受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第87話 ☆おやくそく





 屋敷にたどり着くと、まずはおじいちゃんに報告をしようと思い、おじいちゃんの書斎に向かった


「あれ?」
「どうしたの?」


 ルーと一緒に書斎に来たはいいけど、もぬけの殻だった
 おじいちゃんがいないから。まだ会議中なのかしら


 夕方まで会議するとは思わなかったけど、竜の族長を全員集めて会議するんだ。簡単なことではないはずだ。


「お帰りなさいませ、ファンお嬢様。ルスカ様。お風呂の用意が出来ております。リオル様より二人が帰ったらまずはお風呂に入れてくれとおっしゃっておられましたので、まずはそちらに向かわれてはいかがでしょうか」




 と、あたしがこれからどうするかを考えていると、背後から屋敷に住まうメイドさんの一人、サリーさんがそう言った。


 そっか。確かにあたし達は水に濡れてビショビショだったし、そんな状態で晩秋の夕暮れを歩けば風邪を引いてしまう


 ちょうどお風呂にも入りたかったところだ。
 ・・・魔王の子が先に帰ったのはこのためだったのね。


 最初から最後まで、本当に気を使われてばっかり。
 こんなに優しい彼と、本心から仲良くなりたいと思った


「わかったの!」
「………。」


 元気に返事をするルーと、ルーの陰に隠れてコクリと頷くだけのあたし。


 その様子を見てサリーさんは眉を寄せるが、あたしが人見知りでメイドさんたちにも返事を返せないのはいつもの事だ。
 サリーさんはぺこりと頭を下げると


「では、失礼します」


 踵を返してその場から去ろうとする


(ほらファンちゃん。あの子行ってまうで。わざわざ呼びに来てくれたんやし、お礼くらい言えるやろ? ウチと契約したときにだした勇気はどこに行った? ルーとお話しした時に出した勇気は何処に行ったんや?)


 その時。あたしの心の中で、リャオタンが発破をかけた。


(で、できるわよ。み………見てなさい)
(それでこそウチのご主人様や! 応援しとるで。頑張りや)


 そう、もう昨日までのあたしじゃない。嫌われるだけのあたしじゃない。
 精霊とも契約できるし、友達だってちゃんと作れる。あたしに足りなかった自信も、勇気も、ルーと一緒なら。リャオタンと一緒ならいくらでも出せるような気がした。


「ま、まって!」


 あたしは、メイドのサリーさんを呼びとめると


「いかがなさいました?」


 あたしがメイドのサリーさんを呼びとめたのは初めてのことだ。
 驚いた様子でこちらを振り返った。


「そ、その………わざわざ伝えに来てくれて、あ、ありが……とう」


 目を丸くしたメイドのサリーさんは、ふっと微笑んで


「いえ、メイドとして当然の務めですので。………失礼します」


 今度こそあたしに背を向けて歩き出した。


「ルー。………お風呂に行くわよ」
「うん♪」


 できた。ちゃんと言えた!
 怖がってばかりじゃダメだ。ちゃんと自信を持って人と話せたら、しっかりと返してくれる。


 一度ずぶ濡れになって身体が冷えているし、一度お風呂に入ってからもう一度おじいちゃんの書斎に出直そう。
 そしたら今度こそおじいちゃんに報告するんだ。
 精霊と契約ができたことを。それに、友達ができたことを!
















「あんなお嬢様、初めて見た………。どんなマジックを使ったのかしら、あの男の子。」


 微笑みながら離れてゆくサリーさんのそんな言葉は、あたしの耳には届かなかった。




          ☆ リオルSIDE ★






 僕がシゲ爺の屋敷に戻ると、フィアル先生とミミロに出会った。というか、僕がフィアル先生の部屋に行っただけなんだけどね。
 ミミロは自分の投石機パチンコと癇癪玉、フックなどの装備をチェックしている。
 フィアル先生はそんなミミロをぼんやりと見ながらも冒険者の先輩として装備の点検の仕方を教えているようだ。


