楽して痩せる!☆ゴーストダイエットプランナー☆

たっさそ

第9話 イケメンと食物繊維



「で、なんでまたアンタとレジが一緒なわけ?」
「あ、おにいちゃん!」
「偶然だな」


 レジに到着したら、ちょうど一つ前に並んで居たのが、件の少女とゆりかちゃんだった。
 チラリとかご覗いてみると、ゆりかちゃんが持っていたお菓子、そして豚肉、豆板醤、甜麺醤、カレールゥ、玉ねぎ、ジャガイモ、ニンジン、山椒。
 なるほど、カレーか。


「ストーカーでもしてるんじゃないの?」
「バカな言いがかりはよしてくれ。冤罪の被害者というのは散々な人生を歩むことになる。イケメンになる前に俺の人生を詰ませないでくれよ」
「………どうだか」


 どうやら疑念は晴れないらしい。
 そんな状態で、俺の持つ買い物かごに視線を向ける少女。


「あんたのほうは………意外ね。もっとお菓子とか脂ものとかを入れてると思ったのに、キノコ類と野菜ばっかりね」
「キノコは水溶性食物繊維が豊富だからな。水溶性食物繊維は脂肪を溶かしてくれる働きがある。キノコダイエットなるものも存在するくらいだ。キノコはダイエットにいいぞ」
「ふーん」




 興味なさそうだったが、ダイエットという言葉を聞いて、少し耳を傾け始めたようだ。




『シノブくん、水溶性食物繊維とか、不溶性食物繊維とかって、何が違うの?』


 と、ここで買い物かごの中に入れたキノコのラベルに描いてある文字を見ていた天使のサクラが質問をしてきた。


 丁度いいから説明してやろう


「水溶性食物繊維は名前の通り、水に溶ける種類の食物繊維だ。これは糖質の消化・吸収を緩やかにして血糖値の急上昇を防いでくれる。まあ、簡単に説明すれば、余分なものを体に吸収させないようにする働きがあるんだ。そして、余分な脂質を吸着して排出する効果もある。ダイエットにうってつけだろう?」
「………そう聞くと効果的に聞こえるわね」


 どうやら完全に興味を持ったようだ。


 ここで畳みかける。


「不溶性食物繊維は、水に溶けない代わりに胃や腸で大きく膨らむことが特徴だな。それによって、『満腹感を得られやすい』というのが最大のポイントだ。不溶性食物繊維が胃や腸内で膨らみ、腸内環境を整え、毒物を排出する――いわゆるデトックス効果が期待できる。そうすることによって、便通がよくなり、代謝が上がり、よりダイエットの効果が高まる」




 俺の身振り手振りを交えた力説に、レジのおばちゃんや周囲のお母さん方が耳を澄ませているのが判る


 だが、それを少女は鼻息一つで笑い飛ばした


「けど、あんたの腹を見たらその効果のほども疑問ね」




 少女のそのセリフによって周囲から『効果なんてないじゃん』という期待が外れた落胆のため息が聞こえてきた


 ほしい反応をありがとう奥様方。ここからが本番。
 上げて落として、逆バンジーだ!




「っふ、本当にそう思うか? ちなみに俺は、本気の死ぬ気でダイエットを始めて5日目だ。だが、5日目にして120kgあった体重が現在なんと109kgになっている。たった5日11kg減だ。これで効果がなかったなんて絶対に言わせねえ!」
「じ、11kg減!!?」


 それを、声を大にしてスーパーの中に響かせる。
 あまりの減量に少女の方も驚いた様だ。


 ガタッ! と奥様方が駆け足でキノコのコーナーへと足を向けたのが分かった


 当然だ。まだ途中とはいえ、ダイエットの成功例が目の前にいるのだから。


「もちろん、肉体の限界を超えた筋力トレーニングとプールに通って有酸素運動をして効率的に脂肪を燃やしているっていうのも大きいがな。主食は米ではなくおから。肉は極力食べないようにして、主に野菜を食している」
「へえ、なんかすごい頑張ってんじゃん」


