受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第101話 ☆★冒険者ギルドのテンプレートであります



 わちきの名前はミミロであります。


 訳合って14歳くらいの竜人族の少女をしております。


 といっても、深い訳ではありません。紫紺竜のわちきは人化の術を覚えているので変身できるだけであります。


 以前は竜形態ばかりを好んでおりましたが、より精密に、よりコンパクトに動ける人間形態の方が便利なので、普段から人化の術を掛けて生活しております。


 普段はわちきの親友であるリオ殿―――<魔王の子>などと言う肩書を背負った男の子と、<神子>というとてもかわいらしい女の子と共に行動しているのでありますが、今回はお二人とも学校とやらに出かけているので、一緒には行動できません。
 一応、人化の術で10歳程度までなら見た目を変えることが出来ますが、魔力の消費が多くなるので14歳くらいがちょうどいいのであります。


 さすがにこのくらいまで身長さがあると一緒に学校という雰囲気ではなさそうですしね。


「おそいぞミミロねーちゃん! 早く来いよー!」
「そうなのです! 依頼は逃げてしまうのです!」




 わちきに向かって声を張り上げているのは、黒い髪の少年と、白い髪の少女。
 わちきの弟妹であり、わちきの愛する息子のマイケルと娘のキラであります。


「急いでもろくな事にはならないのであります。折角人として王都に入れるのですから、ゆっくり観光でもしながら冒険者ギルドの方へと行くべきであります」


 大剣を抱えたマイケルを諭すようにわちきはそう述べましたが


「ゆっくりするのは兄ちゃんたちと一緒の方がたのしいだろ! ほら、行こうぜ!」
「引っ張らないでくださいよぅ!」


 マイケルに服を引っ張られて小走りを強要されてしまいました。
 たしかに、わちきたちだけが楽しむのはズルってものであります。


 しょうがないですねぇ、とせっかちなマイケルに微笑みながら、冒険者ギルドの方へと歩みを進めました。




                    ☆






 さて、冒険者ギルドへと付きました。
 ギルドの戸を開くと同時に、視線が突き刺さります。
 理由はおそらく、わちきたちの若さと『髪の色』なのだと思います。


 わちきはともかく、キラの髪は“天使”や“神子”と同じく、特別で希少な種族などで知られる『純白』
 マイケルの方は、対照的に“悪魔”や“魔王の子”と同じ、邪悪を思わせる『漆黒』であります。


 もちろん、マイケルやキラは天真爛漫で好奇心が旺盛なただの子供だということはわちきが一番よく知っております。


 世間の方が間違っているので、わちきはどんなことがあっても、キラとマイケルを愛し続けますよ。


 キラもマイケルも子供の頃よりも成長しているおかげで、種族的特徴が一目でわかるようになって来ているため、魔王の子や神子と間違えられて誘拐されないはずですし、頭を隠せるものは何もつけておりません。


 マイケルは多少とげのある視線を受けることがありますが、昔よりも筋力は増えているし、シゲ爺様の武術の特訓のおかげで、その辺の下級冒険者に後れを取ることはありません。


 キラもマイケルも。Bランクまでの魔物はソロで狩ることが出来るレベルであります。
 しかし、現在のわちき達の冒険者のランクはEランクインディゴクラス
 身分証として取得したくらいしか使い道はありませんでした。


 というか、身分証として使ったことも、1回も無いんですけどね。
 基本的にフィアル殿の“ゲート”で一っ跳びできますし、病気にかかったこともありませんから。


「いいですか? わちきたちは“採取”の冒険者であります。“討伐”はわちきたちの領分ではありません。『冒険者は冒険しない事こそ、利口なのだ』とリオ殿がいつも言っておりましたね。危険なことはしない。危ないことは避けて当然。堅実に行きましょう」


「わーかってるよ。本当はせっかく実戦でつかう大剣グラムリッツェの切れ味を試したかったけど、そうそう魔物なんかに会う機会なんてなさそうだしな」


 つまらなそうに口をとがらせるマイケル。
 そうなのです。王都、とは王城が近いこの都町のこと。


 当然、お城に勤める騎士団の方や屈強な冒険者たちがみまわりをしてるおかげで強い魔物が現れることなど、滅多にありません。


 あるとすれば、紫竜の里から追放された暴れ者の紫竜が度胸試しに王都に向かって飛んでいき、数日間暴れたかと思えば騎士団の猛攻に敗れてしまうくらいでしょうか。




 竜と言えども、さすがに討伐隊を組まれれば数の暴力には勝てませんからね。




「キラも双剣レインボウの切れ味を確かめたかったのです。マイクが的になってくれないからいけないのです」
「ねーちゃんが試し切りされないからいけないんだろ」
「やるのです?」
「こっちのセリフだぞ」




