんだん 礼子れいこの息子。‥‥‥弁当を届けに来たんだけど。」


 僕はビニール袋に入った弁当を前に出す


「ん、あぁ。今日の詐欺クサイ霊媒師さんの‥‥‥。わかった。じゃあ弁当だけ預かるよ。もう日も暮れて暗いし、気をつけて変えるんだよ」


「‥‥‥。」


 しっかし、こんな大きなお子さんがいるとは‥‥‥などと呟いている係りの人に弁当を渡して踵を返そうとした、その時。




『すかーい!』


 と、澄んだ高い声が聞こえた




 気だるげにそちらを向くと、すこし離れた場所で、ママが最近話題の高校生アイドルグループと談笑しながら手を振っていた


 身長が141cmで白と赤の巫女装束に身を包んでいる変態が僕のママだ。


「‥‥‥。」


 弁当はここだと、さっき係りの人に渡した弁当を指差してから、今度こそ踵を返すと


 ―――ガシッ!


「まぁ待ちなや」


 肩を掴まれ、耳元で囁かれる


 反射的に振り返っても、そこには何も存在しなかった


 いきなりクルクルと回転しだす僕をスタッフさんは訝しげに見ている


「‥‥‥。」


 ため息を一つ


「あ、おいっ!」


 スタッフの制止する声を無視して平医院の敷地内に勝手に入り、不機嫌オーラ全開でママの前で立ち止まる


 僕より少しだけ背が高いママを下から睨む


「‥‥‥何の用なの。」


 目つきを鋭くさせて聞く僕を見て、アイドルたちはやや引いていたけど、そんなことは僕には全く関係ない。
 アイドルたちは、最初はサインかお思ったのか、おろしていた腰をイスから浮かせかけていたけど、僕の眼中にないと悟るや否や、不満そうに携帯を開いた。
 テレビに出ないときのアイドルなんて、所詮こんなもんか


