自爆の勇者は世界と共に ‐Destruct's Hero‐

たっさそ

第8話 禁書庫<ひみつきち>



「ねえ、どこに行くの?」
「秘密基地」


 俊平はイルシオに連れられてお城の中を歩いていた。
 なにやら人けのなさそうな廊下だ。


 お城の中とは言え、さすがに人の寄りつかない場所というのも存在するだろう。
 なにせ広いのだから。


 なにやら分厚い金属でできた扉のある部屋を通り過ぎ、イルシオは立ち止まった。


「秘密基地?」
「そう、秘密基地」
「ここが?」
「うん」


 王子、イルシオに連れられてやってきた場所は、物置部屋だった。
 王子が言う秘密基地というからどういうモノかと想像したが、城の中にあるということに少しだけほっこりしてしまった。
 もっと洞窟みたいな場所や木の上など、そういった場所を想像していたのだから。


「使わなくなった道具やこわれた価値あるものがいっぱい落ちてる」
「そ、それはわかったけど………」


 イルシオが持っていた鍵で開いたその物置部屋は、埃にまみれている。
 何年も使っていない様子のその部屋に、俊平は己の主婦技術の掃除スキルが発動しそうになってうずうずしていた


「けほっ、こほっ、にーさま………ほこりっぽいのです」
「ごめんね、ネマ。ほんの少しの我慢だから」


 イルシオはそう言って物置部屋の扉を閉める


「う、暗い………」


「………光よ、我が魔力に応え、光の玉をここに」




 短く詠唱を済ませると、イルシオの右手に嵌められた指輪が淡く光、その指輪についている橙色の宝石から部屋の中を明るく照らす光の玉が現れた
 幻想的に周囲を照らす魔法の光。ここが物置部屋でなければもっと雰囲気が出ていただろうが、残念ながら漂う埃くらいしかその幻想的な光景を表すものが無いのが残念なところである


「ふわぁ~………げほっ」


 初めて見る魔法。
 興奮を隠しきれずに見とれていたら、案の定、俊平は埃を吸い込んでむせてしまっていた


「だいじょうぶ?」
「うん、平気。でも、なんでここに連れて来たの?」


 俊平は自分だけみんなと逸れてイルシオと行動しているわけで、本当はクラスのみんなと離れたくはなかった。
 しかし、いったいなんの偶然か。自分と同じくらいの身長だってだけで10歳の王子に10歳くらいだと思われて秘密基地にまで案内されているのだ。
 みんなと離れてしまうのは不安が残るけれど、王子と一緒だしここは王城の中っぽいからもしも迷子になってしまってもすぐにみんなと合流できるだろう、と割と楽観視していた


「ここは前にぼくが異世界から召喚されてやって来た陶芸品をこわしちゃったときに、それといっしょにこの物置部屋におしおきとして閉じ込められた部屋なんだ」
「へ、へぇ………」




 なぜ、という質問に対する答えではなかったが、この少年はおとなしそうな口調のわりにやんちゃそうだな、と俊平は口に出さずに心の中で呟いた。


「ここ」
「ふに?」


 イルシオがしゃがんで床のタイルを一枚外すと、そこには“隠し通路”が顔をのぞかせていた
 隠し通路、といっても子供が一人通れそうな隙間があるだけで、元はただの通気口なのかもしれないが。


「………秘密基地っぽいでしょ」
「っぽいね」
「ついてきて、おもしろいものみせてあげる」


 そういうと、イルシオはためらわずにその狭い通路の中に体を押し込んだ


「あ、まって!」


 慌てて俊平もその後を追うのだが


「ずるいのです! ネマもいくのです!」


 俊平の後ろから「まつのですー♪」とネマまで着いてくる始末であった。
 まぁ、イルシオが一緒に連れて来たのだから仕方のない事なのだが。


 その通気口は俊平がギリギリ入れる程度の隙間しかなく、イルシオも少しだけ窮屈そうにしていた。
 ネマはドレスを着ているとはいえ、俊平たちよりも一回り小柄なため、全く問題にならない。
 膝と肘を地について這いながらしばらくイルシオについていくと、奥の方に幽かに光が見えた