 本当にこの仲良し姉弟はことあるごとにケンカしますね。
 いつものパターンとしては、キラが煽って、マイケルがそれを買う。それを仲裁するのがわちきの役目って流れであります。


「どっちもダメであります。ギルドの中で喧嘩するなら、二人のお弁当は全部わちきがいただきますよ。腹が減って苦しまないとわからないのでありますか?」
「う、わかったよ」
「ごめんなさいなのです………」




 わかればいいのです。


「お騒がせして申し訳ありません。Fランクパープルクラスでもできる採取の依頼はありますでしょうか?」


 受付嬢のお姉さんに頭を下げつつ、冒険者証ライセンスを手渡します。


 さっと確認して、ギョッと目を見開きました。
 ええ、わちきの年齢は“3歳”なのですから。


 13の間違いなのでは? と目を擦っている受付嬢さんにほっこりします。
 竜族は成長が早いのであります。


 動揺をなんとか抑え込んで、わちきたちに可能な採取の依頼を選んでいただきました


「えっと、毒草、『どくどくぐさ』と『ねむり草』の採取依頼ならあります。此方にいたしますか?」




 受付嬢がさっと依頼書の写しをわちきに手渡します。
 準備がいいですね。


 えっと、なになに?


 依頼者:アントン・ブリッツ
  職業:調合士
依頼内容:薬の調合に使う薬草や毒草を集めている。今回は魔物の討伐にも役に立つ毒薬と睡眠薬を調合するため、どくどく草とねむり草が必要。とにかく集めてほしい
  報酬:どくどく草一株につき、銅貨10枚
     ねむり草1株につき、銅貨5枚




「ふーむ。日帰りできそうですか?」


 暇つぶしにはよさそうな依頼ですが、報酬としてはちょっと安いですね。
 ギルドの方への依頼料もあるでしょうし、こんなものなのでしょう。


 冒険者をしているよりも、こういうお役所仕事の方が儲けそうですしね。


「はい、この草は魔力の濃い場所じゃなくとも割と生息している雑草みたいなものですから。その辺を探してもすぐに見つかると思いますよ。」
「その辺ですか。一応聞いておきますが、群生地などはありますか? そっちに行った方が楽そうなのであります」


 その辺と言われても、どのような草が『どくどく草』なのか、全くわかりません。


 群生地があれば、そこでいっぱいとればいいだけのことなのです。


「街の外になりますが、よろしいですか?」
「それほど遠くなければ大丈夫であります。」
「いえ、申し訳ありません。魔物が出た時など、あなた方のランクで対応できるかを聞いています。定期的に討伐隊が見回りをしているおかげで街の外も魔物が少ないですが、出ないとは限らないので………それに、街の外に出なくてもいいレベルの依頼なので、Fランクパープルクラスの依頼ということになっています。依頼料は変わらないですよ?」




 なるほど、たしかに危険を冒して外にまで行ってしまえば、比較的に楽なはずの依頼が途端に割に合わなくなると忠告してくれているのですね。
 やさしい受付嬢さんです。
 わちきたちがまだ成人していない冒険者だと見ぬいて忠告してくれているのですね。


 冒険者の資格は、15歳以上を向かえないと普通は冒険者証ライセンスを発行していただけません。


 しかし、わちきたちを推薦したのはSランク冒険者の『魔眼のゼニス』と同じくSランク冒険者『剛腕のジン』さん。さらに、シゲ爺の元でリョクリュウ格闘武術を齧っている実績などがあるため、年齢が規定に足りていなくても問題なく依頼を受領できます。