 目を丸くして俺の顔を見つめる少女。


「デブでも見直したか?」
「正直、見直した」


 おっと、そんな正直な感想が来るとは思わなかった。少し予想外だ。
 ここは少しからかって好感度を下げておこう


「惚れてもいいんだぞ」
「それは無い。寝言は寝て言えデブ」
「これは厳しい」


 すぐさま軽蔑の視線を送る少女。
 だが、そんなことを意に介さない人物が自分自身と、足元にいた


「おにいちゃんすごいね、なんでも知ってるんだね!」


 そう、何を隠そう、少女の妹。ゆりかちゃんである
 ゆりかちゃんはもう俺に対してどもることもなくなったのか、にこーっと花咲く笑顔をこちらに向ける


「そうだよゆりかちゃん。イケメンはなんでも知ってるんだ。いっぱい勉強しなきゃ、おにいちゃんみたいなイケメンにはなれないんだ。ゆりかちゃんもおうちでお姉ちゃんと一緒にお勉強をがんばろうね」
「うんっ! ゆりか、おにいちゃんみたいな「いけめん?」になる!」
「えらいぞゆりかちゃん!」


 ポンと頭を撫でる。
 にへっと崩れる笑顔がまたキュート。


「………誰がイケメンよ。友梨佳に変な事吹き込むな。ピザでも食ってろデブ」
「ふん、俺がイケメンだ。俺が激ヤセしてイケメンになれば、ウソを教えたことにはならない。今日ここで出会ったのも何かの縁だ。今の俺のピザデブ体型を覚えておくがいい。半年後にこの姿を見れば笑い転げることになるだろう。なんなら写真に収めてもいい」


 スマホを取り出してカメラを起動し、ゆりかちゃんに手渡す




「ゆりかちゃん。おにいちゃんの写真を撮ってもらってもいいかな」
「いいよ」


 写真の撮り方は知っているみたいだ。
 最近の現代っ子はすごいな。


 しこを踏む、そしてお相撲さんの構えでカメラを待つ。
 俺をカシャっと撮影して見せてくれる


「よし、このピザデブは保存だ。ありがとう、ゆりかちゃん」
「えへへ~♪」


 ご褒美だ。イケメンハンドで撫でてあげよう。


「………あんたって、そんな明るい性格だったっけ」
「ふん、人は変わるものさ。人格さえ、変えようと思えば変えられる」


 といっても、人格どころか肉体を乗っ取った別人なのだがな。
 おっと、ほら少女よ、レジが空いたぞ。早く会計をしちゃいなさいな




「………そんな性格なら、学校に来ても大丈夫だとおもうけど」


 レジ台に買い物かごを乗せながら、少女はボソッとそんなことを呟いた。


「む? 俺が引きこもりだと知っているのか? そういうお前は、俺と同じ学校の生徒なのか?」


 疑問に思って口にすると、少女は驚愕の表情で俺を見つめる


 しまったな、レジの前にサクラにこの少女との関係性を聞いておけばよかった


「あんた、本気で言ってんの?」
「学校にはしばらく行ってないからな。正直、誰かもわからん」
「はぁ、同じクラスよ。アンタんちもあたしの二軒隣だし。藤本千里。あんたと話したことはあんまりないけど、一応知ってるでしょ」




 その言葉に、ちらっとサクラを見つめてみると


藤本千里ふじもとちさとちゃん。高校1年生。家が近いから当然、少学中学と同じ学校だね。現在は妹ちゃんと二人暮らし。両親は事故で他界しちゃってるけど、なんとか遺産でやりくりしているみたい。千里ちゃんが妹ちゃんのお母さん代わりに食事と幼稚園の手続きとかを頑張ってくれているみたいだけど、さすがに学生の身分じゃ時間の融通がきかないみたいだねー。ノブタカくんは偶然にも高校も同じみたいだけど、ノブタカくんは高校デビュー早々におデブでからかわれて学校に行きたくなくなって不登校になって今に至るよ』


