受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第78話 お・し・お・き・♪

       ★ アルン・リノンSIDE ★




「なんなの、あいつら………」
「私達がたおせなかったのに」




 一瞬だった。




 なにか破裂音がしたと思ったら、次の瞬間には悪漢は倒れていた






 それをやったのは10歳児程度の大きさの竜人族。
 そして、ルスカだ。


 自分たちは木剣を使って相手に攻撃を当てることができたのに、武器も持たないルスカにも劣ると認識させられたことでより一層劣等感にさいなまれていた


 助けに入ったら役立たず。むしろ危機ピンチを招いてしまった
 ちっぽけな自尊心プライド)は粉々に叩き割られた


 最強だと思っていた力は、大人には全く通用しない
 なのに、年下のルスカは武器がなくとも大人たちを一撃で気絶させる腕前を持っている


 ずるいと思った




「ふぅ………この男たちはここで放置でいいよね。先生は怪我とかない? 結構強めに引っ張られてたみたいだけど」
「うん。私は大丈夫だよ。それより、さっきリオルからすごい殺気を感じたんだけど、もう大丈夫?」
「うん。ミミロのおかげで落ち着いたよ。しかしいやまいったね。僕は自分ではストレスには強い方だと思ってたんだけど、こんな簡単に我を失ってしまうとは。腰抜けって言われた程度で怒るなんて、まだまだだね。」




 リオルは自分のことをよくわかっていないようで、『腰抜け』はタダの引き金であり、元々はほとんど発散されることなく溜めこまれたストレスが原因だとは思っていないようだ


 そんなリオルを横目で見ていたアルンとリノン。


 その視線に気づいたのか、リオルはアルンとリノンに向き直る




「さて、キミ達にも聞きたいことがあるんだよね。………なんで急に人に殴りかかったのか、聞かせてもらってもいいかな?」




 底冷えするような笑みを浮かべたリオルがアルンとリノンに詰め寄った




「怪我がなかったからよかったものの、あいてが酔っぱらいでこっちが絡まれていたからと言っても、いきなり人を殴っていいもんじゃないよ。おかげで僕たちは殴られて大けがしそうになったんだよ? そこんところちゃんとわかってる?」


 普段は温厚ではあるものの、怒るときは怒るし、注意すべき時は注意する。
 彼女たちの行動はあまりにも浅慮だった。
 それはもうリオルの目に余るほどに。


 アルンとリノンの二人はむっと眉をしかめると


「「 女の人が困ってるのに震えて動けない腰抜けが説教垂れんな! べー!! 」」




 幼い彼女たちは、頭がよろしくない故、それに気づかないままリオルに向かって舌をだし、路地裏から走り去った


 彼女たちだって、自分の行動のせいで窮地に立たされてしまったことはわかっている。
 わかっていても、年下のリオルから説教を受けるのは納得がいかないのだった


























「………怒らないのでありますか?」
「あはは、僕もう怒るより呆れちゃったよ。それに、敵意のこもった目で見られるのはやっぱり怖いしね。トラウマはそう簡単に克服できないよ。」


 ミミロはリオルを見やり、リオルは苦笑をもらす。
 二人とも彼女たちの言動にはほとほと呆れているようだ


 ミミロはスッと目を細めると






「………あの調子だと、いつか痛い目を見ないと自身の愚かさに気付かなそうであります」
「………うん」


 リオルもそれに頷き、鋭い視線をアルンとリノンの背に向ける


「追います?」
「追います。あの様子だとこの後すぐに何かやらかすよ。みんな、もう一度散開! 彼女たちを追うよ!!」




「ぶー、わかったの」
「兄ちゃんとミミロ姉ちゃんのたのみじゃしゃーないな!」
「人使いがあらいのですー!」


「あー、あんまり無茶しないでね………?」




 保護者のフィアルは、所詮は子供の喧嘩と思ったのか、それとも子供たちを止められる気がしないのか、はたまた両方なのか。自分の目に見える範囲に居ることを条件に、子供たちの行動を見守ることにした




                  ☆




「むかつくー!」
「なんなのよ!」




 アルンとリノンの二人は大股で大通りを歩きながらぶー垂れていた




「うごけなかったくせに上から目線で説教たれようとするなんて!」
「守られてるだけの弱虫のくせにわたしたちに説教をするなんて!」




 彼女たちの予定では彼らを颯爽と助けに入って感謝され、リオル達を自分の舎弟にしていたのだ。
 だが、彼女たちの剣術の腕はよくても、腕力が圧倒的に劣る。
 大人を相手に勝てる道理などなかった。


