自爆の勇者は世界と共に ‐Destruct's Hero‐
第4話 異世界召喚
俊平が意識を取り戻して最初に感じたものは、『やわらかさ』と『あたたかさ』だった
「んぅ?」
自分は何かに包まれているという感触で、心地よく目覚めることができたのだ。
なぜこんなに気持ちよく起きることができたのだろう、と首を捻る俊平。
「んっ………」
すると、頭上から艶っぽい声が聞こえてきてビクリと身体を揺らしてしまう
その拍子に、ふにょんっ とナニカが自分の顔によって押しつぶされるような感覚があった
コレはなんだと思うと同時、ずっとこのぬくもりに包まれていたいという欲求に駆られる。
今までに感じたことのないようなこの気持はなんだろう。考えてもよくわからない。
そもそもいま包まれているこれはなんだ?
そう思って俊平は体を起こすと、そこには―――
「ひゃっ! ゆ、縁子ちゃん!?」
目の前に縁子の顔があったのだ。目が覚めたら目の前に女の子の顔があったら動揺してしまうのは当然であった
ということは、今まで自分が包まれていたものは………
俊平は自分の身体を見回すと、縁子に腕を回されて抱き着かれているような恰好で寝ていたのだ。
そう、縁子の胸に抱かれて。
そう思うと急激に顔が熱くなってくるのを感じた
いくら俊平でも精通がまだだとはいえ、異性に抱かれて何も感じない程鈍感ではない
雑念を頭を振って追い出し、縁子の腕から這い出すことに成功する。
そういえば、なぜこんな状況になっているんだろう。と先ほどまでの記憶を掘り起こす
たしか………白い光に巻き込まれて、その数瞬前に縁子が自分に向かって手を伸ばしていたような気がする。そこまで考えてこの状況に多少の納得はできた。
(じゃあ、その白い光はなんだったんだろう?)
しかし、考えても、その答えばかりはわかるものではなかった。
とにかく起きて状況を把握しなければ。
そう思って体を起こし、あたりを見渡すと………
「ふにぁ!?」
クラスメイト全員が床に倒れ伏していた
どうやら目を覚ましたのは俊平が最初だったらしい
驚いてしまったものの、先ほどまで自分も気を失っていたのだ。なんとか冷静になろうと努め、そこからさらに状況を分析する
(僕たちがいるのは………部屋? それも教室と同じくらいの大きさだ。)
さらに俊平は視線を床に向けると
(床は………魔法陣?)
おぼろげな記憶ながら、気絶する前に見た魔法陣に似ているような気がする
ここはどこなのか。教室はどこに行ったのか。そもそも地球なのか。
さまざまな疑問が産まれてはすべて解決することなく疑問のまま消化不良を起こす気持ち悪さを胸に、俊平は立ち上がる。
どのくらいの時間横になっていたのかは不明だが、軽く眩暈をおこし、ふらりと身体が揺れる
痛む頭と眩む視界に、顔をしかめて手を頭に持ってくる。
しばらくすると貧血も収まったのか、視界に明るさが戻ってきた
今何時だと時計を確認すると
「気絶してたのは10分くらいかな」
HRの開始時間とどんちゃん騒ぎを計算に入れ、現在の時刻との照合を行い、気絶していた時間を逆算する
意識を失っていた時間はわりと短いようだ。
現在の状況を掴めないが、それでもやらなければならないことはある。
「縁子ちゃん、起きて!」
ゆさゆさと縁子の身体を揺さぶって縁子を起こす俊平
いっしょにゆさゆさと二つの弾力が揺れるものの、俊平は務めて視界から外したようだ。
「ん、ここは?」
寝ぼけ眼で辺りを見渡す縁子
「俊平くん、ここ、どこ?」
「ごめん、僕にもわからないよ。僕も今さっき目が覚めたばっかりなんだ」
何もわからない。いきなり魔法陣が現れたかと思ったら、この状況なのだ。
自分たちが居るのは大きな部屋のだ。その部屋の中では、俊平のクラスメイト達が先ほどまでの自分と同じように気絶していたのだ
しかし、なぜこういう状態になっているのかがわからない
わからないが、行動を起こさなければ何も起こらない。
「とりあえず、みんなを起こさないと」
