楽して痩せる!☆ゴーストダイエットプランナー☆

たっさそ

第4話 イケメンは妹を攻略する



「ただいま、母さん」
「あら、お帰りなさい」




 小走りで家に帰りつくと、母が迎えてくれた
 急いでいたからか、まだ料理の途中の様だ


「これ、ここに置いとくから」
「はーい」
「おつりとレシートはここね」
「あら、好きなのは買ってこなかったの?」
「ああ、今日、必要なものは買ったからな。また今度お使いに行くときに足すよ」




 買い物袋を持ったまま家に帰るのは辛かった。
 デブの肉体ではこれさえ拷問の様だ。


 この疲れた身体で、汗を拭いてから手を洗って母さんの隣に並ぶ




「母さん、料理手伝うぞ」
「あら、ありがとう」




 女性を丁寧に扱うのは、イケメンとしての基本だ




「あ、帰って来たんだ」


 と、そこでソファに寝転がってスマホをいじりまわしていた妹が視線を上げた


「おう。イケメンのお兄ちゃんのご帰宅だ。抱き着いて喜んでくれてもいいんだぞ」
「死ね」


 妹が冷たい。


 だが、それもこれも、痩せれば解決する。


「ところで妹よ、アイスの果実を買ってきたのだが、食べるか?」
「………食べる」


 ご機嫌取りは簡単だ。


 とっぱらぱっぱっぱーっと下ごしらえを終えたかつと鶏肉を油で揚げる。
 用意されていた皿は3つ。
 俺とサキと母さんの分だな。


 三つにカツを乗せて、さらに唐揚げを揚げ始める。
 おいおい、すごい量だな。


 母さんが盛り付けている間に、俺は鍋やらオタマやらフライパンやらを洗っていく。
 シンクは常にきれいにしておかないとな。


「母さん、今日から俺の餌は自分で作るって言っただろ。後は冷凍していてくれ」
「そういえば言ってたわね。じゃあ、お母さんたち先に食べちゃってもいいかしら?」
「構わないさ」


「今日は助かったわぁ、ノブちゃん。ありがとう」
「このくらいどうってことはない。後は俺の餌を作るだけだ」


 腕まくりをして、台所に向かい包丁とまな板をさっと洗う。
 使った後はちゃんとハイターに付けておかないといけないが、それは俺が使った後だ。


「ふーん、あんた、料理なんかできるの?」
「イケメンに不可能はない」
「どこがイケメンよ。鏡視てこい、豚が映ってるわよ」


 妹が辛辣なセリフを吐くが、イケメンである俺には響かぬわ。
 ふん。幸いにして、肉料理はカツと唐揚げがあるからもういらない。


 主食はおから。


 キャベツと玉ねぎを千切りしてしばらく冷水でさらす。
 こうすることで、玉ねぎの辛味がなくなり、甘味だけが残る。


 料理には玉ねぎは必須だ。玉ねぎは熱することで甘みが増すし、玉ねぎを増やせば余分な砂糖をすべてなくし、さらに血液をサラサラにしてくれる。


 タンタンタンタンタン、とさほど早くはないが正確に千切りを完了させる。


「包丁なんて使えたんだ」
「言っただろう。イケメンに不可能はない、とな」
「言ってろ」




 ザルとボウルに入れて冷水にさらしたキャベツと玉ねぎの千切りをボウルの水を捨てて、そのまま食卓に持っていく。
 今日することなど、これだけだ。




「は、なにこれ」
「野菜だ。キャベツの千切りと、玉ねぎの千切りを和えた物。和風ドレッシングも買ってきたから、これも食べろ」
「は? 野菜嫌いのあんたが言うな!」
「っふ、俺の今日の晩飯は、主食におから、そしてカツ2切れ、唐揚げ一つ。そして、この量のキャベツの千切りだ。せいぜいサキはおいしいおいしい油料理を食べて太るがいい」