 それに気づかなかったのだ。
 舞い上がっていたのだ。
 天狗になっていたのだ。


 14歳の少年剣士に才能と速度で勝っても、力が足りない。
 大人には勝てない。


 自分よりも一回りも二回りも大きい相手には、自分の渾身の一撃がこれ以上ないくらい綺麗に決まっても、その力の無さですべてが無意味。


 極めつけが、それに気づけない無知さ。
 経験の無さであった。


「ちぇ、つまんないの!」
「かえろ、アルン」




 不愉快な負の感情がドロドロと心の中を侵し、衝動に任せてアルンは小石を蹴った




―――カツン




 と軽い音を立てて、小さな小石は綺麗な放物線を描き


「イデッ!!」


 コーン! と


 それはもう見事にゴリラのような体躯の冒険者の後頭部にミラクルヒットしてしまった




「「 げ!! 」」




 アルンとリノンの二人は逃げようと身構えたのだが




「クソガキが………テメェらだな、俺様に向かって石を投げたのは………」




 冒険者の男は即座に振り返り、原因の二人を一瞬で特定してしまった
 そのゴリラのような体躯の通り、その面もゴリラのように彫りが深く幾度も死線を潜り抜けて来たものの風格を感じられる


 額に青筋を浮かべて振り返った冒険者の男だが、後頭部に当たった衝撃の犯人がまだ小さな子供であったことにやや拍子抜けした


「たいへんよリノン! 大男が怒ってるわ!」
「たいへんねアルン! 迎え撃ちましょう!」


 逃げられないと悟った二人は即座に木剣を手に取った
 それを見て冒険者は石をぶつけたことを謝る気もないのかとため息を吐き


「俺様を討伐部門“Bランクイエロー”のゴディーラ様と知っての蛮行と見ていいんだな?
 ガキをいたぶる趣味はねェが、クソガキのしつけをしてやるか。」




 その太い腕をアルンとリノンの二人に手を伸ばした。




「「 やぁ!! 」」


 それを危険と判断したアルンとリノンは木剣をその腕に叩きつけるが、もちろん腕力が足りないため、たいしたダメージにもならない。


「ってぇな」


「「 なんで効かないの!!? 」」


 先ほどの男たちとは違い、このゴリラのような男は魔物との戦闘になれているようで、さらにBランクという。
 彼女たちの木剣の一撃を交わすことも余裕でできたのだろうが、威力的に全く問題ないと判断した男は、腕に木剣をぶつけられるのも構わず、そのまま手を伸ばしてアルンを捕まえた


「おい、クソガキ。人に石をぶつけたんだ、まずは言うべきことがあるんじゃないか?」


 首根っこを摑まえて自分の方を向かせ、威圧するように睨みつけると、アルンは顔を真っ青にしてガクガクと震えだした




「アルンを離せ! えい! やぁ!」




 リノンはバシバシと木剣で男の足を叩いているが、その丸太のような足はまるでタイヤに打ちつけているかのように弾き返される


 アルンは自分の未熟さと己の浅慮さに伸びきった天狗の鼻をへし折られる音を聞いた


 強くなったつもりでいた。
 ヒーローになれるつもりでいた


 だが、この結果はなんだ。
 自分のまいた種で怒りを買ってばかり。
 しかも、それに対処できる力もない


 自分が学んできたものとはいったい、なんだったのか。


「ひぅ………。ぐすっ」


 アルンは何もわからなくなり、涙があふれ出した


「おいおい、泣かれても困るんだがなぁ」




 頭を掻きながら眉根を寄せる男。
 そして、通りかかる人たちの視線。


 それは大男が子供たちを泣かしているようにしか見えない構図であり、客観的に見たら悪者は確実に自分にされてしまうと思ったゴディーラは、そもそもなんでこんな状況になっているんだとため息を吐く。
 頭を冷やすと、もはやガキどものことなど別にどうでもいいやと思えるようになってきたため、軽く注意してからこいつ等とはかかわらないようにしようと、アルンを地面に降ろして踵を返そうとした。




