受難の魔王 -転生しても忌子だった件-
第100話 ☆魔力合わせ
昼食後。
午後からは魔力の勉強になる。
魔法の勉強ではなく、魔力の勉強だ。
魔法を使うためには、魔力についてよく知っておかなければならない。
「皆さんも知っている通り、私たちの体の中にある力が、魔力です。魔力を持つ量は人それぞれ異なりますが、鍛錬次第では魔力の量を増やすこともできます」
教師用の教科書を開いて説明するフィアル先生。
教師としてのマニュアルがあるのか、それほどわかりにくい説明でないようでホッとした反面、フィアル先生の天才肌なキャラを殺してしまっているような残念感があった。
「今日は、魔力を感じることから始めましょう。魔力を感じることが出来なくては、魔力を扱えません。魔力を扱えなくては、魔法を使えません。魔法を使うために絶対に必要な工程です。手を抜かないようにしてくださいね」
フィアル先生が生徒たちの前に立ってそう言ってくれるが、僕は赤子の頃から体の中にある違和感に意識を向けていたから魔力の存在についてはよくわかっている。
ルスカにも昔から瞑想して魔力を感じられるように言っていたし、そもそも“賢人級”以上の魔力を持つルスカには魔力が目に見える。
膨大な魔力を持つゆえ、感じることも容易だったんだろうね
「あたしたちは平気よね、ルー」
「うん♪ もう知ってるの♪」
当然ながら、種族柄魔力の扱いに長ける長耳族のファンちゃんも、例外ではないし
「ボクも魔力を扱うことに関しては大丈夫」
「そっか」
“魔力眼”を持っていると教えてくれたラピス君も、魔力の扱いに関してはエキスパートである
“魔力眼”は内包する魔力さえ見えるのだから、体内の魔力をどう動かせばいいのかさえ分かるようで、もしかしたら僕よりも自由自在に魔力を扱う才能があるのではないかと疑いなくなる。
というか、そんな才能があるに違いない
「それでは、目を瞑って、根気強く自分の身体と向き合って、魔力を感じてください。寝たらダメですよ。判らないなら先生に声を掛けてください。魔力がどういったものなのか、先生が“魔力譲渡”でおしえてあげます」
へえ、“魔力譲渡”で判るようになるんだ
「ラピスさん」
僕がラピス君と隣同士の席に座って他の生徒に交じって目を瞑って魔力を高速で操作していると、後ろからラピス君に声がかかった
「どうしたの、リコッタちゃん」
ラピス君が笑顔の仮面を貼り付けて僕の後ろに体を向ける。
声を掛けてきたのはプラチナブロンドの金髪が特徴の、『ザ・王族』と言わんばかりの気品に満ちた、ちょっとぽっちゃりした体系の女の子だった
やっぱり、この教室はお金持ちが通って、その寄付金で成り立っているところがあるんだろうな。
お金持ちが居るならば、食事が食べられる。食べられるのならば、そりゃあ肥えるよね。
いいなぁ、僕もいっぱい食べて大きくなりたい
彼女はリコッタ・リリライルさん。
なんか南大陸の王女で交換留学生らしい
政治の話は僕にはわかんないや
「魔力というのは、どうやったらわかるものなのでしょう?」
リコッタちゃんは世にも珍しい“光属性”持ちということで、国の“癒し手”つまり治癒術師として将来は活躍することになるかもしれないそうだ
しかしながら、まだ7歳。
魔力の量も少ないし魔力がどういった存在なのかもよくわからないそうだ
そして、ラピス君はこの学年の首席。ラピス君に質問が来るのも当然か
なんだ。クラス全員がラピス君に支配されているのかと一瞬躊躇したけど、ラピス君はちゃんと節度をわきまえているみたいだ。
獣人差別の嫌悪が無くなるまで魅了と解除を繰り返し、心情と自分の気持ちをあやふやにする。
やっていることは洗脳に近いけれど、ラピス君に聞いた話では獣人差別というのは酷いモノらしい。
たとえば、ラピス君のお昼御飯だ。
昼食時に学食でラピス君が話してくれた“サラダだけ食べたよ”というセリフ。
学校の厨房を預かっている給仕のおばさんは、獣人差別者であったらしい。
