猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第8話 ………なにもしてないのに万引き犯扱いされても………

「‥‥‥だから僕、なにもしてないんだけど。」


 なんで僕はこんなところにいるんだろう


「とにかく、君のウェストポーチと、ポケットを調べさせてもらうからね。」


 ティモが店から持ち出したお弁当。
 それをたまたま目撃した店員さんが僕をその盗みの共犯者だと思われたのだろうか


「‥‥‥別に構わないよ。好きなだけ調べればいい。」


 何もしてないのに僕の時間が拘束されてたまるか。僕は早く帰ってゴロゴロとPCをいじりたいんだ


「おい‥‥‥このガムはなんだ?」


 店員さんがドヤ顔で僕のポーチから取り出したのは、未開封のガム


 ‥‥‥。もちろん以前僕が買ったものだ


「‥‥‥一緒にレシートが入ってるハズだけど。‥‥‥しかもそのガム、ちゃんとこの店のテープ貼ってあるし」


面倒くさくて、ポーチのなかをまだ整理していなかったのが幸いした。


「なっ‥‥‥!」


「‥‥‥。」


「‥‥‥。」


「‥‥‥。」


「あ」


 ほらレシートあった。


 スーパーのスタッフもその店員さんを『うーわー、誤認逮捕?』とか言いながら見ている


 店員さんの顔が赤くなる


「き、君はさっきのニット帽の子の友達だろ?」


「ちがうけど。」


「‥‥‥」


「‥‥‥」


「‥‥‥」


 即答されてさらに固まる店員さん


 別に僕は友達になった覚えは無い。
 そもそも接点がそんなに無いんだ。


 というか原点、僕に友達がいないし


「‥‥‥。」


 ふてぶてしいとは思いながら、その辺の椅子を引き出して勝手に座る
 立ってるのがめんどくさい。


「そうだ、ポケッ―――」


「(‥‥‥ス)」


「―――ットの中も何もないのか‥‥‥」


 ポケットの中をひっくり返して見せた。
なにかあるはずもない


「‥‥‥。時間の無駄。まだ帰っちゃいけないの。」


「く‥‥‥うぅ‥‥‥。」


「‥‥‥はぁ」




 今日は厄日だ。


 朝から暇はつぶせない
 タマクロに拉致られ
 弁当を買いに行ったら寝落ちされ
 時輝と鉢合わせ。
 お使いを頼まれれば万引き扱い。


 今日はどうかしている




 ―――♪♪♪


 不意に、僕に持たされている携帯に着信音が鳴った


 ウェストポーチから勝手に取り出し画面を確認すると、ママからだった。


 ちらりと店員さんの顔を伺うと、まだうなだれていたので勝手に出る


「‥‥‥。」


『もしもしかめよーすかいさんよー。』


「‥‥‥うざい」


『すかーい、おそーい。ママン餓死しちゃうよ、泣いちゃうよ。あんまり遅いとペロペロするぞーペロペロ。』


「‥‥‥。今、万引き犯扱いされてスーパーから出られない」


『はぁ? 何ふざけてんの!? あーもう遅れる! 今日は近場で仕事だからママのお弁当だけ持ってきて!』


「‥‥‥近場?」


 というか心配しないんだ‥‥‥


『うん、平医院でテレビ局の人となんかするらしいんだわ。ギャラは四本』


 400万とは大したもんだ


 一夜でそんだけ稼ぐとは、‥‥‥。どんな手段を使ったんだろう


 スタッフを呪ったのかな


 まぁどうでもいいや


 ‥‥‥しかも平医院‥‥‥。あのテレビ局はママ出るテレビだったとは‥‥‥。


 でも、だったら


「‥‥‥テレビ局の仕事だったら、ロケ弁が出るんじゃ。」


 実際、ママが『イテキマンモスラリアット』などとほざくから、すでに出かけたものだと思っていたし。


『本当に近場だから家で食べるつもりだったんだよ。撮影は10時からだから、打ち合わせもあるし9時までにお願いね! ママンはもう行きます』


「‥‥‥」




 有無を言わさず切られた
 まだ仕事に出てなかったんだと思いつつ、目の前の店員を睨む


「‥‥‥。」


 あんたらのせいで僕が余計な時間を食うことになった


 もううんざりだ


 何も言わずウェストポーチを腰に付けた。


「そうだ、さっきの子の連絡先を」


「‥‥‥友達でもないのに知るわけないし。‥‥‥あ、でも近くのアパートだったよ。大山荘の101号室。じゃあ僕もう戻るから。用事あるし」


