楽して痩せる!☆ゴーストダイエットプランナー☆
第1話 イケメン○×計画
「はぁ~あ。楽して痩せたいなー。そしてモテたい」
そんなことを思った人はきっと何千人と存在するだろう。
もちろん、俺だってそうだ。
何度も痩せようと思った。しかし、家に帰るとお菓子が仕掛けられており、思わず手を伸ばして、これは罠だとわかっていても手に取ってしまう。
お母さんの作る料理が茶色に偏っているのもいけない。
そしてそれをおいしいおいしいと食べまくる俺自身が、なによりいけない。
当然、部活動もせず、帰宅部で家に帰るとポテチを開いてパソコンをつけ、寝っ転がりながらキーボードを叩く毎日だ。
運動する時間があったらニフニフ動画のランキングをチェックするし、アニメを視聴したりする。
最近では学校にも行っていない。
怠惰な生活になるばっかりだ。
だからかな、こんなブヨブヨになってしまった。
「はぁ? そんな考えのアンタが痩せられるわけないじゃん。バカなの? 豚なの?」
そして、そんな俺をゴミクズでも見るような目で見つめる妹。
妹も若干小太りだ。
お前も人のこと言えないだろう。
しかし、俺もこんなふうになってしまえば、学校でからかわれ、いじめの標的にされ、引きこもりになってしまってもしかたがない。
この横綱の貫禄が漂う横幅の広いこの腹ではどうにも学校にはなじめないし、努力の仕方もわからない。
やるきもない。すべてそろった俺の末路は、ただのうんこ製造機だ。
なんとか楽して痩せる方法はないものか………
――ピコン♪
「ん? なんだこれ、スパムメール?」
アダルトサイトか通販サイト、botのあやしげな援交のおさそい、自称有名人からの食事のお誘いなどの人間味の感じないメールしか入っていない携帯の受信ボックスに、なにやら怪しげな件名のメールが届いていた
件名『楽して痩せたいあなたへ』
本文『楽して痩せたいあなた。青春なんて幻想だった。青春なんてクソくらえなあなたに朗報です。楽をして痩せる、今流行りのゴーストダイエットを試してみませんか? 寝て起きるだけであら不思議、ナイスバディとシックスパックとムキムキ筋肉。さらには夢のリア充生活が手に入るかも? 会員登録は必要ありません。初回プランは無料。利用規約を必読の上、下記のURLをクリックしてあなたの情報を入力すると、プランスタートです!』
なんだこれ。
意味不明なイタズラメールだな。
ピンポイントで狙ったようにメールを送ってきやがって………
どうせおかしなアダルトサイトに飛ばされるとか、そういうオチだろ。
鼻で笑いつつ、ポテチで油まみれの指で、URLをクリックした。
☆
一年後、超絶イケメンのイケメンシックスパックで筋肉質なイケメンスタイリッシュイケメンのイケメンな俺は、リア充イケメン生活を手に入れた。
ありがとう、ゴーストダイエットプランナー!
☆ side ゴースト ☆
『あ~あ。暇。』
ここは極楽浄土。いわゆる天国。
死して魂は極楽をめぐり、転生を待つ身だ。
俺は池照忍。
ごくごく普通の30歳くらいのイケメンだ。
ごくごく普通にトラックに轢かれそうになった子供をごくごく普通に助けて死んだ、ごくごく普通のイケメンだ。
『シノブくん。なにしてるの?』
背中に白い翼の生えた神の使い。『天使』である『サクラ』が声をかけてくる。
『暇をしている』
『そっかー。そんなイケメンのシノブくんに、お仕事を持ってきたよ』
『マジか? 極楽浄土って暇すぎてかなわん。仕事くれ仕事。俺はイケメンだから筋トレと自分磨きと仕事と趣味をすべてこなせるスーパーイケメンだからな。もう死んでしまった今、スーパイケメンである俺は仕事に生きるくらいしか生きる意味を見つけ出せないのだ。死んでるけどな。』
死人ジョークを交えつつ、サクラから仕事を承ろうとする。
『かなり燻ってるみたいだね、スーパーイケメンのシノブくん。ねえ、もう一度青春を体験してみない?』
『ほほう、面白そうな話だな。詳しく』
サクラが言ってきた話はこうだ。
『昨今の日本で自宅警備員が増えている。働かなくとも親が養ってくれるという考えの元、日々引きこもってネットゲームや漫画やアニメを見て時間をつぶし、ぐうたらと日々を過ごす生活を学生のころから繰り返している、そんなことをしていたら太ってしまうに決まっている。太るとどうなる、それはいじめの対象にもなってしまうではないか、こうなったらますます彼らは自分の世界に引きこもって出て来なくなり、さらに自宅警備員を量産することにうんたらかんたら少子化がどうてらこうてら―――中略―――ということなので、被験者の肉体を借りて被験者の代わりにシノブくんが乗り移って学校生活の基盤を整えてほしいの。』
『なるほど………』
つまり、こういうことか。
サクラの話を一言でまとめるなら『社会的底辺のデブニートの学生に憑依して学園生活満喫しようぜwwwwwwwww』
ということらしい。
『ふむ。その話、乗った』
イケメンな俺はその長ったるい話を全て聞いたうえで、大きく頷いた。
普段の俺なら見向きもしない、社会的底辺のゴミクズに憑依して、ダイエットプランナーとして体系をスリムにしつつ、学園生活を改善させろ。そういうミッションだな。
『うふふん、シノブくんならそう言ってくれると思っていたよ』
『たしかに天照のねーちゃんとか閻魔の姉さんがグチっていたな。たしか、ニートが増えすぎて地獄にニートが落ちまくっているとかなんとか』
『そうそう。親の脛ばっかり齧って、生み出すものといったらうんこだけ。しかも食費とネット代と通販代なんかを消費しているだけだから、徳がないんだよ。もったいないよね』
『ふむ………』
『そういう子たちを更生させるために、閻魔様と天照大神様からのご指名の依頼なの! やってくれる………?』
あざとく上目遣いで聞いてくる天使。
イケメンである俺は『もちろんだ』と大きくうなずいた。
そもそも、閻魔様や天照大神からの指名依頼を断れるはずがない。
なにより―――
『イケメンである俺に不可能はない。どんなデブに憑依しようが、俺がイケメンであることに変わりはないのだから』
『うふふん、ありがとうシノブくん。とりあえず、最初のお便りを紹介するね。ペンネームが『スマホカバーに保護フィルムが引っかかる』さん』
サクラは羽の隙間から一枚の紙きれを取り出すと、それを読み上げる
PN.スマホカバーに保護フィルムが引っかかる
『僕には友達が居ません。最近、妹も養豚所の出荷される豚を見るような目で僕を見てきます。何度かダイエットをしようと思いましたが、夜にどうしても我慢できずに食べてしまいます。朝ご飯は唐揚げ、そしてご飯3杯。お昼の弁当に特大盛り生姜焼き弁当豚肉7枚。晩御飯にカツ閉じ膳と唐揚げをたべて、ご飯のおかわりは5杯を超えます。ダイエットをする気力もありません。楽して痩せる! という素敵な言葉に踊らされて書いているのはわかっています。ですが、この淀んでしまった青春時代をどうにか挽回するには、どうしても痩せるしかありません。どうか僕に力を貸してください。ブヒィ』
『よかろう! その依頼、この池照忍が確かに引き受けた!!』
こうして、スーパーイケメンである俺の、ゴーストダイエットプランナーとしての仕事が幕を上げた
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