 キラとマイケルはお祭りではしゃぎ疲れたのか、二人とも先生のベッドで寝ていた。仲良しだねぇ。


 ミミロが僕の存在に気付くと、点検を止めて顔を上げる


「おや? リオ殿。帰ってこられたのでありますか。どうでした? ファン殿と仲良くなれましたか?」


 点検自体はすでに終わっていたらしく、床に置いてあるロープや糸。針やフックなどを道具袋の中にしまいながら僕に聞く。
 すべてを綺麗に整頓しながらしまい終えると、ミミロはポンポンと自分の隣を手で叩いてそこに座るように促す。


 遠慮することもないので、ミミロの隣に腰を下ろすと、今日の出来事を思い出しながら口を開く。


「んー。僕はまだ仲良くはなってないんだけど、あんまり心配はしてないかな」
「というと?」
「ルスカがね。ファンちゃんと友達になったんだ。それに、もうファンちゃんは自分に自信を持っているともう。だから、僕と友達になるのもミミロと友達になるのもそう遠くない未来かもしれないね。」


 僕は右手の人差し指を立ててそう答えると、ミミロは「そうですか」と言って嬉しそうにうれしそうに頷いた。


「それにしても、リオルはどうしてそこまでしてファンちゃんと友達になりたいの?」


 ミミロの点検を手伝っていたフィアル先生も座っていた場所を移動し、僕の隣に座る。
 うーん、理由かぁ。立てた人差し指を顎に持って来て考える。


「特に理由はないね。だって仲良くなりたいじゃん。それに理由を求められても困っちゃうよ。あ、そうだ。強いて言うなら、ファンちゃんと僕が少し似ているからかな」
「似てる?」
「うん、ファンちゃんはダークエルフでしょ?」
「そうね」


 フィアル先生とミミロが頷いたのを確認したら、今度は顎に当てていた指で自分のほっぺをつんつん。


「そして僕は魔王の子」


 髪は真っ黒。背中には10cmくらいの翼もあるよ。まだちょっとくらいしか動かせないけどね。


「あぁ~、………どっちも一般からは嫌われてるね」
「そゆこと。」


 心なしか特徴のエメラルドグリーンのポニーテールが力無く萎れているような気がする、そんな表情のフィアル先生のセリフにコクリと頷いて僕は話しを続ける。


「そんな嫌われ者のファンちゃんには心の支えがないから、いつか潰れちゃいそうだと思ったんだ。僕とファンちゃんの違いはここだね。二人とも判ってると思うけど、僕はルスカが居なかったら、今、ここに居なかったかもしれない。僕の心の中心にいるのはいつもルスカだ。それはルスカの方もまた然り。ルスカの方も僕無しじゃ生きていけない。唯一の肉親なんだ。互いに支え合わないと生きていけなかったんだから。」


「………。」
「………。」


 フィアルとミミロは黙って僕の話にうなずく。
 最後に僕は自分の胸に手を当て、そのまま服を握り締めた


「心の支えがある僕とルスカは孤児の中でも恵まれた方だよ。でも、ファンちゃんは違う。エルフから疎まれ、蔑まれ、里から一人で逃げてきた彼女に、心の支えどころか、味方すらいなかったはずだから。だから、だからこそ、ファンちゃんの心が壊れてしまう前に、どうにかそのボロボロの心を支えてあげられたらなって思ったんだ」


「リオ殿………」
「そこまで考えてたんだね」


 思っていたことを晒したらなんだか無性に恥ずかしくなった。
 ごまかすように目を泳がせて頬を掻く


「ま、単純に僕がダークエルフやエルフが好きっていうのもあるかな。だってみんな美人だしかわいいんでしょ?」


 僕が最後に冗談っぽくそういうと、ミミロとフィアルはプッと噴き出した。
 僕は結局のところ面食いだからね、ファンちゃんも火傷の痕があるけど、それも含めて、充分美人だと思ってるよ。
 恥ずかしがり屋の人見知り。そのくせに無理に背伸びして大人ぶろうとして空回り。
 ほら、とっても面白い子じゃないか。そんな彼女の火傷の痕なんか、かわいいチャームポイントの一つにすぎないっての。