「‥‥‥。」


「おそーイスカンダルメシアントワネット!」


 ………イスカンダル、ダルメシアン、アントワネット。無理やり三つねじ込みやがったか。
 なにも突っ込まないで小さくため息をつく。


「‥‥‥弁当はあっちのスタッフさんに預けたから。」


 親指でスタッフさんを指す


「そーかいそーかい。ありがとサンキューベリマッチョ」


 そう言いながら手のひらをこちらに向けるママ。
 ‥‥‥取ってこいってか?
 ‥‥‥めんどくさ。


「‥‥‥。」


「‥‥‥。」


 もちろん、僕が動くわけがない


「‥‥‥帰るよ」


「待たれい!」


 ガシィッ! とまた肩を掴まれた


「‥‥‥なに。要件と結論だけ言って。」


「もー、つれないなぁ‥‥‥。要件は、あんたを今から『九州娘くすこ』の子たちに紹介しようとしていたから今から紹介します。結論、拒否権はありませ~んベロベロべー」


「‥‥‥。」




「みんな、この子がさっき言った澄海。アタシの子だよん。」


「わー、いまいくつなんですかぁ~?」


 三人グループの中で一際かわいい女の子が立ち上がってそんなことを聞いた


 ママより20cm以上高く、大人びた顔立ちはママよりも明らかに年上に見えた
老けているという意味ではなく、ママが低身長で童顔だという要因がデカい。


 なんだか見覚えがあるな、この人。
 初めて会った感じがしないというか。


「‥‥‥。」


「いま9歳。」


 僕は答えなかったが、ママが勝手に答えた。
 正直、答えるのがめんどくさかった


「礼子さん、たしかいま23歳ですよね!」


「おうともさ。だからこの子はアタシが14歳の時の子だよ。」




 ガシガシと頭を揺らされるのがうざったい。


「あの頃の『美少女天才霊媒師』なんて呼ばれていたかなぁ。‥‥‥なつかしなつかし」


「‥‥‥『極悪霊媒詐欺師』の間違いだろ。」


 それも、ロリコンホイホイの。


 と、ママにだけ聞こえる声量でボソッと呟いた。


「ああん? なんつったてめぇ。」


「‥‥‥ぁあ? 僕、間違ったこといった?」


 一触即発。睨み合う親子。


 誤解を産まないように言っておくけど、別に僕とママの仲が悪いわけではない。


「ヤんのか澄海こら」


「‥‥‥上等だよ。僕に勝てる気でいるの。」


 ‥‥‥と、思いたい
 普通の家のコミュニケーションがどういうものかしらないけど、僕らの場合は、拳と拳のぶつけ合いだ。


「れ、礼子さん‥‥‥?」


 隣でアイドルが仲介に入ろうとしてもお構いなし。今にも胸ぐらを掴みかかりそうだ。


「そういやさぁ」


「‥‥‥。」


 戦闘前の殺気を消して、ママの顔を見上げる


「ダディちゃんがまたなんか変な予知夢を見たんだって」


 『ダディちゃん』、とはママがパパを呼ぶときに使う呼び名だ。


ちなみに、パパの名は『かい


「‥‥‥。(コクリ)」




 相槌だけして、続きを催促すると


「なんでも、今日の平医院で、あんたのクラスの三匹のネコ? が今日この場に出るって」


「‥‥‥。」


 パパの予知夢はハズれない。だったらそれは本当なんだろう


 本当に忍び込むんだ‥‥‥。


「あと、澄海。あんたもいたって。」


「‥‥‥?」


 なぜ? 僕はもう帰るつもりなんだけど


「あと、メガネの子が二回死んだり白髪の子が全裸になったり? 黒い子がケガしたりとか。白髪の子の全裸にあたしは期待大だね」


「‥‥‥。」


「ダディちゃんの見る夢はいつも意味がわかんないね。断片的だーとか言ってるし」


 肝心なとこしか見ない予知夢‥‥‥。結果だけわかる予知夢ってのも、何が起こるのかわからなくて怖いなぁ


 結果だけわかっても、過程と結末は見えないらしい。なんだその能力。


「あんたにとっちゃめんどくさいことだってのは承知の助太郎。あと、わかってると思うけどー」


「‥‥‥わかってると思うなら言わなくていい」




 パパが僕も平医院にいるという予知夢を見たのであれば、どんな抵抗をしようとそれは現実となる。


 一応抵抗してみるけど。帰りたいから。


「あそ。じゃあ頑張って抵抗してみなって。」


「‥‥‥。」


 抵抗するのすらめんどくさい。だけど僕は楽して生きていきたい




 僕は平医院から出ようと歩き出すと


「あ、君。待ってくれないかな。」


 ほらきた


「‥‥‥。」


 なに、という視線を返す


「上段礼子さんのお子さんですよね、俺はこの番組のプロデューサーなんだけど、君も出演してもらってもいいかな? 業界でも有名な上段礼子さんのお子さんも一緒ってのも盛り上がると思うんだ!」


 これが補正。予知夢は確実になる。今日はいろんなことがありすぎた。正直、帰って寝たい。だから丁重にお断りを申し上げよう。


「‥‥‥ことわ『ガシャーン!』」


 なぜか平医院の窓が内側から割れた
 慌てるスタッフ。ママは撮影前なのに今にも泣きそうなアイドルたちをなだめていた




「‥‥‥。」


 たまたまおこるポルターガイストが僕の言葉を遮る


「‥‥‥こと『誰だ君たちは! いまここは関係者以外立ち入り禁止だよ!』」




「‥‥‥。」


 やっぱり無理か


 ‥‥‥誰か平医院に入ってきたみたいだね。気だるげにそっちを向くと、予想通りの人物たちがそこにいた


『こっちのルートなら大丈夫って言ってたのに! フユルギの嘘つきーっ!』


『おっちゃーん。仕方ないよー。フユルギさんは確実な情報か自身が面白いと思う情報しかくれないんでしょ~?』


『う~、せっかく兄ちゃんと遊べると思ったのに‥‥‥』


予想通りの人物の登場に、やっぱりと思うと同時に、深くため息をついた




                    ☆



コメント

コメントを書く

「その他」の人気作品

書籍化作品