「もともと夕方までの暇つぶしみたいなものですし、そのくらいなら構わないであります」
「………わかりました。では承認します。頑張ってきてください」


 依頼書に印鑑をポンと押してパリッと紙と印鑑の部分を半分に裂いてわちきに手渡しました。


 依頼書の上部と下部に番号が振ってあり、依頼達成と同時に依頼書の半分を返却することで依頼番号の確認と依頼達成の確認を行うようです。
 不正防止の策ですね。


 返してもらった冒険者証ライセンスにもしっかりと依頼内容が記されております。これで依頼を間違えることはありませんね。




「そうでした。買い取りってこちらでできますか?」
「買い取りは向こうの窓口になります。採取の依頼にある内容でしたら、依頼達成としてこちらでお預かりしますが、どのようなモノを売却なさいますか?」


 そういえば、そろそろリオ殿が道具袋の整理をしなければいけないと言っておりました。
 使わない道具や邪魔なもので袋の中を圧迫していると言っていたのです。


 少しでも道具袋の容量を開けて、もっと入るようにしておきたいですね。
 ついでですし、ちょうどいいです。処分したいものをこちらで売却してしまいましょう。


「“アルノー”と“キングアルノー”であります。もう余っちゃっているので適当に処分してほしいのであります」


 道具袋には§←こんな形の果物がいっぱい入っています。
 味気は無いですが、魔力を回復させてくれるとてもすごい果物なのであります。


 わちきはこれでも、昔は“アルノー山脈”に住処を持っていた紫竜ですからね。
 アルノーはいっぱい持っているのであります。
 リオ殿も昔はいっぱい取って、おなかいっぱい食べていたみたいです。それのあまりですね。


「な、これは!?」


 他にも“ケリーの木の根”もありますが、これは売買をしているのを見つかったら騎士団の方に捕まっちゃうらしいです。
 絶滅危惧されている木なので、徹底的に管理されているらしいです。




「これは、達成難度BとAランクの果物です どうやって手に入れたのですか!?」


 なんだかすこし興奮した様子で喰い気味に聞いてくる受付嬢さん。
 あまりの様子に周囲の冒険者さんが興味深そうにこちらを見てきました。


「どうやってって」
「その辺に生えてるのです」


 きょとんとマイケルとキラが首を捻りながら答えます。
 それよりもキラとマイケルが早く行きたいという気持ちが先行して話を早く終わらせてくれとうるさいであります
 わちきにとっても、アルノーはいつでもとれる果物ですからね。
 達成難度がAと言われてもよくわかりません。




「それでは、わちきたちが帰ってくるまでに査定をしておいていただけると助かります。お金は後ほど取りに来るので、お金と鑑定書の写しを用意しておいていただけるとありがたいです」


 ないとは思いますが、ピンハネされると面倒くさいですからね。


「あ、あの」
「では、しつれいします」
「ミミロねーちゃん、おれ達は先に行くからな」
「ズルいのです! キラも行くのです!」






 薬草採取の依頼は簡単ですからね。
 何か言いたげな受付嬢を適当に切り抜けて、依頼書を片手に冒険者ギルドを出て行きました。




「おい」


「はい? なんですか?」




 わちきもキラとマイケルを追いかけて冒険者ギルドを出たところ、声を掛けられてしまいました


 どうやらマイケルとキラも同じように足止めを喰らっているようで、苛立たしげな様子で声を掛けてきた男を見上げます。


 声を掛けてきたのは、16歳くらいの青年たちでした。
 相手は3人。わちき達と同じ人数であります。


 わちきたちは冒険者ギルドを背に、その青年たちに囲まれていました




「おいおいおい、お前たちみたいなガキが冒険者だなんて、どういうことだァ? いつからこの国の冒険者は子供からでもできるようになったんだァ?」


 おや?
 難癖ですか?


 たしかにわちきは3歳です。
 3歳ですが、ちゃんとしかるべき手順としかるべき賄賂できちんと冒険者の資格を得た由緒正しき冒険者であります。
 難癖を付けられるいわれはありません。


 そう言えば、ちょっと前にリオ殿がこんなことを言っていたのを思い出しました。


『登録したての若い冒険者はよくガラの悪い先輩冒険者に絡まれる。そしていつも喧嘩か試合に発展して、そして若い方が勝つまでがテンプレートだよ。よく覚えておいてね』


 なるほど、リオ殿が言った通りであります。




 つまりこれは、そういうイベントなのですね。
 このギルドは手が込んでますねぇ。


 周囲の人たちは
『あれ、歴代最速で討伐部門のDまで上がったザッツたちじゃないか?』
『本当だ。ガラは悪いけど実力はすでにCランクくらいのレベルはあるって言われているぞ』
『可哀想に、新人の冒険者なんだろうが、ザッツたちに絡まれてやがる』
『だがよく見ろ、黒い髪の男が居るぞ』
『本当だ、魔王のしもべだったりしてな』
『そんな馬鹿な。だったら冒険者なんてしてねぇだろ』
『そりゃそうか』