「いや、君の住所も教えてもらうよ。共犯者である可能性がなしでは無いからね。」


 ‥‥‥。めんどくさ




「‥‥‥。じゃあ、僕は帰るよ。こんな不愉快なスーパーはもう二度と来ないかもね。」


「………うん、今日のところはもういいよ。ごめんね、ぼく。」


「‥‥‥。」




 事務所を出ると中から
 『はっずかしー!』だとか
 『誤認だっせーww』
 だの、まるで学校のような不快な声が響いた。
 まぁ、可哀想だとは思うが自業自得だし




「‥‥‥。」


 弁当は‥‥‥。ママのはネバとろ弁当でいっか。


 オクラや納豆、とろろが苦手って言ってたし、ただの八つ当たりだ。


 レジを通って店を出ようとすると、
 両腕を拘束され、引きずられるティモと、ティモの左腕を抱えたタマ、ティモの右腕を抱えたクロが店に入ってきた。




「‥‥‥」


 これで僕の疑いが晴れればいいけど‥‥‥。




 店内の時計を確認すると、結構時間が経っていることがわかった
すぐに帰るつもりだったのに‥‥‥


「あ~、澄海くーん。今日はよく会うねー。さっきはお肉ありがとー。おいしかったよ~。」


「‥‥‥(こくん)」


 正直、今日はもうゴロゴロする気にもなれないから早く帰って寝たいんだけど。


「ごめんねー。寝ちゃってー。これからは気をつけるよー。」


 たぶん、その『これから』はもう訪れないだろう。拉致られるなんてまっぴらだ


 だけど一応頷いて「‥‥‥そうして。」とだけ返しておいた


「‥‥‥。」


 ため息混じりに、二匹に引きずられるティモを見下ろすと、


「‥‥‥ティモちゃん‥‥‥。もうお弁当をくすねちゃ‥‥‥ダメ、だよ。」


「うぅ‥‥‥ごめんなさい、クロちゃん‥‥‥。」


姉弟はみんな『ちゃん』付けで呼び合うんだな‥‥‥。
おっちゃんの呼び方だけ、みんなバラバラだけど。


「‥‥‥わたし達がいっしょに‥‥‥あやまってあげるから。」


やさしく弟を叱る次女を見て、


「‥‥‥。ティモの世話が一番大変そうだね。」


 僕はポツリとタマに呟く


 アホなんだもん。思い至ったらそれまでのことを完全に忘れるほど。


「あー、わかるー? だからおっちゃんはティモちゃんには過保護なんだよねー。」


 それはそれで可愛いけど。
 やはり常識はしっかり持たせとかないといけないね。


「ほらー、ティモちゃーん。謝りに行くよ~。ちゃんとお弁当持ってるー?」


「う、うん。大丈夫だよ」


「‥‥‥。事務所はあっちだから。‥‥‥さっきティモのせいでとばっちりうけた。僕の疑いだけでも晴らしてきて。」


「ごめんなさい‥‥‥」


「‥‥‥。謝ったならそれでいいよ。僕はもう引きずらないから。」


「え‥‥‥ありがとう、澄海くん!」


 暗い顔が一転。花咲くように明るい顔になり、今にも僕に抱きつこうとするティモを二人で引きずって、僕がさっき指した事務所の方に歩き出した




 もうこの店には来ないってのは言い過ぎたが、客にそこまで言われて、しかも濡れ衣を着せてしまったんだ。店員は上からこっぴどく叱られるだろう
 ティモが直接謝りに行ったわけだし、僕の疑惑も晴れるだろう


 さっさとこの弁当を家に置いて、ママの弁当だけ届けに行こう


 9時までって言っていたから急ぐ必要はないけど、面倒事は早めに済ませてしまいたいし、またテレビ局に門前払いをくらうのも避けたい


「‥‥‥。」


 考えるのも面倒になってきた。麻雀の入門書は注文したし、届いたら全部暗記しよう
 そしたら今度はネット対戦だ
 ‥‥‥。今度猫たちの誰かが話しかけた時にでもいい麻雀サイトを聞いてみるとするか。


「‥‥‥。」


 店の外はまだ寒いな。一応弁当は温めてから持って行ってあげよう


「お~い、澄海くーん。」


 なんかきた。白いのが。


「‥‥‥。なに、タマ。」


「なにーじゃないよー。一緒にかえろー?」


 ‥‥‥。なぜすぎる


 意味が分からない
 お前、ティモ置いてきていいのかよ


 ため息をひとつ。


「‥‥‥めんどい」


「んー、ありがとー。じゃあ~、あーそのお弁当、重そうだね~、袋は半分持ってあげるよー」


 なんでそうなる。僕がめんどいと言ったならクロとティモのところに戻ればいい
なのになぜわざわざ一緒に帰るんだ。
 僕の声は聞こえてないんじゃないか?


