受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第76話 ☆アルンとリノンはおバカなの!!

          ★ アルン・リノンSIDE ★


「むかつくむかつくむかつくー!!」
「アルン、落ち着いて。」


 武術道場の寄宿舎のアルンとリノンの部屋で、アルンとリノンの二人は先日の戦闘を思い出してはリオルとルスカの二人に対しての対抗心を燃やしていた。


 彼女たちは8歳という年齢ながら、自分たちの剣術の腕は、道場の、しいては世界中の13歳以下の中では最強だと自負していた。
 そんな自尊心を、2歳も年下の女の子に傷つけられたことが、どうしても我慢できなかったようだ。




 リョク流武術道場には寄宿舎があり、数百人の門下生がそこで寮生活のようなものをしていた。


 14歳以下の子供たちには、早朝に朝稽古。午前中は座学。つまり勉強を教え、午後には武術を教え込むという生活サイクルであった。


 だが、リョクリュウ伯爵領の豊穣祭の時だけは、朝稽古のみで、その後はお祭りを堪能してもよいことになっていた。


 そのため、彼女たちは冷水で汗を洗い流したあと、自室に戻ってお祭りに出かける準備をしていたのだが、どうしても昨日の出来事が頭から離れなかった。




「あのルスカとかいった女、ただじゃおかないわ」
「あのリオルとかいった男は、弱いからどうでもいい」


 思い返されるのは、リオルを馬鹿にした瞬間、なすすべなく弾き飛ばされる自分。
 それを憤怒の表情で睨みつけるルスカの姿。


 そこには当然のことを当然のようにしたまでという無機質さまで感じた。
 自分たちの事は、障害物ですらないといった印象だった。


 そして、アルンに倒されたはずのリオルに心酔するルスカの姿。


 なぜあそこまで弱いリオルを慕っているのか、アルンとリノンの二人には理解できなかった。




 二人はぶつぶつと文句を垂れながら護身用にと木剣を背中にからって寄宿舎を出てお祭りを堪能することにしたのだが




……………
………





「ほらほらリオ殿。あっちには脳みそカレーなんてありますよ! すごいであります! 脳みそは生物の中で最も美味な部分であります! わちきちょっと食べてまいります!」
「あ! ミミロずるいの! ルーも食べるの!」
「ルスカまでもがあああああああ!!!」






「「………げ!」」




 そこでは今一番合いたくない人物がいた。
 脳みそカレーという、この地では食べなきゃ損と言われる絶品グルメである。


 中身に羊の脳みそが入っている点から、顧客を選ぶが、物珍しさから注文する客も多く、その味は珍味であり、一度食べたら癖になるほどである。


 しかし、やはり脳みそにたいして拒否感があるのか、リオルは左手で頭を押さえながら脳みそカレーを購入しようとしているルスカを止めようと右手を伸ばしては空を掴んでいた。


「リノン、なんであいつらがここに………」
「アルン、わたしが知るわけないよ………」


 昨日の嫌な記憶がフラッシュバックしてきた。
 恥をかかされ、敗北した時の、あの惨めな気持ちが心の中で再燃する。


「はい♪ リオ。あーんなの♪」
「う、ぐぐ………あむ。………っ!!!? なぜ脳みそカレーなんて食べ物なのにおいしいんだよ! 全く期待していなかったのに、逆に悔しい………!」




 なぜか悔しそうにカレーを一口食べたリオルたちを見たアルンとリノンは、ある決心をした。


「リノン、あの子たちを尾行しましょう?」
「そうね、アルン。それはおもしろそう。」


 ちょうどいいタイミングで、あの少女と少年に闇討ちして昨日の鬱憤を晴らしてやるのだ。


 自分たちは強い。
 自分たちは負けていない
 自分たちは最強。
 悪いのは、卑怯な手を使ったあの女。
 だから今度はこっちがするのだ。
 おあいこなら、こっちは悪くないもん。




 そして、そういった自分の行動は棚上げの子供理論から、彼女たちは軽率な行動を取ることになる。










            ★ リオルSIDE ★






 さらさらと木々の隙間からさわやかな風が舞う。
 ここは森の中に存在する領地、リョクリュウ伯爵領。


 秋の豊穣に感謝をささげる豊穣祭にて、朝だというのに元気に声を張り上げる出店のおっちゃんたちの声。


「おっちゃんたちは元気だねー」


「そりゃそうだよー。豊穣祭は世界的に見ても有名みたいだもん。いろんな国の商隊とか、武者修行中の武道家とか、この機会を期においしい食べ物を流行らせようといったB級グルメの料理人とか、領主のリョクリュウ伯爵のためにゲテモノ料理を作る料理人とか。多種多様の人たちがこの森の領地に集まるから、屋台の人たちも稼ぎ時なんだよ。」