 そんなかわいい子と仲良くなりたいと思うのは、当然だ。


「あ、もちろんエルフだけじゃなくて竜人族形態のミミロや人間族のフィアル先生もかわいいし、大好きだよ?」


 そう伝えてみたらフィアル先生からは苦笑とデコピンをいただいた。
 ミミロはなんか顔を赤らめてもじもじしてたけどたぶんミミロはふざけているだけだ。
 ミミロからもはにかみながらのデコピンをありがたくいただいておいた。


 竜人族のデコピンは効いたとだけ言っておこう。首が曲がるかと思った。




―――コンコン




 おっと、話が終わったと同時にフィアル先生の部屋をノックする音が響いた


「はーい! どうぞー!」


 フィアルが声を返すと、扉が開き、若いメイドさんが入室した


「リオル様。お風呂の準備が整いました。すぐにご入浴なさいますか?」
「あ、ありがとうサリーさん。うん、すぐに行こっかな」


 フィアルじゃなくて僕の方に用事だったらしい。赤くなったおでこを軽くさすりながら返事を返す。


 サリーさんは昨日の晩御飯の時、イズミさんと一緒に料理を作った時に仲良くなったメイドさんだ。
 彼女には僕の作った皮むきピーラーとスライサーをプレゼントしたんだよ。
 ものすごく役に立っているって言っていたもんね。役立っているのなら僕もうれしい


 当然ながら彼女は僕の頭の髪のことを、つまり僕が魔王の子だということは知らない。
 ちなみにサリーさんは17歳だよ。若いのに住み込みでメイドさんしているんだって。すごいよね


「あれ? リオ殿。こんな時間にお風呂でありますか?」


 疑問に思ったらしいミミロが首を捻る


「うん。ちょっとさっきファンちゃんを追いかけて街の外の大森林まで行ってきたからね。おかげで傷と泥だらけだよ。傷自体は体質のせいか加護のせいか、ルスカに頼るまでもなくもうほとんど完治したんだけど、汗を洗い流したかったし、それにルスカとファンちゃんは色々あって水に濡れてびっちょびちょだったから、二人が返ったらすぐに温まれるようにしたかったんだ。今は秋も終わりで冷えるでしょ。風邪ひいちゃったら大変だからね」


 用意しておいた道具袋から下着と服を取り出し、ミミロにウインク。
 星が飛んだよ。ミ☆


「それもそうですね。追いかけて大森林まで行ったのでありますか………うわぁ」
「ふふっ、本当に優しいお兄ちゃんだなぁ、リオルは。」


 ファンちゃんの人見知りとその行動力にやや引き気味のミミロと、くすくすと笑みをこぼすフィアル。
 大変だったんだよ。あのあとファンちゃんに追いついて、ルスカと友達になったとおもったら次は精霊との契約だからね


「かわいい妹なんだよ。当然のことだよ。あ、ミミロや先生も一緒にお風呂入る?」
「んー、私は後でいいかな」
「わちきも、キラやマイケルと一緒に入るので、今は遠慮しておきます」


 ついでにお風呂に誘ったら断られた。残念。


「そっか。じゃあ、またあとでね。僕は一足先にまったりさせてもらうよ」






                ☆




 僕は着替えとバンダナを準備して、サリーさんの案内でお風呂に向かった。
 よかったぁ、これがただの宿屋とかだったら、お湯と布だけだし、普通の一般家庭ではお風呂なんてものは考えられないからね。
 お風呂に使う水があったら飲むもん。


 それに引き替え、この屋敷には大きな浴槽があるのだ。やっぱり日本人はお風呂だね




 脱衣所に到着。
 服とバンダナをスポーンと脱ぎ去って「うっひゃー!」とか言いながらお風呂場に特攻だ!