「‥‥‥。僕の声、聞こえてるの。」


「んー? 聞こえてるよー。」


「‥‥‥だったらなんで。」


「だって~、拒否はしてないよねー」


「‥‥‥。」


 ふんむぅ‥‥‥確かに、めんどいと言っただけだ。拒絶したわけではない。ならこれはタマが正しいか。


 僕の左後ろに並んだタマは、有無を言わさず、勝手にビニール袋を半分持った。左手で。


 ―――瞬間に違和感


 とっさに身体を反転させ、タマと背中合わせにしてタマの右手首を掴む


「‥‥‥油断もスキも見せちゃいけないな、お前には。」


「バレたかー。じゃ諦めるよー。」


 タマの左手首から手を離して、その手から僕の財布が落ちるのを確認してから、歩き出す。


「‥‥‥何回目なの。スリは。」


「んー、もー20回は盗ったかなー。まー、おっちゃんに怒られて家を無くすのは嫌だからねー。ぜーんぶ気付かれないよーに元に戻しているんだよね~。気づかれたのは初めてだよー。」


「‥‥‥後ろからウェストポーチを触ろうとするからだ。」


 僕も気付くのが数瞬遅れていたら完全に抜き取られていたはずだ


 僕だってウェストポーチの中に手を突っ込んだ状態で手首を捕まえられてから初めて状況がわかったんだ。タマの手際の良さに今更ながら旋律を覚える


「怒らないのー? 財布を盗ろうとしたんだよー?」


「‥‥‥別に。終わったことだし。‥‥‥怒るのはめんどいし、疲れる。結局、元に戻すつもりだったんだろ。」


「うんー、そだよー。」


「‥‥‥。」


 だったら僕が言うことはなにも無い


 タマはなにも悪いことはしていないのだから


 スリルを楽しんでいるだけなんだ。


 それに、僕の弁当を半分持ってくれてるし、僕が楽だから
 僕は何も言わない


「あー、そろそろおっちゃんが帰ってくる頃かなー。」


「‥‥‥。」


 相槌も打たずにただタマの独り言を聞きながら帰っていると


「あー、やっとおいついたよ! タマちゃん!」


 なんか茶色いのが現れた


「‥‥‥タマちゃん、‥‥‥待っててって言ったのに‥‥‥」


 そして黒いのも一緒にやってきた


 ティモとクロは僕とタマと同じように4つ弁当の入ったビニール袋を二人で持ちながら僕らの後ろに並ぶ




「‥‥‥説教は終わったの。」


 一応ティモに質問してみた


 僕が思ったよりも早く出てきて、さらに追いついたのか。
 タマと一悶着あったりタマに歩幅を合わせたりでスピードは確かに遅かったかも


「うん! 正直にごめんなさいって言ったら許してもらったんだぁ」


 とろけそうな笑みを見せるティモを一瞥し、視線を前に向ける


 まぁ、僕に濡れ衣を着せて気まずくなった後の事務所に本人が謝りに言ったんだ。
 バツが悪かったんだろう。
 ちょっと納得。


 5時半に家を出たはずなのに、いろいろあってもう7時半だ。


「‥‥‥。」


 すごく疲れた。
 1日でここまで疲れられるものだったのか。


「‥‥‥。タマ、ここでいい。」


「ん~? じゃあはーい。」


 タマから袋を預かり、僕は道を変えた。


 こっからなら裏道を通った方が家に近いからね。


 ―――pipipi♪


「‥‥‥?」


 何だろう
 急に電子音が鳴ったから携帯を取り出してみたけど着信もなければメールも来てない


 ‥‥‥聞き間違い?


「‥‥‥あ‥‥‥修さんから‥‥‥だね。」


 クロが携帯を開いていた


 お前ら携帯使えたんだ


「‥‥‥『きょうはやっぱりひらいいんにいこう。しのびこんじゃえ!』‥‥‥だって」


「‥‥‥。」


「にゃはは! 忍び込むんだ! タマちゃん、ぼくも行っていいよねっ!」


「んー、おっちゃんが許可してくれたらねー。」


「うー‥‥‥。そこだよね‥‥‥」




 ‥‥‥。
 変な話になってきたなぁ‥‥‥。


「‥‥‥。おっちゃんはなんでいきなり忍び込むなんて言ってるんだ‥‥‥。」




 変えかけた道を戻り、三匹に問う


「‥‥‥えっと‥‥‥。タマちゃん、おねがい‥‥‥」


 まだ文字を完全に覚えたわけではないのか、クロがタマに携帯をバトンタッチした


「えっとねー『がっこうの‥‥』ふんふん~、なるほどねー。」


「‥‥‥タマちゃん、なんて、書いてあったの‥‥‥?」


「おっちゃんはー、学校の情報屋から『今夜は平医院で面白いことが起こる』っていう情報をもらったんだってー。進入ルートも教えてもらったらしいよー?」


「あは、その場のノリで生きるにいちゃんらしいね!」


「‥‥‥無理だけは‥‥‥しないで欲しい、な。」


「面白いことっていうのは~、テレビ局の撮影ってことでいいのかなー? あ~、ティモちゃん? おっちゃんから伝言。『努力値振りが終わってたら、ティモ坊も一緒に遊びにいこーや、』だって~」


「やった! にいちゃんとあそべる!」


「‥‥‥。」


 僕はため息をついて額に手を当てた




 本当に、何がしたいんだよ、おっちゃん!








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