「そうだね、じゃあ僕は男子の方を………」
俊平達はさっそく、気絶している生徒たちを起こすために奔走することにした
「う、ここは?」
「何が起こったんだ? なんで俺っちはここで寝てるんだよ」
「説明は後!というか僕にも説明できそうにないから、とりあえずみんなを起こすのをてつだってよ!」
まずは比較的近くにいた根暗の浩幸とエロガッパの佐之助に声をかけると
二人とも気絶する前のことは覚えていたようで、自分と俊平の持っている情報量に対して差がない事を理解した二人は頷いた
「………それもそうだな。まずはみんなを起こしてからだ。
ここはどこでなんで気絶してたかなんて、今考えてもわかるもんじゃねぇしな」
「わ、わかった。と、とりあえずみんなを起こそう」
浩幸と佐之助はすぐに了解し、クラスメイトたちを揺すり起こす
俊平の働きかけにより、雪達磨式に起こす人数が増えてきているため、クラスメイト全員が起きるのにそう時間はかからなそうだ
☆
「ん? あの子は………?」
クラスメイトを起こしながら移動をしていると、部屋の隅に見知らぬ女性が倒れていることに気付いた
「俊平くん、どうしたの?」
「緑川、何かあったのか?」
クラスメイトしかいないこの空間に、明らかに知らない女性が倒れている。
俊平がこの女性を起こすか検討していると、後ろから縁子と目を覚ました光彦、あとついでに矢沢聡史が声をかけてきた
「うん、なんか知らない女の人が倒れてたんだ。もしかしたら、僕たちの身に起きたこの不思議な現象について、何か知ってるかもしれないよ」
「そうだね、起こしてみよっか」
「ああ、それがいいだろう。」
俊平が女性が倒れている方に近寄ると、その女性は、まだ少女と言っても差し支えない女の子だった。
年は、だいたい光彦や縁子たちと同じくらいだろうか。
137cmの俊平と年齢を比べるのは少々難しいというものだ。
少女の服装は、やたら質素な神官服のようなモノ。
いかにも「なんらかの儀式を行う」ための服装だ。
あやしい。怪しすぎる。
「ん、んうぅ」
苦しそうに息を漏らし、寝返りと同時に金糸のようなきめ細やかな綺麗な金髪が少女の首筋に流れた
その表情は悪夢でも見ているかのように苦痛を表していた
「大丈夫? 苦しいの? 眼を開けて!」
俊平は慌てて少女に駆け寄り、体を揺する。
寝返りを打っていることから、命に別状はないと思いたい。
俊平たちと同じように気絶していただけの可能性もある。
「うぅーん………はっ!」
「ぴゃあ!」
バチィ! と目が合った
あまりに唐突に目を開いたもので、びっくりして飛びあがってしまった
しかし、それも一瞬のこと。
その瞳は碧色。ブラウンの瞳しか見たことのない俊平は、不躾にもその瞳に見入ってしまっていた
「えと、うなされてたみたいだけど、大丈夫?」
日本語が通じるのかどうかも不明な状況だが、一応聞いてみた。
しかし、少女はキョロキョロとあたりを見渡し、部屋の中に大量の人間、つまり俊平のクラスメイトたちが居ることに目を大きく見開いた
「クェルトルゥスーラ! スーラ! ヤーーー!」
先ほどうなされていたのはなんだったのかと言うほど、元気に跳ね起き、何語かとも知れない言語で奇声を放った。
立ち上がった瞬間、先ほどの俊平と同じようにフラリと立ちくらみを起こしたらしく、体のバランスを崩してしまっていたが、我らが生徒会長、虹色光彦が優しく少女の背に手を添えて彼女を支えていた
奇声を放った少女だが、奇声というよりも喜声と言った方がよさそうな歓喜の声であった。
「言語は………通じないみたい、ね」
「………そうだね。でも、なんかすっごく嬉しそうだね」
なにを言っているのかはわからないが、『スーラ! スーラ!』と嬉しそうに連呼していることから、『やったぁ!』 もしくは『よっしゃ!』といった喜びを表現していると思われる
「ニェルスミレィサン、“アクト”アフリィアセッド!」
そう言いながら、少女はおもむろに光彦の手を取った
「え?」