 なるほど、助かる情報をありがとう。
 ゆりかちゃんと二人暮らしか。
 ゆりかちゃんはまだこんな小さいのに、寂しい生活をしていることになるな。これはかわいそうだ。


「む? となるとノブタカはこんなに美人の幼馴染が居たのか。まったくもってピザデブなのがもったいない」
「あんたと幼馴染とかやめてよほんと」




 嫌悪感丸出しで毒を吐くチサト。すこし見直したといっても、もともとの好感度が下の下なのだろう。
 そんなことは知っているさ。


 接点がなければ幼馴染でもない、他人だ。


「だが安心しろ。3日後、俺は学校に赴くことになる。これは決定事項だ、チサト」
「え、来るんだ、学校。てか名前で呼ぶな、気持ち悪い。」
「もちろん断る。それに学校に行かなくては俺のイケメンリア充学校生活計画が無駄になる。痩せてイケメンになり、モテモテになることがなによりの目標だ」
「なんか同機が不純なんだけど」


 再び軽蔑の視線。


「不純で結構。目標は大きくしなければやりがいがない。一応、応援でもしておいてくれ」
「しないっつの。でもま、たしかにあんたが学校で過ごせるんだったら、そこだけは応援してあげる」




 会計を終えたチサトが買い物かごを運んで袋詰めできる台へと持っていく。


「美少女の応援は百人力だな。ゆりかちゃんも応援してくれるかい?」
「?? よくわかんないけど、おにいちゃんをおうえんするよ!」
「いい子だ」




 ポンとゆりかちゃんの頭をなでると、少女からの視線が厳しくなり、ボソッと呟かれた。


「………ロリコン」
「男はみな子供好きさ」
「ゆりかに何かしたらあんたを殺してやるから」


 どうやら少女の眼を見れば本気の様だ。殺すとまでは言わないが、殺気がビシビシと飛んでくる。


 しかし、イケメンはこんなことでは動揺しない。
 おっと、そうだ。俺はチサトのことを名前で呼ぶが、チサトの方は俺のことを一度も『あんた』としか呼ばれていない。
 ここは訂正しておこう


「好きにすればいいさ。それと、知っているだろうが、俺の名前は『あんた』ではない、信孝ノブタカだ」
「ふん、呼ばないわよ、あんたの名前なんて。あんたみたいなデブと仲がいいなんて思われたくもないしね」


 素直じゃないことは知っている。


「それは別に構わん。せめて俺のことは愛称をこめて、『ブタくん』と呼んでくれ」
「自分でその名前を定着させるんだ」
「事実、ピザデブだからな。デブであるという事実を認めなくてはダイエットは始まらん」
「………ふぅん」


 すこし視線を上に向けて逡巡すると


「まあ、名前を呼ぶよりは呼びやすいかしら。ブタくん」


 見下し、舐めるような視線でそう呼ぶチサト。


「上出来だ。ゆりかちゃんも、おにいちゃんのことを今度からそうよんでくれるかい?」
「ぶたさん?」
「お、いいね。じゃあ今度からおにいちゃんは『ブタさん』だ」
「ぶたさん!」




 ぴょんと跳ねるゆりかちゃん。


「これからも、ブタさんと仲良くしてね」
「うんっ!」




 さて、チサトの会計も終わったようだ








 話も打ち切り、ゆりかちゃんに手を振ってから俺も会計を済ませる。


 これは気合を入れて2日間はダイエットにいそしむとするか。


 さすがに2日でのこり9kgは無理がある。登校までに100kgを切っておきたかったが、初期ボーナスもここらあたりで限界だろうし。
 ………もっとダイエットのアプローチを変えてみるか。









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