ラピス君はあまり人を悪く言うのは好きじゃないらしく、本人は給仕のおばさんを庇って“野菜が好きだ”と言っていたが、本当は給仕からの嫌がらせで“獣は草でも食っていろ”という暗示だったらしい。
ラピス君の血色はいいから栄養不足ってことは無いと思うけど、獣人差別っていうのはまた根が深い問題だなぁ
「うーん、見えているものが違うから説明しにくいなぁ………リオっちはわかる?」
「なんとなくだけどね」
本来、僕がこの学校に来た理由の一つでもある。
フィアル先生を補佐する。
今から僕がするのはそれに該当することだと思う
初めてのクラスではどうしても戸惑うことが多いし手が回らないことも増えるだろう。
僕ができる範囲でクラスメイトに物事を教え、魔力の扱いを教え、フィアル先生の助けになればいい。
フィアル先生の教え方がよくわからないと僕がいつも言っているが、教職に就いてすらいない僕の方がよっぽど教え方が下手に違いない
これからはあまりそういうことをフィアル先生に言わないようにしておこう。
「それじゃ、お願いしていい?」
ラピス君が僕を講師に指定してきたので、体の向きを変えてリコッタちゃんの正面を向く。ラピス君に代わって僕がリコッタちゃんに教えることにするよ。覚悟しなさい
「ごほん。じゃあ僕が教えてあげるね」
「私はラピスさんに聞いたのですが」
と思ったら出端をくじかれた
ラピス君と一緒にリコッタちゃんの近くに椅子を移動させながら教えてあげると言うと、やや不機嫌そうにそう呟かれた。
ああ、ワガママな子なのかな? ラピス君と仲のいい子なのかも。じゃあ僕だって友達作りに邁進しようじゃないか!
「そんなこと言わないで、リコッタちゃん。リオル君はボクの親友なんだ。リオル君が嫌われたらボクは悲しい。それに、リオル君は魔法が得意だから、ボクよりもリオル君に教えてもらった方がいいよ」
「そうですか………では、どうやって魔力を感じることが出来るのか、教えてください」
胸に手を当てて「悲しい………」を表現するラピス君の耳は垂れ下がり、それに罪悪感を覚えたのか、リコッタちゃんは視線を僕に向けて教えを乞う。
王族だからか、頭を下げることは無かったけれど、魔力を感じられるようになりたいという気持ちは伝わったよ。
僕は人にモノを教えるのは好きだし、こう自分を頼ってくれるのは本当ん時うれしいんだ。張り切っちゃうよ!
それにしても、王族の心を魔眼もなしに操るラピス君のあざとさと演技力には脱帽だ。
「まず、魔法を使うために必要なのは『イメージ』だよ」
「詠唱ではないのですか?」
僕の一言に首を捻るリコッタちゃん
「そう。詠唱して、魔法を発動させて、魔法を知る。コレが基本的な魔法の覚え方。だけどね、『世界で初めて魔法を使った人』はきっと、詠唱なんて知らないでしょ。だったらイメージするしかない。詠唱って言うのも、元々は魔法を『イメージ』しやすく、なおかつ言霊で魔力を発動させやすくするためのものなんだから、極論だけど、イメージさえしっかりしていたら、詠唱なんて必要ないんだ。こんなふうに」
僕は「ファイア」と唱えると、指先に火が灯る。
「わっ!」
リコッタちゃんが眼を見開くが、その瞬間、フィアル先生が『風喰』と唱えて僕の指先の火は音も無く消えた。
おそらく、真空を作り出して酸素の燃焼を止められたのだと思う。
フィアル先生から「リオルは勝手に魔法を発動させないように」と注意をされてしまったので素直に頭を下げつつ、リコッタちゃんに説明を続ける
「詠唱がなくても魔法の名前を唱えることによって魔法はイメージしやすく、魔力が通りやすく、そして早く発動することが出来る。完全に無詠唱だったら言霊が無い分、イメージが難しいし魔力も馬鹿みたいに食うけどね」
そんな馬鹿にたいに魔力を食われてもものともしないのが、賢人級以上の化け物魔法使いってことだ。
僕は賢人級程度ならかるーく超える魔力を持ってるけどさ。
「とにかく、ひとまずは詠唱よりもイメージが大事なんだ」
「………」
しかし、イメージしろと言われても何をイメージすればいいのかわからないようにもどかしそうに眉を寄せて頷くリコッタちゃん
僕の説明も足りていないだろうけど、ここからだ。