 だが










































「もうしわけありませんでしたぁ―――――――――ッ!!!」




 ものすごい勢いで赤いバンダナを巻いた子供が走ってきた


 走ってきた勢いのまま、ガリガリと膝で地面を抉りながら地面に座り込んで頭を下げる。
 いわゆるスライディング土下座であった。


 ピシリと正座をし、両手の人差し指と親指をくっつけて間に綺麗な三角を作り、その上に深々と頭を下げ、それでいて全く崩れていない、それはもう見事な土下座であった。


「あ! なんでアンタがここに!」


「あん? なんだテメェは。」


 いきなりの闖入者の土下座に対し、目を丸くする面々
 しかし、闖入者である子供は、頭をあげる気配がない




「この子達のせいで本当に不愉快な思いをされたと思いますが、なにとぞご容赦ください!
 僕たちにできる謝礼なら、なんでもします!
 殴らないと気が済まないようでしたら、僕を殴っても構いません。
 だから、この子達を見逃してもらえないでしょうか………?」




 それは、必死の懇願。
 闖入者の子供―――リオルはアルンとリノンの事が好きではない。
 むしろ嫌いの部類に入るだろう。


 だが、だからといって、まだ子供である彼女たちが大男につかまって暴力を振るわれてしまうのは我慢できなかった。
 たとえそれが自業自得であっても。


 それはリオルが理不尽に振るわれる暴力の恐怖を、誰よりもわかっているからだ。


 しかし、この状況はアルンとリノンの過失によるものだ。
 100%二人が悪い。


 力では確実に負ける。


 ならば謝るしかないのだ。
 謝って許される問題ならばそれでいいのだ。


 謝っても許されない問題ならまだしも、今の状態ならまだ取り返しがつく。
 ならば、過失のあるこちら側が誠意をもって謝るのが筋である。




「………わちきからも、お願いいたします。この子達はリョク流格闘武術道場の剣術部門の門下生であります。
 わちきたちの監督不届きゆえ、責任はわちきたちにもございます。そちらに不快な思いをさせてしまったことをここに深く謝罪申し上げます」




 リオルの背後から、ミミロも胸に手を当てて腰を深く折って頭を下げる。
 それに続くように、ルスカとマイケル、キラまでも頭を深く下げた




「む………あぁ。」


 深く謝罪されてしまえば怒りの向けどころを失ってしまい、矛を収めざるを得なかった


「まぁ、なんだ。俺もガキ相手に少し大人げなかったよ。ここはお互いさまってことで手を打とうぜ。ほら、顔をあげろ。」




 そういって、土下座したまま顔をあげようとしないリオルの脇を持ち上げて立たせると、ゴディーラはリオルの膝を叩いて土を払い落した
 見た目とは裏腹にもともとは面倒見のいい性格なのかもしれない。


 だが、それに納得できないとばかりに突っかかる馬鹿がいた。








「なんなのアンタたち! 勝手に出しゃばってくんな!」
「しかも土下座なんて、馬鹿じゃないの?」




 もちろん、アルンとリノンの二人である。




「………ちっ!」




 リオルは不愉快そうに舌打ちすると、マイケルとキラに目くばせし、コクリと頷いた二人は即座にアルンとリノンの背後に回り込み、拳骨を落とした。


――― ガン!