「ふーん。」




 さすがフィアル先生。
 魔法だけじゃなく歴史や社会の流れにも詳しいようだ。


「でもさ、こんなにいっぱい人が集まっていたら、エルフの隠れ里に人が迷い込んじゃったりすることもあるんじゃないかな。もしくは、エルフを狙った人さらいとか。」


「あー、うーん。たしかにそういうこともあるかもしれないけど………。エルフの里は方向感覚を狂わせる結界が張ってあるみたいだし、それに、森の奥地には緑竜の里があるからね。」


「ああー。人攫いちゃんが一獲千金を夢見て迷い込んで緑竜に食べられるよりも、堅実に生きた方がいいもんね」
「そういうこと♪」


 まぁ、一獲千金を夢見て迷宮に入り込む根性の持ち主だったら、やりかねないか。
 そう思うといっぱいいそうな気がしてくる不思議。
 その中でも悪人に絞ったら少なくなるだろうし、そんな連中がエルフの隠れ里に向かってもほぼ確実に迷って緑竜のお腹の中にたどり着くことになるのだろう。




 あ、ちなみにフィアル先生に聞いて緑竜の形態を聞いてみたら図鑑を見せてくれた。


 緑竜はヤギみたいな姿形なんだって。
 ヤギはどっちかというと山というイメージがあるんだけど、ツッコんでもしょうがないから納得しておこう。


 しかし、豊穣祭だというのに、エルフの姿が見当たらないな。
 排他的だからお祭りにも顔を出さないで隠れ里で過ごすのかしら。


 一目でいいからエルフを見たかったなぁ。
 ぼんやりと空想に思いをはせていると、


『ああっ! 俺の財布が無い!』
『俺のもねぇぞ!! 落としちまったか!?』
『ばっかでー! スられてやんの! 油断してっからそういう………俺のもねぇ!!』




 酒でも飲んでいたのだろか、大声で掏られたことを往来で叫んでいるあんちゃんたちが居た。
 迷惑である。


 ああ、お祭りだからね。お財布のひもも緩くなるし、ガードも緩くなっちゃうよね。
 酒を飲んでいたら判断力が鈍るからなおさらだ。
 三人の男がポケットをパシパシと叩くが空っぽのポケットは反応を示さない。
 馬鹿め、叩いてもビスケットは増えないし財布も戻ってこないぞ


 周囲の人もほんの少しの同情と管理を甘くした自業自得を責める視線を一瞬だけ寄越し、その人たちからは距離を開け、歩き去って行った。


 可哀想に。僕たちもスリには気を付けよう。




『………ふふ。』




「………ん?」




 財布を盗まれた人たちのすぐ近くに、なぜか三つの財布が浮いていた・・・・・
 なんだあれ? と思って注視すると、三つの財布を持った“半透明の女の人”が見えて焦った


「ふぁ!?」


 なにアレ幽霊!? 何者!? 透明化できる魔法なんてあったっけ!?
 やだすっごいこわい!!


「ん? どうしたの? リオル?」


 フィアル先生の声に振り返ってから


「い、いや、あそこに………あれ?」


 再びそちらを向くと、そこには財布がなくなって絶望にさいなまれている男たちしかいない
 半透明の人も宙に浮く財布も、最初からいなかったかのように、往来で項垂れる三人のみを避けて通る通行人ばっかり。




「………???」


 なんだったんだ、さっきの?


「変なリオル」


 そんな目で見ないでください、先生。
 あんな幽霊はもう気にしないようにしよう。


 お財布の口をしっかりと握りしめた僕は「なんでもない」と言って先生と手を繋いでお祭りを堪能することにした。








「うおー! なんだあれー!」
「すごいのです! 顔がいっぱいならんでいるのです!」


 キラケルの二人は屋台にあるお面屋を指差してはしゃぐ。
 子供だな。


「いい? キラ、マイケル。お小遣いは一人につき大銅貨10枚1,000Wだからね!
 無駄遣いしたらその分遊ぶお金が無くなっちゃうと思んだよ」


 鉄鉱石竜メタルドラゴンの売ったお金とかで豪遊できるくらいお金に余裕はあるけれど、お金の便利さとすぐになくなってしまうお金の大切さを学んでもらわねばならない。
 というか、実際僕も買い物とかしたことないんだよね。