 と遠巻きにこちらを観察しておりました。
 どうやら、この正面の赤い髪の男が、ザッツとかいう冒険者らしいですね。
 有名人みたいです


「わちきたちは身分証と暇つぶしが出来ればいいので、別に冒険者にはこだわっていないのであります。とりあえず、依頼の邪魔なので通していただけませんか?」


「いいや、通すわけにはいかないなァ」
「冒険者ってのは15歳の成人になってからじゃないとなることはできねーんだぜ」
「お前らみたいな子供が冒険者になるにはBランク以上からの推薦がなくちゃならないって決まりがある。なのに、お前らみたいなのが採取とはいえ冒険者なのが気に食わねえんだよ!」
「しかも身分証のためなんて言いやがって、仕事をする気がないなら冒険者証ライセンスを置いてどっかに失せろ!」


 ザッツに続いて顔を覚えるのも面倒くさそうな冒険者たちが賛同して声を張り上げます。
 ややザッツ達以外からも声が上がっているところを見ると、わちきたちのような推薦で年齢を繰り上げて冒険者をさせてもらっている者はやっかみの対象になるようです。


 なるほどなるほど。
 本当に完全なるやっかみでありますね。


 騒ぎを聞きつけて見物人たちが集まってきました。
 ギルドの中にまで声が聞こえて来たらしく、中から様子を窺っているのが見えます。
 見えているなら助けてくれたらいいのに。


 ギルドの中だったらきっとギルド職員が仲裁に入ったのでしょうが、ここはすでにギルドから一歩外であります。
 職員の管轄外なのでしょう。
 なんというお役所仕事。
 わちきはもうその応用力の無さに開いた口がふさがりませんよ。


「ふぅむ。採取とはいえ、一応わちきたちはEランクインディゴクラスまでは上げましたし、デウルフやガウルフと言ったDランクブル―クラスの害獣の駆除も慣れています。少なくとも戦闘の実力面ではあなた方よりも上だと思うのですが………」


「ほざけや! お前らみたいなガキに狩れるかよ! 」


 口角泡を飛ばしながらこちらを怒鳴りつけるザッツ氏。
 それを不快気に聞いていたマイケルとキラは、額に青筋を浮かべながら睨み返した。


「つまり、おまえたちはオレたちよりも強いんだぞっていいたいんだな?」
「ぷぷっ、笑わせるのです。漫才師になることを強く推奨するのです。どうみてもおまえたちはキラよりも弱いのですー!」


 マイケルはザッツを剣呑な瞳で睨み返しながら、低く応える
 それに対し、キラは乗っかってザッツを挑発しました


 様々な経験を経て自信を付けてきたマイケルのプライドを刺激するセリフであります。
 そう言い返したくなる気持ちもわかります


「ああん? 採取の冒険者ごときが調子に乗ってんじゃねえよ!」
「女の方は後でいたぶってやるぜ! ヒヒッ!」
「胸は無えが、かなりかわいいぜ、このガキ」


 まさか後輩を恫喝しに来たら逆に挑発されてしまうとは思わなかったのか、その喧嘩を買ったザッツの取り巻きが胸倉を掴もうとマイケルに手を伸ばしました
 キラの方にも別の冒険者が手を伸ばします。




「おら!」
「汚いのです、キラに触らないでほしいのです!」


 すると、シゲ爺仕込みの護身術で腕を取って組み伏せてしまいました。
 二人とも動きがシンクロして全く同じ動きを取っておりました。
 やはり仲良しですね。


「胸はこれから成長するのです!」
「どうせ姉ちゃんはぺったんこのままだろ」
「なにをー!」
「こら、キラもマイケルも。そんなのに構っている時間がもったいないであります。はやく依頼を済ませに行きましょう」
「ミミロおねーさまはおっぱいがあるから余裕があるのです―! きぃー!」


 今度はわちきがキラとマイケルを置いて街の東門へと向かって歩みを進めました。
 キラが用意したハンカチを咥えて引きちぎったのを見ながら「いつかは成長しますよ」と慰めてあげました。