 俺はザルに入った千切りをトングでつかんで俺の皿に移すと、ドレッシングをダポッと上から掛ける。


「やっべえうめえ!! 新玉ねぎと春キャベツがとんでもなくうめえ! 噛めば噛むほどシャキシャキと口の中で音を立て、甘味が広がる。ああ、シアワセだ、シアワセすぎる! 俺はきっと、この時のために生まれてきたのだろう!!」


 玉ねぎとキャベツとドレッシングだけ。
 そこに、『新』や『春』とつくだけ途端に化ける、季節野菜。


 ノブタカはなぜこんなにおいしい野菜を食べなかったのだ。
 ああもったいない


「ちょ、ちょっと! あたしにも食べさせてよ」
「好きなだけ喰え、その間に俺はおからを食べる」


 貴重なたんぱく質を体内に取り込む。
 タンパク質はアミノ酸に分解され、アミノ酸は筋力を作るのに不可欠。


 野菜だけで腹いっぱいになるように、大量に千切りしたからな


 いっぱい食べて腸内環境を最強にしてしまおう


 今までいっぱい肉を食ってきたんだ。しばらくは野菜だけ喰っても問題なかろう。
 肉体が肉を欲したら、その時に喰えばいい。魚肉ソーセージとかを。


「お母さんもノブちゃんが切ったお野菜食べる―!」


 お、若いね母さん。これから毎日千切りしてあげるよ




                    ☆




 さて、夕食前に憑依したからか、運動ができていない。
 本当ならば飯を食う前に運動したいところだったが、運動は明日からにしよう。


 どうせこの肉体の持ち主は学校には通っていなかった。


 一日ぶっ通して運動ができる。


 しかし、今日からできる運動はしておきたい。
 このお腹をひっこめたい。


 腹筋が一番効果的なんだろうが、ペアが居ない




 チラリと上を見てみるが


『ふぇ? どったのシノブくん。ああ、あたしは手伝わないよ』
「知ってる。サクラから物理的な補助がもらえるとは考えていないからな」


 この天使は基本的にサポートすらしない。
 いうなれば、見張りだ。


 神と閻魔からの試験的な依頼を遂行する俺を見届ける、ただのお目付け役。




 となると、妹だな




 よし、行動に移そう


 コンコン。


「サキ、イケメンのお兄ちゃんだ、入るぞー」
「………なによ」




 部屋の中に声をかけると、不機嫌そうに返事が返ってきた




 返事が来たということは、入ってもいいということだ
 遠慮なしに扉を開けると


「………何しに来たの?」
「妹よ、実はお兄ちゃんから頼みがあって来たんだ」
「は、頼み?」


 ふん、聞くからに不機嫌そうな声。
 だが、これに臆していてはいけない。
 先に進むためにはコミュニケーションが必要だし、なによりそれがあればいろいろと楽になる。


「うむ。今から俺の筋トレに付き合ってほしい」
「筋トレ………」
「腹筋をするだけなんだが、足を押さえているだけでかまわん。なんならスマホをいじりながら足の甲に座るだけでもいい」
「それくらいなら、まぁ」
「ありがとう!」


 さっそく俺はサキの部屋でストレッチを始める


「いでで、いでででで! なんだこの身体、固すぎだろ!!」
「ぷっ、豚が前屈してる………」
「ぶぅ! 見てないで助けろぶぅ!」
「アハハハハ!!」




 ケラケラとスマホを片手に笑うサキ。
 イケメンは人を笑わせる能力もなければならないのだ。


「ふふふ、わかった、手伝ってあげる」


 ひとしきりケラケラと俺を笑った後、サキは俺の背中を押してくれた




 体が硬いとそれだけで怪我の元だからな。
 こればっかりはペアが居ないとどうしようもない




 ストレッチだけで汗が出てしまう


「ねえ、どうしちゃったの、あんた」
「む、なにがだ」
「急に性格が変わったみたいだし、いきなり料理やダイエットだなんて、やっぱり変だから」


 まあ、そうだろうな。
 違和感を感じないはずがない。
 中に入っている人が違うんだからな。


 外面内面そとづらないめんがクズだったノブタカくんは眠りにつき、
 すべてにおいてイケメンであるシノブが肉体を支配しているのだ。


 その困惑も仕方のないことだ。


「俺だってそういうときくらいある。このままうんこ製造機になるくらいなら、一度くらいは死ぬ気で足掻いてみようと、思い至っただけだ」
「………そ。長続きするといいね」