「あそこは………?」
「あそこが、僕が見せたかった秘密基地。物置小屋の隣の部屋。禁書庫だよ」
「禁書庫!? は、入ってもいいの!?」
「うん、禁書庫の鍵はずいぶん前に紛失しているみたいだし、扉は古代魔法が掛けられていて現代魔法技術じゃ開かない仕組みになっているんだ。それに、この禁書庫だって『開かずの間』としてあるだけで、そこが禁書庫だってお父様も侍女たちもしらなかった。だから、禁書庫の存在自体、ぼくしか知らない」


 イルシオは「よっと」と言いながらその通路から這い出ると、ぐっと伸びをする。


 俊平もそれにならって通路から出て立ち上がると、そこは本棚の上であった。


「うわ!」


 しかも、見渡す限りの本、本、本


 体育館くらいの広さだろうか。
 上も下も、右も左も、本で埋め尽くされていた。


 お城の中に、そんな広大な空間があったとは思えない。
 隣の物置部屋は12畳ほどの広さしかなかったというのに、それは異常な光景だった




「ふしぎでしょ。お城の中にはこの空間を作れるスペースは無いはずなんだ。でも、確かにこの禁書庫はお城の中に存在している」
「ど、どうして………?」


 俊平もその異常な光景に圧倒されていたため、イルシオの言葉に耳を傾けることしかできない
 眼を見開いてゆっくりとイルシオを見ると、かすかに微笑んでいるのが見えた


「この部屋は、大昔に居た当時の王様が“時空魔法”で作り上げた部屋だから」




                   ☆


 『ラージ・アクト1世』


 俊平たちが居る国を作った人物であり、稀代の魔法使いであった。


 彼は今から600年以上も前に古代魔法と呼ばれる魔法を駆使し、魔族と渡り合い、魔王軍を退けて英雄となった際、焦土と化したそこに国を作ったのが始まりだった。


 彼は数々の属性の魔法を使い、古代魔法の中でも最難関と呼ばれる“時空魔法”をもっとも得意としていた。
 時空魔法とは、“ディメンションゲート”なる次元の門を作り、そこに入れば別の場所に転移することが出来たり、魚の時間を凍結させてひと月たっても腐ることのないようにしたり、何もない場所から物を取り出したりする魔法である。


 瞬間移動もできるし、相手を遠くに転移させることもできた。


 はたまた4次元という壁を越えて過去に、未来にさえ行けたという文献まである


「コレを見て」


 俊平とイルシオとネマの3人は本棚の上に座り込みながら、古い文献を開いていた。


「あ………『当時のラージは時空魔法で、異世界を旅したとも言われる』………? これって!」
「うん、“時空魔法”はしゅんぺいたちを召喚した魔法陣に応用されているんだと思う」


 指輪の翻訳能力で俊平はその文献を読むことが出来た。


 神様の力を借りた訳じゃないのか………と俊平は顎に手を当てて考える
 神様の力とはなんなのだろう。それに、古代魔法。現代魔法がどういったものかも理解できない俊平だが、王が言っていた話に、どこか矛盾が生じているように感じるのだった




 もしも、初代の王であるラージが自力で異世界に飛べる能力チカラがあるのなら、なぜ今はそれを神の力を借りてするしかないのか。
 ラージが天才だった、というだけでは説明が付かないものがあった。


「ねえ、古代魔法と現代魔法の違いってなに?」


 魔法について、自分自身もよくわからない事であるが、それは知っておかなければならない事だと思った。
 自分たちは一応この世界で魔王を倒すためにこの世界に送られてきた存在だ。
 この世界の仕組みを知っておく必要があった。


「現代魔法は、杖や指輪、剣とか、そういうモノを媒体としてさらに呪文の詠唱をすることで魔力を外に放出し、魔法として具現化する」


「う、うん?」


「古代魔法は杖や指輪なんかを使わなくても魔法を使える。属性も関係なしに、強力なものをバンバン。古代魔法を覚えられるのは修練しだい」


「えーっと、今は杖や指輪がないと魔法が使えないってこと?」
「………(こくり)」


 魔法についてはよくわからない俊平だが、魔法技術が向上するにつれて、魔法の発動形式が簡略化されていき、古代魔法の方が廃れてしまったということだろうか。
 科学技術が発展すると、炊飯ジャーに慣れ過ぎてご飯を食べる時に釜での炊飯の仕方がわからなくなるのと同じかな、と俊平は思った。