「うわー、結構広いなー」


 大浴場だ。カナヅチだけど、泳げちゃいそうだね
 ちなみにシゲ爺の家では石灰を動物性の脂とか樹脂とかでいろいろしてある石鹸が置いてあった。
 僕は石鹸の作り方に詳しいわけではないから、こんな説明しかできないけど、お風呂場に石鹸が置いてあるのって珍しいんだよね。


 せっかくなので、ありがたく使わせてもらいますよっと。


 僕の頭は常にバンダナで締め付けているおかげで蒸れるから、念入りにね。
 将来ハゲないか心配だよ。


 薄毛の魔王………威厳もクソもないね、ぷぷっ


 シゲ爺の館は地下水をポンプで引き上げているらしく、割と清潔な水が僕の頭に降り注ぐ
 ボイラーなんてものは無いからもちろんシャワーは冷水だ。


 冷水とはいえ、大森林を歩いてきた僕の身体は汗だらけだったから、汗を流せて気持ちがいい。


 なぜかヘチマが置いてあったので、石鹸をわしゃわしゃと泡立ててそいつで身体をゴシゴシゴシ。


 まぁ、結構毎日のように東大陸の赤竜の里ではお風呂に入っていたからね、結構清潔だから垢はあんまりでないかな。
 東大陸のケリー火山は火山なだけあって地下水は温泉みたいになっているんだよね。


 毎日天然温泉に入り放題だったよ。
 おかげで僕やルスカ、キラにミミロにマイケルも温泉好きになっちゃったもん。


 ちなみに、週一でシャワーも浴びれたらこの世界では割と清潔な方らしいよ。
 僕の場合は毎日か、時々一日開くかって程度かな。


 うーん。背中の翼は転生して6年たった今でも慣れないし、ここにルスカが居ないから手の届かない背中と翼をうまく洗えないや。しょうがないかとそこはあっさり諦める。


 シャワーで泡を流してから、浴槽にゆっくりと足を入れる


「くぅ~~っ!」


 ぴりぴりと熱い風呂が肌を焼く、心地のいい刺激に拳を握って目をギュッと瞑り、ゆっくりと体を沈めてゆく。


「ふぃ~~~………」


 全身がお湯に浸かり、慣れてくると全身の筋肉を弛緩させて足を延ばす


 至福。
 まさにその表現がぴったりだ。


 だだっ広い浴槽に一人だけの入浴。寂しいもんだ。いつもは誰かと一緒に入ることしかなかったから。
 それでも、一人の時間っていうのもわりと悪くないもんだね


 のんびりと浸かっているだけで、カポーンっと洗面器か獅子脅しのような音が聞こえてきそうだ。


 肩まで浸かって一度潜ってみる。
 10秒もしないで呼吸の限界が来た


 泳いでみる。が、足をつりかけたので泳ぐのはやめておく。
 カナヅチ………




 ………。




 さて、これからどうするかな。
 シゲ爺との約束ではファンちゃんから友達に誘ってもらうように言われている。


 ルスカは自分の意思でファンちゃんと友達になったけど、ここからはもっと話が違う。
 難易度が跳ねあがる。


 ファンちゃんに足りない自信は精霊契約を成功させることで付いた。
 ルスカという同性の友達、味方もできた。


 あとは………そうだなぁ。ファンちゃんも僕に興味を持っているみたいだし、ルスカが側に居れば、後は時間の問題かな。
 今日もシゲ爺の家に泊まるとしても、明日には赤竜の里に帰るのかもしれない。


 ジンのことだからシゲ爺の元で武術を習うようにとここに居候させるかもしれない。


 つまりいつまでここにいるのかわからないんだ。


 できるだけ今夜か明日までに友達になっておきたい。
 うーん。でもルスカがファンちゃんの近くにいるなら何の問題もないよね。
 基本的にルスカは僕にべったり。ルスカが僕の方に来れば、必然的にファンちゃんも僕のところに。
 そして、愛と勇気を手に入れたファンちゃんが僕にこういうわけだ。『友達になってください』と。