 日本円じゃないから、なんでかわからないけれど緊張する。


 まぁ、一応は採取の冒険者として近場の薬草や鉱石の採取とかで小銭程度なら稼いだことはあるけれど、食生活に困ったことは無いし、必要な道具は僕が土魔法で作っちゃうからお金を使ったことが無いんだよね。


 むしろ嗜好品や食べ物を買うためにキラやマイケルの方がお金の使い方に詳しい気がする


 くっ、偉そうに言って、僕はまだ『はじめてのおつかい』すら体験していなかったとは………不覚!!


 え? 冒険者としての仕事はお使いに含まれるんじゃないかって?
 たしかにお使いだけど、お金を使ったことは一度もない事は確かなのよ。
 そう思うと、特に買うものもないし、僕には欲がないのだろうか。


 節約しているわけでもないし、守銭奴なだけか。


「わ、わかってるよにーちゃん。おれはそんなねーちゃんみたいなマヌケじゃないぞ!」
「ふふん。マイクとは違ってしっかりしているので、大丈夫なのです!」
「なんだとこらー!」
「お? やるのです? 喧嘩なら買うのです。」
「売ってるのはねーちゃんのほうだろ!」




 とか言って、二人ともちゃっかりと木でできたお面を頭にかぶっていた。




 はい、二人とも残金は大銅貨8枚。


 というか、僕は見た目6歳なのに、見た目10歳児の子守ってどういうことよ。
 実際はあの子たちは2歳程度なんだけど、見た目は逆じゃん。




「あははは! 見てくださいリオ殿! ルー殿! あんな大きなお肉を売ってますよ!」
「おっきいのー!」
「ふぉっ! でかい!!」




 まぁ、それでも僕は結構楽しんでいた。
 向こうのツンデレ共は放っておこう。いつもの事だ。




「ほらほらリオ殿。あっちには脳みそカレーなんてありますよ! すごいであります! 脳みそは生物の中で最も美味な部分であります! わちきちょっと食べてまいります!」
「あ! ミミロずるいの! ルーも食べるの!」
「ルスカまでもがあああああああ!!!」


 脳みそカレー!!
 ゲテモノ料理の定番だね!


 たしか、あれは羊の脳みそを使っているはず。


 さすがに僕は脳みそは食べないよ!
 だからそっち側に行っちゃダメだルスカ! 毒されるぞ!


 ルスカ! カムバァアアアック!!


 左手で頭を押さえて右手をルスカに伸ばすも、伸ばした手は空を掴むばかり。


「リオ殿もいきましょうよ! わちきが奢りますよぅ?」
「の、脳みそはちょっと………うわわ!」
「わがまま言っていると大きくなれませんよ? ほら行きましょう!」
「ミミロは僕のお母さんかっ!」




 そんな僕の虚空に伸びた手を、ミミロが掴んで引っ張った。
 人間を装備ごと丸ごと貪り食っていた事のあるミミロからすれば、脳みそは美味なるものらしい。
 残念ながら、根本的な部分で日本人な僕はバッタやゴキブリは食べることは出来ても脳みそは生理的に無理っぽい


 というか、ミミロは納豆だろうがトロロだろうが玉ねぎだろうがニンジンだろうがピーマンだろうがハバネロだろうが本当に好き嫌いなく全部食べるなぁ。


 好き嫌いなく食べているから、キラよりも発育がいいのだろうか。
 キラは野菜が嫌いだし、どっちかというと肉が好き。あと鉱石(なんでこんなものが好きなんだ)とかもバリバリと食ってた。


「はい♪ リオ。あーんなの♪」
「う、ぐぐ………あむ。………っ!!!」


 ルスカが買った脳みそカレーをおっかなびっくり一口食べてみると、思いのほかおいしくて悔しかった。
 ちくしょう、なんで脳みそがこんなに美味いんだよ!!