「あ、おい! 待ちやがれ! 話は終わってな――おわっ!?」


「ああ、言い忘れておりましたが、そこにはトラップを仕掛けてあります。気を付けてください」




 振り返れば、とらばさみに足を噛まれている冒険者の姿がありました。
 仕組みは簡単ですが、作成したのは赤竜族長のジンさんです。
 作り方はわちきも学びました。
 道具袋の中に大量に持っているので、使ったところで痛くもかゆくもありません。
 油断しない教訓にしてください




「くそっ! なんだこれ! 外れねぇ!」


「わちきは頭を使う方が得意なので、キラやマイケルとは違って運動は苦手なのですが、動けない相手ならばわちきにだって勝機はありますよ」




 とらばさみを外そうと躍起になっているザッツの髪を掴んで持ち上げます。


「イデェ! なんだその力!」
「ああ、わちきは竜人族なので、人間族よりも圧倒的に膂力は上であります。では、依頼の邪魔をしないように。失礼します」




 蹴りを放とうとしてきたので、ポイッとザッツの髪を掴んだまま放り投げます。
 邪魔ですからね。道の隅っこの方にポイです。


「ぐはっ!」


「うーん、こんなのが討伐部門のDランクとは、王都の冒険者の質は悪いのでありますね」
「そうだな」
「弱すぎなのです」


 これなら、ファン殿やルー殿が戦っても素手で制圧できそうであります。
 リオ殿? リオ殿の心配はしていませんよ。運動は苦手ですがリオ殿はわちきたちよりも強いですからね。


「まだやりますか? それならわちきたちも次は本気で迎え撃ちますよ」


 ザッツたちが憎しみの籠った視線をこちらに向けてきました。
 なので、こちらは殺気を放ちながら、鉛球を装填したスリングショットを構えます。
 キラは双剣を抜き、マイケルは大剣を抜き放ちました


 スリングショットから放たれる鉛球は、頭がい骨を陥没させるどころか貫通させる程度なら簡単にできます。
 竜の力で引かれることを前提とされているスリングショットなので、人を殺すことなどさほど難しい事ではありません。


 別に殺しても構わないのであります。正当防衛ですし、殺すことに忌避感なんてありませんし、むしろわちきは紫竜の里に居た頃は山脈を登ってきた人間をおやつ感覚で食べていましたしね。
 なのでこちらは本気だぞ、と殺気を込めて睨み返してやりました。


「ひっ、ひぃいい!」


 すると、わちき達の殺気に腰を抜かして這うように逃げて行きました。
 その様子を見ていた冒険者たちは、歓声を上げたり羨望の眼差しをおくったりしてきました。
 ザッツ達は他の新人冒険者たちにもこうやって絡んできたのでしょうか。
 彼らは若い冒険者たちには嫌われていそうな感じでした。
 そういう者たちから特に称賛の言葉を浴びせられましたよ。むふん。


 きっとザッツ達は最速でDランクに上がったとかいう実績のせいで天狗になっちゃっていたのでしょう。
 自分よりも強い人と戦ったことがなかったのかもしれませんね。
 強くなっても謙虚で臆病を貫くリオ殿を見習ってほしいモノであります。


 リオ殿の場合は少し臆病すぎますけどね。


「弱いのに、なんで絡んでくるんでしょうね」
「マイクよりも馬鹿なのです」
「ああん? ねーちゃんよりも馬鹿の間違いだろ」
「どっちもどっちであります」
「「 なんだと!? 」」


 そんなやり取りをしつつ、依頼を達成するために東門へと向かって歩き出しました。
 わちきたちも随分と強くなりましたね。
 油断はしませんが、これからももっとシゲ爺の元で修業を積み、族長殿と肩を並べられるように、それにリオ殿の助けになれるように、強くならねばなりません。


「ケンカは後で、シゲ爺の武術館で思う存分やればいいであります。今は依頼が優先でありますよ」
「う、わかったよ」
「ミミロおねーさまには敵わないのです」




 さあ、リオ殿が言うところのテンプレートも済ませたところで、本格的に冒険者活動をやりましょう。
 討伐部門の登録もしてみるべきでしょうか。登録に掛かるお金くらいは持っていますし、登録にそれほど時間がかからなければやってみても面白そうであります。





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