「「 いったーい! 」」


 空っぽの音を響かせ、頭を押さえるアルンとリノン


「不愉快すぎる。お前たちのせいだってことに気付けよ馬鹿。謝らないといけない僕たちの身も考えてよ」


 拳骨を放たれた背後に向かって振り返るアルンとリノン。
 そちらの方に歩いて回り込んだリオルはゴディーラに背を向ける形でアルンとリノンに対峙する。


「兄ちゃん、もっと強くいっとくか?」
「にーさまを侮辱する発言もあるのです。殺していいです?」


「いい。後で僕がおしおきする。」




 冷めた目でアルンとリノンを見上げるリオル。
 その目を見たマイケルとキラは、身震いして後ずさった。


 リオルはアルンとリノンに対して、興味も失せたような声色で、一言、言った。


「………後はお前たちがあの人に謝れ」




 その瞬間、重力の塊がアルンとリノンを襲い、膝をついた




「「 あれ………? 」」


 なにがなんだかわからないまま、土下座の姿勢を強要されたのだ。




「この子達も今はこの通り反省しています、この子達には、僕たちからキツく言っておきます。本当に申し訳ありません出した!!」




 今度は土下座ではないものの腰を深く折った謝罪をし、背後に続く子供たちも息を合わせて頭を下げた。


「ああ。謝ってもらえたなら、もうそれでいい。俺は引きずらねェよ。お前さんも大変なんだな。」


 それを見て、リオルとミミロの肩にポンと手を置くと、「じゃあな」とだけ言ってその場を去った。
 リオル達はゴディーラが人ごみに紛れて見えなくなるまで頭を下げ続け




「………ふぅ………」




 ゴディーラの姿が完全に見えなくなってからようやく体から力みを抜いた




 それと同時に、リオルが闇魔法で地面に縫い付けていたアルンとリノンが動き出す




「ちょっとぉ! あんたたちなに勝手なことをしてんのよ!」
「そーよ! 私達があの大男を倒そうと思っていたのに!」


 顔をあげるや否や好き勝手言い放つアルンとリノン。


「倒す? ケンカ吹っかけた挙句に全く相手にならなくてガクブルだったくせに何言ってるのです?」
「兄ちゃんが謝ってなかったらお前たちはボコボコにされてたぞ」




 すかさずそれにマジレスするキラとマイケル。
 ルスカに至っては呆れてものも言えない様子だ。


 それに、やはり昨日リオルを侮辱したことをまだ根に持っているのだろう




 うっと言葉に詰まるアルンとリノン。
 なまじ自分たちのせいという自覚があり、歯が立たなかった事実がある分、その言葉は胸の奥に突き刺さった




「で、でも」
「でもじゃないよ、何言ってんの! ここで言い訳は見苦しいよ!」




 それでも言い訳をしようとするアルンの言葉をリオルが遮る


「反省が足りないみたいというか、全く反省してないみたいだね。」


 リオルは小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら腰を落とし、アルンとリノンの目を見る
 二人はバツが悪そうにリオルから視線をそらせた




「じゃあ―――女の子相手に気乗りはしないけど。マイケル、キラ。この子達を隅っこに持って来て。ここじゃ人の邪魔になる。」


「わかったのです!」
「しょーがないなー」


「「 きゃっ! 」」


 リオルは糸で二人を拘束し、キラとマイケルに大通りの隅っこまで抱えてもらうと、まずはアルンをリオルの膝の上に腹ばいで乗っける


「それじゃ、失礼して。」


―――ズルッ


「え?―――きゃああああ!!」


 リオルはそのまま、彼女のズボンとパンツをずり下げた


「へ、変態! なにすんのよ! えっち! はなせー!!」
「アルンになんてことするのよスケベ! こんなことしていいと思ってんの!」




 糸で拘束されながら体をよじるアルン
 その拍子に幼い彼女の張りのあるおしりがプリプリと振動するも、リオルは全く意に介した様子もない。
 アルンの抗議もどこ吹く風と完全に柳の構えで受け流し




「………なにってもちろん―――おしおきタイム♪」




 底冷えするような笑みで死刑宣告を告げた






                ☆








――― パァーン!


「ひゃい!!」


「キミ達は剣術道場で何を学んだの? 喧嘩の売り方? 剣の振り方? 違うでしょ!
 ただそんなものを学ばせているだけの師範代だったら僕は鼻で笑っちゃうよ」




――― パァーン!




「ひんっ!」


「習ったのは礼儀でしょ。相手に悪いことをしたらごめんなさいだ。それすらできないものは剣士としてゴミクズ以下だ。」




――― パァーン!


「ひゃん!」




「キミ達は心技体を何もわかっちゃいない。キミ達の親はそんなことの為に剣術道場に通わせているわけじゃないでしょ?」




 諭すような言い方に、アルンとリノンはリオルから目を逸らし――涙目で俯いた






「武術や剣術を通して心を鍛え、礼節をわきまえないといけない。技を磨かないといけない。体を鍛えないといけない。
 なのに心も体も熟していないのに技だけ褒められて舞い上がっているんじゃ意味が無い!」




――― スパァーン!!




「あんっ」


「へ?」




 先ほどまでの小さな悲鳴との違いに若干戸惑いながら、リオルは説教を続ける
 アルンのおしりは何度もたたかれたせいで真っ赤に染まり、アルンの顔も恥ずかしさと別の何かの影響で朱色にそまっていた




「キミ達の師匠はその程度なの!?」
「ち、ちが」


――― スパァーン!