魔力を感じるための授業なんだから。
「だから、イメージして。自分の身体の中に目には見えない力があることを」
「はい………」
「初めは、奥深くに蓋がしてある器をイメージして。それに向かってゆっくりと手を伸ばすんだよ」
リコッタちゃんが目を瞑って自分の意識の奥へと果ての無い旅に出る。
僕はそんなリコッタちゃんを見て、次の段階へと進める
「ふたを開けたら、その中に魔力がある。液体でも気体でもいい。とにかくイメージして、器の中にある魔力を掬いだして、右手に集めてみよっか」
魔眼程じゃないにしても、僕は集中すれば魔力を見ることが出来る。
表面上の魔力しか見えないとはいえ、リコッタちゃんは言った通りに魔力を右手に集めることに成功していた
「よくわかりませんが、なんだか右手が熱を持っているような気がします」
そして、ちゃんと感じることができたようだ。
問題なんかないようで安心した
「それが魔力だよ。それを忘れないように、何度も操作を練習したら、すぐに魔法を使えるようになるよ」
「そうなのですか?」
眼をシパシパさせて自分の右手を見つめるリコッタちゃん。
そこに魔力があるという感覚が新鮮なんだろう。僕も瞑想して魔力を見つけた時はテンションが上がったよ。
「ね、リオっちはどうやって魔力を感じられるようになったの? ボクは気付いたら魔力が見えてたからよくわからないんだ」
ラピス君は体内の魔力をも見ることが出来る魔眼を持っているからそれを見ながら魔力を操作するのは比較的に楽だったんだろうね
左手を腰に当てて首を傾げるラピス君に視線を向けてから、僕は宙空を見る。
「うーん、僕は思考錯誤の連続だったよ。教えてくれる人なんて居なかったから、瞑想して、意識を沈めて魔力を感じることが出来るようになったのはひと月はかかったね」
「そんなに………」
「リコッタちゃんは才能があるかもね」
僕がそういうと、うれしそうに「ありがとうございます」と微笑んだ
「魔力を感じられるようになったなら、次にすることは魔力の操作だよ。右手の熱を左手に移動できる?」
魔力を感じられるようになって次のステップへと進む。
本当はフィアル先生が教えないといけない事なんだろうけど、他の生徒で手一杯みたいだし、ちょっとくらい手伝ってあげますとも。
「………むつかしいです」
見れば、リコッタちゃんの右手に集めた魔力は徐々に霧散していて全く移動できていない。
「コレもイメージが大切でね。できると思わないと絶対にできないんだ。まずは手首に魔力を集めてみよう」
いきなり左手に、というよりはわかりやすかったのか、ゆっくりと魔力が右手首へと移動していく。
「その魔力が移動する感覚を忘れないようにして、だんだん素早く移動できるようにするんだ。それを毎日続けたら………ルー!」
「はーいなの!」
僕はルスカを呼ぶと、嬉しそうに僕の方に走り寄ってきた。
そんなルスカと両手に指をからめる
「魔力合わせ。いくよ」
「うん♪」
右手から魔力をルスカに送り、左手から魔力を受け取る。
「おお、すごい!」
ラピス君は何が起きているのかを魔眼で捕らえているようで、驚きの声を上げる。
しかし、魔眼を持たないリコッタちゃんは何が起こっているのかわからずに首を捻る
「あの、なにをなさっているのですか?」
「これは“魔力譲渡”と“魔力吸引”の合わせ技。お互いの魔力を行き来させる遊びだよ」
「ふぁぁ♪」
ルスカの暖かい魔力が僕の中を満たすと同時、ルスカが気持ちよさそうに身を震わせる。
互いに魔力の相性がいいのか、気持ちよすぎてやめ時がわからない。
手を離すと、名残惜しそうに僕の手を見つめていた。
物足りなかったようで、それを補充するかのようにギューッと僕を抱きしめてすりすりと顔を押し付けてくる。
そんなルスカの頭を優しく撫でる。
こんなに可愛い妹が抱きしめてくれるんだ。抱きしめ返して頭を撫でないなんて、できるはずがない。
「リオルくん。その遊びはいつくらいからやってるの?」
ラピス君がやや真剣なまなざしで僕を見つめてきた
どうしたんだろう?
