楽して痩せる!☆ゴーストダイエットプランナー☆

たっさそ

第7話 イケメンと筋トレとロリコン疑惑



「イケメンに、不可能はなぁぁぁああい!!!」




 全力バタフライ。




「イケ、メン! だぁああアッシュ!」


 イケメン水中ダッシュ。




「イケメン―――全力平泳ぎ!」




『おーい、シノブくん。あんまり無茶したらノブタカくんの肉体が悲鳴をあげちゃうよ』
「ふぅ、それもそうなんだが、イケメンである俺がノブタカの代わりに脂肪を落とさねば、ピザデブのままだからな。気合入れて脂肪を落とさないと」


 俺は、市営プールで青春の汗――もとい汚泥の脂肪を燃やし、汁を吹いていた。


 ピザでも中身がイケメンだからな。当然、きれいなフォームで泳げる。


 基本的に足を地面に付けずに立ち泳ぎを意識する。
 イケメンに休息など無い


 サクラが心配して声をかけてくれるが、そもそもこの肉体は俺の肉体ではない。
 だから無茶ができる。




『まあ、たしかに、受付の人がノブタカくんの体形を見て苦笑していたよね』
「ピザだからな。しかたないのだ。だからこそ、全力で痩せる」
『でも、どうしてそんな無茶してるの? 初日から全力でダイエットしてるし、なにかあるの?』




 今まで怠惰に過ごしてきたデブにはハードなメニューだ。
 なぜ、それをやっているのか。


「ふむ、サクラはスリムだから知らなくても仕方がないことかもしれんが………」




 俺は梯子に手をかけて水中からプールサイドに上がり、ベンチに腰掛ける。


 甘味の少ないスポーツドリンクで喉を潤すが、水中という負荷が大きくとも体重をカットしてくれる環境を抜け出して、疲労とともに体が一気に重くなる




「ダイエットには『初回ボーナス』というものがある」
『しょ、初回ボーナス!?』
「そうだ。『初期ボーナス』ともいう。」


 素っ頓狂な声を上げるサクラに、俺は頷いて返す。


「ノブタカの体重は120kgだ。正直なところ、この体重から10kg痩せたところで、見た目の変化はほとんどない」
『そうだね、デブがデブのままだもん』
「脂肪が多いということは、減らせる脂肪が多いということ。ダイエットを始めて1週間ほどは、ダイエット中の肉体に脂肪が慣れず、爆発的に脂肪を燃焼させてくれる期間がある」
『へ、へぇ………』
「その間に、一気に脂肪をこそげ落とす」
『なるほどね、だから最初にキツイメニューで脂肪を燃やすんだ』
「まあ、初期ボーナスではどれだけ頑張っても、体重が減ったところで見た目の変化は無いがな」
『身もふたもないね』
「事実だ。1週間ではそれが限界。停滞期は、学校に行きつつ、地道に消すしかない。ただ、ノブタカは消費できる脂肪をいっぱい蓄えているから、学校でも痩せることはできるだろう」




 そしてようやく、学校生活に入ることができるのだ


「さて、もうひと泳ぎしたら、家に帰って昼飯を食い、昼寝をする」
『あれ、食べてから寝たら太っちゃうんじゃ?』
「べつに寝入るわけではないさ。15分くらい、仮眠をとるだけだ。昼寝は午後を効率的に動くためには都合がいいのだ。疲労の回復もできるしな」
『なるほど………』


 飛び込み台に乗って、イケメンフォームで飛び込んだ。




「イケメンクロール!!」




 説明しよう。イケメンクロールとは一瞬で自分の脂肪を燃やし、消費カロリーを大幅に上昇させ、相手は死ぬ!






                  ☆




「全身が筋肉痛で死にそうだ」
『無茶するから………』
「体を休ませて筋肉を修復させることも大事なのはわかるが………今は無茶をする時なのだ」




 それに、ノブタカの肉体が壊れない範囲を見極めて、きちんと体力の調整と休息を入れている。


 問題はない、はずだ。




 自転車でギコギコと坂道を立ち漕ぎしていると、もうすぐ家は目の前だ




 すると、ふと5歳くらいの女の子が公園でボール遊びをしているのが目に入った。
 他にも子供は居るが、どうやら馴染めていないようだ


 チラチラと鬼ごっこをしている他の子供たちのことを気にしているみたいだが、どうやって話しかけたらいいのかがわからないと見える。


「あの子は………」
『昨日の転んで泣いてた女の子だね』
「あの子、幼稚園とかは?」
『どこも幼稚園が受け入れなかったみたいだよ』
「ふむ………。少子化に伴って保育士の数が減少しているのも問題だな」