「あぁん!」


「だったらなんでそれを普段から活かせないんだよ! 師範代に申し訳ないとはおもわないの?」




「ごめんなさい! もうゆるしてぇ!!」


「反省、した?」


「したっ! したからぁ!」




 リオルは朱く染まって熱を帯びたアルンのおしりを撫でてさすり


「じゃあ、今度からはもう安直な行動を取らない?」


「とらない!」


「悪いことをしたら?」


「ごめんなさい!」


「相手に助けてもらったら?」


「ありがとうございます!」


「よしっ じゃあ今日の所はこの辺にしといてあげる」






 そういってアルンのおしりをポンポンとやさしく撫でると、アルンのパンツとズボンを元に戻した。


「ハァ………ハァ………」


 膝の上から地面に降ろすと、息を荒くしてなぜだか恍惚とした表情でリオルを見ていたが、務めて無視することにした


「うにゅー………」


 なぜかルスカが指をくわえてうらやましそうに見ていたが、それも務めて無視することにした






「さて、今度はリノンおねーさんの番だけど―――」


「わ、私も反省したから! ごめんなさい!!」






 リノンからはあっさりを謝罪が出たので、それも務めて無視してもよかったのだが、怯えたように頭を下げてはいるが一応は反省しているようなので許すことにした




「じゃあ、もう二度とこういうことの無いようにね。」


 にこっと。無邪気そうに見えてその裏に悪魔の笑みを見え隠れさせるリオルに、背中の産毛が総毛立った。
 もちろん、アルンとリノンの二人はリオルの正体には気づいては居ないのだが、これが魔王の子の貫録である。


「わ、わかっ………りました。気を付ける………ます」




 年下のリオルに対し、やや硬い敬語を話すようになってしまったことは、もうどうしようもない事であった
 アルンもリノンはもうリオルを格下として扱うことはないだろう。




「キラもあれをやられたことあるのです。にーさまは怒るときは容赦ないのです」
「おれもあるぞ。普段あまり怒らないからコワいよな。ケツが二つに割れるかと思ったぞ」




 後ろでキラとマイケルがこそこそと話しているが、怒るときに怒れないようでは兄としての威厳を保つこともできず、調子に乗らせるだけなのでリオルは子供たちの教育はきっちりとしていた。
 そのおかげで、体力的な面でリオルを追い越したマイケルとキラだが、それで増長することもなくリオルに逆らわないようにしている。


 体力面でリオルに勝ったとしても、闇魔法と糸魔法が反則級なのだ。
 逃げても捕まるし、抵抗も無意味に押しつぶされる。


 いつまでたっても、兄に勝てる気がしなかった。


 そんな兄が自分たちを目標に体力を鍛えているのだが、結果が付いてきていないことは子供たち全員が解っている。
 それでも努力を止めないリオルを尊敬し、それを模範として自分たちも努力を怠ることなくジンの下で剣術の修行に取り組でいたのだ。


 リオルはそんな二人から意識をアルンとリノンに戻すと


「ほ、ほら、アルン! 帰るわよ!!」
「ハァ………あは………えはは………」




 なぜだかアルンは気持ちよさそうな笑みで熱っぽい視線を。
 リノンは畏怖を込めた視線をリオルに向け、その場を去った。




 それを見届けたリオルはやりきったといった顔でふんすと鼻で息を吐いた。




「これでおっけー!」
「リオ殿。お疲れ様であります」


 額に浮かぶ玉汗を拭ったリオルに労いの言葉を掛けるミミロ。


「増長を防ぐためにも、ある程度のかじ取りは必要だね。帰ったらシゲ爺にも相談しておこっかな」
「それがいいとおもいます。リオ殿があの子たちを懲らしめなかったら、わちきがひっぱたいてやったところであります。」
「だよねぇ」




 なまじ反抗期になりつつあるキラ息子マイケルを持つミミロも、苦労しているようだ。
 自分の子供と同い年とはいえ、母として、姉としてしっかりリードしているようで何よりだ。




「さて、これでもう邪魔するものはないよね。お祭りを楽しんじゃおっか!」


「うん!」




 子供たちの元気な声を聞いて満足そうにうなずいたリオルは、人のごった返す大通りに戻った。




































































「ねーリオー。」
「んー? なーに、ルー。」
「あのね、あとでルーのおしりもね、たたいてほしいの」




 ………。




「………今のは聞かなかったことにしてあげるね」
「なんでー?」
「なんででも。」
「ぶー」







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