「んっと、シゲ爺の家に着いたくらいからかな」
「へえ」
ラピづ君は口元をω←こんなふうにしてニッコリと微笑んだ。
「魔力の操作を完全にものにしたら、このくらいはすぐにできるようになるよ」
そしてゆくゆくは“魔闘気”や“ブースト”といった属性に頼らない応用も可能になる。
「わかりました。訓練して、もっと早く魔力を動かせるように精進します」
リコッタちゃんはその場を離れ、目を瞑って魔力を感じる練習を始めた
「リオっち、ちょっとこっちに来て。ルスカちゃんも」
それを機にラピス君はボクの服の袖を引っ張って部屋の隅へと引っ張ると、小声で話し始める。
「リオルくん。その魔力合わせってやつ。“加護”を与えることが出来るみたいだよ。」
「加護って、加護?」
「そう、加護。あまり見せびらかすべきものじゃないよ。それに………リオルくんは魔王と会ったことがあるんじゃない?」
ぴしゃりと言い当てられた。
それも魔眼の力なんだろうか
「ルスカちゃんの“神子の加護”が“魔王の加護”の効果を打ち消している。あまり多用しない方がいい気がするんだ。」
「それ、本当!? うわ、全然気づかなかった!」
せっかくもらった魔王からの加護を打ち消してしまっていたのか!
でもルスカの加護の方がうれしいかもと思っている自分が居る!
どうしよう!
「悪い事ばっかりじゃないみたいだよ。リオルくんの“魔王の子の加護”でルスカちゃんの“神の加護”を打ち消している。リオルくんやルスカちゃんは神“ダゴナンライナー”様に目を付けられるのは嫌なんでしょ? ルスカちゃんは相変わらず神子なのに魔王の子であるリオルくんのことが大好きみたいだし、神の加護がある状態はリオルくん達にとってもよくない事だと思うんだ。リオルくんの加護がある状態なら、敵対するダゴナンライナー様からのコンタクトを防げるはずだから。」
ラピス君の魔眼は何もかもお見通しなんだね。
僕らの知らないことをポンポン教えてくれる。とてもいい子ですやん
「あ! そういえばリオと魔力合わせするようになってから、ライナーさまから何も言われないの!」
「そういえば、僕もジャックからのコンタクトが減った気がする」
ルスカがダゴナンライナーからのコンタクトが無いと言った。
少し前はルスカの頭の中に声が聞こえて、2・3日に一回はダゴナンライナーから僕を殺すように催促されていたらしいけど今はそんなことは無いらしい。
それは僕の加護がダゴナンライナーの神子への干渉を妨害していたかららしい。
なんだかんだで僕たちは魔王の子と神子なんだ。
僕と神の相性は悪いだろうし、ルスカと魔王の相性だって悪いはずだ。
僕らの加護の影響で、魔王も神もコンタクトが取りづらくなってしまっているとラピス君は教えてくれた。
「ボクは魔王派か神派かと聞かれればリオルくんと同じだから魔王派なんだよね。実際、ボクは半分ほど魔族の血が流れているし。ルスカちゃんもリオルくんを害そうとするダゴナンライナーのことが嫌いみたいだね。」
「リオをいじめようとする人のはなしは聞かないの!」
ルスカがふふんと胸を張る。例え神であっても馬耳東風と言い張った。
ルスカの中のヒエラルキーの頂点に僕が居座っている。
僕もルスカが大好きだから、本当に愛されているとわかってとてもうれしい
ぎゅっと僕の右腕を抱きしめるルスカの頭を撫で撫で
それにしても、ラピス君は完全に獣人族かと思っていたけど、魔族と兎人族のハーフだったんだ。
そういえばラピス君のお母さんが異常なほど魔族を毛嫌いしていたのを覚えている。
魔族に孕まされた子供が、ラピス君なんだろうな。
簡単に予想できる。さすがにラピス君のお母さんに同情するよ。
となると、ラピス君のもう半分はメドューサとかゴルゴンとかそんなところだろうか。
魔眼を大量に持っている点を考えても、それが一番しっくりくる。
「んー………」
「どうしたの、ラピス君?」
僕の腕に抱き着くルスカを見て、ラピス君は難しい顔をする。
刹那。ラピス君の瞳は一瞬で林檎のような瑞々しい赤色から赤紫色に変色させる
どうやら魔眼を発動したらしい。
ルスカを害しているわけではなさそうだけど、魔眼の発動は眼を動かすだけで対象を決定できるから、隙が全くない。
庇おうと思って庇える攻撃じゃないな
勝手にルスカに対して魔眼を使ったことを不快に思いつつ、眉を寄せながらラピス君の視線を切るようにルスカとラピス君の間に体を滑り込ませる。
「………ダメだ、すぐにはできそうにないな。そんなに怖い顔をしないでリオっち。さすがに“神の加護”を破壊するのには時間がかかる」
「へ?」
ラピス君は首を振り、右手で眼を押さえて揉みほぐす。
訳が分からなくて思わず素っ頓狂な声を出してしまった
どうやらラピス君は少し目が疲れているらしい。
魔眼は魔力の消費も馬鹿にならないし、眼に負担を掛ける特殊能力だからね
先ほどルスカに対して魔眼を発動していたのは、“神の加護”を破壊するためだったらしい。
………魔眼ってそんなこともできるんだ。
「“識別眼”で調べてみたら、どうやら“加護”っていうのは、掛けた相手の位置が判るみたいなんだ。どういう行動をとっても、神には行動は筒抜けってことだね。」
「………そんな!」
加護なのに、そんな厄介な能力があったとは!