「そんな簡単に友達になれたらこんな苦労しないって」




 そんなうまくいくわけないか、と苦笑しながら浴槽から上がる。


 ひたひたと水をしたたらせながら歩いて、脱衣所へとつながる戸を開いた






              ☆ ファンSIDE ★


 サリーさんに風呂に行くように勧められ、ルーと二人で浴場へと向かう。




 屋敷の中は広いとはいえ、一応あたしはここの養女だ。迷うことなくたどり着いた


「ルー………」
「にゅ?」


 あたしは頭のお団子シニヨンを解きながらルーに話しかける。
 ルーもバンダナを取って白い髪をあらわにする。


 見れば見る程綺麗な髪だ。隠しているのがもったいないと思うほどに。
 でも、隠しておかなければならない理由があるのだろう。
 あたしの包帯と同じだ。


 ルーは小首を傾げて返事を返す






「彼、本当にいい人ね」
「にへへ、リオはいっつもルーたちのことを考えてくれるの!」


 あたしたちが二人で泉に落ちたことも知っているだろうし、まだあたしが彼のことを警戒してうまく話せないから、まずはルーと仲良くなって会話に慣れさせようとしているのだと思う。


 今だって、ずぶ濡れになったあたしたちが風邪を引かないように、帰ったらすぐに暖かいお風呂に入れるように準備してくれた


 人見知りでうまく話すことのできないあたしの為に、話したこともないあたしの為に。手を尽くしてくれる


 彼は優しい男性ひとだ。
 昨日だって、やさしくあたしの手を握ってくれた。
 怖くないと。味方だというように。


 そんな彼がここまで御膳たてしてくれたのに、あたしは彼に何も返せていない。
 あたしは彼に何を返せばいいのだろう。


 彼のおかげで、あたしはルーとお友達になれた
 彼のおかげで、あたしは精霊と契約ができた。
 彼のおかげで、今、こうしてルーとお話しすることができる
 彼のおかげで、勇気の出し方を知った。


 いろいろなものを貰ってばっかりだ。
 だけど、あたしは何も持ってない。返せるものは何もないんだ


「リオもね」
「え………?」


 あたしが悶々と悩んでいると、唐突にルーが口を開く




「リオも、ファンちゃんとお友達になりたいって言ってたの」
「………。」
「むつかしくかんがえないでいいの。リオはきっと、ファンちゃんとお友達になれたら、それでいいはずだから」


 それはつまり、見返りはいらない。ただただ、友達になってくれればいいと。そういうことなのだろうか


「ファンちゃんがリオとお友達になってくれたら、それが、リオがいっちばんよろこんでくれるプレゼントになるとおもうの♪」


 彼がここまでしてくれるのは、ただただ、あたしと仲良くしたいから。
 それだけの為だとルーは言っているんだ


 でも、彼はこの包帯の中を見ても拒絶しない?
 彼はこの包帯の中身を知らないのだ。


「もしファンちゃんが自分に自信がないっていうなら、だいじょうぶなの。リオならぜんぶ、うけとめてくれるから。」


 ルーはにへへと笑って衣服をすべて脱ぎ、籠へと入れた。


 あたしも衣服をすべて脱衣籠に入れ、最後に包帯に手を掛けた


 一度は見られているとはいえ、やはり人にこの包帯の下を見られるのは怖い。
 ルーはこの包帯の下を見たことがあると、怖がったりしなかったことなど判っているのに、どうしても、この包帯を外す時だけ手が震えてしまう


 でも、勇気の出し方は学んだんだ。ここで弱音を吐いちゃだめだ
 ゆっくりとその包帯を取る。


 外気に触れて火傷の痕がヒヤリとする


「さ、いこ? ファンちゃん」


 ぎゅっと包帯を握り締めたあたしの火傷の痕などまったく眼中にないというルーの反応に、やや拍子抜けしつつ


「ま、まって!」


 あたしは先を行くルーのおしりを追いかけた


 すぐに隣に並んで浴室に繋がる戸に手を掛け、あたしが開けようとした、その時である






――― ガラッ!




 と、あたしが戸を開けるための力を込めるよりも数瞬早く、戸が開いたのだ




「ふぃ~、いい湯だっ………た?」






 眼の前に居たのは、漆黒の髪に水をしたたらせている、あたしくらいの男の子だった



















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