 親御さんの姿も見えない。


 さすがに心配だ。少し声をかけてみよう
 公園に入って、自転車を置く。


 昨日のように、息を荒くして失敗しないように呼吸を整えてから


「みんなと一緒に遊ばないのかい、お嬢さん」
「………!」




 ビクリと肩を震わせてこちらを見上げた


「あ………き、ぅぁ………」


 どうやら、緊張しているみたいだな。
 保育園や幼稚園に行っていないと、同じ年頃の子供との交流が無い。


 扱い方がわからなくなる、話しかけ方がわからなくなるんだ


 俺はそんな彼女にしゃがんで視線を合わせる


 うお、しゃがむだけでキツイ
 だが、イケメンである俺がこの程度で表情を変えるわけにはいかない


 がんばれ俺!


「大丈夫。お兄ちゃんは怖くないよ。お嬢ちゃんのお名前はなに?」
「………ゆりか」
「そっか、ゆりかちゃん。かわいいなまえだね」
「………(にへ)」


 自分で名前を言って、名前をほめてもらえれば、うれしくなったのか、少しぎこちない笑みを浮かべてくれた


「あっちの鬼ごっこをしている子たちをずっと見てたよね。混ざりたいんでしょ?」
「………(コクリ)」


 控えめにボールを握って頷いた
 混ざりたいけど―――


「混ざり方が、わからない?」
「………(コク)」


 正直に頷いてくれる。えらい子だ。


 名前は答えてくれたけど、それ以外は全部頷くだけ。
 引っ込み思案なんだよ。
 こういう子は、言葉を発することに、すごく勇気がいる。
 となれば


「それじゃ、勇気の出し方を教えてあげよう」
「………?」


 首を捻るゆりかちゃん。
 そんな彼女に、俺は手を差し出す


「おにちゃんの手を握ってみて」
「………」




 おずおずと俺の手を握るゆりかちゃん。
 ちいさくてぷにぷにして、かわいい手だ。


「それじゃ、お兄ちゃんと同じことを言ってみて。『一緒にあそぼっ』」
「………いっ………しょに………うぅ………」




 言えないようだ。難しいな。
 さて、どうしようか………あ


「ゆりかちゃん。お兄ちゃんのこと、こわい?」
「………? (ふるふる)」


 ゆりかちゃんは俺の眼を見つめて、首を振る。
 怖がられてはいないようだ。


 純粋で、おデブでもまっすぐに俺を見てくれる。




「ゆりかちゃんと、お兄ちゃんは、なかよし?」




 ゆっくりと名前を呼びながら、ゆりかちゃんと自分を指さして聞いてみると


「………。」


 ゆりかちゃんは少し考えたうえで


「………(こくり)」


 と、頷いた。
 正直、俺的には仲良しではないだろうとツッコミたいが、純粋な子供は自分の内側に入ってきたやさしいものを味方として認識してくれる。


「そっかぁ。ありがとう、ゆりかちゃんにそう言ってもらえるとうれしいよ」




 俺はやさしくゆりかちゃんの頭を撫でる
 俺のイケメンハンドにかかれば、ゆりかちゃんは気持ちよさそうに目を細めてくれた
 小さい女の子の笑顔は癒される。筋肉痛も、心なしかどこかに飛んで行ってしまった気もする


「お兄ちゃんがゆりかちゃんとなかよしになれたのは、お兄ちゃんがゆりかちゃんに、勇気をだして話しかけたからなんだ」
「………うん」




 か細い声で、返事が返ってきた


「なかよしのお兄ちゃんに、『一緒にあそぼっ』って言ってみて?」
「………いっしょに、あそぼ」
「うん、えらいよ、ゆりかちゃん」




 たったその一言を、勇気を出して絞り出すことができた。
 だから、俺はそれを精いっぱいほめる
 髪に指を通して耳の後ろを撫でる


「それができるなら、ゆりかちゃんはもう大丈夫! ここで見ててあげるから、それをあの子たちにも言ってみて」
「………ん!」




 褒められて自信がついたのか、俺の眼を見てから


「………あ、ありが………ぅ」


「どういたしまして」


 ぽんぽんとゆりかちゃんの頭を撫でる。


「いっておいで」
「………ん」


 ボールをベンチに置いて、パタパタと駆けて行った。


 顔を真っ赤にしたゆりかちゃんが、勇気を出して『いっしょにあそぼ!』と声を出していたのが聞こえる。


 子供たちは元気に返事をしながら「いいよ」と答えてくれた


 ぱあっと顔を輝かせて輪の中に入るゆりかちゃん


 きゃっきゃと楽しそうに声を上げて走り回った


「これで大丈夫だな」
『イケメンは幼女の扱いも上手いんだね』
「イケメンに不可能はないからな」




 茶化すサクラにいつもの返しをしながら子供たちを眺めると、ゆりかちゃんがこちらに気付いて笑顔で手を大きく振ってくれた


 俺はそれに手を振り返してから、自転車にまたがる




 さて、帰って昼飯喰うか




                       ☆






 家に帰り、昼食と昼寝を済ませると限界までスクワットをする。


 ノブタカが所持していたアニメのDVDをリビングのテレビで見ながら、休んではしゃがみ、休んではしゃがみを繰り返していると、それを見ていた母さんが掃除を終わらせてから一緒に参加し始めた。