                  ☆




 フィアル先生も苦笑いの屋台めぐり。
 フィアル先生は終始僕たちが逸れないように気を使ってくれているけど、僕の万能魔法、《糸魔法》を全員につないでいるので、実は無問題なのだ。


 でも、さすがに僕たちみたいな子供だけで行動していたら人攫いに連れ去られてしまう可能性が大なので、やっぱりフィアル先生は必要なのです。


 なんだかんだで前世での年齢も合わせれば僕とフィアル先生は実は同い年なんだよね。


 そんなプチ情報は適当にわきに置いておくとして








 フィアル先生がちょっとしたピンチに陥った。




                  ☆








「ちょっ! やめてください!」


 フィアル先生の拒絶する声が路地裏にこだまする


「えー、いーじゃんちょっとくらいさー。俺らと一緒にお茶しようぜ」
「そーそー。そこのきっちゃ店とかでさ」
「馬鹿だなお前、それは喫茶って読むんだよ。ギャハハハ!!」
「じ、ジョークに決まってんだろ! 俺一応クロッサの王都の学校に通ったことあるし!」
「おめー中退じゃねーか! 字も読めない程バカすぎるから!」
「そ、そんなことよりおねーちゃん、お茶しようぜ」


「本当に困るんです! 離してください!」






 まぁ、聞いてわかるとおり、三人のナンパ男に絡まれていた。


 可哀想に。


 ああいや、フィアル先生が、じゃなくてナンパ男たちが。


 フィアル先生は上級火魔法使い、そして前よりもランクの上がった上級風魔法使いだ。
 6,7歳ごろから魔法の訓練を受けているフィアル先生の魔力は常人に比べるとはるかに多いし、《最適化》の恩恵で同年代で同じ訓練を受けている人に比べても、ぶっちぎりで勝っているだろう。なにより教えるのが下手だけど頭はいいのだ。




 生活系の弱い魔法しか使用できない無級魔法使いパープルクラスの一般庶民からすれば、上級魔法使いグリーンクラスのフィアル先生は化け物の域だ。


 そして、採取部門とはいえ、フィアル先生はBランクの冒険者である。チンピラ程度をあしらえないようじゃやってられない一流の冒険者だ。
 さらに、ゼニスからある程度の体術も習っているため、剣の腕はヘッポコとはいっても 一部の身体能力を瞬間的に増幅させる《ブースト》という技術も使え、並の相手ではどう立ち回っても歯が立たないくらいには接近戦でも強い。
 さすがに同ランクの討伐部門の人たちと戦ったら負ける可能性が大きくなるけれどね。


 それに気づかないナンパ男たちに心の中で合唱する




 中央大陸の認字率がどのくらいかは知らないけれど、僕たちは《勇者物語》を読んでフィアル先生に字を教わりながら生活していたから字は読めるんだよね。


 そう考えると、母親と住んでた頃は本なんて見なかったし、字を読める人ってのは意外と少ないのかもね。なんだ、僕は結構運は悪くないじゃん。


 字も読めない程度の低俗な猿にフィアル先生がどうこうできるとは思わない。


 かといって、僕の恩師でもあるフィアル先生に不埒なことを働こうとする輩を放っておくことは出来そうもない。


 しかしながら、僕は子供だ。
 子供が大人の世界にしゃしゃり出ても馬鹿にされるのがオチだ。
 気を張りながら僕はフィアル先生の側に付き、フィアル先生の子供もしくは弟、もしくは親戚の子供くらいの気持ちでフィアル先生の手を握る。
 これで少しでもフィアル先生の援護になればいいのだが


「いーじゃん行こうよ、そのあと俺らといいことしようぜ」


「本当に困るんです! 子供たちのお守もしないといけないし」
「へー、なに仕事中? そんなガキどもなんて放っておいても大丈夫だって。」
「そうそう、チビだって一人でおうちにくらい帰れるだろう?」






 それでもしつこく絡むナンパ男たち。


 そして、一人の男がしゃがみこんで僕に目線を合わせると『邪魔だから帰れボケ』と視線を寄越す。
 残念だったね。おうちが無いから帰れないよ、ボケ!




「それにさ、俺達さっき財布取られてさ、付き合ってくれないまでもお金貸してくれるとうれしいなー、なんてな」




 ………それが本音か。
 そういや、さっき路上で項垂れていた三人組によく似ている。ってか本人たちだ。
 財布がなくなって、イライラして、女の子をナンパして、失敗したらお金をせびろうってか? おこなの?
 それでわかりましたって財布を差し出す人がいるのだろうか。


 どうしよう。路地裏とはいえ、すぐそこには人がいっぱいいるところで魔法を使うわけにはいかないし、フィアル先生だって絡まれていても魔法は使わないみたいだ。
 危なくなったら使うつもりなんだろうけど、それでも見ていて不快な気持ちになる。






 そんなときである。
 彼女たちが現れたのは。






「リノン! 大変よ! 女の人が悪漢に襲われているわ!」
「アルン! そうね! 女の人を助けなきゃいけないね!」




 聞き覚えのある声と共に僕のすぐわきを二つの影が通り過ぎて行った


「は!?」


 ちょっとまて! なんでここにキミたちがいるの!?
 っていうかできるだけ穏便に済まそう気絶させようと思っていたのに! ややこしくしてくれるなよ!!