そういや、僕に加護を与えた時のジャックも同じようなことを言ってたな。
護ってくれる力のはずなのに余計な機能が僕らを邪魔する!
「いくら“魔王の子の加護”で効果を相殺しても“神の加護”は残っているから、ボクの魔眼で完全に壊そうと思ったんだ」
「そうなんだ………」
ラピス君は僕たちの為に、動いてくれている。
僕に対する妄信? 狂信? そう言っても過言ではないレベルで、無条件に寄せられる度を超える信頼・好意。
そんな彼の姿に警戒するのが馬鹿らしくなってくる。ラピス君は、絶対に僕たちに牙を剝かない。
「ボクがルスカちゃんに繋がっている“軌跡陣”と“神の加護の残り香”を“魔砕眼”で完全に砕いて壊してから“隠蔽眼”で神の眼を欺くから。放課後、リョクリュウ伯爵のところに連れて行ってもらえないかな。“軌跡陣”だけは砕いたけれど、またいつルスカちゃんに繋がるかわからないんだ。時間を稼いでいる内に、安全な環境で時間をかけて、ちゃんと“神の加護”を砕いてしまいたいんだ」
“軌跡陣”って言うのは、僕が持っている“糸魔法”の正式名称だろう。
確か魔王ジャックが“軌跡陣”って言っていたから、間違いない。
糸魔法は視聴覚情報を入手したり、魔方陣を書いたり、物を切断出来たりとなかなかに優秀な魔法だ。
おそらく、神や魔王も僕と同じ魔法を使っている。
確実に僕よりも使いこなしているだろう。
“糸魔法”は他人に接触させれば“念話”することすら可能。その気になれば視聴覚情報を盗み見ることくらい簡単にできるだろう。
ラピス君はそれを防いだらしい。
“糸魔法”は使用者か魔力眼を持っている人にしか見ることが出来ない特別な糸だ。
神と繋がる糸を破壊して、今度はルスカに掛けられた加護を破壊すると言っている。
正直、ラピス君がここまでしてくれるとは思ってもいなかった。
まだダゴナン教からのちょっかいは掛けられたことは無いが、神がルスカの居場所を完全に判っている状態というのは不安すぎる。
一刻も早く加護を破壊してもらわないといけない。
「………わかったの。ありがとう、ラピスくん」
「僕はフィアル先生に頼んでみるね。僕は寮生じゃないし先生の“ゲート”で帰ることになってるから、フィアル先生の許可がない事には何とも言えないけど、頷かせて見せるから。」
神とのつながりが無くなってホッと息を吐くルスカ。
僕はフィアル先生と一緒に帰ることになっているからそれに便乗させるだけだ。
危険を未然に防いでくれるラピス君。
彼の魔眼は強力な武器だ。
敵に回ったらこれほど恐ろしい人物はいないだろう。
でも、彼は味方だ。僕たちの為に十全にその力を発揮してくれる。
こんなにありがたいことは無い。
僕たちは放課後に教室に集まることを約束したところで、授業終了のチャイムが鳴り、話はここで終了となった。
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