「古代魔法の覚え方っていうのは………」
「失伝してる」
「………んなるほど」


 どうやらこの世界では釜の飯を食うことはできないらしい。
 だが―――


「この禁書庫には、その方法が眠っているかもしれない」
「そうなの?」


 釜の飯のレシピ本がどこかに埋まっているという。


「ここは初代国王のラージが時空魔法で作り上げた部屋。この部屋にいる限り、部屋の外での時間は1/100になる。この部屋に誰もいなければ、この部屋の時間は止まる。だからこの部屋の本は、劣化しないでほとんど新品のまま」


 初代国王が作り出したその部屋はこの書庫を守るためにとんでもない魔法をかけていたようだ。
 古代魔法とは、それほどまでに強力な魔法らしい。しかも禁書庫の中と外では時間の流れが違うと言う。もはや想像すらできない状況に俊平はもう難しく考えることを止めた。
 しかし、この体育館ほどの広さのある禁書庫の中から目当ての本を探すのは至難の業だと目の前の本の山を見ながら眉根を寄せていると


「ということで、持ってきた」
「え、早いよぉ、っていうか準備いいね、イルシオくん」


 俊平の意を汲んで古代魔法の習得方法について書かれている本を素早く引き抜いて持ってくるあたり、イルシオは有能であった。


「ぼくは英雄になりたいから。古代魔法を覚えたくてがんばった。でも、“読めない文字”で書いてあったから、しゅんぺいが付けているその翻訳の指輪を宝物庫からぬすんできたんだ」
「ぴゃー! それ泥棒だよぉ!」
「ばれなきゃ平気」


 王子は思いのほかアグレッシブでずぶとい神経の持ち主だった。
 俊平は手渡されたその本の表紙を見てみると


「『通魔法の基礎』、か。通魔法っていうのが、古代魔法を表しているのかな」
「たぶん。問題はその中身。文字が読めない」
「………なるほどね、開くよ」


 指輪が翻訳してくれた表紙は、この世界の文字らしきもので書いてあった。
 だが、俊平はいま翻訳の指輪を付けることによってその解読が可能となっている。


 だからこそ、意を決して本を開いた。


「え、日本語?」


 まさか中身が日本語になっているとは思わなかったが。
 表紙がこの世界の者であるにもかかわらず、中に書いてある文字がすべて日本語で記してあるのだ。
 異世界に飛ばされて、日本の痕跡を見つけてしまえば、それは驚いてしまっても仕方のない事であった。


「よめるの」
「う、うん。ちょっと字が汚いけど、なんとか」




 そこに書いてあったのは、日記形式でつづられた、一人の少年が魔王を退けるまでの英雄譚であった。
 『雷侍明人らいじあきと』それが時空魔法の使い手でもあった一人の少年の本名である。
 彼は目が覚めたらこの世界のどこかの国に召喚されてしまっていたらしい。


 彼の持つアビリティは光彦と同じ<聖剣使いソードマスター>で光の剣を召喚し、それで相手を叩き伏せるものであった。
 アビリティの関係上、彼は魔法よりも肉体派であるにもかかわらず、稀代の魔術師、時空魔法使いと語られている。


 もともと剣道を齧っていた彼は瞬く間にその才能を伸ばし、魔族をバッタバッタとなぎ倒していき―――そして行き詰った。




「え、はやい」
「本当だね。勇者だからって何でもできるわけじゃないんだぁ」
「………すぅ………すぅ………」


 俊平やイルシオが難しい話をしていると思ったネマは、ドレスを着たまま俊平の肩に頭を預けてオネムだった。
 俊平はその頭を一撫でしてから、書物に再び眼を通す。


 その頃は杖がなくても魔法を発動することが出来たらしい。
 ただ、魔法の才能があるものは限られた者だけだったそうだ。


 現在は魔力を体内から吸い出し、具現化する魔導具があるため、誰にでも扱うことが出来ると言う。
 その古代の時代では魔法を使えるものは1000人に1人。2000人に1人。そういったレベルであった。
 雷侍明人は<聖剣使い>故に魔法が苦手ではあるのだが、一般よりも多くの魔力と通力、そして高い魔力操作技術を持っていた。