ブンブンと光彦の手を握って握手する美少女に、光彦も困惑の表情を隠せなかった
終いには彼女は目に涙を溜めて早口で光彦に言語の理解できない何かをまくし立てていたので、もう収拾がつかなかったのだ
「なんなんだ、どういう状況なんだ、これは?」
「私に聞かれても………。とにかく彼女を落ち着かせてみたら?」
「うん、僕もそうした方がいいと思う。」
クラスメイトたちもブンブンと光彦の手を握って握手している美少女に興味を持って俊平の近くへとやってきていた
「何事だっぜぃ。俊平、あの子は?」
「み緑川、あ、あの金髪の美少女はいいったい。フヒッ、あとゆ、縁子から、離れろ」
「光彦君、ゆかりん、俊平ちゃん。何の騒ぎなのカナ? おじさんにはさっぱりで」
「あいたたた、一体何が起こったのじゃ………」
「俺は………」
その中でもとくに個性の強い四人が代表して現れたようだ。
エロガッパの佐之助が頭で手を組んだまま歩いてきた
根暗の浩介がその後に続いてやってきて、金髪の少女を見ると鼻の穴を膨らませる。
篠も起こされたばかりで頭が働いていないのか、すこしフラフラとしながらも一番重要そうな場所を嗅ぎ付けて来たらしい。
頭に葉っぱを乗せた妙子も、腰につけた瓢箪を抱えて、少し頭を打ったらしく、右手でこめかみを押さえながらもこちらに歩いてくる。
「んー、僕にもわからないんだ。そもそも、言語が通じてないみたいだし、どうしようもないのが現状だよ」
俊平がそう言うと、篠と佐之助は顔を青くする
それはそうだろう。いきなり見覚えのない場所に飛ばされ、しかも重要な情報を持っていそうな人間が居るにもかかわらず、言語が通じないのだ。
それはすなわち、情報を得ることが出来ないということを意味する
「言語が………」
「通じないの?」
「フヒ、い、異世界召喚の類かな」
「ふむ………」
「誰だ!?」
坂本のその異世界転移などという突拍子もないはずのセリフに、一同は口を詰まらせ、そんな馬鹿なと一蹴することは出来なかった
そのくらいの出来事でなければ、今現在目の前で起きている現象を説明できないからだ
「ルニェ?」
俊平たちが必死に状況を分析しようと頭を悩ませていると
金髪の美少女は今更ながら、自分が30人ほどの人間たちに囲まれていると気付いた
皆が皆、自分を見ている、しかもひそひそと聞こえる声は全く知らない言語である
「………!(ぽん)」
少女は光彦から手を離してぽんと柏手を打つと、神官服と思われる服装のポケットから一つの指輪を取り出し、装着した
「申し訳ありません、コレで言語の方は通じているでしょうか」
と、今度は指輪を嵌めた瞬間に、言語が通じるようになって混乱が増す一同
不自然の無い、流暢な日本語だった。
ただし、それはどこか吹替え版の海外映画のように、口元とセリフがかみ合っていない。
どうやら先ほど少女が嵌めた指輪が、言語を理解させてくれる機能を持っているらしい
「ええっと、はい。ちゃんと聞こえてますよ?」
困惑しながらも一番近くにいた光彦が代表して返事を返す
「あぁ、よかった。本当に私はどんくさくて………いっつも大事なことをすっぽかしてしまうんですよね。でも、本当に、召喚に応じてくださってありがとうございます!」
「あ、あの、そもそもここはどこなんだ? 召喚ってなんだ?」
言葉が通じるようになったならと、ここぞとばかりに光彦は少女に質問する
「はいっ! それについては順を追ってご説明いたします。ええっと、私は今回神官を務めさせていただきました、“ミシェル・ルルディア”と申します。“ミシェル”とおよびください。それでは、まずは私についてきていただいてもよろしいでしょうか。みなさま一緒にお願いします」
“みなさま”と言いつつ光彦の手を取って頬を赤らめる神官服の女性。
状況は理解できずとも、鈍感系主人公虹色光彦を除いたクラスの連中はすべてを察していた。
『ああ、また光彦に惚れたな』と。
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