猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第4話 早朝の散歩と猫とおっちゃんと――

日曜日が授業参観となったため、月曜日は振替休日になった。


いつも通り、家でゲームでもしとけばよかったんだけど、今日はパパもママも、おばあちゃんも、仕事で家にいない。


ふだんからつまらないのに、今日はとんでもなくつまんない。


だから、最近噂になっている心霊スポット。近所にある廃病院に行こうと思って、外に出た。暇つぶしくらいにはなるだろう。


休みの日に外をブラブラすると、なぜかクラスの連中を見かけることがある。


でも、ここはとんでもなく田舎。それに早朝。


でかい公園もないし、わざわざ外で遊ぼうとする人もいないため、そのエンカウント率はきわめて低い


――はずなんだけど………


とあるボロアパートの目の前から、聞き覚えのある声が聞こえて来た。


ふと足を止めてそのアパート『大山荘』の門に立つ


「兄ちゃん、どこいくの? ねー。」


ティモの声だった。


「最初に言ったやんけ。アパートの大家さんと相談した結果、お前たち三人をアパートに入れていいかわりに、バイトを押しつけられたって。ティモ坊、お前たちはそのバイトを手伝う為に擬人化したようなもんなんだよ。本当にあの大家さんは何者なんだか………」


褐色の青年が溜め息混じりにそんなことを呟くと、


「だったらぼくにも手伝わせてよ………。なんでぼくだけ留守番なの………?」


「………だって、このアパート………カギもないし………。」


「………」


「………」


「…………」




重い沈黙がながれた。


「ティモちゃん、私たちは、ティモちゃんに傷ついて欲しくないの。とっても大事なただ一人の弟を、危ない場所に連れて行くわけにはいかないの。………ごめんね?」


それを見かねたクロが、ティモを諭すように優しく声をかけ


「むー………。お土産になにか美味しいものが欲しい!」


「わかった。約束するよ」


「早く帰ってきてね………?」


「任せなって。ちゃっちゃと片付けてくるから、安心して待っとけ。っつっても、今日俺はフツーに学校があるし部活もあるからから夜まで戻ってこないけどさ」


そう言って、ぽむぽむとティモの頭を叩く褐色の青年。


「じゃ、フシ●ダネの努力値振りとレベルあげ、教えた通りにちゃんとやっといてね。」


「うん! まかしといて!」


いいんだ‥‥‥それでいいんだ‥‥‥。


なんだかティモが騙されている気がしないでもないが、僕には何の関係もないことだ


「おう。かわいい弟のために、気張ってくらぁ」




ティモを部屋の中に戻し、二人のネコミミ少女を連れて、こちらに向かって歩きだすと


「あー、澄海くんだー。」


早速、タマが僕の存在に気づいた


「ん、タマさんの知り合いかぇ?]


「うんー。私たちのクラスメートだよー。どーしたのー?」


「‥‥‥僕はただ、近くの廃病院にでもいこうと思っていたとこだけど‥‥‥。質問を返すよ、どうしたの? こんな朝っぱらから。」


「ほーう、行き先は一緒だねー。なら一緒に行こっかー。」


「‥‥‥僕の質問は無視なんだね」


 ま、いいけど
「‥‥‥。はじめまして、お兄さん。」


 一応社交辞令ということで、タマのお兄さん(?)に挨拶をした


「んむ。挨拶のできた子や。この子たちと仲良くしてくいやんな。」


 群青色の学ラン(っぽいブレザー)を羽織って自転車の後輪側の荷台に革カバンをくくりつけながら無邪気に微笑みかけられた


 爽やかなイメージはまるでないが、おおらかさが雰囲気で伝わるような気がした


「………それはどーだろね。この猫たちが僕の敵にならないかぎりは、少なくとも乱暴なことはしないとおもうけど」


「にゃは、結構結構。こいつらに社会の厳しさを教えてやれ、宇宙人。」


 んー‥‥‥?


僕が宇宙人ってことを知ってたのか?