 しかし。
 剣や魔法やアビリティのスキルだけでは魔族に太刀打ちできなくなってしまったのだ。


 このままでは人間族の領土は魔族に支配されてしまう。
 それを避けるために開発された魔法が、通魔法。


 “魔力”と“通力”は別の力であったが、その二つを混ぜて発動する“通魔法”は今までの魔法やスキルとは段違いの威力を誇った。


 その技術は、元々は魔族が持っていた技術であった。
 魔族を捕え、拷問の限りを尽くして情報を搾り取り、魔法技師や魔法研究員の研究の結果、知り得た情報である。


 古代魔法―――すなわち“通魔法”とは、もともと魔族の持つ技術だったのである。


 しかし、研究は難航。雷侍も研究には関わっていたのか研究については詳しく書かれている。


 通力と魔法は別物である。魔法は鍛錬次第で自由に扱うことが出来るが、通力はそうはいかない。
 なにせ<スキル>の発動に必要な力ではあるが、それがどこにあるのか、魔力とは違って感じることもできないのだから。


「………そうなの?」
「魔力を感じることは簡単。でも、通力はわからない。なにも感じられない」
「なるほどぉ」


 そこで雷侍明人は色々と試してみることにした。
 まずは魔力をすべて使い切ること。魔力をすべてなくしてしまえば、体の中に残る通力を感じることが出来るかもしれないと考えたからだ。


「ふぅん………そうだ、魔力が全部なくなるとどうなるの?」
「足りない分を生命力から絞り出して、魔力欠乏症になる。場合によっては死ぬよ」
「死………大丈夫かな………」




 結果はわからずじまい。
 では今度は通力を使い切ってみることにした。
 しかし、通力を感じることはできぬまま、通力が減るにつれて馬車酔いのような感覚に襲われ、通力を使い切るとそのまま意識を失った。
 結局、通力事態を感じることはできなかったそうだ




「もしかして通力も同じ?」
「うん。通力欠乏症。場合によっては死ぬ。体にもよくないって研究員が発表したらしい。ぼくも魔力や通力は使いすぎないように気をつけてる」




 それでも雷侍明人は検証を止めなかった。
 今度は魔力と通力を同時に使い切ってみることにした。


 自分自身が死にかねない危険な賭けであったが、実験を繰り返すうちに生命力を削ることのないギリギリまでを見極めることを覚えた雷侍には難しい事ではなかった。


 むしろ、一度魔力や通力を0にすることで、魔力の量や通力を使い切る時間、使用回数が普通の鍛錬よりも飛躍的に伸びたほどである。


 その過程で、気づいた。
 実験を何度も繰り返すうちに、気づいたのだ。


 通力というチカラを感じていることに。


 通力は、体中を流れている。
 血流にのって、リンパの流れに乗って。体中を巡っていたのだ。


 魔力は自在に操作できる。通力が操作できないのも、当然のことであった。
 全身をくまなく流れているのだ。気づかないのも、仕方のない事だった。


 そこで、雷侍明人が取った行動は、逆転の発想である。
 今までは通力を操作しようと考えて行動していたが、今度は逆だ。


 まずは“通力”を操作するのではなく、“魔力”を血流に乗せて全身に流したのだ。
 魔力の操作技術に優れていたとはいえ、魔力を血流に乗せて体中を循環させることは、二階から目薬を差すよりも難しい。


 繊細な。ミクロ単位の操作技術を必要としていたのだから。


 それでも雷侍明人はその魔力の循環を続けた。
 多少はずれていても問題ない。魔力の循環を続けていると、魔力の回復が早く、傷の回復も早くなることに気付いた。
 雷侍はそれを“通魔活性”と呼ぶことにした。


 “通魔活性”を行うことにより、次第に魔力と通力は一つに交わり、魔力と同時に通力まで操ることが出来るようになったのだ。


「………本当に書いてあった」
「古代魔法の習得方法………」


 融合した二つの力を“通魔力”と名付け、その二つを混ぜ合わせたただの火の玉は、たちまち業火球へと進化を遂げた。


 そこまで力を込めたつもりはなかった。
 しかし、これほどの成果を得られたのだ。


 魔力と通力の融合。それは、全く新しい魔法形態を生み出すことにもつながった。
 雷侍明人の持つ属性は“火”と“光”と“雷”である。


 しかし、通魔力の消費が激しくなるとはいえ、自分の魔法適性に無い、強力な“水魔法”を放つことが出来るほどであった。


 そのことから、さらに研究を重ねる上で一つの結論に至った。


 “通魔力は渇望を現実に変える力”である。


 凝り固まったイメージは柔軟な発想を阻害する。


 真っ白な状態で自分のしたいことを、頭から煙が出るまで考え続け、通魔力を練る。
 ひと月。ふた月。と日々は過ぎてゆき、そして出来上がったのが、雷侍明人の代名詞でもある、“時空魔法”である