 少し考えるように間があったが、サキは納得したように頷いた。


「させてみせるさ。見守ってくれるか、サキ」
「あんたが続けている限りは、手伝ってやってもいい」
「助かる」




 ふむ? どうやら少しだけ見直してくれたみたいだな。
 デレ期も近い。


 ストレッチを終えて、サキが俺の足の甲に腰を下ろして腹筋を支えてくれた。
 俺は呼吸を整えてから、上体を起こそうと力を籠める。


「ふっ………!! なん、だと!? 全く身体が持ち上がらねえ!!」




 だが、あろうことか、脂肪タンクである俺の身体は、もともとの筋力も少なく、120kgの肉の塊を持ち上げることができなかった


「ほら、一回もできないの? もっと頑張りなさいよ」
「っふ、イケメンを舐めるなよ………このくらいいいいいいい!!!」




 俺はイケメン力を発揮して、この1回の腹筋に命を懸けるつもりで、全身全霊で上体を起こした
 出た腹が邪魔をして状態を起こすと胃と肺が悲鳴を上げる


「おお、豚でも一回くらいは腹筋ができるもんなのね」
「ぜえ、ぜえっ、まだだ、何が何でも30回持ち上げるまで、帰らんぞ………!」


 そんな俺を称賛するように手を叩くサキ。
 だが、俺は1回だけで満足するようなイケメンではない。


「30回なんてあたしでも無理だよ、休んだら?」
「こういうのはな、回数を定めて、それを達成しなければ意味がないんだ」
「………そう。じゃあ、付き合ってあげる」
「ありがとう、大好きだぞ、サキ」
「キモ」


 そういいながらも、俺の足の甲はしっかりと押さえてくれる


「それじゃ、続きだ、ふぬぅぅぅうううううううん!!!」




 2回目も何とか持ち上げ、3回目はどうしても肉体が持ち上がらなくなってしまった。


 1分のインターバルを挟みつつ、なんとか40分かけて腹筋30回を達成したのだった。




「おつかれさま、まさか本当に30回腹筋できるなんて………。前までのあんただったら絶対にあきらめてたよね。すごいよ、ほんと」
「ふん、尊敬されるお兄ちゃんになってやる。ついでにサキもダイエットに挑戦してみるか?」
「あたしは………! そんなことできないよ」
「なんだサキ、お前は目の前の豚以下だったのか。これは情けない。お兄ちゃん悲しい」
「んな!? あたしが豚以下なわけがないじゃない! やってやろうじゃない!!」




 なるほど、妹の扱いが判って来たぞ。
 妹は、兄をどこか尊敬しはじめている。
 だが、尊敬はしていても、自分の方が優れていると思っている。


 これは今までの言動から間違いない
 だから、豚よりも劣っているなんて言われたら腹が立って見返してやりたくなる。


 つまり、ツンデレなんだよ。


「サキ、一緒に痩せよう。まあ、俺の方がスリムでマッチョのイケメンになるだろうがな」
「ざけんな、あたしの方が美人でボンキュボンのナイスバディになるっつの!」
「では、どっちがよりスタイリッシュになるのか、競争だな」
「ふふっ、いいよ、やってあげる!」




 おそらく険悪であった妹との仲は、改善の兆しを見せていた。


「じゃあお兄ちゃん。あたしの腹筋も付き合ってよ」
「よしきた。お兄ちゃんに任せておけ」


 これ、完全にノブタカの人付き合いが悪いのが原因だ。









「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く