「………」


「ああ、クロから聞いたんだよ。」


 ‥‥‥余計なことを‥‥‥。


「安心しな、俺友達いないから話す人がまずいないもんね」


 言葉を鵜呑みにする気はないが一応警戒しとくか。
 まぁ別に宇宙人のクォーターということを隠しているわけでもないし
 クロに言ったのも僕だし


「おっちゃんの名前はー、岡田おかだ おさむ。高校三年生だってー」


「‥‥‥ふーん」


「あ、こらお前! 身長低いとか思っただろ! 全国の167cmの人に謝れ! そんな都合よく身長高い奴らが居るのは漫画の世界だけだ! これでも俺はなぜかクラスじゃ一番背が高いんだぞ!」




 ‥‥‥聞いてないんだけど




「………それで、廃病院に何しに行くの。」


話を逸らしてお兄さんに振る


「ん? おっちゃんな、今からゆーれー退治に行くねん」


なんとも鹿児島なまりの関西弁だ
癖なんだろうか


「‥‥‥道具や能力は持ってるの?」


「うん、一応大家さんから護符と塩と藁人形と五寸釘とトンカチを何セットか貰ってきたから」


後半、物凄くおかしいんだけど


「能力? ってのは霊感のことでいいんかな? だったらこう、おばけをぼんやりと見える程度には霊感はあるよ! ある程度気配もわかるつもりやで」


‥‥‥初心者にもほどがある
それでよくあの平医院に行こうと思ったなぁ


「俺もな、本格的な幽霊退治って初めてやから緊張しとるんよ。といっても、今からは下見。今日は学校あるし、本当に退治に向かうのは今日の夜中からだにぇ」


「それで、その猫たちはお兄さんの護衛ってわけだね」


「お兄さんなんて堅苦しい。おっちゃんでええよぅ。まぁ、その通りなんだけど、ちょっとだけ違うんよ」


「‥‥‥ん?」


「たしかに、クロやタマは俺の護衛よ。じゃいどん、俺はこの猫たちを、俺の護衛ができるまで育てないといけないんだよね」


「‥‥‥なんで?」


言ってる意味がわかんない


「俺ってば、友達いないしいじめられっこだし、運動音痴だしで取り得ないし、だから、情けない話、俺はこの子猫ちゃんたちに守ってもらおう、という『天才子役の稼ぎでお母さん大儲け』作戦にしたわけ。ドゥーユーアンダスタン?」


「‥‥‥なんとなく、おっちゃんという人間を判った気がするよ」


つまり、この人はきっと、すごいダメ人間なんだ。
これが、三匹の猫と、『おっちゃん』との出会いだった





「‥‥‥護衛させるために育てるってのは、矛盾してるよね。まず自分以上の力を付けさせるために自分が教えるってのは、不可能な話でしょ。それに――」


「それに、飼い主よりも権力を持ったペットによる反逆、立場逆転を全く考えてないってかい?」


「………」


「大丈夫よ~。おっちゃんは心臓刺されたって死にゃしないよ。常にこの子たちよりも上の立場やし、それに何より」


一拍置いて、タマの頭を自身の胸板に押し付ける


「俺がこの子たちを溺愛しているように、この子たちも俺のことが大好きやからね」


タマが嫌がるかと思ったが、タマ自身が身を委ねるように体を寄せ、気持ちよさそうに目を閉じた




さすがに猫か。主人のぬくもりを感じるのが好きなんだな


[ゴロゴロゴロゴロ]




喉から猫っぽい声まで出してるし


まぁただ、懸念すべきは


「‥‥‥ロリコン?」


「断じてちがぁーう!」


そんな力いっぱい否定しなくても


「‥‥‥その、修さんは‥‥‥ティモちゃんに対しては、物凄く過保護‥‥‥なんだよね」


「クロさんん!? それもちょっと表現がちがくない?」


「‥‥‥ショタ「だからちがうって!」」


なんだ違うのか


クロがショタコンとは何かを聞き、タマが答えようとするのをおっちゃんが全力で口を塞いでいるのも、おもしろい構図だ


「ティモ坊は‥‥‥3姉弟の中でも末っ子で、しかも一番小さいんだ。そりゃいろいろ過保護にもなるさ」


「‥‥‥一番元気そうだけど」


「なんの問題も無さそうだったら、俺の遊び相手---もとい、俺の護衛についてもらうけどね」


タマから手を離して
自転車を手押ししながらしばらく歩いてゆく


「………じゃあ、その護衛の術を教える人はいるの?」


僕が何の気なしにそんなことを聞くと、おっちゃんはニマァ‥‥‥と笑い


「決まってんじゃん」


自転車を止めて前方を指差す


その指の先には


「実戦あるのみ、じゃないかなー」


平医院に到着した







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