「ノブ、ちゃん」
「なんだ」


 スクワットをしながらだから息が乱れるが、会話は可能だ


「こういうアニメって、主人公がいろんな女の子から好意を寄せられているけど、どうして気づかないのかしら」


「その方が、見ている分には楽しめるからだろう」


「ふーん。でも、ノブちゃんは最終的には一人の女の子を選びなさいね。女の子は嫉妬深いから、このアニメみたいに仲良くバカなことなんてできないわよ。男を取り合ったら女の子感情はとんでもない方向にいくんだから」


「………知ってる」


 俺はイケメンだ。


 イケメン故にモテた。


 好意には敏感に気付けた。そこらの鈍感主人公とは違う、本物のイケメンだからな。
 勘違い女から何度刺されそうになっただろう。何度彼女を巻き込まれそうになっただろう。


「だが、全ての女を幸せにしてこそのイケメンだ。ハーレムルートは目指さず、目標を決めて突っ走るさ」
「ふーん、そんなに頑張るなんて、もしかして好きな子でもできたの?」
「そんなことではない。痩せるだけなら簡単だ。その上イケメンになるには、モテるしかないからな。モテるための努力を惜しまないだけさ。うんこ製造機にならないためにも、な」
「へ~。なるほど。イケメンにねえ」






 スクワット10回。5セット。終了。






                 ☆












「ただいまー」


 夕方、帰宅部のサキが返ってきたようだ。


「おう、お帰り」
「おかえりなさーい」








「なんか二人とも汗だくだね」
「さっきまでスクワットしてたからな」


「え、まさかアンタ、今日一日ずっと運動していたの!?」
「当然。時間を無駄にするわけにはいかないからな。サキ、今からまた走るぞ。着替えてこい」


「筋肉痛が本当に痛いのに、容赦しないわね」
「愛ゆえに」
「言ってろ」


 激痛に顔を歪ませながらも、部屋で着替えてくるあたりが、彼女の優しさだ。


 俺だって全身の筋肉痛がヤバイほど痛いっつうの


 サキが着替えて降りてきたことで、出かける準備は完了だ。




「今日はお母さんも行こうかしら」
「母さんの歳で全力疾走は厳しいだろう。最初はジョギングで走ることに慣れるようにしないとな」
「そうするー」


 なんと今日は母さんもダイエットに挑戦するらしい。


「母さんはさ、苦じゃないのか? ダイエットって」
「ううん。息子や娘と一緒に走るのって楽しそうじゃない? それに、母さんだって昔はバレーで名を馳せていたこともあるのよ。今ではふっくらしちゃってるけど、昔はちゃんとスリムだったんだから」
「なるほど、じゃあ母さんは今よりもさらに美人だったんだな」
「当然よぉ」




 母さんもやる気十分。家族ぐるみでダイエットを敢行。
 いいぞ、一人ではサボる。集団で頑張るから耐えられる。修行もトレーニングも、部活の練習もそうだ。
 一人ではできることは限られるし、モチベーションも違う。


 家族が一丸となってみんなで痩せることを目標にすれば………


 イケメン一家も夢ではない。




「行くぞっ!」




 おデブ一家はいま、一丸となって走り出した――明日へと向かって






 ☆


「あのねおねえちゃん」
「ん? どうしたの、ゆりか」
「きょうね、はじめてゆりかにおともだちができたの」
「それはすごいわね、どうやったの?」
「えっとね、おっきなおにいちゃんがね、ゆりかのあたまをなでてくれてね」
「ん?」
「おともだちのつくりかたをおしえてあげるって」
「んん?」
「おにいちゃんのいったとおり、「あそぼ」っていったら、みんなゆりかとあそんでくれたの!」
「そ、そう。よかったわね。おっきなおにいちゃんってのは? 幼稚園に行ってないない小学生の子っていたかしら」
「えっとね、こんなかんじのおにいちゃん。やさしくてねー、おっきいの」
「太ってた………? まさかね」
「おっぱいもおねえちゃんとおなじくらいのおおきさ!」
「………」




   ☆







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