「「 喰らえ悪漢!! 」」


「ぎゃっ!」


 彼女たちは木剣を振りかぶってナンパ男の顔面に一撃、フィアル先生の肩を掴んでいた手に一撃入れ、木剣を構えながらナンパ男たちから距離を取った




「くっそ、なんだこのガキ! なにしやがる!!」




 本当だよ、なんてことをしやがる………


 フィアル先生とナンパ男の間に入ったのは
 ルスカにボコボコにやられてしまったことが記憶に新しい、リョク流格闘武術道場剣術部門の最年少、アルンとリノンの二人だった。


 なんでこんなところに居るんだと言いたいところだが、僕たちはこの子達が普段どこに住んでいていつ修行をしていつ修行から上がるなんてものは知らないし、出てきてしまったものはしかたのないものだ。




 彼女たちは子供らしく、子供らしい正義感を持って悪漢を見逃すことができなかったのだろう


 しかし、しかしだ。


 悪漢とはいえ、いきなり殴りかかっていいもんじゃない。
 子供がそんな無茶をしたら当然矛先が彼女たちの方を向く。




 それに、僕たちとて馬鹿ではない。ルスカとマイケルとキラとミミロの4人は僕の《糸魔法》の念話で連携を取りながら物陰に隠れてフィアル先生たちを囲んでいた。


 僕はお祭りを楽しむ子供たちをフィアル先生の側で見守る側の人間だったからね。
 ずっとフィアル先生の近くにいたんだよ。


 だからナンパ男たちにとっては、僕はフィアル先生が面倒を見ておかないといけない子供の一人ってわけだ。




 僕は騒ぎの中心からルスカたちに緊急招集をかけて路地裏を中心に散開。
 四方を取り囲んで何があっても対応できるように、フィアル先生を守れるように散っていたのに、アルンとリノンのおかげでフィアル先生救出作戦も無駄になってしまった。




「おい、クソガキ。テメェいま俺になにしやがった」


 怒りの矛先をアルンとリノン、ついでにそのそばにいた僕にまで向けてきたナンパ男たち。


 いくら顔面に木剣がクリーンヒットしたといっても、8歳児の筋力から繰り出される一撃だ。
 たいしたダメージになんてなるはずがない。


 いくら鍛えているとしても、体格差がありすぎる。


「「 き、効いてない!? 」」


 当たり前だよお馬鹿!!
 相手は少なく見積もっても二十歳以上。8歳児の攻撃なんて一瞬怯む程度の効果しかないってんだよ!!


 正義感ばっかりが強くてヒーロー願望ばっかり願って現実が全く見えていない!


 そんなちみっこい子供の木剣の攻撃なんて、過大評価しても、同世代の男に殴られるよりも軽いものだ。
 みたところ、ナンパ男たちは喧嘩も慣れている様子。


 その程度の痛みでは怒りを買うだけでダメージ自体はほとんどないに等しい


「ば、馬鹿! 早く謝ってこの場から離れて!」




 僕は慌てて彼女たちに叫ぶ。
 いくら僕が魔力が多くても、防御力が紙でできている僕たちと大人たちでは魔法無しの接近戦での勝ち目は全くない。
 我慢なら慣れているから10発くらいなら耐えられるだろうけれど。


 まぁ、魔法を使わないと決めたわけじゃないから勝てないわけではないけれど、暴力に訴えても意味が無いと思って最初の内は対話で何とかしようと思っていたから僕もフィアル先生も動けなかったんだよなぁ。
 そう思って彼女たちにも忠告の意を込めて離れるように言ったんだけど、予想外の返しがきた。




「「 動くこともできない腰抜けは引っ込んでて!! 」」




 ………あ?




 ダメだこいつら。口とおつむが悪すぎる。
 僕は額に手を当てて天を仰ぐ


「………ちっ」


 さすがの僕も、カチンときたよ。









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