 しかし、それは誰にでもできる魔法ではない。
 時空を歪めるその魔法は、数十年にもわたる実験を繰り返すことによって途方もない量の魔力と通力を手に入れた雷侍明人だからこそできた魔法なのだから。


 いつしか、通魔法の研究は魔族よりも進んでいた。
 そして、毎日のように実験を繰り返した雷侍は、誰にも負けない強さを手に入れていた。


 その時空を歪める力で魔王の時間を凍結させて魔王を封印し、魔族は自分たちの領地へと逃げ帰ることになったのだ。


 もとは“聖剣の勇者”。


 のちに“時空の勇者”として祭り上げられ、戦乱の痕である焦土と化したその地に国を作り、豊かにした


 それが、ここ。アクト王国。そこの王として、雷侍明人らいじあきとが前の名前を少しだけ残した『ラージ・アクト1世』が英雄王として世界に名を残したのだという


 彼が渇望したことは、元の世界に戻ること。
 時空魔法を編み出した彼は、元の世界に帰ってはたして居場所があったのか。


 ラージ・アクト1世としてこの世に名を残していることから、容易に想像することが出来た。


                   ☆






 禁書庫でこの世界の歴史に触れてから、俊平はふへーっとため息を漏らす。


「古代魔法ってすごいんだねぇ」
「でも、現代魔法がむかしよりも誰でも魔法が扱えるように簡略化されているせいで、杖がなくちゃ魔法が発動しないようになってしまっている。それに、魔力や通力を使い切るのは死ぬ危険がある。そう簡単にはできないことも原因」
「そうかもね」


 魔力というモノについての実感がない俊平は頷くことしかできない


「でも、やってみるかちはあると思う」
「そっか」
「だから、ぼくはやってみる。時間を見つけて、この禁書庫の中なら時間はいくらでもあるから」


 禁書庫の中では時間の経過が1/100になる。
 イルシオはそれを利用して魔力と通力の増幅を短時間で行おうとしているらしい


「僕も協力するよ。でもまずはみんなのところに戻ろう。古代魔法のことをみんなに伝えた方が、魔王討伐の為になると思うし」
「それはやめた方がいい。現代の魔法技術に慣れた人には、理解のされないものだから。研究員も混乱する。ぼくは“魔力”と<アビリティ>が発現したばかりだから大丈夫だけど、現代魔法に慣れてしまっているひとには、たぶんもうできない」


 俊平はみんなにも古代魔法の秘密を知らせようとするのだが、イルシオはその後の未来を考えて首を振った。
 現代魔法に慣れているモノに、杖も使わない魔法。それに“通魔法”を使えるとは思えなかったのだ


「な、なんで? みんなも使えた方がいいんじゃないの?」
「………『凝り固まったイメージは、柔軟な発想を阻害する』これは今も王宮に残る初代国王のことば。常にあたらしいものをめざすためのことば。そして、古代魔法をつかううえで一番たいせつなことばだと思う。………だけど、現代魔法になれきったいまの魔術師たちに、古代魔法はあいしょうが悪すぎる。異世界人にはいいかもしれないけど、いまの魔術師は、こんなはなしは信じない」
「そ、そうなんだ………」


 俊平には何の事だかよくわからないけれど、イルシオが言うならそうなのだろう。
 と深く考えても自分にはわからないのだし、適当に頷いておいた。


「ネマ、起きて」
「はいなのです………」
「戻るよ」
「んー………」


 眠い目をコシコシと擦ってイルシオの手をつなぐ。
 ネマを連れて再び通気口を通る俊平達。


 本は通気口の近くに置きっぱなしにしておいた。
 この広さの禁書庫をいちいち歩き回るのも面倒だからだ。


 俊平とイルシオは再びこの禁書庫に立ち入ることを約束し、玉座の間へと戻った。









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